美容室のスタッフに辞めてもらうときの手順|解雇が認められる条件・解雇予告手当の計算・退職勧奨の進め方と違法になる例

美容室がスタッフを解雇できるのは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当といえる場合に限られます(労働契約法第16条)。解雇するときも、30日前の予告か30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です(労働基準法第20条)。

解雇の種類と有効になる条件、解雇予告手当の計算、退職勧奨の進め方と違法になる例、指導記録の残し方、助成金と雇用保険への影響、相談先を順に整理します。結論を出す前に社会保険労務士や弁護士へ相談することを前提に読んでください(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:スタッフに辞めてもらう前に確認する6つのこと

スタッフに辞めてもらう方法は、店から一方的に契約を終わらせる「解雇」と、話し合いで退職に合意してもらう「退職勧奨(合意退職)」の2つです。どちらも、次の6点を確認してから進めます。

確認すること 内容 根拠
① 解雇に足る理由か 客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効 労働契約法第16条
② 解雇が禁止される場面でないか 業務上のケガ・病気の休業中と後30日、産前産後休業中と後30日、妊娠・出産や育休の申出を理由とする解雇などは禁止 労働基準法第19条、男女雇用機会均等法第9条、育児・介護休業法第10条ほか
③ 予告・予告手当 30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を払う。予告日数は払った日数分だけ短縮できる 労働基準法第20条
④ 有期契約の途中か 契約期間の途中の解雇は「やむを得ない事由」が必要で、無期契約より厳しく判断される 労働契約法第17条
⑤ 退職勧奨のやり方 応じるかは本人の自由。執拗な勧奨や名誉を傷つける言動は不法行為になりうる 下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日判決)
⑥ 書面と離職理由 請求があれば解雇理由の証明書を交付。解雇・退職勧奨は雇用保険上「会社都合」となり、助成金の要件に影響する 労働基準法第22条、雇用保険の特定受給資格者の範囲

解雇予告をせず予告手当も払わない場合は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です(労働基準法第119条)。ただし実務で大きいのは罰則より、解雇が無効と判断されて解雇した日からの賃金をさかのぼって払うリスクです。

解雇が認められる条件 — 普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の違い

解雇には、能力や勤務態度を理由とする普通解雇、規律違反への制裁としての懲戒解雇、経営上の理由による整理解雇の3種類があります。どれも就業規則や労働条件通知書に解雇の事由が書かれていることが前提で、そのうえで理由の合理性と処分の相当性が個別に判断されます(労働基準法第89条第3号、労働契約法第15条・第16条)。

種類 美容室で想定される理由 有効性で見られる点
普通解雇 技術や接客が基準に届かない、遅刻や無断欠勤が続く、指示に従わない 程度が著しいか、指導・教育で改善の機会を与えたか、担当業務を変えるなどの余地はないか
懲戒解雇 売上金の着服、顧客データの持ち出し、重大なハラスメント 就業規則に懲戒の種類と事由があるか、行為の重さに見合うか、本人の弁明を聞いたか
整理解雇 売上減少による人員削減、店舗の閉鎖 削減の必要性、解雇を避ける努力、対象者選定の合理性、説明・協議を尽くしたか

能力不足を理由とする普通解雇は、特に慎重に判断されます。裁判例では、平均的な水準に達しないだけでは足りず、著しく能率が劣り向上の見込みがないことが必要とされ、教育・指導による改善の余地も考慮されています(セガ・エンタープライゼス事件・東京地裁平成11年10月15日決定)。スタイリストデビューが遅れているアシスタントを「向いていない」という理由だけで解雇するのは、ほぼ通らないと考えてください。

