練習用のウィッグ(マネキン)は、美容室の事業で使うなら経費になり、通常は1体10万円未満なので買った年に消耗品費か研修費で全額を処理できます。給与で働く勤務美容師が自腹で買った分は、原則として確定申告で経費にできません。
科目の選び方とまとめ買いの扱い、スタッフの練習用を店と本人のどちらが負担するか、給与から天引きするときのルール、勤務美容師と業務委託の美容師それぞれの確定申告での扱いを整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:ウィッグ・マネキン関連の支出の科目早見表
ウィッグ代はどの科目で処理しても経費になる額は同じです。スタッフ教育に使う分は研修費、オーナー自身の練習や新メニューの開発に使う分は消耗品費のように目的で分け、毎年同じ基準で処理します。
| 支出 | 科目の例 | 処理のポイント |
|---|---|---|
| 練習用ウィッグ(スタッフ教育) | 研修費(教育研修費) | 1体ごとに10万円未満か判定する |
| 練習用ウィッグ(オーナー自身の練習・メニュー開発) | 消耗品費 | 用途をメモしておく |
| 人毛100%の高価なウィッグ | 研修費または消耗品費 | 1体数万円でも10万円未満なら全額 |
| クランプ・ウィッグスタンド・三脚 | 消耗品費 | 練習用品として一緒に管理する |
| コンテスト・作品撮り用のウィッグ | 研修費または広告宣伝費 | 大会名や撮影の目的を残す |
| 練習で使うカラー剤・パーマ液 | 材料費 | 施術用の在庫から使うなら区別しなくてよい |
| 店頭ディスプレイ用のマネキン | 消耗品費(10万円以上は器具備品) | 耐用年数は「マネキン人形及び模型」の2年 |
| スタッフに毎月払う定額の練習手当 | 給料賃金 | 給与として源泉徴収・社会保険料の対象 |
| 店が立て替え、給与から差し引いたウィッグ代 | 立替金(店の経費にならない) | 本人負担分は差し引いた時点で精算済みにする |
10万円未満かどうかは、通常1単位として取引される単位ごとに判定します(所得税法施行令第138条、国税庁タックスアンサーNo.5403)。ウィッグなら1体ごとで、10体をまとめて買っても1体3万円なら全額が経費です。消費税の免税事業者は税込価格、税抜経理をしている課税事業者は税抜価格で判定します。
ウィッグは消耗品費と研修費のどちらで処理するか — 目的で分けて毎年そろえる
どちらでも構いませんが、スタッフがいる店は研修費に集めると、教育にいくら使っているかが毎月の数字で見えるようになります。外部講習の受講料やレッスンの講師料と同じ科目にそろえれば、アシスタント1人あたりの育成コストも出せます。
年末のまとめ買いには注意が必要です。消耗品は使った年の経費にするのが原則ですが、作業用消耗品のように毎年おおむね一定の量を買って経常的に使うものは、買った年の経費にする処理を続けていれば認められます(所得税基本通達37-30の3)。普段の何倍もの量を12月に買い、大半を翌年に使う場合は、使っていない分を翌年の経費に回すのが安全です。
経費の根拠を残すには、スタッフ別の練習用品台帳を表計算ソフトで1枚つくっておくのが確実です。誰がどの課題で何体使ったかが分かるので、カリキュラムの見直しや退職時の備品回収にもそのまま使えます。
| 台帳の項目 | 記入例 |
|---|---|
| 日付・購入先 | 2026年10月3日、ディーラー経由で購入 |
| 使う人 | アシスタントA(入社2年目) |
| 品目・数量・金額 | カット用ウィッグ2体、1体3,800円(税込) |
| 使う課題 | ボブのチェックテスト、レイヤーカットの練習 |
| 負担区分 | 店の支給(月2体まで)、超過分は本人負担 |
| 状態 | 使用済み・保管中・本人へ譲渡のいずれか |
研修費と新聞図書費の線引きや、外部セミナー代の扱いは本・セミナー代は経費になるか、科目全体の考え方は確定申告で使う勘定科目で整理しています。
スタッフの練習用ウィッグは店と本人のどちらが負担するか
どちらが負担するかを決めた法律はありません。ただし本人に負担させるなら、その内容を労働条件として明示する義務があります(労働基準法第15条、同法施行規則第5条第1項第6号)。常時10人以上を雇う店は、就業規則にも書く必要があります(労働基準法第89条第5号)。
| 負担の方法 | 店にとっての利点 | 注意点 | スタッフへの課税 |
|---|---|---|---|
