融資の申込では、内装・機器・保証金のように「形が残る支出」を設備資金、家賃・仕入・人件費のように「毎月出ていく支出」を運転資金として分けます。区分によって返済期間と裏付けの書類が違い、混ぜて申し込むと使途を説明できず、審査が止まります。
この記事では、美容室の開業と運営で発生する支出を設備資金と運転資金に振り分ける判断表、迷いやすい項目の扱い、見積書と内訳表の作り方、自己資金と借入の割り当て方、混ぜたときに起きることを整理します。

結論:「形が残るか」「毎月出るか」で分け、設備資金は見積書、運転資金は内訳表で裏付ける
日本政策金融公庫や金融機関の融資は、資金使途を「設備資金」と「運転資金」に分けて申し込みます。設備資金は返済期間を長く設定できる制度が多く、運転資金は短めに設定されています。裏付けも違い、設備資金は業者の見積書、運転資金は「家賃○円×6か月」のような内訳表です。
分け方の基本は2つです。①その支出で「形が残る」もの(内装、シャンプー台、看板、保証金)は設備資金。②「毎月出ていく」もの(家賃、材料の仕入、給与、広告費)は運転資金。迷う項目(礼金、仲介料、開業前の家賃、初回の大量仕入)は、この記事の判断表で扱います。
融資の全体像は開業資金・融資完全ガイド、必要書類は融資の必要書類一覧、運転資金の額は運転資金はいくら必要かで扱っています。この記事は「区分」に絞ります。
判断表 — 美容室の支出はどちらか
| 支出 | 区分 | 裏付け | 注意 |
|---|---|---|---|
| 内装工事(造作、電気、給排水、空調) | 設備資金 | 工事業者の見積書 | 工事項目ごとに内訳がある見積書 |
| シャンプー台、セット椅子、ミラー、スチーマー | 設備資金 | 販売店の見積書 | 設置費・送料を含める |
| 物件の保証金・敷金 | 設備資金(扱いは金融機関で確認) | 賃貸借契約書または申込書 | 返還されるが、開業時に必要な資金として設備資金に含める扱いが一般的 |
| 礼金、仲介手数料、保証会社の初回保証料 | 設備資金に含める扱いが多い(要確認) | 契約書・見積書 | 返還されない費用。金融機関によっては運転資金扱い |
| 看板、外装、サイン工事 | 設備資金 | 見積書 | — |
| ホームページ制作、予約システムの初期費用 | 設備資金(無形固定資産・繰延資産の扱い) | 見積書 | 月額の利用料は運転資金 |
| 開業前の家賃(フリーレント後の分) | 運転資金 | 契約書の家賃×月数 | 開業前に発生する家賃を忘れやすい |
| 材料・店販商品の初回仕入 | 運転資金 | 仕入先の見積書または内訳表 | 開業時にまとめて買っても運転資金 |
| スタッフの給与・社会保険料(開業後数か月分) | 運転資金 | 人数×月給×月数 | 研修期間の給与も含める |
| 広告費(開業時のチラシ、ポータル掲載料) | 運転資金 | 見積書または内訳表 | 継続的に出るものは月額×月数 |
| 水道光熱費、通信費、消耗品 | 運転資金 | 月額×月数 | 開業後の実績がないため見積もりで |
| オーナーの生活費(開業後の売上が立つまで) | 運転資金(計画書に含めるかは要確認) | 月額×月数 | 公庫の創業計画書では「その他」に含める扱いが一般的 |
| 開業手続きの費用(保健所の手数料、印鑑、名刺) | 運転資金(少額) | 内訳表 | 開業費として経理上は繰延資産 |
礼金・仲介料・保証金の扱いは、金融機関によって「設備資金」に含める場合と「運転資金」に含める場合があります。申込先の担当者に区分を確認し、その指示どおりに計画書に書くことが、審査を止めない方法です。
区分ごとに違うこと — 返済期間・裏付け・実行後の確認
| 項目 | 設備資金 | 運転資金 |
|---|---|---|
| 返済期間 | 長めに設定できる制度が多い(制度ごとに上限あり) | 設備資金より短めに設定される制度が多い |
| 裏付け書類 | 業者の見積書(宛名は申込者) | 月額×月数の内訳表 |
| 実行後の確認 | 領収書・契約書で使途どおりに使ったかを確認されることがある | 資金繰り表と通帳で確認されることがある |
| 金額の変動 | 見積書の金額が確定している必要がある | 見込みで構わないが、根拠の説明が要る |
| 審査で見られる点 | 投資額に見合う売上が立つか、過大投資でないか | 売上が立つまでの期間の妥当性、自己資金との配分 |