試用期間中の本採用拒否も解雇にあたり、入社から14日を超えていれば予告が必要です。期間の決め方と本採用しない場合の注意は試用期間の決め方で解説しています。

妊娠中と産後1年以内の解雇は、店が妊娠・出産を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効です(男女雇用機会均等法第9条第4項)。ほかにも、労働基準監督署への申告、ハラスメントの相談、育児・介護休業の申出などを理由とする解雇は法律で禁止されています。直前に相談や申出があったスタッフへの対応は、必ず専門家に相談してから決めてください。

解雇予告と解雇予告手当 — 30日前の予告か、30日分の平均賃金

解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として払います。予告と手当は組み合わせることができ、たとえば20日前に予告して10日分を払うこともできます(労働基準法第20条第2項)。

予告や手当が不要になるのは、次の場面に限られます(労働基準法第20条・第21条)。

  1. 試用期間中で入社14日以内:予告は不要です。14日を超えて働いていれば、通常どおり必要になります。
  2. 2か月以内の期間を定めた契約:予告は不要です。契約期間を超えて引き続き働いていれば必要です。
  3. 本人の責任による即時解雇:横領や長期の無断欠勤などで、労働基準監督署長の「解雇予告除外認定」を受けた場合だけ不要です。
  4. 天災などで事業の継続が不可能になった場合:これも除外認定を受けた場合に限り不要です。

平均賃金は、解雇を通告した日の直前の賃金締切日から遡った3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割って出します(労働基準法第12条)。賞与など3か月を超える期間ごとに払う賃金は含めません。時給制や歩合給の部分には最低保障があり、その部分の総額を実際に働いた日数で割った額の60%を下回れません。

試算 — 週3日勤務のパート美容師の解雇予告手当(仮の設定)

時給制で週3日勤務のパート美容師の、直前3か月の賃金総額が30万円、暦日数が92日、働いた日数が36日だったとします。原則の計算では30万円÷92日=約3,260円ですが、最低保障は30万円÷36日×60%=5,000円で、こちらが高いため平均賃金は5,000円です。解雇予告手当は5,000円×30日=15万円になります。数字は説明のための仮の設定です。

歩合給のスタイリストも、歩合部分は同じ60%の最低保障で計算し、固定給部分と合算して比べます。勤務日数が少ない人ほど原則の計算と差が出るため、給与ソフトの自動計算に頼らず一度手で確かめてください。

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退職勧奨の進め方 — 違法にならない話し方と、違法になる例

退職勧奨とは、店がスタッフに自発的な退職を促す働きかけのことで、勧奨そのものは違法ではありません。ただし応じるかどうかは本人の自由で、自由な意思決定を妨げる勧奨や名誉感情を害する言動は不法行為として損害賠償の対象になりえます(下関商業高校事件・最高裁昭和55年7月10日判決)。

場面 避けるやり方 代わりのやり方
切り出し 「明日から来なくていい」と告げる 「今後の働き方について、退職も選択肢に入れて相談したい」と伝える
理由の説明 「向いてない」「みんな迷惑している」など人格を否定する 「3か月で3回指導したが、カラーの塗布時間の基準に届いていない」と事実で話す
断られたとき 「辞めると言うまで毎日話す」と繰り返す 考える時間を取り、面談の回数と時間をあらかじめ限る
面談の形 閉め切った部屋で複数人が長時間囲む 店側は2人まで、1回30分〜1時間程度で記録を取る
回答期限 「今ここで決めて」と迫る 1週間程度の期限を示し、家族や専門家への相談を妨げない
仕事の扱い 予約を入れない、仕事を取り上げて孤立させる 結論が出るまで通常どおり勤務してもらう

解雇できる根拠がないのに「応じなければ解雇だ」と告げて退職届を書かせると、退職の意思表示そのものの有効性が争われるおそれがあります。仕事を取り上げる・隔離するといったやり方は、パワーハラスメントの「人間関係からの切り離し」「過小な要求」にも当たりえます。線引きは美容室のパワハラ防止で整理しています。

