美容室の新規クーポンは、割引額を「1回目で赤字にならない範囲」と「2回目以降の来店で取り戻せる範囲」の小さいほうに収めて決めます。平日・時間帯・メニューの条件と2回目用の特典をセットにすると、値引き目当ての一度きりの来店を減らせます。
新規クーポンの目的の決め方、粗利と2回目来店率から割引の上限を逆算する試算、条件の付け方、2回目につなげる設計、予約サイトやLINEで出すときの表示ルールを順に整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:新規クーポンを作る前に決める5つのこと
新規クーポンは割引率から決めるのではなく、目的→割引の上限→条件→2回目の特典→表示の順に決めます。割引率は、この順に考えた結果として出てくる数字です。
- 目的:どんなお客様を、どの曜日・時間帯に入れたいかを決めます。成果は「新規数」ではなく「2回目に来た人数」で測ります。
- 割引の上限:1回目の貢献利益(売上から材料費・施術時間分の人件費・手数料を引いた額)と、2回目以降の見込み利益から逆算します。
- 条件:平日・時間帯・メニューを絞り、もともと空いている枠に新規を入れます。
- 2回目の特典:初回の会計時に、来店周期に合わせた期限付きの特典を渡します。
- 表示:税込の総額で書き、条件と有効期限を価格のすぐ横に置きます。「通常価格」は実際の正規料金だけを使います。
この5つのうち、多くの店が飛ばしてしまうのが2番目の「上限」です。周りの店の割引率に合わせて決めると、自店の2回目来店率では回収できない深さになっていることがあります。
新規クーポンの目的は何か — 「来てもらう」ではなく「2回目に来る人を集める」
新規クーポンの目的は、初回の来店数を増やすことではなく、2回目以降も通ってくれるお客様と出会う回数を増やすことです。割引に反応して来た人がそのまま離れると、割引した分と媒体の掲載料がそのまま損失になります。
そのため、クーポンの成果は次の4つの指標で見ます。2回目来店率を数える期間は、自店の主なメニューの来店周期に合わせて60〜120日の範囲で決め、毎月同じ基準で比べます。
| 指標 | 計算式 | 見方 |
|---|---|---|
| 新規数 | その月に初めて来店したお客様の数 | 曜日・時間帯・クーポン別にも分ける |
| 2回目来店率 | 決めた期間内に再来店した人数÷初回の人数 | クーポンの種類ごとに比べる |
| 新規1人あたりの獲得コスト | (媒体の掲載料+割引額の合計)÷新規数 | 割引した額も「費用」として数える |
| 正規料金への移行率 | 3回目に正規料金で来店した人数÷クーポン利用者 | 低いほど値引き目当ての来店が多い |
割引額を費用に入れて獲得コストを出すと、「掲載料は安いのに、実は1人あたりの獲得コストが高い」クーポンが見つかります。掲載料だけの獲得単価の出し方はホットペッパー費用は見合っているかで解説しています。
割引率はどう決めるか — 粗利と2回目来店率から上限を逆算する
割引の上限は、①1回目の施術で貢献利益がマイナスにならない額と、②2回目以降の1年間の見込み利益から獲得コストを引いた額の、小さいほうです。2回目来店率が低い店ほど、割引を浅くしないと回収できません。
割引の上限を出す計算式
- 1回目の貢献利益=税抜売上−材料費−施術時間分の人件費−決済・ポイント手数料
- 2回目以降の見込み利益=2回目来店率×1年間の再来店回数×1回あたりの貢献利益
- 割引の上限=「1回目の貢献利益」と「2回目以降の見込み利益−新規1人あたりの掲載料」の小さいほう
試算 — カット+カラー11,000円のクーポンは何%まで下げられるか(仮の設定)
正規料金はカット+カラー11,000円(税込、税抜10,000円)とします。材料費1,200円、施術2時間でスタイリストの人件費(給与と社会保険料の店負担)を1時間2,200円として4,400円、決済・ポイント手数料300円を引くと、1回目の貢献利益は4,100円(税抜)です。掲載料を新規数で割った獲得コストは1人2,000円、2回目以降は1年に3回来店すると置きます。
| 2回目来店率 | 1年間の見込み利益 | 獲得コストを引いた額 | 割引の上限(税抜) | 正規料金に対する割引率 |
|---|---|---|---|---|
| 20% | 2,460円 | 460円 | 460円 | 約5% |
| 30% | 3,690円 | 1,690円 | 1,690円 | 約17% |
| 40% | 4,920円 | 2,920円 | 2,920円 | 約29% |
| 50% | 6,150円 | 4,150円 | 4,100円(1回目の貢献利益で頭打ち) | 41% |
