美容室の開業届は、税務署に出す「個人事業の開業・廃業等届出書」のことで、保健所の開設届とは別の手続きです。開業から1か月以内に出し、同じ日に青色申告承認申請書も出しておくと、後でやり直す手続きがなくなります。
この記事では、開業届の書き方(職業欄・屋号・事業の概要)、同時に出す書類、雇う場合に増える届出、都道府県への申告、提出方法と控えの使い道を整理します。

結論:美容室の開業届は「税務署に1か月以内・青色申告と同時」が基本形
個人で美容室を開くと、所得税法上「事業を開始した」ことになり、開業日から1か月以内に所轄の税務署へ開業届を提出することが定められています。提出が遅れても罰則はありませんが、青色申告承認申請書の期限(開業から2か月以内)と一緒に管理しないと、初年度が白色申告になる事故が起きます。
保健所への美容所開設届(美容師法)とは提出先も目的も別です。保健所の手続きは開業の届出・手続きの流れ、資格と届出の全体は開業に必要な資格と届出で扱っています。この記事は税務署側に絞ります。
開業届の記入欄と、美容室での書き方
| 欄 | 美容室での書き方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 納税地 | 自宅住所か店舗住所のどちらか | 店舗を納税地にすると税務署からの書類が店に届く。どちらでも可 |
| 職業 | 「美容業」 | 事業税の区分に関わる欄。美容業は個人事業税の対象業種 |
| 屋号 | 店名(任意) | 書けば屋号名義の口座開設に使える。後から変更届も出せる |
| 開業日 | 実際に営業を始めた日(内装中は含めない) | 1か月の起算日。開業前の支出は開業費として処理 |
| 事業の概要 | 「美容室の経営(カット・カラー・パーマ等の美容サービスの提供および関連商品の販売)」 | 店販を行うなら「商品の販売」を入れる |
| 給与等の支払の状況 | スタッフを雇うなら人数と支払方法 | 雇う場合は別の届出(後述)も同時に |
| 青色申告承認申請書の提出 | 「有」にチェック | 同日に申請書を添えて出す |
迷いやすいのは開業日です。内装工事中や準備期間は開業日にならず、施術を提供し始めた日が一般的な起算日です。開業前にかかった費用は開業費(繰延資産)として、開業後に任意の年に償却できます。
開業届と同時に出す書類(4ステップ)
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青色申告承認申請書
開業から2か月以内(1月1日〜15日に開業した年は3月15日まで)。開業届と同じ日に出すのが最も確実です。65万円控除を狙うなら複式簿記と電子申告が条件になります。
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給与支払事務所等の開設届出書(雇う場合)
スタッフやアシスタントに給与を払うなら、給与支払を始めてから1か月以内。青色事業専従者(配偶者など)に給与を払う場合も必要です。
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源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(雇う場合)
常時雇用する人が10人未満なら、源泉所得税の納付を年2回にまとめられます。毎月の納付の手間が減るため、雇う店はほぼ全店が対象です。
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青色事業専従者給与に関する届出書(家族に給与を払う場合)
配偶者や家族に給与を経費として払うなら、青色申告の期限と同じ日までに提出します。
消費税については、開業初年度は原則として免税事業者ですが、インボイスの登録を選ぶ場合は別に「適格請求書発行事業者の登録申請書」が要ります。登録するかどうかは、取引先に事業者がいるかで決めます。判断の考え方はインボイス制度対応を参照してください。

