美容室で市販のCDや家庭用の音楽配信をそのまま流すことは、著作権法上の「演奏」に当たり、権利者(JASRACなどの管理団体)の許諾が必要になる場合があります。手続きなしで流せるのは、店舗向けのBGMサービス(使用料込み)や、許諾済み・権利処理不要の音源を使う場合です。
この記事では、店内BGMに著作権の手続きが要る理由、要るケースと要らないケース、JASRACなどへの申請の仕組みと費用の考え方、店舗向けサービスとの違い、開業時に決めておくことを、文化庁とJASRACの案内をもとに整理します。

結論:「家庭用の音源を営業で流すなら手続きが要る」と考え、方法を3つから選ぶ
音楽の著作権には、CDを買った人が自宅で聴くことと、店が営業中にお客様に聞かせることを区別する考え方があります。店で流すことは「公衆に聞かせる演奏」に当たり、著作権者の許諾の対象です。市販のCD、家庭向けの音楽配信サービス、動画サイトの音楽をそのまま店で流すと、この許諾がない状態になることがあります。
対応は3つです。①店舗向けBGMサービスと契約する(月額に著作権の使用料が含まれる形が一般的)。②JASRACなどの管理団体に申請し、店舗の面積に応じた使用料を払って、CDや配信を流す。③権利処理が不要な音源(管理団体に委託されていない楽曲、許諾済みの音源)だけを使う。開業時にどれかを決め、契約書や許諾の記録を残しておけば、後から問い合わせが来ても説明できます。
店づくり全体の中でのBGMの位置づけはターゲット設定とコンセプト設計、開業時の届出は開業の届出・手続きの流れで扱っています。この記事は「音楽の権利の手続き」に絞ります。
なぜ店内BGMに手続きが要るのか
著作権法は、著作者に「演奏権」を認めています。演奏権は、公衆に直接聞かせることを目的として著作物を演奏(録音物の再生を含む)する権利です。店の営業中に不特定のお客様に音楽を聞かせることは、この「公衆に聞かせる演奏」に当たると解釈されています。
かつては、店内でCDなどの録音物を再生することについて、一定の場合に権利が及ばないとされる規定がありましたが、法改正により、営業に伴うBGMの再生は許諾の対象になりました。文化庁の著作権の案内でも、著作物を利用する場合は原則として著作権者の許諾が必要とされています。
| 音源・流し方 | 手続きの要否(一般的な考え方) | 理由・注意 |
|---|---|---|
| 市販のCDを店で再生する | 要る | 営業でのBGM再生は演奏権の対象。管理団体への申請が必要になる |
| 家庭向けの音楽配信サービス(スマートフォンのアプリなど) | 要る(サービスの規約でも商用利用が禁止されていることが多い) | 著作権の許諾に加え、サービスの利用規約違反になる |
| 動画サイトの音楽を流す | 要る(規約上も問題になりやすい) | 広告の再生や動画の内容も含めて営業用には向かない |
| テレビ・ラジオの放送をそのまま流す | 放送を通常の家庭用受信機で流す場合は、著作権法上、許諾なしに認められる範囲がある | 録音して流す、拡声装置を使うなどは別。条件は文化庁の案内で確認 |
| 店舗向けBGMサービス(有線放送・業務用配信) | サービスの契約に使用料が含まれていれば、店側の申請は不要 | 契約書で「著作権処理済み」かを確認 |
| 管理団体に委託されていない楽曲、権利処理済みの音源 | その楽曲について許諾が不要な場合がある | 権利者ごとに条件が異なる。配信元の利用条件を確認 |
放送の受信については、著作権法に家庭用受信機による再生についての定めがありますが、条件が細かいため、「テレビを流しているから問題ない」と決めつけず、文化庁の案内で条件を確認してください。
JASRACなど管理団体への申請の仕組み
JASRAC(日本音楽著作権協会)は、多くの楽曲の著作権を管理し、店舗などでのBGM利用について使用料の規定を公表しています。美容室のような店舗のBGMは、店舗の面積に応じた年額の使用料を払う形が基本です。JASRACの案内によれば、各種営業施設での演奏・上映について、施設の種類と規模ごとに手続きと使用料が定められています。
| 項目 | 内容 | 美容室で確認すること |
|---|---|---|
| 申請先 | JASRAC(および、楽曲によっては他の管理団体) | 流す楽曲がどの団体の管理か。店舗向けサービスなら契約で解決 |
