美容室の面貸し経営を貸す側から考える|席料の決め方と契約で必ず決める項目

美容室の面貸し経営は、空いている席を貸せば儲かるという単純な話ではありません。値付けを間違えると、席をスタッフに使わせたほうが利益が出た、という結果になります。

この記事では、貸す側から見た値付けの考え方、契約で必ず決める項目、雇用と判断されないための線引き、そして向く店・向かない店を整理します。

目次

結論:美容室の面貸し経営は「その席の機会費用」で値付けする

席料をいくらにするかの基準は、相場ではありません。その席をスタッフに使わせたときに得られたはずの利益、つまり機会費用です。それを下回る条件で貸すと、席の使い道として損になります。

スタッフが使えば、売上から人件費と材料費を引いた分が残ります。面貸しなら席料がそのまま入りますが、店販や指名の積み上がりはありません。この差を含めて比べてください。

借りる側から見た収支は面貸し料金の相場の見方で扱っています。この記事は、貸す側の判断に絞ります。

美容室 面貸し 経営|美容室の店内の様子

値付けの3つの方式と、貸す側の損得

方式 収入の性質 貸す側の利点 注意点
日額・時間貸し 稼働に連動 空き曜日だけ貸せる 収入が読みにくい
月額(席貸し) 固定収入 毎月の額が読める 相手が辞めると空く
歩合(売上の一定割合) 相手の売上に連動 伸びれば収入も伸びる 売上の把握方法が要る

稼働の低い曜日だけを日額で貸す形は、リスクが小さく始めやすい選択です。いきなり月額で長期契約を結ぶより、日額で試してから条件を決めるほうが安全です。

歩合を選ぶ場合は、売上をどう把握するかを先に決めてください。相手の申告に依存する形だと、後から確認できません。店のレジを通す運用にしておくのが確実です。

機会費用の計算は難しくありません。その席で1日にスタッフが上げていた売上から、材料費と人件費を引く。残った額が、その席が1日に生んでいた利益です。日額の席料がこれを下回るなら、貸すより自分で使うほうが得になります。

ただし、いま埋まっていない席なら話が変わります。誰も使っていない席の機会費用はゼロなので、いくらで貸しても収入は増えます。「その席が実際に稼いでいるかどうか」で判断が分かれます。

契約で必ず決める6項目

  1. 料金に含まれる範囲。シャンプー台、セット面、薬剤、タオル、電気水道。品目単位で書きます。「共用部は自由に」といった曖昧な書き方は後で揉めます。
  2. 使用できる時間帯と鍵の扱い。営業時間外に入れるかどうかで、防犯と光熱費の負担が変わります。
  3. 顧客の帰属。相手が集めた顧客の情報を誰が管理し、契約終了時にどう扱うか。ここは必ず書面にします。
  4. 事故時の責任と保険。施術によるトラブルの一次対応と賠償責任の所在。双方の加入状況を確認します。
  5. 解約の条件。予告期間、違約金、原状回復。空き期間の想定にも関わります。
  6. 料金改定の手続き。光熱費や賃料が上がったときに、どう見直すかを決めておきます。

③は貸す側にとっても重要です。個人情報の管理責任がどちらにあるかを決めておかないと、漏えいが起きたときの対応が定まりません。

①で見落とされやすいのが光熱費です。シャンプーやドライヤーの使用が増えれば、電気とガスの使用量も増えます。席料に含めるのか実費で請求するのかを決めておかないと、後から負担感が出ます。

⑤の解約条件は、貸す側にとっては空き期間のリスク管理です。予告期間が短いと、急に空いた席を埋められません。1〜2か月前の予告を条件にしておくと、次の募集をかける時間が確保できます。

美容室 面貸し 経営|美容室でのカウンセリングの様子

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雇用と判断されないための線引き

面貸しは席の使用契約であり、雇用ではありません。しかし出退勤の指定、施術内容の指示、他店での就業の制限といった運用があると、実態として労働者と判断されることがあります。契約の名称ではなく実態にもとづいて判断されるとされています(厚生労働省「労働基準法の『労働者』の判断基準について」)。

実務として避けたいのは次の4つです。シフトを店が決める、朝礼や研修への参加を義務づける、施術の手順を細かく指示する、報酬を時間に対して支払う。どれも「管理したい」という善意から始まりますが、契約の性質を変えてしまいます。

店の基準を守ってほしい場合は、指示ではなく契約条件として書きます。「衛生管理の手順を遵守する」「共用部の使用ルールに従う」といった形なら、指揮命令には当たりにくくなります。判断に迷う場合は社会保険労務士に確認してください。

また、店の顧客と借りる側の顧客が混ざらないようにする配慮も要ります。受付での案内や予約の枠を分けておかないと、どちらの顧客か分からない状態が生まれます。トラブルの元になるので、最初にルールを決めてください。

