美容室の出店エリアの需要は、「商圏の範囲を来店手段の到達時間で決め、その範囲の人口・年齢構成・世帯数を町丁目単位で数え、美容室の数と比べる」ことで見積もれます。データは、e-Stat(政府統計の総合窓口)の国勢調査の小地域集計、RESAS(地域経済分析システム)、厚生労働省の衛生行政報告例で無料で取れます。
この記事では、商圏の決め方、e-StatとRESASで人口データを取る手順、美容所数から需給を見る方法、商圏人口から売上見込みを計算する式、数字が足りないときの判断を整理します。

結論:商圏は「到達時間」で決め、人口は「町丁目」で数え、売上は「幅」で見積もる
「駅前だから人が多い」「住宅街だから安定している」という感覚は、開業後に裏切られることがあります。出店の判断に使えるのは、商圏内に何人の、どの年齢の人が住み、美容室が何軒あるか、という数字です。この数字は公的統計で取れます。
手順は5つです。①商圏の範囲を、徒歩・自転車・車の到達時間で決める。②その範囲に含まれる町丁目の人口・年齢・世帯数を、e-Statの小地域集計で取る。③RESASで人口の増減と将来の傾向を見る。④商圏内の美容室の数を数え、人口あたりの店舗数を出す。⑤「商圏人口×来店率×客単価×年間回数×シェア」で売上見込みを、低め・中間・高めの3パターンで計算する。
競合店の観察(メニュー・価格・混み具合)は競合調査のやり方、地方の商圏の考え方は地方で美容室を開業するときの判断で扱っています。この記事は「人口統計の取り方と売上見込みの計算」に絞ります。
商圏の範囲を決める — 半径ではなく到達時間
| 立地 | 主な来店手段 | 商圏の目安 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 都市部の住宅街 | 徒歩・自転車 | 徒歩10〜15分、自転車15分 | 線路・大きな道路・川で商圏が分断される |
| 駅前・繁華街 | 電車・徒歩 | 駅の乗降客の生活圏+徒歩10分。沿線からの来店も | 昼間人口(通勤者)と夜間人口(住民)を分けて見る |
| 郊外・地方(車社会) | 車 | 車で10〜15分 | 駐車場の台数が来店数の上限になる |
| 商業施設内 | 施設の来館者 | 施設の商圏に準じる | 施設の集客力に依存。施設の来館者数を確認 |
地図に、来店手段ごとの到達時間で線を引き、その線の内側にある町丁目(○○一丁目、○○町)を書き出します。これが人口を数える単位です。線路や幹線道路の向こう側は、距離が近くても心理的に遠く、商圏から外れることが多い点を考慮します。地図は紙でもオンラインの地図サービスでも構いませんが、線を引いた地図は事業計画書の添付資料になるため、町丁目の名前が読める縮尺で保存しておきます。
e-StatとRESASで人口データを取る
| データ | 取れる場所 | 使い方 |
|---|---|---|
| 町丁目ごとの人口・年齢・性別・世帯数 | e-Stat「国勢調査」の小地域集計(町丁・字等) | 商圏内の町丁目を合計し、ターゲット層(例:30〜50代女性)の人数を出す |
| 人口の増減・将来推計 | RESAS「人口マップ」 | 市区町村単位で、人口の推移と将来の見通しを見る。減少が続く地域は長期の計画に影響 |
| 昼間人口・夜間人口 | 国勢調査の従業地・通学地集計、RESAS | 駅前は昼間人口、住宅街は夜間人口が需要の基礎 |
| 世帯の構成(単身・夫婦・子育て世帯) | 国勢調査の小地域集計 | 子連れ対応やシニア向けなど、店の方向性の根拠 |
| 都道府県別の美容所数 | 厚生労働省「衛生行政報告例」 | 人口あたりの美容所数を全国・都道府県と比べる |
| 市区町村別の事業所数 | e-Stat「経済センサス」、RESAS「産業構造マップ」 | 地域の美容業の事業所数と従業者数 |
