美容室の回数券は、有効期限を発行日から6か月以内にすれば資金決済法の規制の対象外です。期限が6か月を超えるか期限なしの場合は、3月末・9月末の未使用残高が1,000万円を超えた時点で、2か月以内の財務局への届出と残高の半額以上の供託が必要になります。
回数券が「前払式支払手段」に当たる理由、6か月の数え方と期限の書き方、残高1,000万円超で生じる義務、返金・閉店時の扱い、割引率と券面の作り方を順に整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:回数券と資金決済法の条件早見表
回数券に資金決済法の義務がかかるかは、有効期限が発行日から6か月以内か、未使用残高が1,000万円を超えたかの2点でほぼ決まります。美容室で考えられるケースを整理すると次のとおりです。
| ケース | 資金決済法の扱い | 店がやること |
|---|---|---|
| 有効期限が発行日から6か月以内(券面に明記) | 適用除外(第4条第2号、施行令第4条第2項) | 発行日と期限を券面・規約に書き、期限後は使わせない |
| 期限が6か月超または期限なしで、未使用残高が1,000万円以下 | 自家型前払式支払手段。届出は不要 | 3月31日と9月30日の未使用残高を記録する |
| 同上で、3月31日か9月30日の未使用残高が1,000万円超 | 自家型発行者として届出が必要(第5条) | 2か月以内の届出、発行保証金の供託、表示、報告書の提出 |
| 無料で配る招待券・紹介特典の券 | 対価を得ていないため前払式支払手段に当たらない | 景品表示法の景品規制の範囲か確認する |
| LINEショップカードなどのスタンプカード | 前払いを受けていないため対象外 | 特典の内容と期限を明示する |
| 系列外の店でも使えるチケット | 第三者型前払式支払手段 | 発行前に財務局の登録が必要(第7条) |
多くの個人店は、期限を6か月以内にするか、期限を長くしても残高が1,000万円に届かないかのどちらかです。ただし後者でも、前払いを受けた分の施術を提供する義務が店に残っていることに変わりはありません。
回数券は前払式支払手段に当たるか
当たります。前払式支払手段とは、代金を先に受け取って発行し、その券や番号を使って後から商品やサービスを受けられるもので、「カット6回券」のように回数を記載した券も含まれます(資金決済法第3条第1項第2号)。
金額を記録するプリペイドカードやチャージ式の会員カードは「金額型」、回数券やメニュー券は「数量型」です。どちらも、発行した店とその密接な関係者のもとでしか使えなければ「自家型前払式支払手段」に当たります(同条第4項)。紙の券でも、アプリや会員番号で残数を管理する形でも扱いは同じです。
- 数量型(回数券・メニュー券):カット6回券、ヘッドスパ5回券、トリートメント1回券など。自家型前払式支払手段に当たります。
- 金額型(プリペイド):1万円の入金で1万1,000円分使える会員カードなど。これも自家型前払式支払手段に当たります。
- 無償の券:紹介特典の初回無料券や来店ポイントなど、代金を受け取らずに渡すもの。前払式支払手段には当たりませんが、有償の券と区分して管理します。
月額制のサブスクが当たるかは、契約の形によって判断が分かれます。設計の段階で財務局に確認するのが確実です。サブスクの組み立て方は会員制・サブスクの作り方で扱っています。
有効期限6か月以内なら規制の対象外 — 期限の書き方に注意
発行の日から6か月以内に限って使える回数券には、資金決済法の前払式支払手段の規定が適用されません(同法第4条第2号、同法施行令第4条第2項)。届出も残高の管理も要らないため、個人店にとっていちばん扱いやすい設計です。
ただし、期限の書き方と運用を誤ると適用除外になりません。日本資金決済業協会のQ&Aでは、次のような場合は法の適用を受けるとされています。
| 期限の書き方・運用 | 扱い |
|---|---|
| 券面に発行日と「発行日から6か月以内」の期限を日付で書いている | 適用除外 |
| 起算日を「初回利用日から」にしている、または起算日を書いていない | 法の適用を受ける |
| 期限切れの券も実際には使わせている(期限が形骸化している) | 法の適用を受ける |
| 期限前に新しい券へ残数を移して延長する | 当初の発行日から通算し、6か月を超えれば法の適用を受ける |
券面は「発行日:2026年10月14日/有効期限:2027年4月13日まで」のように日付で書くのが確実です。お客様の事情で延長を頼まれる場面は必ず出てくるため、延長を認めるとしても発行日から6か月を超えないことを規約で決めておきます。
6か月という期限は、来店周期が1〜2か月のメニューなら4〜6回分を使い切れる長さです。周期が長いメニューは6か月で使い切れないため、回数を減らすか回数券の対象から外します。残り回数と期限は、期限の1か月前にLINEで知らせると、使い残しと期限切れのトラブルを減らせます。
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未使用残高が1,000万円を超えたら何が必要か — 届出・供託・表示