| 店が全額負担(店の備品として支給) | 練習量と内容を店が管理でき、求人でも伝えやすい | 月の支給数と予算を決める | なし |
| 一定数まで店が負担し、超過分は本人 | 費用の上限が決まる | 超過分の精算方法と天引きの協定が必要 | 店の負担分はなし |
| 本人が全額負担 | 店の費用はかからない | 労働条件通知書に明示する。店が練習を指示するのに全額本人負担だと不満と離職の原因になりやすい | なし(本人は原則経費にできない) |
| 定額の練習手当を払い、本人が買う | 事務が簡単 | 手当は賃金になり、残業代の計算の基礎にも入る | 給与として課税 |
店が買って練習に使わせるウィッグは店の研修のための費用で、スタッフの給与にはなりません。国税庁の通達も、職務に直接必要な技術を習得させるための研修費用を店が負担した場合は、適正な額であれば課税しなくてよいとしています(所得税基本通達36-29の2)。
あわせて確認したいのが練習の時間です。店が課題や日時を指示する練習は労働時間になり、ウィッグ代だけでなく賃金の問題にもなります。扱いは練習時間は労働時間かで、デビューまでの練習量の組み立てはスタイリストデビューまでの期間で整理しています。
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ウィッグ代を給与から天引きできるか — 労使協定がなければできない
税金や社会保険料のように法令で決まったもの以外を給与から差し引くには、労働者の過半数代表と書面で結ぶ協定(賃金控除協定)が必要です(労働基準法第24条第1項)。本人が口頭で了承していても、協定がないまま差し引くと賃金の全額払いの原則に反します。
-
負担のルールを決める
店が支給する数(例:月2体)、超過分を本人負担にするか、店が立て替えるかを決めます。支給したウィッグを店の所有にするか、本人に渡すかもここで決めます。
-
労働条件通知書と就業規則に書く
本人に負担させる作業用品は、労働条件通知書で明示する項目です。書き方は雇用契約書と労働条件通知書の違いを参照してください。
-
賃金控除協定を結ぶ
控除する項目(練習用品代)と控除する日を書面にし、スタッフの過半数を代表する人と結びます。この協定は労働基準監督署への届出は不要ですが、店で保管しておきます。
-
購入のたびに本人の意思を残す
本人負担の分は、注文を頼まれたLINEのメッセージや注文書を残し、店が勝手に買って差し引く形にしないようにします。
-
給与明細に項目名を書いて控除する
明細に「練習用品代」と金額を書き、台帳の記録と一致させます。
労働条件通知書・就業規則に入れる文例
- 練習用ウィッグは、店が定めるカリキュラムに必要な数を店が支給する。支給したウィッグは店の所有とし、退職時に未使用のものは返却する。
- カリキュラム以外に本人が希望して購入するウィッグは本人の負担とする。店が立て替えた代金は、賃金控除に関する協定に基づき、翌月の賃金から控除する。
「途中で辞めたら練習用ウィッグ代と講習費を全額返す」という約束は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額を予定する契約を禁じた労働基準法第16条に反するおそれがあります。店の所有として貸していたウィッグの返却を求めることはできても、退職を理由に代金を請求する形は避けてください。
勤務美容師が自腹で買ったウィッグは確定申告で経費にできるか
原則としてできません。給与所得には必要経費を差し引く仕組みがなく、給与所得控除が経費の代わりに一律で差し引かれているためです(所得税法第28条)。
例外は「給与所得者の特定支出控除」(所得税法第57条の2)です。対象は通勤費、職務に直接必要な研修費、資格取得費、図書費・衣服費・交際費(合計65万円まで)などに限られ、研修費は店(給与の支払者)の証明が必要です。ウィッグ代が店の証明する研修のための支出に当たるかは個別の判断になり、しかも控除されるのは特定支出の合計が給与所得控除額の半分を超えた部分だけです。
試算 — 特定支出控除が使えるか(仮の設定)
年収300万円のアシスタントの給与所得控除は、300万円×30%+8万円=98万円で、その半分は49万円です。ウィッグを月2体×4,000円で年9.6万円、外部講習の受講料12万円、技術書1.5万円をすべて特定支出と認められたと仮定しても、合計23.1万円で49万円に届かず、控除額は0円です。数字は自分で置いた前提による試算です。