e-Statでは、国勢調査の「小地域集計」を選び、都道府県→市区町村→町丁目の順に絞って表をダウンロードします。年齢5歳階級・男女別の人口が町丁目ごとに出るため、ターゲット層の人数を商圏内で合計できます。国勢調査は5年ごとのため、最新の調査年を確認し、RESASや自治体の住民基本台帳の人口で直近の変化を補います。ダウンロードした表は、商圏内の町丁目だけを残して合計欄を作り、計画書の添付資料として保存します。
衛生行政報告例で美容所数を見る
厚生労働省の衛生行政報告例には、都道府県別の美容所数・美容師数が掲載されています。全国の美容所数を人口で割ると、人口あたりの店舗数の全国平均が出ます。自店の商圏の人口あたりの店舗数が全国平均や都道府県の値より多ければ、競合が密集していると判断できます。商圏内の店舗数は、地図検索と現地の確認で数えます。

商圏の人口と需要を調べる手順(5ステップ)
商圏の範囲を決める
候補物件を中心に、徒歩・自転車・車の到達時間で線を引き、含まれる町丁目を書き出します。分断要素(線路・幹線道路・川)で線を修正します。
町丁目ごとの人口・年齢・世帯をe-Statで取る
国勢調査の小地域集計から、商圏内の町丁目の表をダウンロードし、合計します。総人口、ターゲット層の人数、世帯数、世帯構成を出します。
RESASで傾向を見る
市区町村の人口推移と将来推計、昼夜間人口、産業構造を確認します。人口が減る地域では、シェアを高める計画か、商圏を広げる計画(送迎・訪問など)が要ります。
競合の数を数える
地図検索で商圏内の美容室を一覧にし、現地で営業中かを確認します。人口あたりの店舗数を、衛生行政報告例の都道府県の値と比べます。
売上見込みを計算する
「商圏人口×来店率×客単価×年間回数×シェア」で、低め・中間・高めの3パターンを出します。前提の数字(来店率・回数・シェア)は、根拠と一緒に事業計画書に残します。
国勢調査は5年ごとの調査で、最新の調査年から時間が経っている地域では、マンションの新築や再開発で人口が大きく変わっていることがあります。自治体が公表する住民基本台帳の人口(毎月・毎年)や、現地の建設状況で補正してください。数字の出典と時点を計画書に必ず書きます。
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試算 — 商圏人口から売上見込みを出す
数字は仮の設定です。徒歩・自転車15分の商圏に、総人口18,000人、うち20〜60代の女性が5,400人いる住宅街で、美容室が12軒ある場合を考えます。
| 項目 | 低め | 中間 | 高め | 根拠の置き方 |
|---|---|---|---|---|
| ターゲット人口(20〜60代女性) | 5,400人 | 5,400人 | 5,400人 | e-Statの小地域集計の合計 |
| 美容室の利用率(年1回以上) | 80% | 85% | 90% | 自分で置いた前提。根拠を明記 |
| 年間の来店回数 | 4回 | 5回 | 6回 | メニュー構成で変わる |
| 商圏内の年間来店延べ数 | 17,280回 | 22,950回 | 29,160回 | 人口×利用率×回数 |
| 自店のシェア(13軒目として) | 5% | 7% | 9% | 1/13≒7.7%を中心に幅を持たせる |
| 年間来店数 | 864回 | 1,607回 | 2,624回 | 延べ数×シェア |
| 客単価 | 7,000円 | 7,500円 | 8,000円 | メニュー設計で決める |
| 年間売上見込み | 約605万円 | 約1,205万円 | 約2,099万円 | 来店数×客単価 |
この例では、低めと高めで3倍以上の差が出ます。幅が大きいのは、前提の数字(利用率・回数・シェア)が仮だからで、事業計画では中間の数字を使い、低めでも固定費を賄えるかを確認します。低めの売上で損益分岐点を下回るなら、物件・席数・固定費を見直します。損益分岐点の計算は損益分岐点の出し方で扱っています。
昼間人口を使う場面