合意できたら、口約束で終わらせず退職合意書を作ります。退職日、退職の理由(会社からの勧奨による合意退職であること)、退職金や解決金の額と支払日、残っている年次有給休暇の扱い、貸与品と顧客データの返却、清算条項を入れるのが一般的で、文面は専門家に確認してもらいます。

指導記録の残し方 — 解雇や退職勧奨の前に「改善の機会」を形にする

解雇の有効性でも退職勧奨の説明でも、何を指導し、どれだけ改善の機会を与えたかを記録で示せるかが分かれ目になります。記憶や口頭の注意だけでは、指導したことを後から証明できません。

指導記録シートの項目 記入例
日時・場所・同席者 10月3日 閉店後20分、バックルーム、店長同席
問題となった事実 9月中に開店準備への遅刻が4回(5〜15分)。予約表と勤怠記録で確認
店の基準・ルール 就業規則の始業時刻と、開店15分前の準備開始ルール
伝えた内容と改善の方法 遅刻の影響(朝一番の予約の遅れ)を説明。前日の予約確認を一緒に行う
本人の説明・言い分 通勤経路の変更で電車が合わない。来月から経路を戻す
改善の期限と次回面談日 10月末まで様子を見て、11月4日に再面談
本人の確認 記録の内容を本人に見せ、確認のサインまたはLINEでの返信をもらう
  1. 問題を事実で特定する

    「やる気がない」ではなく、遅刻の回数、施術時間、やり直しの件数など、記録で確認できる事実にします。

  2. 基準を示して指導し、期限を決める

    どの水準を、いつまでに満たせばよいかを本人に示します。技術面なら練習の機会や教える担当者も決めます。

  3. 改善期間の後に再評価する

    改善が見られれば記録に残して終えます。改善しなければ、担当業務や勤務形態の変更など、解雇以外の手段も検討します。

  4. 書面で注意し、専門家に相談する

    それでも改善しない場合は書面で注意したうえで、退職勧奨や解雇の判断の前に社会保険労務士や弁護士に記録を見てもらいます。

指導の場は、日ごろのスタッフ面談(1on1)と同じ形で定期的に持つと、本人も構えずに話せます。

助成金・雇用保険・手続きへの影響 — 「会社都合」の離職で変わること

解雇や退職勧奨による離職は、雇用保険では「特定受給資格者」となる離職理由で、いわゆる会社都合の扱いです。スタッフにとっては給付が手厚くなる一方、店にとっては一部の雇用関係助成金が受けられなくなることがあります。

項目 解雇・退職勧奨の場合 自己都合退職の場合
雇用保険の離職理由 特定受給資格者(本人の重大な責任による解雇を除く) 一般の離職者
失業給付 給付制限がなく、給付日数も手厚くなる場合がある 一定期間の給付制限がある
助成金 キャリアアップ助成金などで、一定期間内に会社都合の離職者を出していないことが要件のものがある 原則として影響しない
店が出す書類 離職証明書に実態どおりの離職理由を書く。請求があれば解雇理由証明書 離職証明書、退職証明書(請求があれば)

たとえばキャリアアップ助成金の正社員化コースでは、転換日の前日から6か月前の日から1年を経過する日までの間に、解雇や勧奨退職など事業主都合で雇用保険の被保険者を離職させていないことが要件です(2026年4月8日付の支給要領)。申請を予定している店は、雇用系の助成金のスケジュールと照らし合わせてください。

離職理由を「自己都合」と偽って書くことは認められません。社会保険・雇用保険の資格喪失、保健所への従業者の変更届、顧客データの権限整理など、退職時の手続きの順番はスタッフ退職時の手続き一覧にまとめています。

どこに相談するか — 判断に迷ったら結論を出す前に専門家へ

辞めてもらうかどうかを決める前、遅くとも退職勧奨の面談や解雇の通知の前に専門家へ相談するのが原則です。通知した後で無効と分かっても取り消しが難しいため、記録がそろった段階で見てもらいます。