このため、勤務美容師がウィッグ代の負担を減らす現実的な方法は、確定申告ではなく店に支給のルールを作ってもらうことです。休日に業務委託や面貸しで副業をしている人は、その副業の練習に使った分を事業所得や雑所得の経費にできますが、本業と共用するなら使った割合で分けます。
業務委託・フリーランスの美容師やオーナーの扱い — 事業の経費として計上する
業務委託やフリーランスの美容師、店のオーナーは事業所得として申告するため、自分の技術向上や集客のための練習用品は必要経費になります(所得税法第37条)。
- 用途をメモする:新メニューの開発、講習会の講師用、作品撮りなど、何のために使ったかを領収書か台帳に書いておきます。
- 私用と分ける:普段の外出用に使うファッションウィッグは経費になりません。練習用と見た目で区別しにくい人毛ウィッグは、保管場所を店にしておくと説明しやすくなります。
- 契約で負担を決める:業務委託や面貸しでは、練習用品を店と本人のどちらが負担するかを契約書に書きます。店が用意する場合は本人の経費になりません。
- 講習の収入と合わせる:自分で講習会を開いて受講料を受け取るなら、受講者に使わせるウィッグ代はその収入に対応する経費として計上します。
フリーランスの経費の考え方全体はフリーランス美容師の経費はどこまで入るかで、按分や領収書の残し方とあわせて整理しています。
ウィッグ・練習用品の扱いを次の7項目で点検してください。
- スタッフ教育用は研修費、オーナー用は消耗品費など、科目の基準を決めている
- 1体ごとに10万円未満かを判定し、免税なら税込で見ている
- 年末にまとめ買いした分のうち、翌年に使う量が多くないか確認した
- スタッフ別の練習用品台帳をつけている
- 本人負担がある場合、労働条件通知書(10人以上は就業規則も)に書いている
- 給与から差し引く場合、賃金控除協定を結んでいる
- 退職時に代金を請求する約束をしていない
よくある質問
ウィッグを年末にまとめ買いした場合、全額をその年の経費にできますか?
毎年おおむね同じくらいの量を買い、練習で継続して使っているなら、買った年の経費にできます(所得税基本通達37-30の3)。普段の何倍もまとめて買い、大半を翌年に使う場合は、使った年の経費にするのが原則です。
1体3万円の人毛ウィッグも消耗品費でよいですか?
はい。10万円未満かどうかは1体ごとに判定するため、1体3万円なら買った年に消耗品費(スタッフ教育用なら研修費)として全額を経費にできます。
スタッフに練習用ウィッグ代として毎月3,000円の手当を払うと、給与として課税されますか?
課税されます。使い道を確かめずに一律で払う手当は給与に当たり、源泉徴収と社会保険料の対象です。店がウィッグを買って支給するか、店の練習用品として領収書と引き換えに実費を精算すれば、給与として課税されません。
退職するスタッフに、店が負担したウィッグ代や講習費を返してもらえますか?
原則として求められません。退職を理由に代金の支払いを約束させる契約は、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に反するおそれがあります。店の所有として貸していた未使用のウィッグの返却を求めることはできます。
美容学生のときに買ったウィッグは、就職後や開業後の経費になりますか?
なりません。学生時代の練習用品は事業を始める前の個人的な支出で、事業所得の必要経費には当たりません。
出典:所得税法第28条・第37条・第57条の2、所得税法施行令第138条、所得税基本通達36-29の2・37-30の3、労働基準法第15条・第16条・第24条・第89条、労働基準法施行規則第5条、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一、国税庁タックスアンサーNo.5403(国税庁「少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」、e-Gov法令検索「労働基準法」、e-Gov法令検索「所得税法」)。個別の判断は税理士・社会保険労務士か、所轄の税務署・労働基準監督署に確認してください。
スタッフの練習用ウィッグは、店が買って支給し、科目を研修費にそろえる形が税金と労務の両面でいちばん整理しやすくなります。まず支給数と本人負担のルールを決め、労働条件通知書に書くところから始めてください。
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