人材開発支援助成金を美容室の研修に使う|対象になる研修・実質負担の試算・計画届から申請までの流れ

人材開発支援助成金(人材育成支援コース)は、雇用保険に入っているスタッフに職務に関連する10時間以上の研修(OFF-JT)を受けさせた美容室に、中小企業なら研修経費の45%(正社員以外のスタッフは70%)と、所定労働時間内の受講1時間あたり800円の賃金助成を支給する制度です。訓練開始日の6か月前から1か月前までに職業訓練実施計画届を労働局へ出し、訓練終了日の翌日から2か月以内に支給申請します。

この記事では、店の状況別に使うか・どの訓練にするかの判断表、対象になる研修とならない研修、助成額と店の実質負担の試算、そのまま使える事業内職業能力開発計画の文例、期限の数え方など不支給につながる落とし穴を、2026年8月3日改定の厚生労働省のパンフレットに沿ってまとめます(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の早見表

人材開発支援助成金とは、事業主が雇用する労働者に職務に関連した専門的な知識や技能を身につけさせる訓練を計画に沿って行ったとき、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成する制度のことです。雇用保険料を財源とし、7つのコースがあります。

項目 内容(中小企業の場合) 根拠
対象のスタッフ 雇用保険の被保険者(オーナーや役員は対象外) 厚生労働省パンフレット
対象の研修 職務に関連した専門的な知識・技能を身につける10時間以上のOFF-JT 人材育成訓練
経費助成 正社員45%、有期・パートなど70%。賃金を5%以上上げるなどの要件を満たすと+15% 同上
賃金助成 1人1時間800円(要件を満たすと1,000円)。所定労働時間内の受講のみ。eラーニングは対象外 同上
経費助成の上限 1人1訓練あたり、10〜100時間未満15万円、100〜200時間未満30万円、200時間以上50万円 同上
計画届 訓練開始日の6か月前から1か月前までに管轄の労働局へ 同上
支給申請 訓練終了日の翌日から2か月以内 同上
前提の準備 職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定・周知、定期的なキャリアコンサルティングの定め 同上

使うか、どの訓練にするか — 店の状況別の判断表

美容室で最も使いやすいのは、外部の技術講習を受けさせる「人材育成訓練」です。受けさせたい研修と受講者を決めたら、次の表で使えるか、どのメニューにするかを決めます。

店の状況 判断の条件 選ぶ対応
受講させたいのがオーナー・役員、雇用保険に入っていないパート 被保険者ではない 対象外。助成なしで受講し、研修費として経費処理する
講習が1コース10時間未満(1日5時間の講習1回など) 人材育成訓練の時間に届かない 対象外。10時間以上のコースを選ぶか、助成なしで受ける
講習の開始日まで1か月を切っている 計画届の期限を過ぎる 今回は見送り、次の開講日に合わせて計画届を出す
正社員・パートに10時間以上の外部技術講習 受講料を店が全額払い、勤務時間内に受講させる 人材育成訓練(経費45%、正社員以外は70%+賃金助成)
有期・パートのスタッフを正社員にする予定 OJTとOFF-JTを組み合わせて2か月以上 有期実習型訓練(支給申請までに正社員などへ転換)。キャリアアップ助成金と組み合わせを検討
45歳以上の美容師を中途採用して育てる OJTとOFF-JTを組み合わせて2か月以上 中高年齢者実習型訓練(2026年4月新設)
新卒をOJT中心で育てたい 理美容のOJTは開始前に免許を持っていることが条件。厚生労働大臣の認定が必要 認定実習併用職業訓練。手続きが重いため、まず人材育成訓練から始める

中小企業かどうかは、美容業などのサービス業なら資本金5,000万円以下か、常時雇用する労働者が100人以下かで判断し、個人経営の店は労働者の数で判断します。補助金と助成金の違いは補助金と助成金の違いで確認してください。