  1. 総合労働相談コーナー(都道府県労働局・労働基準監督署内):解雇や退職勧奨を含む労働問題を無料で相談できます。労働者だけでなく事業主も利用できます。
  2. 都道府県労働局の助言・指導、あっせん:スタッフとの紛争になった場合に、労働局長の助言・指導や紛争調整委員会のあっせんで、話し合いによる解決を図ります。
  3. 社会保険労務士:解雇事由や懲戒規定の整備、指導記録と手続きの確認を依頼できます。特定社会保険労務士は労働局のあっせんの代理もできます。
  4. 弁護士:解雇の有効性の判断、退職合意書の作成、労働審判や訴訟になった場合の対応を依頼できます。

就業規則に解雇の事由や懲戒の規定がない店は、問題が起きる前に整えておくことが一番の予防策です。必要な条項は美容室に就業規則は必要かで確認できます。

辞めてもらう判断の前に、次の8項目を確認してください。

  • 就業規則または労働条件通知書に解雇の事由が書かれている
  • 問題を事実で特定し、指導記録シートに残している
  • 改善の期限を示し、再評価の面談を行った
  • 担当業務の変更など、解雇以外の手段を検討した
  • 産休・育休・労災の休業中や、相談・申出の直後ではない
  • 解雇なら30日前の予告か予告手当を準備し、平均賃金を手計算で確かめた
  • 退職勧奨なら面談の回数・時間・同席者を決め、回答期限を設けた
  • 通知の前に社会保険労務士か弁護士に相談した

よくある質問

試用期間中のスタッフなら自由に解雇できますか?

できません。試用期間中の本採用拒否も解雇にあたり、通常の解雇より広く認められる余地はあるものの、合理的な理由が必要です。入社から14日を超えていれば、30日前の予告か解雇予告手当も必要です。

解雇予告手当を払えば、いつでも解雇できますか?

できません。解雇予告手当は手続き上の義務で、払ったからといって解雇が有効になるわけではありません。理由に合理性と相当性がなければ、手当を払っていても解雇は無効と判断されます。

退職勧奨を断られたら、解雇に切り替えてよいですか?

勧奨を断ったこと自体は解雇の理由になりません。解雇するなら、勧奨とは別に解雇の事由と相当性があるかを改めて判断する必要があり、その前に専門家への相談をおすすめします。

無断欠勤が続くスタッフを即日解雇できますか?

即日解雇するには、30日分の解雇予告手当を払うか、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受ける必要があります。厚生労働省のモデル就業規則の解説では、2週間以上の無断欠勤が除外認定の例として挙げられています。

懲戒解雇なら退職金を払わなくてよいですか?

就業規則や退職金規程に不支給・減額の定めがあることが前提で、定めがあっても全額不支給が認められるのは悪質な場合に限られる傾向があります。中退共の退職金は本人に直接支払われ、減額には厚生労働大臣の認定が必要です。

出典:労働契約法第15条・第16条・第17条、労働基準法第12条・第19条・第20条・第21条・第22条・第89条・第119条、男女雇用機会均等法第9条、育児・介護休業法第10条、中小企業退職金共済法第10条、厚生労働省「モデル就業規則」(2025年12月版)第53条と解説、厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例(下関商業高校事件・最高裁昭和55年7月10日判決、セガ・エンタープライゼス事件・東京地裁平成11年10月15日決定)、ハローワーク「特定受給資格者の範囲」、キャリアアップ助成金支給要領(2026年4月8日付)(e-Gov法令検索「労働契約法」、厚生労働省「確かめよう労働条件」退職勧奨の裁判例)。個別の判断は社会保険労務士または弁護士に確認してください。

スタッフに辞めてもらう判断は、記録・改善の機会・専門家への相談の3つがそろってからです。まずは指導記録シートを作り、いま気になっているスタッフとの面談を記録に残すところから始めてください。

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この記事を書いた人

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