返済期間の上限は融資制度ごとに定められており、改正されることがあります。申込時に公庫や金融機関の制度案内で、設備資金・運転資金それぞれの返済期間と据置期間を確認してください。

分ける手順(5ステップ)
支出を全部書き出す
開業までにかかる支出と、開業後6か月分の支出を1枚の表にします。項目・金額・支払時期・支払先を書きます。「後で足す」を前提にすると、合計が変わって計画書を作り直すことになります。
形が残るか・毎月出るかで分ける
判断表に沿って、設備資金と運転資金に振り分けます。迷う項目は金融機関の担当者に確認し、その指示を表に書き残します。
設備資金は見積書と対応させる
設備資金の各項目に、1つの見積書を対応させます。内装は工事業者、機器は販売店、保証金は契約書です。見積書の合計と設備資金の合計が一致するよう、値引きや追加項目を反映します。
運転資金は月額×月数で内訳表にする
家賃・仕入・人件費・広告・光熱費・通信・消耗品を月額で並べ、売上が立つまでの期間(3〜6か月)を掛けます。開業前に発生する家賃と初回仕入も加えます。
自己資金と借入の割り当てを決める
設備資金と運転資金の合計に対して、自己資金をどちらに充て、借入をどちらに充てるかを決めます。計画書の「必要な資金と調達方法」の欄に、左右が一致する形で書きます。
設備資金として借りた資金を運転資金に使う、またはその逆は「資金使途違反」に当たる場合があります。実行後に見積書と違う使い方をすると、次回の融資の審査で不利になり、契約によっては一括返済を求められることもあります。計画が変わったときは、使う前に借入先に相談してください。
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試算 — 開業資金1,500万円の内訳と割り当ての例
数字は仮の設定です。自己資金400万円、借入1,100万円で開業する美容室の資金計画を、区分ごとに示します。
| 区分 | 項目 | 金額 | 裏付け |
|---|---|---|---|
| 設備資金 | 内装工事 | 6,000,000円 | 工事見積書 |
| 美容機器(シャンプー台2、セット椅子4ほか) | 2,500,000円 | 販売店見積書 | |
| 保証金・礼金・仲介料 | 1,500,000円 | 賃貸借契約書 | |
| 看板・ホームページ・予約システム初期費用 | 600,000円 | 各見積書 | |
| 設備資金 計 | 10,600,000円 | — | |
| 運転資金 | 開業前の家賃(2か月) | 400,000円 | 契約書 |
| 材料・店販の初回仕入 | 500,000円 | 内訳表 | |
| 家賃・人件費・広告・光熱費など(4か月分) | 3,000,000円 | 月額×4 | |
| 開業手続き・雑費 | 500,000円 | 内訳表 | |
| 運転資金 計 | 4,400,000円 | — | |
| 合計 | 15,000,000円 | 自己資金400万円+借入1,100万円 | |
この例では、借入1,100万円を設備資金800万円・運転資金300万円に分け、自己資金400万円を設備資金260万円・運転資金140万円に充てる、といった割り当てを計画書に書きます。自己資金を運転資金に多めに充てると、開業直後の手元資金が厚くなり、借入の返済期間の長い設備資金で内装を賄う形になります。どの割り当てにするかは、返済計画と合わせて決めます。返済の考え方は融資の返済計画の立て方で扱っています。
運転資金の月数をどう決めるか
運転資金は「売上が固定費を賄えるようになるまでの期間」を見込んで決めます。新規開業の美容室は、認知が広がるまでに数か月かかることが多く、3か月分では足りない店が多いため、4〜6か月分を目安にするのが安全です。既存の顧客を引き継いで開業する場合は短くできます。月数の考え方は運転資金の記事で扱っています。
追加融資のときの区分
開業後の追加融資でも区分は同じです。2店舗目の内装や設備の更新は設備資金、季節の資金不足や採用に伴う人件費の増加は運転資金です。「赤字の補填」を運転資金として申し込む場合は、赤字の原因と改善の見込みを説明する資料が要ります。追加融資の準備は追加融資(2回目の借入)で扱っています。
リースを使う設備の扱い