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税務署以外にも出す「事業開始等申告書」
見落とされやすいのが、都道府県税事務所(自治体によっては市区町村も)への事業開始等申告書です。個人事業税の課税のために出すもので、提出期限は自治体で異なります(開業から15日以内とする自治体もあれば、1か月以内とする自治体もあります)。
| 提出先 | 書類 | 期限の目安 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 税務署 | 個人事業の開業・廃業等届出書 | 開業から1か月以内 | 所得税 |
| 税務署 | 青色申告承認申請書 | 開業から2か月以内 | 青色申告の適用 |
| 税務署 | 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払開始から1か月以内 | 源泉徴収 |
| 都道府県税事務所 | 事業開始等申告書 | 自治体で異なる(15日〜1か月) | 個人事業税 |
| 保健所 | 美容所開設届(別制度) | 開業前に届出・検査 | 美容師法 |
| 年金事務所・ハローワーク(雇う場合) | 社会保険・労働保険の新規適用 | 雇用開始から原則10日〜1か月 | 社会保険・労働保険 |
個人事業税は、美容業が対象業種に含まれ、年間の事業所得から事業主控除(290万円)を引いた額に税率が掛かります。開業初年度は控除の範囲に収まることが多いですが、申告書自体は必要とする自治体が多いため、税務署と同じ週に済ませてください。
提出方法と、控えの使い道
- e-Taxで出す:マイナンバーカードがあれば自宅から提出でき、控えは受信通知として残ります。青色申告の65万円控除の条件(電子申告)に慣れる意味でも、最初から電子で出す形が向いています。
- 窓口で出す:控えに受付印をもらえます。開業届の控えは、屋号名義の口座開設や融資の申し込み、補助金の申請で提出を求められることがあります。
- 郵送で出す:控えと返信用封筒を同封すれば受付印付きで返送されます。期限は到着日ではなく通信日付印で判定されます。
控えは開業後に何度も使います。スキャンして保存し、原本は開設届の控えと同じファイルに入れておくと、融資や補助金の申請で慌てません。融資の準備は開業資金・融資完全ガイドを参照してください。
出典:所得税法第229条(開業等の届出)、所得税法第144条・第166条(青色申告の承認の申請)、所得税法第230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)、所得税法第216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)、地方税法第72条の2以下(個人の事業税)、国税庁 タックスアンサー「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」。提出先・期限は自治体や制度改正で変わることがあるため、実際の手続きでは所轄の税務署・都道府県税事務所の案内を確認してください。
開業届を出し忘れていたとき
開業から数か月経って開業届を出していないことに気づく例は少なくありません。開業届は遅れて提出しても受理され、罰則もありません。問題になるのは青色申告承認申請書の期限で、これを過ぎるとその年は白色申告になります。
気づいた時点で開業届と青色申告承認申請書を同時に出し、青色が翌年からになる場合は、初年度の記帳は白色のまま進めます。開業前の費用の領収書は、開業費として後から計上できるため、捨てずに保管してください。
法人で開業する場合との違い
法人で美容室を開く場合、税務署に出すのは開業届ではなく法人設立届出書(設立から2か月以内)で、青色申告の承認申請は設立から3か月以内などの別の期限になります。個人か法人かの判断は法人化のタイミングにまとめています。
開業届の「屋号」と口座・請求書の関係
屋号は任意ですが、書いておくと実務で役立つ場面があります。屋号名義の事業用口座を開くときに、開業届の控えの提示を求める金融機関が多いためです。屋号がないと、口座は個人名のみになり、店販の請求書や領収書も個人名になります。
屋号は保健所に届けた美容所の名称と一致させておくと、融資や補助金の書類で説明が要りません。後から店名を変える場合は、開業届の変更ではなく「屋号の変更」を確定申告書の屋号欄に書くことで足りる場合が多く、改めて届出をやり直す必要はないとされています。数字の例として、開業届・青色申告承認申請書・給与支払事務所の届出の3枚を同日に出せば、税務署に行くのは1回で済みます。
開業前の支出は「開業費」として残す
開業日より前に払った内装の打ち合わせ交通費、名刺・チラシの印刷費、講習の受講料などは、開業費(繰延資産)として計上し、開業後の任意の年に償却できるのが一般的な扱いです。開業届の開業日を「営業開始日」に置くと、その前の支出が開業費、後の支出が通常の経費に分かれます。
ただし、内装工事や機器のように資産になるものは開業費ではなく減価償却資産です。この区別は内装の耐用年数と減価償却にまとめています。領収書は開業日より前のものも、日付順に1つのファイルに残してください。
開業月に済ませるチェックリスト
開業から1か月以内に、次の6つを確認してください。
- 税務署へ開業届を提出した(開業日・職業「美容業」・屋号・事業の概要)
- 青色申告承認申請書を同時に提出した
- 雇う場合、給与支払事務所等の開設届出書と納期の特例の申請書を出した
- 都道府県税事務所へ事業開始等申告書を出した(期限は自治体で確認)
- インボイス登録の要否を判断した
- 控えをスキャンして、保健所の開設届の控えと同じファイルに保存した
開業届そのものは1枚の書類ですが、同時に出すべき書類とセットで済ませるかどうかで、初年度の申告の手間と税額が変わります。開業月のうちに一度で終わらせてください。

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