美容室の雇用保険|加入条件・手続き・パート美容師の扱いと、2028年10月からの適用拡大

美容室の雇用保険|加入条件・手続き・パート美容師の扱いと、2028年10月からの適用拡大

美容室の雇用保険は、週20時間以上・31日以上働く見込みのスタッフを1人でも雇えば、個人経営の店でも加入手続きが必要です。オーナー本人や業務委託の美容師は対象外です。2028年10月1日からは、加入の基準が週10時間以上に広がります。

この記事では、加入条件と対象外の人、パート・学生・家族の扱い、手続きと期限、2026年度の保険料率と計算例、2028年10月の適用拡大への準備を整理します。

美容室の雇用保険の要点|週20時間以上・31日以上で加入、2028年10月から週10時間以上に拡大
目次

結論:美容室の雇用保険は「週20時間以上・31日以上」で判定し、雇ったら翌月10日までに届け出る

雇用保険は、店の規模や法人かどうかに関係なく、条件を満たすスタッフを雇った時点で加入の義務が生じます。判定は「週の所定労働時間が20時間以上」と「31日以上雇う見込み」の2つで、正社員かパートかという呼び方では決まりません。初めて雇うときは労働基準監督署とハローワークへの届出が必要で、その後は採用と退職のたびにハローワークへ届け出ます。

健康保険・厚生年金の加入義務は社会保険の加入義務、労働保険の成立手続きと労災保険は労災保険の加入義務と手続きで扱っています。パート美容師の条件の見せ方はパート・時短美容師の採用を参照してください。この記事は雇用保険に絞ります。

雇用保険とは:美容室が加入する仕組みと、働き方別の加入条件

雇用保険とは、スタッフが離職したときの基本手当(いわゆる失業給付)や、育児休業給付、教育訓練給付などを支える、国が運営する強制保険のことです。労働者を雇う事業は、業種や規模を問わず、農林水産業の一部を除いて全て適用事業になります。個人経営の美容室も例外ではありません。

スタッフ一人ひとりが加入者(被保険者)になるかは、次の2つで決まります。1週間の所定労働時間が20時間以上であることと、同じ店で31日以上続けて雇われる見込みがあることです。所定労働時間は、雇用契約書や労働条件通知書で決めた時間で判断します。保険料は店とスタッフの両方が負担し、スタッフの負担分は毎月の給与から差し引きます。

スタッフの区分 加入の扱い 確認のポイント
正社員のスタイリスト・アシスタント 加入する 試用期間中も、条件を満たせば入社日から加入
パート・時短の美容師 週20時間以上かつ31日以上の見込みなら加入 契約上の所定労働時間で判断する。実態と大きくずれるなら契約を見直す
受付・事務のアルバイト 条件はパートと同じ 美容師免許の有無は関係しない
65歳以上のスタッフ 条件を満たせば加入 2つの勤め先の時間を合算し、本人が申し出て加入する特例もある
昼間の美容専門学校・大学の学生 原則として対象外 卒業後も同じ店で働くことが決まっている人、休学中の人、定時制の人などは例外
オーナー本人(個人事業主・法人の代表者) 加入できない 雇われる立場ではないため
法人の役員・同居の親族 原則として対象外 働き方によって例外があるため、ハローワークで確認する
業務委託・面貸しの美容師 対象外 実態が雇用と判断されれば、加入が必要になり得る

加入するとスタッフが受けられる主な給付

加入の手続きは、スタッフが次の給付を受けるための前提になります。求人や面接では「雇用保険あり」と書くだけでなく、受けられる給付の中身まで説明できると、働く側の安心につながります。

  • 求職者給付:離職したときの基本手当など
  • 就職促進給付:早く再就職したときの再就職手当など
  • 教育訓練給付:厚生労働大臣が指定する講座の受講費用の一部を支給する給付金や、教育訓練のための休暇中の給付金
  • 雇用継続給付:介護休業給付金、高年齢雇用継続給付
  • 育児休業等給付:育児休業給付金、出生時育児休業給付金、出生後休業支援給付、育児時短就業給付

育児休業給付や介護休業給付は雇用保険から支給されるため、加入していないスタッフは受け取れません。産休・育休を控えたスタッフがいる店では、加入の有無と加入期間を早めに確かめておきます。

パート美容師・学生・家族・業務委託:判断に迷う5つのケース

迷いやすいのは、勤務時間が週によって変わる人、練習がある人、学生、家族、業務委託の5つです。迷ったら、雇い入れた月のうちに管轄のハローワークで確認すると、届出の期限にも間に合います。雇用契約書または労働条件通知書、シフト表や出勤簿、賃金台帳を持っていくと、判断が早くなります。