対象になる研修・ならない研修 — 技術講習は対象、マナー研修や見本市は対象外

対象になるのは、スタッフの職務に直接関係する専門的な知識・技能を、営業と切り離した場で身につける研修です。厚生労働省のパンフレットでも、自店でお客様にパーマを施術するのはOJT、モデルウィッグに施術するのはOFF-JTという例が示されています。

研修の例 対象か 理由
外部のアカデミーや講習会のカット・カラー技術講座(10時間以上) 対象になり得る 職務に関連するOFF-JT(事業外訓練)。教育訓練事業を行う国内の法人などが実施するもの
講師を招いて店で行う技術講習 条件付きで対象 事業内訓練。講師要件(実務経験10年以上など)を満たし、営業中の就労の場と区切った場所で行う
接客・マナーだけの研修 対象外 職種を問わず共通の基礎的なスキル(訓練時間の半分未満なら可)
メーカーの新商品説明会、見本市、ヘアショーの観覧 対象外 自社が扱う製品の説明、見本市・大会などは職業能力開発に直接関連しない
経営コンサルタントによる指導、資格試験の受験だけ 対象外 通常の事業活動、または講習を受けなくても受験できる試験
eラーニングの講座 経費のみ対象 標準学習時間10時間以上などが条件。賃金助成はなく、事業内訓練では使えない

店の教育全体の中で、どの研修を助成の対象にするかを先に決めておくと計画届が作りやすくなります。教育体系の作り方は美容室のスタッフ教育・育成のやり方を参考にしてください。

いくら戻り、店はいくら負担するか — 外部講習にスタッフ2人を参加させた場合の試算

助成額は、店が払った研修経費×助成率と、所定労働時間内の受講時間×1時間あたりの額の合計です。受講中も給与は払うため、店の実質負担は「受講料+受講中の賃金−助成額」で見ます。

項目 試算の前提(仮定)と計算 金額
前提 中小企業、正社員2人(月給220,000円、時間換算1,300円)、受講料1人8万円(税込)、30時間の講習をすべて所定労働時間内に受講 ―
経費助成 8万円×45%×2人 72,000円
賃金助成 800円×30時間×2人 48,000円
助成額の合計 72,000円+48,000円 120,000円
店の支出 受講料160,000円+受講中の賃金(1,300円×30時間×2人)78,000円 238,000円
店の実質負担 238,000円−120,000円 118,000円
賃金要件を満たした場合の追加 8万円×60%×2人+1,000円×30時間×2人=156,000円との差額 36,000円
参考:賃金要件のための賃上げの費用 月給220,000円×5%=11,000円×2人×12か月 264,000円(社会保険料は別)

この前提では、受講料と受講中の賃金の合計のおよそ半分が戻ります。一方、割増しの追加36,000円のためだけに5%の賃上げをすると、1年で26万円以上の負担が増えます。割増しはもともと賃上げを予定している店が、訓練終了日の翌日から1年以内の賃上げに合わせて追加申請するものと考えてください。割増し分は、要件を満たす賃金を3か月続けて払った日の翌日から5か月以内に別に申請します。受講のための交通費や宿泊費は対象になりません。

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計画届から支給申請までの流れ — 事業内職業能力開発計画の文例つき

手続きは、社内の準備→計画届→研修の実施→支給申請→審査の順です。計画届は訓練開始日の1か月前が締切のため、受講する講習が決まったらすぐに準備を始めます。

  1. 社内の準備をする

    職業能力開発推進者を選び、下の文例をもとに事業内職業能力開発計画を作ってスタッフに周知します。計画か就業規則に、時期を明記した定期的なキャリアコンサルティングの実施を書きます。

  2. 研修を選び、資料をそろえる

    講習のカリキュラム、日時、時間数、受講料が分かる受講案内と申込書を用意します。

  3. 計画届を出す

    職業訓練実施計画届、対象労働者一覧、事前確認書などを、訓練開始日の6か月前から1か月前までに管轄の労働局へ出します。郵送は到達日が提出日で、雇用関係助成金ポータルでの電子申請(GビズIDが必要)も選べます。

