美容室の指名料は、スタイリストの人気の証明ではなく、「予約の集中を調整する価格」として設計すると、金額も配分も決めやすくなります。金額は客単価の5〜10%(500円〜1,000円台)が起点で、指名率と予約の埋まり方で上下させます。配分は労働条件に明記し、表示は税込の総額で行います。
この記事では、指名料の目的の決め方、金額の決め方と段階(ランク制)、スタイリストへの配分と歩合の計算、料金表・予約サイト・店頭での表示ルール(総額表示)、指名の偏りを減らす仕組み、指名料を上げるときの伝え方を整理します。

結論:指名料は混雑を調整する価格。客単価の5〜10%を起点に、配分を明記し、税込総額で表示する
指名料の設定で迷うのは、「いくらにするか」より前に「何のために取るか」が決まっていないからです。目的は3つに分かれます。①特定のスタイリストに予約が集中するのを緩和する(混雑の調整)、②指名を取ったスタイリストの収入を増やす(報酬)、③店の売上を増やす(単価アップ)。どれを主にするかで、金額と配分が変わります。
多くの店では①と②を兼ねる設計が現実的です。指名料があることで、指名にこだわらない客はフリー予約に流れ、指名するスタイリストの予約枠に余裕ができ、指名料はスタイリストの収入になります。③を主目的にして店の売上だけに入れると、スタイリストが指名を取る動機が弱くなり、指名料の意味が薄れます。
客単価の設計は客単価を上げる方法、料金改定の進め方は価格改定と値上げの進め方で扱っています。この記事は「指名料の金額・配分・表示」に絞ります。
指名料の金額の決め方
| 設計 | 金額の例 | 向く店 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 一律 | 全スタイリスト500円または1,000円 | スタイリスト間の指名率の差が小さい店 | シンプルで説明しやすい。混雑の調整効果は弱い |
| ランク別 | ジュニア無料、スタイリスト500円、トップ1,000円、ディレクター2,000円 | 指名率と予約の埋まり方に差がある店 | ランクの基準(指名率・売上・経験)を明文化。降格の扱いも決める |
| 時間帯別 | 土日・夕方は指名料を上乗せ | 特定の時間帯に予約が集中する店 | 表示が複雑になる。予約サイトで表現できるか確認 |
| 新人無料期間 | スタイリストデビューから6か月は指名料なし | 新人の指名を増やしたい店 | 「無料期間終了」を客に事前に案内 |
金額の起点は客単価の5〜10%です。客単価8,000円なら400〜800円、12,000円なら600〜1,200円が目安になります。これより高いと、指名を外してフリーに流れる客が増え、スタイリストの担当客が減ります。低すぎると混雑の調整効果がなく、単なる小さな加算になります。
指名率と予約の待ち日数で調整する
数字は仮の設定ですが、スタイリストAの指名率が80%で予約の待ちが2週間、スタイリストBの指名率が40%で当日予約が取れる店では、Aの指名料を1,000円、Bを500円にすると、Aの混雑が緩和され、Bの指名が増える方向に働きます。指名率の出し方は「指名予約数÷総予約数」で、月ごとにスタイリスト別に出します。予約システムのレポート機能で指名の有無を集計できる場合が多く、集計できない場合はカルテの担当欄と予約の種別から手作業で出します。3か月連続で待ち日数が1週間を超えるスタイリストは、指名料の引き上げか、予約枠の見直しの対象です。客単価の分解は客単価の計算方法で扱っています。
配分の決め方 — 誰の収入にするか
| 配分 | 内容 | 向く店・注意 |
|---|---|---|
| 全額スタイリスト | 指名料をそのまま本人の給与に上乗せ | 指名を取る動機が最も強い。店の売上には入らないが、単価が上がった分の歩合とは別に払う |
| 店と折半 | 50%を本人、50%を店 | 店の売上にも寄与。歩合の計算式に「指名料の50%」と明記 |
| 技術売上に含めて歩合計算 | 指名料を技術売上に含め、歩合率をかける | 計算がシンプル。歩合率10%なら指名料1,000円のうち100円が本人。動機は弱い |
| 店の売上(配分なし) | 指名料は店の収入 | スタイリストの動機がなく、指名料の意味が薄れる。基本給が高い店向け |
