スタッフの売上目標は、店の年間目標を月の技術売上と店販に分け、各人の施術時間・時間単価・予約稼働率で積み上げた数字と突き合わせて決めます。下限は「本人の人件費÷店の目標人件費率」で確かめ、未達を減給や自腹購入につなげないことが前提です。
店の目標から個人に分解する計算例、経験年数・役職ごとの目標の置き方、技術・店販・指名の内訳、評価と給与への反映、ノルマにしないための運用と月次の振り返り方を順に整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:スタッフの売上目標を決める5つのステップ
スタッフの売上目標は、「上から割る数字」と「下から積む数字」の両方を出し、差を埋める打ち手まで決めると納得感のある目標になります。手順と使う数字を表にまとめます。
| ステップ | やること | 使う数字 |
|---|---|---|
| ① 店の月目標を出す | 年間目標を月ごとの繁閑に合わせて配分し、技術売上と店販に分ける | 年間売上目標、前年の月別売上、店販比率 |
| ② 個人の数字を積み上げる | スタッフごとに「施術時間×時間単価×予約稼働率」で技術売上を出す | シフト、過去3か月の時間単価・稼働率 |
| ③ 差を確かめる | ①と②の差を、誰のどの数字で埋めるかを決める | 稼働率・客単価・店販比率の改善幅 |
| ④ 下限を確かめる | 個人の目標が「人件費÷目標人件費率」を下回っていないか見る | 総支給額、会社負担の社会保険料 |
| ⑤ 行動目標に落とす | 金額だけでなく、客数・指名再来・店販の声かけなど本人が動かせる行動に分ける | 客数、再来率、店販購入率 |
店全体の目標そのものの立て方は経営計画書(年度計画)の作り方で整理しています。この記事は、店の目標が決まった後に「誰にいくらを持ってもらうか」を決める段階を扱います。
店の目標をスタッフ個人に分解する手順と計算例
個人の目標は、店の月目標を人数で割るのではなく、スタッフごとの「施術時間×時間単価×予約稼働率」で積み上げ、店の目標との差を確認して決めます。ここでの時間単価は施術1時間あたりの技術売上、予約稼働率は施術できる時間のうち予約が入っている時間の割合です。
試算 — スタッフ5人の店の月間目標を分解する(仮の設定)
年間売上目標4,200万円、月平均350万円の店を仮定します。月22日勤務、1日のうち施術に使える時間を7時間とし、1人あたり月154時間です。時間単価と稼働率は、各人の過去3か月の実績から置いた想定値です。
| スタッフ(段階) | 施術時間 | 時間単価 | 予約稼働率 | 技術売上の目標 |
|---|---|---|---|---|
| オーナー(トップスタイリスト) | 154時間 | 9,000円 | 75% | 約104万円 |
| A(スタイリスト8年目) | 154時間 | 8,000円 | 75% | 約92万円 |
| B(スタイリスト3年目) | 154時間 | 6,500円 | 65% | 約65万円 |
| C(デビュー1年目) | 154時間 | 5,000円 | 50% | 約39万円 |
| D(アシスタント) | — | — | — | 売上目標は置かない |
積み上げた技術売上は合計約300万円です。店販を技術売上の10%と置くと約30万円で、合計約330万円になり、店の目標350万円に約20万円足りません。この差を見ずに350万円を割り振ると、根拠のない数字を背負わせることになります。
差の埋め方の一例として、Bの稼働率を65%から72%へ、Cを50%から60%へ上げ、店販比率を10%から12%にします。技術売上は約315万円、店販は約38万円となり、合計約352万円で目標に届きます。Bの稼働率を上げるには指名の再来、Cにはフリー客の配分と予約枠の見直しが必要なので、ここで店側がやることも決まります。数字はすべて自分で置いた前提による試算です。
オーナー1人で営業する店は、分解の相手が自分だけになります。その場合の考え方は1人美容室の売上はいくら必要か、スタイリスト1人あたり売上の計算は美容室の生産性の計算方法を参照してください。
経験年数・役職別の売上目標はどう考えるか
経験年数で金額を一律に決めるより、段階ごとに「いま何を伸ばす段階か」で目標の指標そのものを変えるのが現実的です。デビュー直後のスタイリストに先輩と同じ物差しを当てると、達成できない数字が続き、意欲が下がります。
| 段階 | 主に見る指標 | 売上目標の扱い |
|---|---|---|
| アシスタント | 技術チェックの合格数、シャンプー・カラー塗布の件数、店販の声かけ数 | 個人の売上目標は置かない |
| デビュー1〜2年目 | 予約稼働率、2回目の再来率、施術時間の短縮 | 前年実績がないため、時間×単価×稼働率で控えめに置く |