  1. シフトで時間が変わるパート美容師:契約上の所定労働時間で判断します。「週16〜24時間」のように幅のある契約は判断が分かれやすいため、契約書を持って確認します。契約は週18時間でも、毎週20時間を超える状態が続くなら、実態に合わせて契約と加入を見直します。
  2. 営業後の練習を指示しているアシスタント:店が参加を指示する練習は、労働時間に当たり得ます。所定は週18時間でも、練習を含めると毎週20時間を超える働き方なら、契約と加入の見直しが必要です。練習の扱いは練習時間は労働時間かで扱っています。
  3. 美容専門学校に通う学生アルバイト:昼間の学校に通う学生は、原則として対象外です。ただし、卒業後も同じ店で働くことが決まっている卒業予定者、休学中の人、定時制の課程の人は加入の対象です。通信課程で学びながら働く人の扱いは、ハローワークで確認します。
  4. 配偶者や子どもが店で働く:同居の親族は、原則として対象外です。ただし、他のスタッフと同じように指示を受け、同じ条件で働いて賃金を受けているなど、働き方によっては加入できる場合があります。法人の役員も原則は対象外です。
  5. 業務委託・面貸しの美容師:雇用ではないため対象外です。ただし、出勤時間や施術の順番を店が指示し、報酬が時間で決まるなど、実態が雇用に近いと判断されれば、加入手続きや保険料の納付をさかのぼって求められることがあります。契約の作り方は業務委託契約書に入れる条項を参照してください。

契約の時間別に見る判定例

次の表は、31日以上雇う見込みがある場合の判定例です。2028年10月の適用拡大で結論が変わる契約があるため、両方の時点で確認しておきます。

契約の例 週の所定労働時間 2028年9月まで 2028年10月から
週5日・1日8時間の正社員 40時間 加入 加入
週4日・1日6時間のパート美容師 24時間 加入 加入
週3日・1日6時間のパート美容師 18時間 対象外 加入
週2日・1日5時間の受付スタッフ 10時間 対象外 加入
週1日・1日8時間のアシスタント 8時間 対象外 対象外
美容室が雇用保険に加入してから退職までの手続き5ステップのフロー図

雇用保険の手続き:初めて雇うときから退職までの5ステップ

窓口は2か所です。労働保険の成立は労働基準監督署へ、スタッフごとの雇用保険の届出はハローワークへ出します。どちらもe-Govの電子申請が使え、雇用保険の帳票はハローワークインターネットサービスで作成・ダウンロードできます。

  1. 労働基準監督署に保険関係成立届を出す

    初めてスタッフを雇ったら、労災保険と雇用保険をまとめた労働保険の保険関係成立届を、成立した日から10日以内に出します。その年度の概算保険料の申告・納付も、成立から50日以内に行います。

  2. ハローワークに雇用保険適用事業所設置届を出す

    店を雇用保険の適用事業所として届け出ます。期限は保険関係が成立した日の翌日から10日以内です。労働者名簿、賃金台帳、出勤簿や、事業を始めたことがわかる書類などを添えます。

  3. 加入するスタッフごとに資格取得届を出す

    期限は、被保険者となった日(通常は入社日)の属する月の翌月10日までです。初めて雇う場合は、設置届と一緒に出します。開業前の研修期間から雇う場合は、開業日ではなく雇用を始めた日が基準です。前の勤め先で加入していた人には被保険者番号がわかる書類を出してもらい、マイナンバーも確認します。ハローワークから交付される本人向けの書類は、スタッフに渡します。

  4. 毎月の給与からスタッフ負担分を差し引き、年1回まとめて納める

    スタッフの負担分(2026年度は賃金の5/1,000)を毎月の給与から控除し、賞与を払うときも同じ料率で控除します。店の負担分と合わせ、労災保険料とともに毎年6月1日〜7月10日の年度更新で申告・納付します。年度更新では、前年度の確定保険料の精算と、新年度の概算保険料の申告をまとめて行います。

  5. 退職したら資格喪失届と離職証明書を出す

    期限は、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から10日以内です。ハローワークは離職証明書をもとに離職票を発行し、元スタッフの失業給付の手続きに使われます。離職理由は事実どおりに書き、本人とも確認しておきます。