| 使用料の決まり方 | 店舗の面積(または席数)で区分された年額 | 自店の面積の区分。JASRACの使用料規程で確認 |
| 申請の方法 | JASRACのサイトから、施設の情報を申告して契約 | 開業時に済ませる。面積が変わったら変更の連絡 |
| 支払い | 年額を前払いする形が一般的 | 経費(諸会費・支払手数料など、科目は税理士に確認) |
| 他の団体 | NexToneなど、JASRAC以外の管理団体が管理する楽曲もある | 流したい楽曲の管理状況を各団体の検索で確認 |
使用料の具体的な金額は、JASRACの使用料規程で施設の種類と面積ごとに定められており、改定されることがあります。申請前にJASRACのサイトで最新の規程を確認してください。この記事では金額を断定しません。

店内BGMの手続きを決める手順(5ステップ)
今流している音源を確認する
CD、スマートフォンの配信アプリ、動画サイト、ラジオ、店舗向けサービスのどれかを書き出します。スタッフが個人のスマートフォンから流している場合も含めます。
手続きが要るかを判定する
家庭用の音源(CD・家庭向け配信・動画サイト)を営業中に流しているなら、手続きが要る前提で考えます。店舗向けサービスなら契約書で「著作権処理済み」かを確認します。
方法を選ぶ
①店舗向けBGMサービスと契約する、②JASRACなどに申請してCDや配信を流す、③許諾不要の音源だけを使う、の3つから、費用と選曲の自由度で選びます。多くの美容室は①を選んでいます。
契約と申請をする
店舗向けサービスは、契約書の利用範囲(店舗数、面積、配信の種類)を確認します。管理団体に申請する場合は、店舗の面積を正確に申告します。
記録を残す
契約書、許諾証、支払いの記録を保管します。機器の入れ替えや2店舗目の出店で条件が変わるため、そのたびに契約内容を見直します。
家庭向けの音楽配信サービスは、利用規約で商用利用(店舗でのBGM利用)を禁止していることが多く、著作権の許諾を取っても規約違反は解消されません。「配信サービスに月額を払っているから大丈夫」ではなく、そのサービスが店舗利用を認めているかを規約で確認してください。店舗向けのプランを別に用意している事業者もあります。
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費用の考え方 — 3つの方法の比べ方
金額は事業者・団体の規程で定められ、改定されるため、ここでは構造だけを比べます。
| 方法 | 費用の構造 | 選曲の自由度 | 手間 | 向く店 |
|---|---|---|---|---|
| 店舗向けBGMサービス | 月額(著作権の使用料込みが一般的)。機器のレンタル料が加わることも | チャンネルやプレイリストから選ぶ。特定の曲を指定できない場合がある | 小さい(契約だけ) | 手続きを一本化したい店、複数店舗 |
| 管理団体に申請してCD・配信を流す | 管理団体への年額(面積で区分)+音源の購入費・配信の月額(店舗利用可のもの) | 高い。好きな曲を流せる | 中(申請、楽曲の管理状況の確認) | 選曲にこだわる店 |
| 権利処理不要の音源だけを使う | 音源の購入費または無料 | 低い。限られた楽曲 | 中(楽曲ごとに利用条件を確認) | 費用を抑えたい1人店 |
数字は仮の設定ですが、店舗向けサービスの月額が数千円なら年間で数万円、管理団体への申請も面積区分によっては年間で数千円〜数万円の範囲に収まることが多いとされます。いずれも、無許諾で流し続けて後から請求や訴訟に至った場合の負担より小さいため、開業時に決めておく価値があります。固定費全体の見直しは固定費削減の進め方で扱っています。
SNS動画・ライブ配信に音楽が入るとき
店内で撮った動画に、BGMとして流れている音楽が入り込んだままSNSに投稿すると、店内での演奏とは別に「公衆送信」の問題が生じます。各SNSは音楽の権利処理をプラットフォーム側で行っている範囲がありますが、商用アカウントでは条件が異なる場合があります。動画を撮るときは、BGMを止めるか、SNSが商用利用向けに提供している音源を使います。ショート動画の運用はショート動画集客の始め方で扱っています。
スタッフが個人の音源を流す問題