| スタイリスト(3年目以降) | 技術売上、指名客の再来率、客単価、店販比率 | 過去3か月の実績+改善幅で置く |
| トップスタイリスト・店長 | 個人売上に加え、後輩の稼働率や店全体の再来率 | 育成や管理に使う時間を施術時間から引いて置く |
店長は、施術時間を減らした分を個人売上に求めないことが大切です。育成や管理に使った時間の成果は、後輩の稼働率や店全体の再来率で評価します。
試算 — 給与から見た売上の下限(仮の設定)
先ほどのBの月給を総支給25万円、会社負担の社会保険料を約15%と仮定すると、店が負担する人件費は約28.75万円です。店で人件費率の上限を40%と決めているなら、28.75万円÷0.4=約72万円がBに必要な売上の目安になります。
Bの当初の目標65万円では人件費率が約44%となり、上限を超えます。下限を下回るときは、目標を上げるより先に、稼働率を上げるための予約枠やフリー客の配分を店側で整えるのが順番です。
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技術・店販・指名の内訳 — 金額を行動に分ける
売上目標は合計金額だけで渡さず、技術売上(客数×客単価)・店販売上・指名再来の3つに分けて渡します。金額だけでは、翌日から何を変えればよいかが本人に見えないからです。
| 内訳 | 計算式 | Bの例(仮の設定) | 本人が動かせる行動 |
|---|---|---|---|
| 技術売上 | 客数×技術客単価 | 85人×7,650円=約65万円 | メニュー提案、施術時間の短縮 |
| 客数の内訳 | 指名の再来客+新規・フリー客 | 再来60人+新規・フリー25人 | 次回予約の提案、初回客のフォロー |
| 店販売上 | 客数×購入率×店販単価 | 85人×19%×4,000円=約6.5万円 | ホームケアの説明、使い方の実演 |
| 指名再来 | 前回担当した客のうち再来した人の割合 | 再来率70%を75%へ | カウンセリングとアフターフォロー |
内訳で見ると、同じ「月65万円」でも伸ばし方が人によって違うことが分かります。客数が足りない人と客単価が低い人では、必要な支援が変わります。
新規・フリー客の配分は店が握っている数字です。誰にどれだけ回すかのルールがないまま個人目標を置くと、ベテランに集中して若手の目標が届かなくなります。配分の順番は文書にし、目標と一緒に全員へ説明します。
売上目標を評価・給与にどう連動させるか
売上目標の達成度は、評価の一部(売上・技術・行動の3軸の1つ)にとどめ、給与への反映は歩合や賞与で行うのが基本です。未達を理由に罰金を取ったり、基本給を一方的に下げたりする運用は法律上の問題があります。
| 避けるべき運用 | 問題点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 未達額に応じて罰金を取る、給与から差し引く | 違約金・損害賠償額の予定に当たるおそれがあり、天引きは賃金全額払いの原則にも反する | 労働基準法第16条・第24条 |
| 未達を理由に基本給を一方的に下げる | 労働条件の不利益変更には、本人の合意か合理的な就業規則の変更が必要 | 労働契約法第8条〜第10条 |
| 懲戒として減給する | 就業規則の定めが必要で、1回は平均賃金の1日分の半額、総額は1賃金支払期の10分の1まで | 労働基準法第91条 |
| 完全歩合で、売上が少ない月の給与が最低賃金を下回る | 最低賃金法違反。出来高払制でも労働時間に応じた一定額の保障が必要 | 最低賃金法第4条、労働基準法第27条 |
| 店販の目標を自腹購入で埋めさせる、黙認する | 実質的な賃金の減額になり、強制すればパワハラの「過大な要求」と見られるおそれ | 労働基準法第24条、厚生労働省のパワハラ指針 |
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で時給1,177円に引き上げられ、10月以降に都道府県ごとに順次発効します。歩合給の設計で最低賃金をどう確保するかは歩合給と最低賃金、評価の3軸の作り方はスタッフ評価制度の作り方を参照してください。
ノルマ化するとどうなるか — 弊害と防ぎ方
目標が「達成しないと責められる数字」に変わると、押し売り、指名客の奪い合い、数字の付け替えが起き、お客様とスタッフの両方が離れていきます。目標とノルマの違いは、未達のときに原因を一緒に探すか、本人に責任を負わせるかです。
- 押し売りによる失客:金額だけの目標だと、不要なトリートメントや店販を勧めて口コミが悪化します。店販は購入率と再購入率で見て、単月の金額だけで評価しないようにします。
- フリー客の奪い合い:配分のルールがないと、担当替えをめぐってスタッフ同士がもめます。フリー客の配分順と担当変更のルールを文書にします。