本人が離職票を希望しない場合は離職証明書を省略できることがありますが、離職日に59歳以上の人は必要です。自己都合で離職した人の給付制限期間は、2025年4月から原則1か月(5年間で3回以上の自己都合離職なら3か月)に短縮されています。辞めるスタッフから聞かれたら、手続きはハローワークで確認するよう伝えます。退職時の手続き全体はスタッフ退職時の手続き一覧にまとめています。

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2026年度の雇用保険料率と、美容室の計算例(仮の設定)

2026年度(2026年4月1日〜2027年3月31日)の一般の事業の雇用保険料率は、合計13.5/1,000です。内訳はスタッフ負担が5/1,000、店の負担が8.5/1,000で、2025年度の合計14.5/1,000から下がりました。美容室は「一般の事業」の料率を使います。

保険料は、通勤手当や残業代、賞与を含む賃金の総額にかけて計算します。料率は年度ごとに見直されるため、4月の給与計算の前に厚生労働省の案内で確かめます。次の表は、スタッフ3人の店を仮に設定した試算です。

スタッフ(仮の設定) 月の賃金 スタッフ負担(5/1,000) 店の負担(8.5/1,000) 合計(13.5/1,000)
正社員スタイリスト 250,000円 1,250円 2,125円 3,375円
正社員アシスタント 200,000円 1,000円 1,700円 2,700円
パート美容師(週24時間) 120,000円 600円 1,020円 1,620円
3人の月合計 570,000円 2,850円 4,845円 7,695円
年間(賞与なし・12か月) 6,840,000円 34,200円 58,140円 92,340円

この例では、雇用保険の店の負担は年間約5.8万円です。労災保険料(全額が店の負担)は別にかかります。人件費の計画には、給与のほかに社会保険料と労働保険料の店の負担分を入れておきます。

2028年10月からの適用拡大:週10時間以上のスタッフも加入に

2024年に成立した改正雇用保険法(令和6年法律第26号)により、加入要件が変わります。2028年10月1日から、週の所定労働時間の基準が「20時間以上」から「10時間以上」になります。週10時間以上20時間未満で働くスタッフも、31日以上の見込みがあれば加入の対象になります。給付は別の基準ではなく、今の加入者と同じく基本手当や育児休業給付などが対象です。

項目 2028年9月まで 2028年10月から
加入要件(週の所定労働時間) 20時間以上 10時間以上
31日以上の雇用見込み 必要 必要(変更なし)
被保険者期間で1か月と数える基準 賃金の支払の基礎となった日数が11日以上、または労働時間が80時間以上 日数が6日以上、または労働時間が40時間以上
失業の認定で、働いた日でも失業日とする基準 1日の労働時間が4時間未満 1日の労働時間が2時間未満

美容室では、週2日・1日5時間の受付スタッフや、土日だけ1日6時間入るアシスタントなどが新たに対象になる例です。仮の設定で月5万円のスタッフなら、2026年度の料率で店の負担は月425円、本人の負担は月250円です。週15時間・月6万円のスタッフが2人いる店なら、店の負担は年12,240円増えます。2028年度の料率は、その時点で確認が必要です。

加入を避ける目的で、勤務時間を週10時間未満に削る見直しは慎重に考えます。スタッフにとっては、失業給付や育児休業給付を受ける機会がなくなるためです。時間を変えるときは、収入と保障の両面を本人と話し合って決めることが、定着の面でも大切です。

今から準備しておくこと

対象者の把握と契約の整理を先に済ませると、施行の直前に慌てずに済みます。

  • 週10時間以上20時間未満で働くスタッフの名前、契約時間、契約期間を一覧にする
  • 労働条件通知書の所定労働時間を、実際の勤務に合わせて書き直す
  • 増える保険料を試算し、人件費の計画に入れる
  • 手取りが少し減る一方で、失業給付や育児休業給付の対象になることを本人に説明する
  • 施行日前後の具体的な手続きは、厚生労働省とハローワークの案内が出た時点で確認する