2回目来店率が30%の店で「初回50%オフ」を出すと、割引5,000円に対して回収できるのは1,690円なので、新規1人あたり約3,300円が取り戻せない計算です。数字は自分で置いた前提による試算で、家賃などの固定費は含めていません。自店の数字で同じ表を作ると、今のクーポンが続けてよい深さかどうかが分かります。
空き枠に入れるなら、人件費の考え方が変わる
固定給のスタイリストの空き枠にクーポン客が入る場合、その時間の人件費は来店がなくても発生します。追加でかかるのは材料費と手数料だけなので、平日の空き枠に限ったクーポンは、土日のクーポンより割引を深くしても採算が合いやすくなります。歩合給の店では来店ごとに歩合がかかるため、歩合分は費用に入れたまま計算します。
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条件の付け方 — 平日・時間帯・メニューを絞って空き枠を埋める
条件は、店が空いている枠に新規を入れるために付けます。平日の昼や、施術時間が読みやすいメニューに絞ると、既存のお客様の予約を押し出さずに新規を受けられます。
| 条件 | 書き方の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 曜日・時間帯 | 平日10:00〜15:00のご来店に限る | 対象になる枠を予約システムで先に確保する |
| メニュー | カット+カラー(リタッチを除く)に限る | 長時間のメニューは割引額より時間単価で判断する |
| 担当者 | デビュー1年以内のスタイリストの担当に限る | 新人の指名づくりと兼ねられる |
| 対象者 | 当店のご利用が初めての方(過去3年以内にご来店のない方を含む) | 「初回」の定義を必ず書く |
| 有効期限 | 掲載期間中のご来店、または発行日から1か月 | 期限が切れた後の扱いを決めておく |
| 併用 | 他のクーポン・割引・紹介特典との併用不可 | 重ねて使えると上限を超えやすい |
「初回」の定義は特に揉めやすい部分です。数年ぶりに来たお客様を新規として扱うかは店の判断ですが、書いていなければ会計時にお客様と店の認識がずれます。カルテや予約システムでさかのぼれる期間で区切り、文面に入れておきます。
2回目につなげる設計 — 初回の会計で「次回の理由」と期限を渡す
2回目の来店は、初回の会計時に来店周期に合わせた期限付きの2回目特典を渡すと決まりやすくなります。特典は初回より割引を浅くするか、トリートメントの追加など値引き以外の内容にして、正規料金に近づけていきます。
-
カウンセリングで次回の目安を伝える
「この長さを保つなら6週間後くらいが目安です」のように、施術の内容から次回の時期を具体的に伝えます。
-
会計時に2回目特典を渡す
紙のカードとLINEのクーポンの両方で渡します。期限は次回の目安から2週間程度の余裕をみて設定します。
-
来店の翌日にLINEでお礼と特典の期限を送る
仕上がりの扱い方のポイントを添えると、売り込みではなくフォローとして受け取ってもらえます。
-
期限の2週間前にもう一度知らせる
予約ページへのリンクを付け、その場で予約できるようにします。
-
2回目の来店時に次回予約を提案する
3回目は正規料金での来店が前提です。2回目の時点で次回予約が入ると、定着に近づきます。
2回目特典の文例(金額・期間は記入例です)
- 本日はご来店ありがとうございました。次回のご来店の目安は◯月◯日ごろです。
- ◯月◯日までにご来店いただくと、トリートメント(通常3,300円)を2,200円(いずれも税込)でご用意します。
- カットまたはカラーと同時のご予約が対象で、他の割引とは併用できません。ご予約はこのLINEからどうぞ。
初回から3回目までのフォローの流れは2回目・3回目の来店につなげる方法、LINEでのクーポンの出し分けはLINE公式でのクーポン配信で詳しく解説しています。
値引き依存にならないためのルール
新規クーポンが値引き依存に変わるのは、同じお客様に割引が続く状態になったときです。割引は「新規の1回目」と「2回目特典」までに限り、3回目以降は正規料金で通ってもらう前提で設計します。
- 新規割引は1人1回:2回目特典は初回より浅くし、3回目以降の割引クーポンは原則出しません。
- クーポン客の比率に上限を決める:たとえば「月の総来店数の2割まで」と決め、超えたら割引を浅くするか掲載枠を減らします。
- 正規料金で通う既存客に還元する:割引ではなく、ショップカードの特典や誕生月の特典など、通い続けるほど得になる仕組みを用意します。
- 割引率は2回目来店率を見てから変える:新規数だけを見て毎月割引を深くすると、上限を超えても気づけません。
- 媒体ごとのクーポンを整理する:予約サイト・LINE・店頭のクーポンを一覧にし、同じ人が重ねて使えないようにします。
「初回50%オフ」を一年中出していると、その価格が実質的な通常料金だと受け取られ、正規料金で来るお客様が減っていきます。さらに「期間限定」と書きながら毎月更新している場合は、期間限定の実態がない表示として景品表示法上の問題になるおそれもあります。クーポンを減らしながら客数を保つ手順は値引き依存から抜け出す方法にまとめています。