- 売上の付け替え:未達で叱責や減収があると、他人の売上を自分に付けたり会計を分けたりする動きが出ます。計上ルールを決め、未達そのものを責めないことが対策です。
- デビュー直後の離職:経験に合わない目標と厳しい叱責が重なると、育てた人材が辞めます。段階別の指標に切り替え、教育とセットで目標を置きます。
厚生労働省は、パワハラの「過大な要求」に当たると考えられる例として、新卒で入社したばかりの人に必要な教育をしないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、未達を厳しく叱責することを挙げています。目標の水準と、未達のときの伝え方の両方を点検してください。
月次の振り返りはどう進めるか — 30分で差を分解する
月次の振り返りは、1人30分の面談で「目標と実績の差→差の分解→翌月の行動1〜2つ」の順に進めます。金額の達成・未達だけを伝える場にすると、次の月に何も変わりません。
-
数字を並べる(5分)
技術売上、客数、客単価、店販、指名再来率の目標と実績を1枚に並べます。数字はオーナーが事前に用意し、面談の時間を集計に使わないようにします。
-
差を分解する(10分)
差が客数・客単価・店販・稼働率のどこから来たかを見ます。例えば技術売上が5万円足りないとき、客数が8人少ないのか、客単価が500円低いのかで次の手が変わります。
-
原因を一緒に特定する(10分)
本人の行動の問題か、予約枠やフリー客の配分など店側の問題かを分けます。店側の宿題が出たら、オーナーがその場で引き受けます。
-
翌月の行動目標を決める(5分)
「次回予約の提案を全員にする」「ホームケアの説明を仕上げのときに1分入れる」など、本人が毎日できる行動を1〜2つに絞って記録します。
全員で数字を共有する場の作り方は美容室のミーティングの進め方を参照してください。目標の見直しは年1回の設定を基本に、退職や増員、価格改定など前提が大きく変わったときは四半期ごとに修正します。
スタッフの売上目標を次の8項目で点検してください。
- 店の目標を人数で割らず、施術時間×時間単価×稼働率で積み上げている
- 上から割った数字と積み上げた数字の差を、誰のどの数字で埋めるか決めている
- 個人の目標が「人件費÷目標人件費率」の下限を下回っていない
- アシスタントとデビュー直後のスタッフは、段階に合った指標で見ている
- 金額を客数・客単価・店販・指名再来の内訳に分けて渡している
- フリー客の配分と売上の計上ルールを文書にしている
- 未達で罰金・天引き・自腹購入が起きていない
- 月1回、差の分解と翌月の行動目標を決める面談をしている
よくある質問
アシスタントにも売上目標は必要ですか?
個人の売上目標は置かないのが一般的です。アシスタントは自分の売上を持たないため、技術チェックの合格数やシャンプー・カラー塗布の件数、店販の声かけ数など、成長と店への貢献を表す行動の指標で目標を立てます。
売上目標を達成できなかったスタッフの給与を下げてもよいですか?
基本給を一方的に下げることはできません。歩合や賞与で達成度に応じた差がつく制度は設計できますが、罰金や給与からの差し引きは労働基準法に反するおそれがあり、懲戒の減給にも上限があります。
売上目標はスタッフ本人に決めさせるべきですか?
店が計算した目安と、本人の希望をすり合わせて決めるのがよい方法です。店の数字だけでは押し付けになり、本人任せでは店の目標と合わなくなるため、積み上げの計算を一緒に見ながら合意します。
店販の目標を自分で買って達成するのは問題ですか?
店が強制したり黙認したりしているなら問題です。実質的な賃金の減額になり、給与から天引きすれば賃金全額払いの原則に反するおそれがあるため、自腹購入は目標の達成に数えないと決めておきます。
売上目標はどのくらいの頻度で見直しますか?
年1回設定し、月1回の振り返りで進み具合を確認するのが基本です。スタッフの退職や増員、価格改定、営業時間の変更など前提が大きく変わったときは、四半期の区切りで修正します。
出典:労働基準法第16条・第24条・第27条・第91条、労働契約法第8条〜第10条、最低賃金法第4条、厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金」の答申状況、厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)、厚生労働省「あかるい職場応援団」(パワーハラスメント)。個別の判断は社会保険労務士か労働基準監督署に確認してください。
最初にやることは、過去3か月の実績からスタッフごとの時間単価と稼働率を出すことです。この2つがあれば、店の目標との差が見え、誰に何を任せるかを根拠を持って話せます。
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