訪問美容(出張美容)は、美容師法が原則として禁じる「美容所以外での業務」の例外として、疾病・高齢などで美容所に来られない人や、婚礼などの儀式の直前に限って認められている仕組みです。対象の範囲は政令と自治体の条例・要綱で定められ、衛生措置を整えたうえで行います。
この記事では、訪問美容が認められる対象と根拠、保健所への確認と衛生措置、器具と記録の整え方、料金と契約の設計、保険、施設への提案の仕方、店舗営業との両立を、厚生労働省の資料と美容師法をもとに整理します。

結論:「誰に・どこで・どう衛生を保つか」を先に決め、保健所に確認してから始める
訪問美容は、高齢化とともに需要が増えている一方、「美容室に来られない人のための例外」であって、誰にでも自宅で施術できる仕組みではありません。美容師法は、美容師は美容所以外の場所で業務を行ってはならないと定め、例外として政令で定める特別の事情がある場合を挙げています。具体的には、疾病その他の理由で美容所に来ることができない人、婚礼などの儀式に参列する人の直前の施術、そのほか都道府県などの条例で定める場合です。
始める前に決めることは4つです。①対象(施設の入所者、在宅の高齢者、障害のある人、婚礼など)と、それが例外に当たる根拠。②保健所への相談と、衛生措置の基準。③器具・消毒・記録の仕組み。④料金・契約・保険。この4つが揃ってから、施設やケアマネジャーに提案します。
高齢のお客様に来店してもらう形として、送迎を付ける方法は送迎付きで美容室を開業する前にで扱っています。この記事は「店の外で施術する」訪問美容に絞ります。
認められる対象と根拠
| 対象 | 根拠の考え方 | 美容室での例 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 疾病その他の理由で美容所に来ることができない人 | 美容師法の例外(政令) | 高齢者施設の入所者、在宅で療養中の人、障害のある人 | 「来られない」ことが前提。歩けるが来店が面倒、は対象外 |
| 婚礼などの儀式に参列する人(儀式の直前) | 美容師法の例外(政令) | 結婚式場での着付け・ヘアセット | 儀式の直前に限る |
| 条例・要綱で定める場合 | 都道府県・政令市などの条例 | 山間地・離島の住民、育児中で外出が難しい人などを認める自治体がある | 自治体で範囲が違う。管轄の保健所で確認 |
| 演劇・映画などの出演者 | 政令で定める場合に含まれる | 撮影現場でのヘアメイク | 美容室の日常業務では例外的 |
対象に当たるかどうかの判断は、施術する美容師(店)の責任です。「来店できない理由」を確認し、記録に残します。自治体によっては、訪問美容の実施に関する要綱や、届出・記録の様式を定めているため、管轄の保健所で確認してから始めます。
保健所への確認と衛生措置
訪問美容は美容所の外で行うため、美容所の構造設備(消毒設備・換気など)が使えません。そのぶん、美容師自身が持ち運ぶ器具と衛生の仕組みで、美容所と同じ水準の衛生を保つことが求められます。厚生労働省は理容・美容の衛生管理に関する要領を示しており、自治体はこれをもとに基準を定めています。
| 項目 | 整えること | 記録に残すこと |
|---|---|---|
| 器具の消毒 | 施術ごとに消毒した器具を使う。持ち運び用の消毒液・容器、消毒済みと未消毒を分ける袋や箱 | 消毒の方法と実施 |
| 手指の衛生 | 施術前後の手洗い・消毒。水が使えない場所では携帯用の手指消毒剤 | — |
| 使い捨て用品 | ケープ、タオル、ペーパー、手袋。訪問先で洗濯できない前提で数を用意 | 使用数と補充 |
| 施術記録 | 日時、場所、対象者、施術内容、体調の確認、同意 | 記録簿またはアプリ |
| 薬剤の扱い | カラー・パーマは換気と皮膚の状態の確認が難しい。施設の同意と、パッチテストの記録 | 薬剤名、パッチテストの結果 |
| 健康状態の確認 | 施術前に体調と皮膚の状態を確認。施設では看護職に相談 | 確認の結果 |
器具の消毒の基本は衛生管理と器具消毒の運用で扱っています。訪問美容では、この基準を「持ち運べる形」に置き換えることが要点です。

訪問美容を始める手順(5ステップ)
対象と根拠を確認する