所定労働時間などの書き方は雇用契約書と労働条件通知書の違いで扱っています。

よくある失敗と注意点

  1. 試用期間が終わってから加入させる:条件を満たすなら、試用期間中も入社日から加入です。試用期間後にまとめて届け出ると、資格取得届の期限を過ぎてしまいます。
  2. 「パートだから」「本人が希望しないから」と加入させない:雇用保険は強制保険です。条件を満たす人は、雇用形態の呼び方や本人の希望にかかわらず加入します。
  3. 契約書に「シフトによる」とだけ書き、所定労働時間を決めていない:加入するかどうかを判定できず、届出が遅れる原因になります。シフト制でも、週の所定労働時間の目安を数字で決めて書いておきます。
  4. 資格取得届の出し忘れ:退職時の失業給付や育児休業給付の申請で手続きが止まり、さかのぼっての届出が必要になります。入社手続きの書類一式に資格取得届を組み込んでおきます。
  5. 雇用保険と社会保険の境目を混同する:雇用保険の週20時間と、健康保険・厚生年金の加入基準は別の基準です。雇用保険は加入でも社会保険は対象外のこともあるため、保険ごとに判定します。
  6. 離職理由を事実と違えて書く:自己都合か会社都合かで、給付が始まる時期や日数が変わります。事実と違う記載は、本人とのトラブルや助成金の審査にも影響するおそれがあります。

加入手続きを怠っていた場合でも、スタッフ本人がハローワークに確認を求めることで、さかのぼって加入が認められることがあります。その場合、店はさかのぼった期間の保険料の納付を求められます。加入漏れに気づいたら、放置せずにすぐハローワークに相談してください。個別の判断に迷うときは、社会保険労務士に確認します。

美容室の雇用保険でよくある質問

  1. オーナー本人は雇用保険に入れますか?:入れません。個人事業主も法人の代表者も、雇われる立場ではないため対象外です。オーナー自身の廃業や退職への備えは、小規模企業共済など別の制度で考えます。
  2. 今いるスタッフが加入済みか確かめるには?:資格取得届を出したときにハローワークから交付された書類の控えと、給与明細の雇用保険料の控除の有無を、スタッフ名簿と照らし合わせます。記録が見つからない人がいれば、管轄のハローワークに相談して、必要な届出を済ませます。
  3. 週20時間ちょうどの契約は加入ですか?:加入です。要件は「20時間以上」なので、ちょうど20時間も含まれます。31日以上の雇用見込みもあれば、入社日から加入します。
  4. 他の店とかけもちしているスタッフは、どちらで加入しますか?:雇用保険に加入できるのは1か所だけで、生計を維持するのに必要な主な賃金を受ける勤め先で加入します。どちらの店でも週20時間に届かない場合、65歳未満の人は対象外です。65歳以上なら、2つの勤め先の時間を合算して本人が申し出る特例があります。
  5. 2028年10月以降、週10時間未満のスタッフはどうなりますか?:引き続き対象外です。週の所定労働時間が10時間以上になるかどうかが、新しい境目です。複数の店で働く人の扱いなど細かな点は、施行前の案内で確認します。
  6. 雇用保険に入っていないと、助成金は使えませんか?:雇用関係の助成金の多くは、雇用保険の適用事業主であることが前提です。対象になる労働者も、雇用保険の加入者であることが求められるのが一般的です。制度ごとの要件は雇用系の助成金で確認してください。

美容室の雇用保険チェックリスト

  • 週20時間以上・31日以上の見込みがあるスタッフを全員洗い出した
  • 雇用契約書・労働条件通知書に所定労働時間と契約期間を書いた
  • 保険関係成立届と雇用保険適用事業所設置届を期限内に出した
  • 加入するスタッフの資格取得届を、翌月10日までに出している
  • 2026年度の料率(スタッフ負担5/1,000)で給与から控除している
  • 退職時の資格喪失届・離職証明書を期限内に出す流れを決めた
  • 業務委託の美容師の働き方が、雇用と同じになっていないか確認した
  • 2028年10月に加入となる週10時間以上20時間未満のスタッフを把握した
美容室の雇用保険チェックリスト

出典:厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」、同「事業主の行う雇用保険の手続き」、同「事業主の行う雇用保険手続き一覧表」、同「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」、同「マルチジョブホルダー制度」、雇用保険法第6条、雇用保険法施行規則第3条の2、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第4条の2。2026年9月時点の情報です。保険料の計算例は仮の設定による試算で、実際の額は賃金総額と各年度の料率で計算してください。個別の加入判断は、管轄のハローワークや社会保険労務士に確認してください。

美容室の雇用保険は、週20時間・31日で判定し、雇ったら翌月10日までに届け出て、2028年10月の週10時間への拡大に備えることが要点です。まず今いるスタッフの契約時間を一覧にし、加入漏れがないかを確かめてください。

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この記事を書いた人

美容室オーナー・経営者向けメディア「vaulta」編集部。集客・リピート・融資・求人・DX・独立の実務情報を、一次情報を確認のうえ発信。お金に関わる記事は中小企業診断士の監修を受けています。編集責任者:ISOYAMA。

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