  4. 研修を実施する

    計画どおりに受講させ、日程や内容が変わるときは事前に変更届を出します。受講料は支給申請までに店が全額払い、受講中の賃金も通常どおり払います。

  5. 支給申請をし、審査を受ける

    訓練終了日の翌日から2か月以内に、支給申請書、OFF-JT実施状況報告書、賃金台帳と出勤簿、受講料の領収書、訓練機関の支給申請承諾書などを出します。2026年5月からは、経費助成を申請する場合に受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)も求められています。審査は支給申請の後に行われます。

文例:事業内職業能力開発計画(ヘアサロン○○)

  • 1.経営方針:お客様一人ひとりに合う技術と提案で、長く通っていただける店をつくる。
  • 2.人材育成の基本方針:入社から5年でスタイリストとして自立し、その後は得意分野を持つ技術者に育てる。営業中の指導(OJT)と、営業と切り離した講習(OFF-JT)を組み合わせて育成する。
  • 3.職務ごとに求める能力:アシスタント(1〜2年目)はシャンプー・カラー塗布・ブロー・接客の基本。ジュニアスタイリスト(3〜4年目)はカット・カラー提案・カウンセリング。スタイリスト(5年目以降)は全メニューと後輩の指導。店長は店舗運営・教育計画・労務管理。
  • 4.能力開発の方法:毎週の営業後の練習会(労働時間として扱う)と、年1回以上、教育訓練機関が行う10時間以上の外部技術講習を店の負担で受講させる。
  • 5.キャリアコンサルティング:入社時、入社から3年ごと、およびスタイリストへの昇格時に実施する。
  • 6.職業能力開発推進者:店長 山本 美加
  • 7.周知の方法:スタッフルームに掲示し、入社時に写しを配布する。 作成日:2026年11月1日 ヘアサロン○○ 代表 鈴木 一郎

不支給につながる6つの落とし穴 — 期限の数え方と美容室特有の注意

不支給の多くは、期限の数え方、受講時間の不足、店が経費を全額負担していないことから起きます。申請の前に次の点を一つずつ確かめます。

  1. 計画届の期限を1日間違える:期限は訓練開始日の1か月前の同じ日です。7月1日開始なら6月1日、7月31日開始なら6月30日(前月に同じ日がないときは月末)が期限です。防ぎ方:期限の1週間前を店の締切にし、郵送なら到達日が期限内になるよう送ります。
  2. 変更届を出さずに日程を変えた:変更届なしで別の日に受講すると、その時間は受講したことになりません。防ぎ方:変更前と変更後の実施日の早い方の前日までに変更届を出します。
  3. 受講時間が8割未満:通学制などの研修は、実訓練時間の8割以上を受講していることが条件です。防ぎ方:受講日は予約を入れず、遅刻・早退を出勤簿に正確に残します。
  4. 受講料の一部をスタッフに負担させる:賃金助成も含めて不支給です。研修会社からの返金や協力金を受けた場合も経費助成の対象外です。防ぎ方:受講料は店の口座から振り込み、記録を残します。
  5. 定休日に受講させる:所定労働時間外や休日の受講は賃金助成の対象外で、割増賃金を払っていないと助成金全体が不支給になります。防ぎ方:事前に休日を振り替えて勤務日にするか、休日の割増賃金を払います。
  6. 歩合中心のスタッフの受講時間の賃金があいまい:受講中は施術がなく歩合が出ないため、賃金台帳で受講時間の給与が確認できないことがあります。防ぎ方:受講時間を出勤簿に記録し、時間給に換算した賃金を払って台帳に載せます。

厚生労働省は、「助成金を使えば研修が実質無料になる」とうたう勧誘に注意を呼びかけています。返金などで店が経費を負担していなければ受給できず、不正受給として事業主名が公表されることもあります。労働保険料の未納、支給申請日前1年間の労働関係法令違反、計画届の前6か月以降の会社都合の解雇などがあっても対象外です。助成金の申請手続きを報酬を得て代行できるのは社会保険労務士だけです(社会保険労務士法第27条)。