スタッフが自分のスマートフォンで家庭向け配信を流す運用は、店が把握しないまま無許諾の状態になります。店で契約した方法だけを使うルールを、開業時にスタッフと共有します。就業規則や店内ルールに1行入れておくと、後から入ったスタッフにも伝わります。
2店舗目・面積の変更
管理団体への申請は店舗ごと、店舗向けサービスの契約も店舗ごとが原則です。2店舗目を出すとき、面積が変わる改装をしたときは、契約と申請の内容を更新します。1店舗の契約で2店舗に流すと、契約違反や無許諾の状態になります。2店舗目の判断は2店舗目を出す判断基準で扱っています。
開業時に決めておくこと
- 音源の方法:店舗向けサービス、管理団体への申請、許諾不要の音源のどれにするか
- 契約者と支払い:店の名義で契約し、経費として記帳する
- 機器:店舗向けサービスの受信機、スピーカー、配線を内装工事に含める
- ルール:スタッフの個人音源の禁止、動画撮影時のBGM停止
- 記録:契約書・許諾証・支払いの控えを、開業届や保健所の書類と同じファイルに
開業時に揃える備品の全体は開業で揃える備品・什器リストで扱っています。店づくりと集客の相談はVAULTAの新規集客・Web支援でも受け付けています。
よくある質問
個人経営の小さな店でも申請が必要ですか?
店の規模に関係なく、営業中に市販のCDや家庭向け配信を流すことは演奏権の対象になります。管理団体の使用料は面積で区分されており、小さな店ほど年額は低い区分になります。店舗向けサービスを使えば、店側の申請は不要です。
ラジオを流すのは問題ありませんか?
放送を家庭用の受信機でそのまま流す場合、著作権法上、許諾なしに認められる範囲があります。ただし、録音して流す、業務用の拡声装置を使うなどは条件が変わります。文化庁の案内で条件を確認してください。
「著作権フリー」と書かれた音源なら大丈夫ですか?
「フリー」の意味は配信元によって異なり、個人利用のみ可、商用利用は別料金、クレジット表記が条件、などがあります。利用条件を読み、店舗のBGMとしての利用が明示的に認められているものだけを使ってください。
管理団体から連絡が来ました。どうすればよいですか?
現在の音源と流し方を確認し、無許諾の状態であれば申請するか、店舗向けサービスに切り替えます。過去の分の扱いは団体の案内に従います。連絡を無視すると、手続きが法的な段階に進むおそれがあります。
店舗向けBGMサービスの契約で確認することは?
著作権の使用料が月額に含まれているか、対象の店舗数と面積、解約の条件、機器のレンタル料、配信の種類(チャンネル数、プレイリスト)を確認します。「著作権処理済み」と契約書に明記されているかが要点です。
費用は経費になりますか?
店の営業のために払う使用料・サービス料は必要経費です。勘定科目は、諸会費・支払手数料・雑費など店の方針で決め、毎年同じ科目にします。判断に迷う場合は税理士に確認してください。
店内BGMのチェックリスト
開業前と、年に1回、次の7つを確認してください。
- 流している音源の種類(CD・配信・ラジオ・店舗向け)を把握している
- 家庭用の配信サービスの利用規約で商用利用の可否を確認した
- 店舗向けBGMサービスの契約に著作権の使用料が含まれているか確認した
- 管理団体に申請する場合、店舗の面積で年額を確認した
- 動画投稿やライブ配信で店内のBGMが入り込まないようにしている
- 契約書・許諾証・支払いの記録を保管している
- スタッフが個人の音源を店で流さないルールを共有した
店内BGMは、「家庭用の音源を営業で流すなら手続きが要る」と考え、3つの方法から1つを選んで記録を残すだけで整います。開業時に決めておけば、後から問い合わせが来ても慌てません。

出典・参考資料
- 著作権施策に関する総合案内ページ(文化庁、2026年9月16日確認)
- 各種営業施設・教室等での演奏・上映(JASRAC、2026年9月16日確認)
- 株式会社NexTone(音楽著作権管理)(NexTone、2026年9月16日確認)
著作権法の解釈と管理団体の使用料規程は改定されることがあります。手続きの要否と金額は、文化庁・各管理団体・利用するサービスの最新の案内で確認し、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。記事内の金額の説明は構造の解説であり、断定ではありません。
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