誰に対して行うのか(施設の入所者、在宅の高齢者、婚礼など)を決め、美容師法の例外か、自治体の条例・要綱のどれに当たるかを確認します。対象外の人に行うと、法令違反になります。
保健所に相談する
管轄の保健所に、訪問美容を行う旨を相談し、届出の要否、衛生措置の基準、記録の様式、美容所に所属しない形で行う場合の扱いを確認します。自治体によって運用が異なるため、電話で済ませず、案内の書面を受け取ります。
器具と衛生の仕組みを整える
持ち運び用の消毒セット、使い捨て用品、施術記録の様式を用意します。訪問先で水や電源が使えない場合を想定し、携帯用の手指消毒剤、充電式のバリカン・ドライヤーを検討します。
料金と契約を設計する
施術料、出張費(距離または時間)、移動時間の扱い、キャンセルの条件、支払い方法を決めます。施設との契約は、支払いの条件(月締め・請求書)と担当者の連絡先を書面にします。
施設・ケアマネジャーに提案する
サービス内容、衛生管理の方法、保険の加入、料金、施術記録の共有方法を1枚にまとめた説明書を用意し、施設の責任者やケアマネジャーに提案します。施設側は衛生と事故の責任を気にするため、そこを先に説明します。
「訪問美容」の名前で、来店できる人の自宅に出向いてカットするサービスを始めると、美容師法の例外に当たらず、違反になるおそれがあります。対象の範囲は法令と自治体の定めで決まっており、店の判断で広げることはできません。始める前に、管轄の保健所で対象の範囲を確認してください。
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料金と収支の設計 — 移動時間を含めて考える
訪問美容は、店舗の施術と違って移動時間と準備時間がかかります。施術料だけで店舗と同じ単価にすると、1日にこなせる人数が少なく、時給換算で店舗を下回ります。数字は仮の設定です。
| 形態 | 1日の流れ(例) | 収入(例) | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 施設への訪問(まとめて施術) | 移動30分→施設で6人をカット(各30分)→片付け・移動30分 | 6人×3,000円+出張費3,000円=21,000円 | 1か所でまとめて施術できるため効率が高い。施設と定期契約 |
| 在宅への個別訪問 | 移動30分→1人カット40分→移動30分→次へ(1日4人) | 4人×4,000円+出張費4×1,500円=22,000円 | 移動が多く効率が低い。出張費を明確に設定する |
| 店舗営業の合間に週1日 | 火曜を訪問日にして施設2か所 | 施設2か所×5人×3,000円+出張費=36,000円 | 店舗の定休日や閑散日を使う |
施設との契約では、1回あたりの最低人数、キャンセル時の扱い、支払いの締めと期日を決めます。在宅の個別訪問は、出張費を距離か時間で設定し、料金表に明記します。介護保険の対象外のサービスであることも、利用者と家族に説明します。料金の考え方は客単価の計算方法で扱っています。
保険 — 出張先の事故が対象か
美容室が加入する賠償責任保険は、店舗内の事故を対象とする契約が多く、出張先での事故(転倒、薬剤による皮膚トラブル、器具の落下)が補償の対象になっているかを確認します。対象外なら、訪問美容を含む特約や別の保険を検討します。施設側から保険の加入証明を求められることもあります。保険の考え方は開業で入るべき保険で扱っています。
施設への提案で用意するもの
- サービス説明書:対応メニュー(カット、顔剃りは理容師のみ、カラー・パーマの可否)、所要時間、料金、出張費
- 衛生管理の説明:器具の消毒方法、使い捨て用品、施術記録の様式
- 保険の加入証明:出張先の事故が対象であること
- 担当者の情報:美容師免許の写し、経歴、連絡先
- 契約書の案:訪問の頻度、最低人数、支払い条件、キャンセル、事故時の対応
施設は複数の事業者から提案を受けていることが多く、衛生と事故対応の説明が具体的な事業者が選ばれます。法人契約の作り方は法人契約・企業提携で集客する方法で扱っています。
店舗営業との両立
店舗を持つ美容室が訪問美容を行う場合、店舗の営業に穴が空かないよう、定休日や閑散日を訪問日にし、担当する美容師を決めます。訪問中の店舗の予約は他のスタッフで受けるか、その時間帯は予約を止めます。訪問美容の売上と経費(移動費、使い捨て用品)は店舗と分けて記帳すると、採算が見えます。閑散日の使い方は閑散期対策で扱っています。訪問美容を含めた事業の設計はVAULTAの新規集客・Web支援でも相談を受け付けています。