申請を社会保険労務士に依頼する場合は、計画届の期限から逆算して、少なくとも期限の3週間前には依頼します。依頼の前に、受講案内とカリキュラム、受講者の雇用保険の加入状況、直近の賃金台帳と出勤簿をそろえておくと、計画届の準備が早く進みます。報酬の決め方(着手時か支給決定時か)も最初に確認し、「研修が実質無料になる」という説明をする事業者とは契約しないでください。

同じ経費、賃金、訓練を対象に他の助成金や補助金を申請すると、どちらか一方しか支給されない場合があります。パートや有期のスタッフを正社員にするキャリアアップ助成金との組み合わせ方は美容室が使える雇用系の助成金に、他の制度との使い分けは美容室が使える補助金・助成金2026年度版にまとめています。

人材開発支援助成金を申請する前に、次の8項目を確認してください。

  • 受講するスタッフが雇用保険の被保険者である
  • 職業能力開発推進者を選び、事業内職業能力開発計画を作って周知した
  • 定期的なキャリアコンサルティングの時期を計画か就業規則に書いた
  • 研修が職務に関連する10時間以上のOFF-JTで、対象外の内容を除いて時間数を数えた
  • 計画届の期限(開始日の1か月前の同じ日)を計算し、1週間前を店の締切にした
  • 受講を所定労働時間内にし、受講中の賃金を時間給に換算して払う
  • 受講料を店が全額払い、研修会社からの返金や協力金を受けていない
  • 訓練終了日の翌日から2か月以内の支給申請の期限をカレンダーに入れた

よくある質問

美容室のオーナー自身の研修費も対象になりますか?

なりません。対象は雇用保険の被保険者であるスタッフで、オーナーや役員は含まれません。オーナーとスタッフが一緒に受講した場合は、スタッフの分だけが対象です。

定休日にスタッフを講習へ行かせても助成されますか?

経費助成は対象になり得ますが、所定労働時間外や休日の受講は賃金助成の対象外です。あらかじめ休日を振り替えて勤務日にしていれば賃金助成の対象になり、休日に受講させた場合は割増賃金を払う必要があります。

メーカーやディーラーの講習会は対象になりますか?

自社で扱う製品の説明が中心の講習は対象外です。技術を身につける講習で、実施する会社の定款などに教育訓練事業が書かれていれば、事業外訓練として対象になり得ます。

パートのスタッフも対象になりますか?

雇用保険の被保険者であれば対象です。正社員以外のスタッフの経費助成率は、中小企業で70%(要件を満たすと85%)です。

個人経営の小さな美容室でも使えますか?

雇用保険の適用事業所で、受講するスタッフが被保険者であれば使えます。個人経営の店が中小企業に当たるかは、常時雇用する労働者の数で判断します。

計画届を出した後に研修の日程が変わったらどうすればよいですか?

変更前と変更後の実施日のいずれか早い日の前日までに変更届を出します。出さずに変更後の日程で受講すると、その部分は助成の対象になりません。

出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」、厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内(詳細版、令和8年8月3日)」「人材育成支援コースのご案内(概要、令和8年4月8日)」、新潟労働局「職業訓練実施計画届 提出チェックリスト(人材育成支援コース)」(期限の数え方)。制度は年度の途中でも変わることがあるため、申請前に最新のパンフレットと管轄の労働局で確認してください。

使うと決めたら、まず受講させたい講習の開始日から計画届の期限を計算し、それまでに職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画を整えることから始めてください。雇用保険の加入状況は美容室の雇用保険の加入条件と手続きで確認できます。

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この記事を書いた人

VAULTA編集部は、美容室・美容師向けに集客、リピート率向上、LINE公式活用、MEO対策、独立・開業、資金調達に関する実践的な情報を発信しています。

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