面貸しの契約書は、雛形をそのまま使うと自店の実態と合わない部分が残ります。揉めるのはたいてい、雛形に書かれていない項目です。
この記事では、契約書に入れておく条項の一覧、特に揉めやすい3項目の決め方、業務委託と雇用の線引き、そして締結前に確認するチェックリストを整理します。
結論:雛形は出発点。自店固有の5点を必ず埋める
市販の雛形やインターネット上のテンプレートは、条項の抜け漏れを防ぐには役立ちます。ただしそこに書かれているのは一般的な枠組みで、設備の範囲・顧客の帰属・事故の責任・解約条件・料金改定の手順という5点は、自店で決めて書き込まないと機能しません。
この5点が空欄のまま運用すると、問題が起きたときに双方の記憶が食い違います。契約書は、揉めたときに「何を合意したか」を確認するための書面です。争いの起きやすいところほど、具体的に書く必要があります。
料金条件そのものの読み方は面貸し料金の相場の見方で扱っています。ここでは書面に落とす段階を扱います。
この記事は契約書の一般的な構成を整理したものであり、法的な助言ではありません。実際の締結にあたっては弁護士等の専門家にご確認ください。

契約書に入れる10の条項
| 条項 | 書くこと | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| 目的・契約形態 | 席の使用に関する契約であること | 雇用との区別が曖昧になる |
| 使用範囲 | 使える設備・区画・時間帯 | 共用部の使い方で衝突する |
| 料金と支払方法 | 金額・締日・支払期日・含まれる範囲 | 材料費の負担で認識がずれる |
| 料金改定 | 改定の予告期間と手続き | 一方的な値上げの通告になる |
| 顧客の帰属 | 顧客情報の管理者と退去時の扱い | 退去時に連絡先を持ち出せない |
| 事故・賠償 | 施術事故の責任分担と保険 | 誰が対応するかで揉める |
| 衛生管理 | 清掃・器具消毒の分担 | 管理責任の所在が不明になる |
| 禁止事項 | 又貸し・営業妨害・情報の持ち出し | 想定外の使われ方を止められない |
| 契約期間・更新 | 期間、自動更新の有無 | いつまでの契約か分からなくなる |
| 解約 | 予告期間・違約金・原状回復 | 急な退去や引き止めで対立する |
条項名だけを並べた雛形は多いのですが、中身が空欄では意味がありません。右列の「抜けたときに起きること」を見ながら、自店で起こりうる状況を書き込んでください。
条項を足すときは、起こりうる場面を思い浮かべながら書きます。たとえば「共用のシャンプー台が同時に必要になったとき、どちらが優先するか」は、実際によく起きる衝突です。先着順にするのか、予約時間で決めるのかを書いておけば、当日に言い争う必要がなくなります。
揉めやすい3項目の決め方
- 顧客の帰属。誰が集めた顧客か、情報は誰が管理するか、退去時に持ち出せるかを明記します。「店が管理し、退去時は本人が担当した顧客の連絡先を交付する」のように、扱いを具体的に決めます。
- 事故と賠償。施術によるトラブルの一次対応を誰が行い、賠償責任は誰が負うか。あわせて、賠償責任保険への加入を義務づけるかどうかも決めます。
- 解約と原状回復。予告は何か月前か、違約金はあるか、私物や設備をどこまで戻すか。予告期間が長すぎると、借りる側が身動きを取れなくなります。
①は借りる側にとって、独立後の資産に直結します。ここが白紙のまま始めると、退去時にゼロから集客をやり直すことになりかねません。貸す側にとっても、個人情報の管理責任がどちらにあるかを決めておく必要があります。
②の保険は、加入していないまま事故が起きると、対応費用の負担が個人に及ぶことがあります。借りる側が個人事業主である以上、店の保険が自動的に適用されるとは限りません。加入状況を互いに確認し、契約書に記載しておいてください。
③の解約は、双方にとって出口の条件です。貸す側は席が空く時期を読めるようにしたい、借りる側は次の場所へ移りやすくしたい。両方の事情を踏まえて、1〜2か月前予告といった現実的な期間に落とすのが一般的です。

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締結までの進め方
-
実際の運用を先に書き出す
営業時間、鍵の受け渡し、掃除の当番、薬剤の管理まで、実際にどう回すかを箇条書きにします。ここが条項のもとになります。
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雛形に当てはめて空欄を埋める
雛形の条項に、書き出した運用を流し込みます。当てはまらない条項は削り、足りないものは追加します。
-
金額に関わる部分を再確認する
料金に含まれるもの・含まれないものを、品目単位で書きます。「薬剤は各自負担」ではなく「カラー剤・パーマ剤は各自負担、シャンプー・トリートメントは店負担」まで具体化します。
-
専門家に確認する
締結前に弁護士等に確認します。特に業務委託と雇用の線引き、賠償の条項は、書き方によって意味が変わります。
-
双方が保管し、変更は書面で行う
合意した内容を後から口頭で変えないこと。変更するときは覚書を交わします。
雛形をそのまま使うと、この5つの手順のうち①と③が抜けます。運用を書き出さずに条項だけ整えるため、実際の困りごとが条文に反映されないまま締結されるからです。先に運用を言葉にしておくと、契約書は自然に自店の形になります。
業務委託と雇用の線引き
面貸しは席の使用契約であり、雇用ではありません。しかし実態として指揮命令をしていると、契約書の名称にかかわらず労働者と判断される場合があります。次のような運用は、雇用と評価される方向に働きます。
- 出勤日や勤務時間を店が指定している。
- 施術の内容や手順を店が細かく指示している。
- 他の店での就業を制約している。
- 報酬が時間に対して支払われている。
出典:厚生労働省「労働基準法の『労働者』の判断基準について」。契約の名称ではなく、就業の実態にもとづいて判断されるとされています。
雇用と判断された場合、社会保険や労働時間に関する取り扱いが変わります。判断は個別の事情によるため、運用に不安がある場合は労働基準監督署や社会保険労務士に事前に相談してください。
保健所・保険・税務の確認
美容所としての届出や衛生管理の責任は、施設の開設者にあります。面貸しを行う場合でも開設者の管理義務がなくなるわけではないため、運用方法について管轄の保健所に事前に確認してください。管理美容師の設置が必要かどうかも、あわせて確認します。
衛生管理については、器具の消毒や清掃の分担を契約書に書いたうえで、実際の手順も共有しておきます。誰がいつ何をするかが決まっていないと、共用部の状態が徐々に悪くなり、顧客の印象にも影響します。
保険については、施術に起因する賠償を対象とする保険に、借りる側・貸す側のどちらが加入するかを決めておきます。両方が加入するケースもあります。
借りる側は事業所得として確定申告が必要になります。席料は経費として計上できる可能性があるため、契約書と支払いの記録を残してください。経費の判断は美容室で経費にできるもので整理しています。
締結前チェックリスト
署名の前に、次の項目が書面に入っているかを確認してください。
- 料金に含まれる範囲が、品目単位で書かれている。
- 顧客情報の管理者と、退去時の扱いが決まっている。
- 事故時の一次対応と賠償責任の所在、保険の加入者が書かれている。
- 解約の予告期間、違約金、原状回復の範囲が明記されている。
- 料金改定の手続きと予告期間が決まっている。
- 変更は書面で行う旨が書かれている。

この6つが埋まっていれば、雛形のままより格段に揉めにくくなります。まず自店の運用を箇条書きにするところから始めてください。条項はそのあとで形にできます。
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