値上げで何人離れるかは読めませんが、「何%まで離れても売上が落ちないか」は事前に計算できます。この数字を持っているかどうかで、値上げに踏み切れるかが変わります。
この記事では、許容できる失客率の出し方、離れやすい層と守るべき層の見分け方、伝え方の設計、そして実施後に見る指標を整理します。
結論:先に「許容できる失客率」を計算する
値上げをためらう理由は、たいてい「どれだけ客が減るか分からない」ことです。ところが、売上を維持するために必要な客数の割合は、値上げ幅から機械的に計算できます。
単価を10%上げるなら、必要な客数は元の約91%です。つまり9%まで離れても売上は維持されます。粗利で見ると材料費が客数に比例して減るため、許容できる幅はさらに広がります。
この数字を先に出しておくと、「思ったより離れなかった」「想定内」という判断ができます。計算せずに実施すると、数人離れただけで元に戻したくなります。
価格改定の進め方そのものは価格改定と値上げの進め方で扱っています。この記事は失客との関係に絞ります。
もう一つ、計算しておくと判断が楽になる数字があります。値上げをしなかった場合の見通しです。材料費や光熱費が上がっている状況で価格を据え置けば、粗利は毎月少しずつ削られます。値上げのリスクだけを見て、据え置きのリスクを見ないと、判断が一方に偏ります。両方を数字にして並べてください。

許容できる失客率の出し方
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現状の月次売上と客数を確認する
直近3か月の平均を使います。特定の月だけを見ると、季節変動に引きずられます。
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新しい客単価を決める
メニューごとの改定額から、平均客単価がいくらになるかを計算します。全メニューを一律で上げるとは限らないため、構成比で加重して出します。
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売上維持に必要な客数比率を出す
現客単価 ÷ 新客単価。これが必要な残存率です。1からこれを引いた値が、許容できる失客率になります。
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粗利ベースでも確認する
(現単価 − 材料費)÷(新単価 − 材料費)。材料費がある分、こちらのほうが許容幅は広くなります。
たとえば現単価8,000円、新単価8,800円、材料費800円という仮の条件で計算します。売上ベースでは 8,000 ÷ 8,800 = 約91%、つまり9%までの失客が許容範囲です。粗利ベースでは 7,200 ÷ 8,000 = 90%となり、10%まで許容できます。
上記は計算方法を示すための仮の数値です。実際の金額と構成比によって結果は異なります。
月200人の店なら、9%は18人です。「18人までなら想定内」と決めてから実施すると、途中で判断がぶれません。
改定の幅を決めるときは、この計算を複数のパターンで回します。5%、10%、15%と並べると、許容できる失客率がどう変わるかが見えます。幅が大きいほど許容できる失客率も上がりますが、離れる人数の実測値は幅に比例して増えるとは限りません。段階的に上げるか一度に上げるかは、この表を見てから決めてください。
離れやすい層と、守るべき層
| 層 | 値上げへの反応 | 対応 |
|---|---|---|
| クーポン利用が中心の新規 | 離れやすい | 離れても影響は限定的 |
| 来店周期が長く単価が低い | 離れやすい | 周期を縮める提案を先に試す |
| 指名があり周期が安定 | 残りやすい | 事前告知を丁寧に行う |
| 複数メニューを利用 | 残りやすい | 影響額を具体的に伝える |
上の2層が離れることで、席が空いて回転が上がることもあります。失客の人数だけでなく、どの層が離れたかを見てください。下の2層が離れているなら、伝え方に問題があった可能性があります。
優良顧客の見分け方は優良顧客のランク分けの基準で扱っています。値上げの前に、守るべき相手を特定しておくと告知の順番を決められます。

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伝え方で結果が変わる
- 告知は1〜2か月前に行う。当日に知らせると、決められた感じが強く残ります。前もって伝えると、次回来店までに受け止める時間ができます。
- 理由を具体的に書く。「諸般の事情により」ではなく、材料費や設備の更新など、実際の理由を短く伝えます。抽象的な表現は不信感につながります。
- 影響額を明示する。「カットが◯円から◯円になります」と、その人が次に払う金額が分かる形で書きます。率だけの表示は伝わりません。
- 謝罪から始めない。値上げは経営判断であり、悪いことをしたわけではありません。感謝と、これから提供したい内容を先に書きます。
LINEで告知する場合は、一斉配信の前に、来店時に口頭で伝えられる人には先に伝えておくと反応が穏やかになります。文面の作り方はLINEでの料金改定案内を参考にしてください。
告知の対象は全員に一律である必要はありません。長く通っている顧客には、改定の前に来店したときに口頭で伝え、そのうえで文面を送る。新規や来店の浅い層には文面のみ。この順番にすると、伝わり方の差が小さくなります。
実施後に見る指標と、判断のタイミング
値上げの影響は、来店周期が一巡するまで分かりません。周期が2〜3か月の店なら、判断できるのは実施から3〜4か月後です。
実施直後の1か月で判断しないでください。値上げ前に駆け込みで来店する人がいるため、翌月は一時的に客数が落ちます。これを失客と読み違えると、必要のない値下げに戻してしまいます。
見る指標は次の4つです。客数、客単価、売上、そして再来店率。客数が減っても客単価と売上が維持されているなら、計画どおりです。売上が落ちているなら、離れた層を確認します。
再来店率は特に重要です。新規が減っていても、既存客の再来店が保たれていれば、経営としては悪化していません。逆に既存客の再来店が落ちているなら、伝え方の問題として振り返る必要があります。
値上げ以外に単価を上げる方法もある
一律の値上げに踏み切る前に、メニュー構成で単価を動かす方法もあります。既存メニューの価格は据え置いたまま、上位のメニューを新設して選択肢を増やすやり方です。
この方法なら、価格に敏感な層は今までどおり利用でき、より良い仕上がりを求める層は上位を選びます。失客のリスクを抑えながら平均単価を上げられるため、初めての単価改善としては取り組みやすい選択です。
具体的な組み立て方は客単価を上げる方法で扱っています。値上げと併用することもできます。
実施前チェックリスト
告知を出す前に、次の5つを確認してください。
- 許容できる失客率を、売上ベースと粗利ベースの両方で計算した。
- その失客率を人数に換算し、「何人までなら想定内か」を決めた。
- 守るべき顧客を特定し、告知の順番を決めた。
- 告知文に、理由と改定後の具体的な金額を書いた。
- 判断は実施から3〜4か月後に行うと決めた。

計算して「18人までなら想定内」と分かっていれば、5人離れても慌てずに済みます。まず現在の客単価と客数を出して、許容できる失客率を計算するところから始めてください。
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