配分は、歩合の計算式と一緒に労働条件通知書と賃金規程に書きます。「指名料は全額支給」「指名料の50%を支給」のように明記し、後から変えるときは不利益変更の手続きが必要です。歩合の設計は給与・歩合制度の作り方、最低賃金との関係は歩合給と最低賃金で扱っています。

指名料を設定する手順(5ステップ)
指名率と予約の埋まり方を出す
スタイリストごとに、指名率、予約の待ち日数、稼働率(予約枠に対する埋まり)を直近3か月で出します。
指名料の目的を決める
混雑の調整が主か、報酬が主かを決めます。目的が決まると、一律かランク別か、配分をどうするかが決まります。
金額と段階を決める
客単価の5〜10%を起点に、一律またはランク別で金額を決めます。新人の無料期間と、ランクの上げ下げの基準(指名率○%以上、売上○円以上など)を明文化します。
配分と歩合の計算式を決める
労働条件通知書・賃金規程に、指名料の配分と歩合の計算式を書きます。スタッフに説明し、合意を得ます。
表示して、既存客に案内する
料金表、予約サイト、店頭、ホームページに税込の総額で表示します。既存客には1か月以上前に、来店時・LINE・掲示で案内します。
指名料を予約サイトに表示せず、会計時に初めて加算する運用はクレームの原因です。予約サイトのメニュー価格に指名料が含まれない場合は、「指名料別途○○円(税込)」の表示を予約の画面で見える位置に置きます。価格表示は消費者向けの取引では税込の総額表示が義務です。
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表示のルール — 総額表示と景品表示法
消費者に対する価格表示は、消費税を含んだ総額で表示する義務があります(総額表示の義務付け)。「指名料 1,000円(税込)」「指名料 1,100円」のように税込額が分かる表示にし、「1,000円+税」のように税抜だけの表示は避けます。
| 場所 | 表示の例 | 要点 |
|---|---|---|
| 料金表(店頭・ホームページ) | 「指名料:スタイリスト550円/トップスタイリスト1,100円(税込)」 | ランク別なら各スタイリストのランクを明示 |
| 予約サイト | メニュー価格の近くに「指名料別途○○円(税込)」、またはスタイリスト選択時に表示 | 予約確定前に総額が分かること |
| LINE・SNS | キャンペーンの投稿でも指名料の有無を明記 | 「カット○○円」の投稿で指名料が別なら注記 |
| 会計時 | レシートに指名料を独立した項目で記載 | 何に対する料金かが分かる |
「指名料無料キャンペーン」を行う場合、通常の指名料と期間を明記し、実際には取っていない指名料を「通常○○円のところ無料」と表示すると、有利誤認の問題になります。表示の考え方は消費者庁の景品表示法の案内で確認できます。料金表の作り方はメニュー表の作り方で扱っています。
指名の偏りを減らす仕組み — 指名料だけでは直らない
指名料をランク別にしても、人気スタイリストに予約が集中する構造は残ります。指名料は調整の一手段で、次の仕組みとセットで初めて偏りが減ります。
- 新人の指名無料期間+紹介:デビューから6か月は指名料なし。人気スタイリストが自分の客に「次回は○○が担当します。私が仕上がりを確認します」と紹介する
- フリー予約の受け皿:フリーで来た新規客を、指名率の低いスタイリストに優先的に割り当てる
- 予約の待ち日数の公開:予約サイトで「最短で予約できる日」を見せ、待てない客が他のスタイリストを選べるようにする
- 引き継ぎの評価:自分の客を後輩に引き継いだことを評価制度の行動項目に入れる
- チーム施術:カラーやトリートメントの工程を別のスタッフが担当し、客が複数のスタッフを知る機会を作る
偏りが続くと、人気スタイリストの退職・独立で店の売上が一気に落ちます。指名の偏り対策は美容室の指名の偏り対策の記事、独立時の顧客の引き継ぎはスタッフの独立で顧客がついていくのを防ぐには、評価の設計はスタッフ評価制度の作り方で扱っています。
指名料を上げるとき・導入するときの伝え方
既存客への案内は、「○月○日より、指名料を○○円(税込)に改定します」と日付と金額を明記し、理由は短く(予約の集中に対応するため、スタイリストの技術への対価として)伝えます。長い言い訳は不要で、指名料を払ってでも指名したい客は残り、そうでない客はフリー予約に移るだけです。来店時の口頭、LINE、店頭掲示の3つで、1か月以上前から案内します。料金改定の案内文はLINEでの料金改定の案内例文で扱っています。