有効期限が6か月を超える回数券で、3月31日か9月30日(基準日)の未使用残高が初めて1,000万円を超えたら、基準日の翌日から2か月以内に財務局へ届け出ます。あわせて残高の2分の1以上の発行保証金を供託するか、保全契約などを結ぶ必要があります。
| 義務 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 届出 | 基準日の翌日から2か月以内に、本店(主たる営業所)を管轄する財務(支)局へ届け出る | 資金決済法第5条 |
| 発行保証金 | 基準日未使用残高の2分の1以上を供託する(保全契約などで代えることもできる) | 同法第14条、施行令第6条 |
| 利用者への情報提供 | 発行者名、支払可能金額等(残数)、使える期間、苦情・相談窓口などを示す | 同法第13条 |
| 報告書 | 基準日ごとに、基準日の翌日から2か月以内に提出する | 同法第23条 |
| 払戻しの制限 | 発行業務の廃止などの場合を除き、原則として払戻しはできない | 同法第20条 |
| 罰則 | 届出をしない、虚偽の届出をした場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(併科あり) | 同法第112条 |
回数券の未使用残高は、残っている回数を金銭に換算して計算します(前払式支払手段に関する内閣府令第4条)。換算に使う単価や、値上げしたときの洗い替えの方法も細かく決まっているため、1,000万円に近づきそうなら早めに財務局に相談してください。
試算 — どのくらいの販売規模で1,000万円に届くか(仮の設定)
有効期限1年のカット6回券(販売価格3万円)を想定し、1冊あたりの平均の未使用額を販売額の半分の1.5万円、販売から使い切るまでの平均期間を8か月と置いて、手元に残る残高を概算しました。
| 月の販売冊数 | 使い切るまでの平均期間 | 未使用残高の目安 |
|---|---|---|
| 40冊 | 8か月 | 40冊×8か月×1.5万円=480万円 |
| 40冊 | 12か月(期限なしで使い残しが多い) | 40冊×12か月×1.5万円=720万円 |
| 90冊 | 8か月 | 90冊×8か月×1.5万円=1,080万円 |
数字は自分で置いた前提による概算です。月40冊程度の店なら1,000万円には届きにくい一方、期限なしで使い残しが積み上がると残高は年々増えていきます。届出が不要な規模でも、3月末と9月末の残高は毎回記録しておくのが安全です。
回数券のメリット・デメリット
回数券のメリットは、来店周期を固定し、代金を先に受け取れることです。デメリットは、割引で1回あたりの単価が下がることと、受け取ったお金に施術の義務が付いて回ることです。
- 来店:残り回数が来店の動機になり、周期が延びにくくなります。一方で、使い切った後に通常料金へ戻ると離れやすくなります。
- 資金:代金が先に入り、資金繰りが安定します。ただし前受けした代金は施術を終えるまで店の義務なので、使い込まないようにします。
- 単価:まとめ買いで1回の会計額は大きくなりますが、1回あたりの単価は割引分だけ下がります。
- 運営:次回の予約を取りやすくなる反面、値上げ・担当の退職・閉店のときに扱いでもめやすくなります。
回数券は値引きの一種なので、回数券で通うお客様の割合が増えるほど平均単価は下がります。値引きに頼らない再来の仕組みとの使い分けは値引き依存から抜け出す方法を、前払いを伴わないスタンプ型の特典はLINEショップカードの設計を参照してください。
返金・閉店時の扱い — 精算ルールを先に決めておく
資金決済法の届出をしていない店なら、回数券の返金は法律で禁止されておらず、精算の方法は店が定めるルールで決まります。「いかなる場合も返金しない」とだけ書く規約は、消費者契約法で無効とされるおそれがあるため、精算の計算方法を具体的に決めておきます。
消費者契約法は、解除に伴う違約金などのうち、同じ種類の契約で事業者に生じる平均的な損害を超える部分を無効としています(第9条第1項第1号)。消費者の利益を一方的に害する条項も無効です(第10条)。
| 場面 | 精算ルールの例 |
|---|---|
| お客様の都合で途中でやめる | 支払額−利用した回数×回数券の1回あたりの単価を返金。手数料を取るなら実費程度にとどめる |
| 引っ越しや病気で来店できない | 上と同じ計算で返金するか、期限内なら家族への譲渡を認める |
| 担当スタイリストが退職した | 他のスタッフで施術を続けるか、お客様の希望で精算する |
| 値上げした | 発行済みの回数券は券面どおりの回数を追加料金なしで使える |
| 閉店・廃業する | 残り回数分を返金する。届出済みの店は資金決済法の払戻し手続による |
使った回を通常料金で計算し直す精算方法は、割引分を取り戻す計算になるため、購入時の説明と規約への明記が欠かせません。もめにくいのは、回数券の1回あたりの単価で精算する方法です。
閉店で施術を続けられなくなる場合は、残り回数分の代金を返金するのが原則と考えられます。届出をしている店が発行業務をやめるときは、60日以上の期間を定めて公告したうえで払い戻す手続が必要です(資金決済法第20条第1項・第2項)。閉店全体の手順は閉店・廃業の手続きを参照してください。