訪問美容で使う機器と持ち物
訪問先では電源と水が限られるため、充電式のバリカンとコードレスのドライヤー(または低出力で延長コードを使う前提)、折りたたみの椅子、レジャーシートや養生シート、水を使わないシャンプー(ドライシャンプー)、ミラーを用意します。施設の洗面所を借りられるかは事前に確認し、借りられない場合はシャンプーを行わないメニューにします。荷物はキャリーケース1つに収まる量にし、消毒済みの器具と使用済みの器具を分ける容器を必ず入れます。移動が多い日は、器具の予備と使い捨て用品を多めに持ちます。施設によっては、車いすのまま施術できる高さの調整や、ベッド上での施術を求められるため、腰への負担を減らす姿勢と、施術時間を店舗より長めに見積もることも準備の一部です。
よくある質問
美容室を持たずに訪問美容だけで開業できますか?
美容師法は美容所以外での業務を原則禁じ、例外の対象に限って認めています。美容所を持たない形での実施の扱いは自治体によって運用が異なるため、管轄の保健所に確認してください。多くの場合、対象の範囲と衛生措置の確認が求められます。
元気な高齢者の自宅に出向いてカットするのは訪問美容ですか?
美容所に来ることができない理由がなければ、例外の対象に当たらない可能性が高いです。「来られない」ことが前提であり、便利さを理由にした自宅での施術は認められていません。判断に迷う場合は保健所に確認してください。
訪問先で顔剃りはできますか?
顔剃り(シェービング)は理容師の業務とされており、美容師は化粧に付随する軽微な産毛剃りを除いて行えません。施設からの依頼があっても、美容師免許のみの場合は断る必要があります。
カラーやパーマも訪問で行えますか?
法令上の対象であれば行えますが、換気・皮膚の状態の確認・薬剤の保管が店舗より難しく、事故のリスクが高くなります。施設の同意、パッチテストの記録、施術記録を整え、体調に不安がある人には行わない判断も要ります。
料金はいくらに設定すればよいですか?
公的な相場はありません。施術料に、出張費(距離か時間)と、移動を含めた1日の稼働で店舗と同等の収入になる水準を目安に設定します。施設向けは1回あたりの最低人数を決めると採算が安定します。
施術記録は何を残せばよいですか?
日時、場所、対象者、施術内容、体調と皮膚の状態の確認、使った薬剤、同意の有無を残します。自治体が様式を定めている場合はそれに従います。事故やクレームのときの説明資料にもなります。
訪問美容を始める前のチェックリスト
初回の訪問の前に、次の7つを確認してください。
- 対象者が美容師法の例外(来店できない人など)に当たることを確認した
- 管轄の保健所に届出の要否と衛生基準を確認した
- 持ち運び用の消毒・手指衛生・使い捨て用品を揃えた
- 施術記録(日時・場所・内容・体調)の様式を作った
- 賠償責任保険が出張先の事故も対象になっているか確認した
- 料金表に出張費・移動時間・キャンセル条件を明記した
- 施設との契約書に支払い条件と担当者の連絡先を入れた
訪問美容は、「誰に」「どこで」「どう衛生を保つか」を先に決め、保健所に確認してから始めることで、法令の範囲内で続けられる事業になります。需要は増えていますが、対象の範囲を店の判断で広げないことが前提です。

出典・参考資料
- 美容師法(第7条 美容所以外の場所における業務の制限)(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
- 生活衛生関係営業法の概要(厚生労働省、2026年9月16日確認)
- 理容師法(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
訪問美容が認められる対象の範囲・届出・衛生措置は、美容師法とその政令に加えて自治体の条例・要綱で定められ、地域によって異なります。始める前に管轄の保健所で確認してください。記事内の料金と収入は自分で置いた仮の設定です。
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