予約サイトとLINEで出すときの見せ方と表示のルール
クーポンの価格は税込の総額で書き、条件・有効期限・対象者を価格のすぐ横に置きます。「通常価格◯円→初回◯円」と比べるときは、比べる価格が実際に販売している正規料金であることが前提です。
| クーポンの文面 | 判定 | 理由と直し方 |
|---|---|---|
| 【初回限定】カット+カラー 7,700円(税込・正規料金11,000円)平日10〜15時のご来店 | OK | 税込価格・比較する正規料金・条件が1行にそろっている |
| カラー50%OFF(元の価格の記載なし) | 要改善 | いくら払うか分からない。正規料金と割引後の税込額を書く |
| 通常13,200円→7,700円(13,200円で受けた実績がほとんどない) | NG | 比較する価格に販売実績がない。実際の正規料金と比べる |
| 先着5名様限定(予約システムで枠数を管理していない) | NG | 限定の内容が実態と合わない。枠を5つに設定してから掲載する |
| 新規の方全員に3,000円相当のシャンプーをプレゼント(カット4,400円) | NG | 総付景品の上限は取引価額の10分の2(この場合880円)。上限内の品にする |
過去の価格と比べる二重価格表示は、消費者庁の価格表示ガイドラインで、セール開始前8週間の過半の期間その価格で販売していた実績が必要とされています。来店者全員にもれなく渡すプレゼント(総付景品)は、取引価額が1,000円未満なら200円まで、1,000円以上なら取引価額の10分の2までです。一方、割引(値引き)そのものは景品にはあたらないため、この上限はかかりません。
税込表示や「〜」表示の書き方は料金表示のルール、予約サイトで埋もれないクーポンの見せ方はホットペッパー集客を活かすコツを参照してください。
新規クーポンを公開する前に、次の8項目を確認してください。
- 自店の2回目来店率と、1回目の貢献利益を計算した
- 割引額が、試算で出した上限の範囲に収まっている
- 対象の曜日・時間帯・メニューの枠を予約システムで確保した
- 「初回」の定義と有効期限、併用の可否を文面に書いた
- 2回目特典の内容・期限と、渡し方(紙とLINE)を決めた
- 価格は税込で、比べる「正規料金」は実際に販売している料金である
- 「先着」「限定」は実際の枠数・期間と一致している
- プレゼントを付ける場合、総付景品の上限内に収まっている
よくある質問
新規クーポンの割引率は何%が相場ですか?
決まった相場はなく、自店の粗利と2回目来店率から上限を決めるのが確実です。周りの店に合わせて割引を深くすると、2回目来店率が低い店ほど新規1人あたりの赤字が大きくなります。
「初回」の定義はどう決めればよいですか?
予約システムやカルテでさかのぼれる期間で区切り、文面に書きます。「当店のご利用が初めての方(過去3年以内にご来店のない方を含む)」のように書けば、久しぶりのお客様の扱いで揉めません。
既存のお客様から「新規だけ安いのは不公平」と言われたらどうしますか?
新規の割引は1回だけで、通い続ける方には別の形で還元していると説明できるようにしておきます。ショップカードや誕生月の特典など、既存のお客様向けの仕組みを先に用意しておくのが前提です。
新規クーポンにプレゼントを付けても問題ありませんか?
上限の範囲内なら問題ありません。来店者全員に渡すプレゼントは総付景品にあたり、取引価額が1,000円以上なら取引価額の10分の2、1,000円未満なら200円までが上限です。
紹介クーポンと新規クーポンは併用させるべきですか?
併用はさせず、どちらか一方を選んでもらうのが基本です。重ねると割引の上限を超えやすく、紹介者への特典と合わせて新規1人あたりの獲得コストが想定より大きくなります。
出典:不当景品類及び不当表示防止法第5条、消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(消費者庁「二重価格表示」)、「おとり広告に関する表示」(平成5年公正取引委員会告示第17号)、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(総付景品の限度額。消費者庁「景品規制の概要」)、消費税法第63条。表示の個別の判断は消費者庁・都道府県の景品表示法担当窓口か弁護士に確認してください。
新規クーポンは「割引率」ではなく「2回目来店率」から決めるものです。まず直近3か月の新規のお客様の2回目来店率を出し、試算の表に当てはめて、今のクーポンが回収できる深さかどうかを確かめてください。
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