ヘッドスパやフェイシャルなど、エステティックに近い内容のコースを期間1か月超・総額5万円超で販売すると、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に当たるかを検討する必要があります(同法第41条)。当たる場合は、契約書面の交付、クーリング・オフ、中途解約の精算ルールが適用されます。メニューの内容で判断が分かれるときは、消費生活センターや弁護士に確認してください。
回数券の価格の付け方と券面の作り方
回数券の価格は「何回分の料金で何回」の形で示すと、お客様にも店にも割引率が分かりやすくなります。割引の分だけ1回あたりの粗利が減るため、回数券がなかった場合より来店回数が増えるかで元が取れるかを判断します。
試算 — カット(通常5,500円)の回数券の割引率(仮の設定)
- 5回分の料金で6回:販売価格27,500円、1回あたり約4,583円で、割引率は約16.7%
- 6回券を10%引き:販売価格29,700円、1回あたり4,950円で、割引率は10%
- 10回分の料金で11回:販売価格55,000円、1回あたり5,000円で、割引率は約9.1%
数字は自分で置いた前提による試算です。カットは材料費が小さいため、割引額がほぼそのまま粗利の減少になります。6回で5,500円分の割引なら、回数券がなければ途中で来なくなっていたお客様が、期限内に通い切ることで取り戻せる金額かを見ます。
値上げをするときは、発行済みの回数券の扱いも同時に案内するとトラブルを防げます。告知の書き方は値上げのお知らせ文例を、年末年始の福袋に回数券を入れる設計は福袋・初売り企画の作り方を参照してください。
回数券の券面と規約には、次の10項目を書いてください。
- 店名(発行者)と連絡先
- 対象メニューと回数(例:カット6回)
- 発行日と有効期限(日付で記載。発行日から6か月以内にする場合はそれを超えない日付)
- 残り回数の確認方法(券面への押印、アプリやLINEでの表示)
- 期限を過ぎた券は使えないこと
- 途中でやめる場合と閉店時の精算方法
- 家族などへの譲渡を認めるか
- 値上げしても券面どおりの回数を追加料金なしで使えること
- 担当スタイリストが退職した場合の扱い
- 苦情・問い合わせの窓口
よくある質問
回数券に有効期限を付けないのは違法ですか?
違法ではありません。ただし期限なしの回数券は資金決済法の前払式支払手段に当たり、3月31日か9月30日の未使用残高が1,000万円を超えると、2か月以内の届出と発行保証金の供託が必要になります。
有効期限が切れた回数券を使わせてもよいですか?
例外として使わせる運用を続けるのは避けてください。期限が形骸化していると判断されると、発行日から6か月以内の適用除外が受けられず、資金決済法の規制の対象になるおそれがあります。
回数券の売上はいつ計上すればよいですか?
施術を行った時点で売上にするのが原則です。消費税も回数券を売った時ではなく施術の時に課税され(消費税法基本通達9-1-22)、売った時点の代金は前受金として扱います。法人の未使用分の扱いは法人税基本通達2-1-39に定めがあるため、税理士に確認してください。
値上げしたら、前に売った回数券で差額をもらえますか?
原則としてもらえません。回数券は決まった回数の施術を約束して代金を受け取っているため、値上げ後も券面どおりの回数を追加料金なしで提供します。値上げの告知と一緒に回数券の扱いを案内すると、トラブルを防げます。
回数券を家族や友人に譲ってもよいですか?
認めるかどうかは店が決められます。カルテの管理や施術の前提が変わるため、譲渡を認める範囲(同居の家族のみなど)と、利用時に名前を確認することを規約に書いておきます。
ヘッドスパの回数券にも同じルールが適用されますか?
資金決済法の扱いは同じです。加えて、エステティックに近い内容で期間1か月超・総額5万円超のコースにすると、特定商取引法の特定継続的役務提供に当たるかの検討が必要になるため、販売前に確認してください。
出典:資金決済に関する法律第3条・第4条・第5条・第7条・第13条・第14条・第20条・第23条・第112条、同法施行令第4条・第6条、前払式支払手段に関する内閣府令第4条、一般社団法人日本資金決済業協会「前払式支払手段についてよくあるご質問」、関東財務局「前払式支払手段(自家型)の届出」、消費者契約法第9条・第10条、特定商取引法第41条、消費税法基本通達9-1-22、法人税基本通達2-1-39(e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」、関東財務局「前払式支払手段」)。個別の判断は管轄の財務局、弁護士、税理士に確認してください。
回数券を始めるなら、有効期限を発行日から6か月以内にして、券面に日付で書くことが最初の一歩です。期限を長くする場合は、3月末と9月末の未使用残高を記録する台帳と、途中解約・閉店時の精算ルールを先に用意してから販売してください。
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