試算 — 指名料導入で店とスタイリストの収入はどう変わるか
数字は仮の設定です。月の指名予約が300件の店で、指名料800円(税込880円)を導入し、全額をスタイリストに配分した場合です。
| 項目 | 計算 | 金額(月) |
|---|---|---|
| 指名料の売上(税抜) | 800円×300件 | 240,000円 |
| スタイリストへの配分(全額) | 240,000円÷スタイリスト4人(指名件数に応じて) | 1人あたり平均60,000円 |
| 指名料を嫌ってフリーに流れる客 | 指名の5%が離脱と仮定 | 15件(売上は残る) |
| 店の粗利への影響 | 配分が全額なら±0。折半なら+120,000円 | — |
全額配分の場合、店の粗利は変わりませんが、スタイリストの収入が増え、混雑の調整効果が得られます。店の売上にも寄与させたいなら折半にし、その分をスタイリストの基本給や教育に回す設計が納得を得やすい形です。単価と売上の全体設計はVAULTAのリピート・顧客管理支援でも相談を受け付けています。
よくある質問
指名料を取ると新規客が減りませんか?
新規客の多くはフリー予約で来るため、指名料の影響は小さいです。予約サイトで「フリー予約は指名料なし」と分かるようにしておけば、新規の障壁にはなりません。2回目以降に指名に変わる客が、指名料を払う客です。
指名料に消費税はかかりますか?
指名料は施術の対価の一部で、課税売上です。表示は税込の総額で行い、レシートにも税込額を記載します。
アシスタントに指名料をつけてもよいですか?
施術を担当しないアシスタントに指名料を設定するのは一般的ではありません。シャンプーやヘッドスパを担当するアシスタントの指名を受ける場合は、少額(200〜300円)で設定する店もあります。
指名料の全額をスタイリストに渡すと、店は損をしませんか?
指名料は店の売上として計上し、同額を給与として支払う形になります。店の粗利は変わりませんが、混雑の調整とスタイリストの定着という効果があります。店の売上にも寄与させたい場合は折半にします。
指名料を廃止したい場合は?
客にとっては値下げなので案内は簡単ですが、スタイリストにとっては収入減で不利益変更にあたります。廃止分を基本給や歩合率で補う設計を示し、合意を得たうえで進めます。
業務委託の美容師の指名料はどう扱いますか?
業務委託の報酬は契約で決めるため、指名料の扱い(本人の売上に含めるか、店の取り分か)を契約書に明記します。客への表示は雇用スタッフと同じルールで行います。
指名料設定のチェックリスト
導入・改定の前に、次の7項目を確認してください。
- スタイリストごとの指名率と予約の待ち日数を把握している
- 指名料の目的(混雑調整・収入・売上)を決めて、金額の根拠にしている
- 金額は客単価の5〜10%を起点に、指名率で調整した
- 配分(全額・折半など)と歩合の計算式を労働条件に書いた
- 料金表・予約サイト・店頭で税込の総額を表示している
- 新人の指名無料期間と、ランクの上げ下げの基準を決めた
- 既存客に導入・改定の1か月以上前に案内した
指名料は、「混雑を調整する価格」「客単価の5〜10%が起点」「配分を明記」「税込総額で表示」の4点で設計できます。偏りの解消は指名料だけでは足りず、新人の紹介と引き継ぎの評価をセットにしてください。

出典・参考資料
- No.6902 「総額表示」の義務付け(国税庁、2026年9月16日確認)
- 景品表示法(消費者庁、2026年9月16日確認)
- 労働基準法(第15条 労働条件の明示、第89条 就業規則)(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
記事内の指名料の金額・件数・配分は設計例のための仮の設定で、地域や客層により適した水準は異なります。価格表示のルールは国税庁・消費者庁の最新の案内を確認し、配分の変更など労働条件に関わる判断は社会保険労務士にご相談ください。
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