保健所と衛生管理の責任

美容所としての届出や衛生管理の責任は、施設の開設者にあります。面貸しをしていても、開設者の管理義務がなくなるわけではありません。器具の消毒、清掃、記録の保管は店の責任として残ります。

そのため、借りる側にも衛生管理の手順を守ってもらう必要があります。契約書に明記し、実際の手順も共有してください。管理美容師の設置が必要かどうかも含め、運用方法を管轄の保健所に事前に確認しておくと安心です。

出典:美容師法および各自治体が定める条例。基準の詳細は自治体によって異なります。

清掃と器具の消毒の分担は、契約書に書いたうえで手順も共有します。誰がいつ何をするかが決まっていないと、共用部の状態が徐々に悪くなり、店の顧客の印象にも影響します。

向く店・向かない店

向くのは、席に余裕があり、かつ稼働の低い時間帯がはっきりしている店です。空いている資産を収入に変えられるため、追加の固定費なしで粗利が増えます。

向かないのは、席がすでに埋まっている店です。面貸しに回すと、自店の予約が取れなくなります。また、店の作法や仕上がりの基準を揃えたい店にも合いません。指示ができない以上、統一は望めないからです。

スタッフを育てて多店舗を目指すなら、面貸しより雇用のほうが目的に合います。雇用形態の選び方は正社員か業務委託かで扱っています。

相手を選ぶ基準も決めておいてください。技術の水準だけでなく、共用部の使い方や連絡の取りやすさが、日々の運用に効いてきます。

3方式の年間収支を並べて比べる

席料の方式で、貸す側の収入の安定度と上限が変わります。1席・借り手の月商60万円を共通の前提にした試算です。

項目 日額制(4,000円×20日) 月額固定(10万円) 歩合制(売上の30%)
月の席料収入 8万円 10万円 18万円
借り手の稼働が半分になった月 4万円 10万円 9万円
年間収入(順調な場合) 96万円 120万円 216万円
その席の水道光熱・消耗品負担 ▲3.6万円 ▲3.6万円 ▲3.6万円
収入の安定度 低(売上連動)

歩合制は上限が高い一方、借り手の売上が落ちると収入も落ちます。
月額固定は読みやすい代わりに、借り手が伸びても増えません。
貸す側が席を安定収入にしたいなら月額固定、伸びを取りに行くなら歩合という整理になります。
実務では「月額固定8万円+売上30万円超の部分は10%」のような併用も選ばれています。

その席を自分で使った場合と比べる

値付けの基準は、他店の相場ではなくその席の機会費用です。
自分やスタッフがその席で施術した場合の粗利を出し、それを下回る席料なら貸す意味が薄くなります。

  1. その席の想定売上を出す

    1日3人・単価8,000円・月20日なら月48万円。

  2. 粗利を出す

    材料費10%と人件費(歩合40%)を引くと、店に残るのは約24万円。

  3. 比べる

    席料が10万円なら、貸すことで月14万円の機会損失。ただし人を採用・育成する負担は発生しません。

この差をどう見るかは店の状況によります。人手が足りず席が空いているなら、
貸したほうが収入は増える場合があります。逆に予約が埋まっている店では、
面貸しに回すと売上が下がる可能性が高く、面貸しで儲からない原因にもつながります。
条件の詰め方は面貸し契約書に入れる条項も併せて確認してください。

出典:厚生労働省「美容師法」(美容所の衛生措置・管理美容師)、厚生労働省 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」。制度や統計は改定されることがあるため、実際の判断では最新の公表資料と、必要に応じて税理士・社会保険労務士など専門家の確認を受けてください。

始める前のチェックリスト

募集を出す前に、次の6つを決めてください。

  1. その席をスタッフに使わせた場合の利益を計算し、下限の席料を決めた。
  2. まず日額で試すか、月額で契約するかを決めた。
  3. 料金に含まれる範囲を、品目単位で書き出した。
  4. 顧客情報の管理者と、契約終了時の扱いを決めた。
  5. 指揮命令に当たる運用をしない線引きを、店として共有した。
  6. 衛生管理の手順を契約に明記し、保健所に運用を確認した。

美容室 面貸し 経営|美容室のスタッフ・チームの様子

①を出さずに相場だけで値付けすると、貸すほど損をする状態になり得ます。まず自店の機会費用を計算してください。

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この記事を書いた人

美容室オーナー・経営者向けメディア「vaulta」編集部。集客・リピート・融資・求人・DX・独立の実務情報を、一次情報を確認のうえ発信。お金に関わる記事は中小企業診断士の監修を受けています。編集責任者:ISOYAMA。

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