シャンプー台などをリースにする場合、その設備は融資の設備資金には含めず、毎月のリース料を運転資金の月額に含めます。リースにすると設備資金の借入額は減りますが、毎月の固定費が増えるため、資金繰り表で両方を並べて比べます。比べ方は設備資金はリースと購入どちらが得かを参照してください。
居抜き物件の場合の区分
居抜き物件で前の店の造作や設備を引き継ぐ場合、造作譲渡料(前の店に払う金額)は設備資金として扱われることが一般的です。譲渡される設備の一覧と金額を書いた譲渡契約書が見積書の代わりになります。引き継いだ設備の修理・入れ替えは別の設備資金、追加で買う消耗品は運転資金です。譲渡料に「営業権」のような形のない対価が含まれる場合は、金融機関に区分を確認し、内訳を分けて書きます。居抜きの確認項目は居抜き開業の注意点で扱っています。
計画書に書くときの整合
- 設備資金の合計=見積書の合計:見積書の追加・値引きを反映して一致させる
- 運転資金の合計=内訳表の合計:月額×月数の計算を表で示す
- 調達の合計=資金の合計:自己資金+借入+その他(親族からの支援など)が左右で一致
- 自己資金の額=通帳の残高:形成の過程が見える写しを添える
- 家賃・保証金=契約書の記載:物件資料と一致
整合が取れた計画書は、面談での説明も短く済みます。計画書の書き方は事業計画書の書き方で扱っています。資金計画の組み立てと区分の確認はVAULTAの融資・資金調達支援でも相談を受け付けています。
よくある質問
保証金は返ってくるのに設備資金ですか?
返還される性質の資金ですが、開業時に必要な一時的な支出として、設備資金に含めて申し込む扱いが一般的です。金融機関によって扱いが異なる場合があるため、申込先に確認してください。
設備資金だけ借りて、運転資金は自己資金で賄ってもよいですか?
可能です。ただし、開業直後の手元資金が薄くなると、売上の立ち上がりが遅れたときに動けなくなります。運転資金の一部も借入で確保し、自己資金を手元に残す割り当ての方が、資金繰りの安全度は高くなります。
見積書の金額が申込後に変わりました。
増えた場合は、追加分を自己資金で賄うか、借入先に相談して増額の可否を確認します。減った場合は、差額を他の設備に流用せず、借入先に報告します。実行後の使途は確認されることがあるため、変更は先に伝えます。
ホームページの制作費は設備資金ですか?
制作費のように一度で支払い、形が残るものは設備資金として扱われることが多いです。月額の利用料や広告費は運転資金です。金融機関によって扱いが違う場合があるため、申込先に確認してください。
オーナーの生活費は運転資金に入れられますか?
公庫の創業計画書では、事業に必要な資金として計上する形が一般的ですが、扱いは申込先で確認してください。生活費を事業資金と混ぜないよう、開業後は事業主貸として引き出す形に分けます。
設備資金の返済期間はどれくらいですか?
制度ごとに上限が定められており、設備資金は運転資金より長く設定できる制度が多いです。具体的な年数は改正されることがあるため、申込時に公庫や金融機関の制度案内で確認してください。
資金使途の区分チェックリスト
計画書を出す前に、次の7つを確認してください。
- 設備資金の各項目に見積書が対応している
- 保証金・敷金は設備資金に入れ、礼金・仲介料の扱いを申込先に確認した
- 運転資金は月額×月数の内訳表で示している
- 開業前の家賃(フリーレント後)を運転資金に入れた
- 仕入の初回発注(材料・店販)を運転資金に入れた
- 自己資金をどちらの資金に充てるかを決めた
- 計画書の合計と申込額・自己資金の合計が一致している
設備資金と運転資金の区分は、「形が残るか」「毎月出るか」で分け、裏付けを対応させるだけです。この区分が整っている計画書は、審査でも実行後でも説明に困りません。

出典・参考資料
- 各種書式ダウンロード(創業計画書ほか)(日本政策金融公庫、2026年9月16日確認)
- 事業資金(融資制度一覧)(日本政策金融公庫、2026年9月16日確認)
- 金融一般支援(中小企業庁、2026年9月16日確認)
資金使途の区分と返済期間の上限は融資制度・金融機関によって異なり、改正されることがあります。申込前に申込先の案内で確認してください。記事内の金額は自分で置いた仮の設定です。
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