駅前やオフィス街では、住民よりも通勤者の需要が大きいことがあります。国勢調査の従業地集計やRESASで昼間人口を見て、平日の昼・夕方の需要を通勤者、土日の需要を住民と分けて見積もると、営業時間と定休日の設計にもつながります。平日の集客は平日集客のやり方で扱っています。
数字が足りないときの判断
中間の見込みでも固定費を賄えない場合、選択肢は4つです。①商圏を広げる(駐車場の確保、送迎、訪問美容)、②客単価を上げるメニュー構成にする、③固定費(家賃・席数)を下げる、④物件を変える。「頑張って集客する」を前提にした計画は、数字の裏付けがないため融資の審査でも弱くなります。数字が足りないなら、前提を変える判断をします。開業の失敗の型は開業で失敗する原因と対策で扱っています。
2店舗目・移転での使い方
既存店がある場合、自店の実績(客単価・来店回数・来店客の住所の分布)が前提の数字になります。カルテの住所から実際の商圏を描くと、到達時間で引いた線と違うことがよくあります。2店舗目の商圏は、既存店の実績値を使って計算し、既存店との商圏の重なりを避けます。2店舗目の判断は2店舗目を出す判断基準で扱っています。
事業計画書に書くときの形
- 商圏の定義:「徒歩15分圏、○○町1〜4丁目、△△町全域」のように町丁目で示す
- 人口の数字:総人口、ターゲット層の人数、世帯数。出典(国勢調査の年、e-Stat)と取得日
- 競合の数:商圏内の美容室の数と一覧。人口あたりの店舗数と、都道府県の値との比較
- 売上見込み:計算式と前提、低め・中間・高めの3パターン
- 根拠の説明:利用率・回数・シェアの前提をどう置いたか
この形で書くと、融資の面談で「なぜこの売上になるのか」に答えられます。計画書の書き方は事業計画書の書き方で扱っています。商圏の数字を踏まえた出店と集客の設計はVAULTAの新規集客・Web支援でも相談を受け付けています。
よくある質問
統計を見るのが苦手です。最低限どれを見ればよいですか?
e-Statの国勢調査・小地域集計で、商圏内の町丁目の「総人口」と「ターゲット層の年齢・性別の人数」の2つを合計するだけでも、計画の根拠になります。慣れてきたら、RESASで人口の増減を足してください。
美容室の利用率や来店回数の公的なデータはありますか?
美容室の利用率・来店回数について、国の統計として毎年公表されているものはありません。業界団体や民間の調査に参考値がありますが、出典と調査年を確認し、計画書では「自分で置いた前提」として明記してください。
商圏内に美容室が多いと出店は無理ですか?
店舗数が多い地域は需要も多い場合があり、数だけでは判断できません。人口あたりの店舗数を都道府県の値と比べ、競合店の価格帯・客層・混み具合を現地で確認し、自店の差別化で取れるシェアを見積もります。
人口が減っている地域で開業するのは危険ですか?
減少のペースと、ターゲット層の人数で判断します。高齢化が進む地域では、シニア向けのメニューや訪問美容の需要が増えることもあります。減少を前提に、5年後の人口で計画を立ててください。
RESASは誰でも使えますか?
RESASは内閣府地方創生推進室が提供する無料のシステムで、誰でも利用できます。一部の詳細データは自治体職員向けに限定されていますが、人口マップなど基本の機能は使えます。
商圏の人口を調べるのに費用はかかりますか?
e-Stat・RESAS・衛生行政報告例はすべて無料です。有料の商圏分析サービスは、通行量や消費データを組み合わせて提供しますが、まず無料の統計で自分で数字を出し、必要なら追加で使う順番が無駄がありません。
商圏調査のチェックリスト
物件を決める前に、次の7つを確認してください。
- 商圏を来店手段(徒歩・自転車・車)ごとの到達時間で決めた
- 町丁目単位の人口・年齢構成・世帯数をe-Statで取得した
- ターゲット層(年齢・性別)の人数を商圏内で数えた
- 人口の増減と将来の見通しをRESASで確認した
- 商圏内の美容室の数と、人口あたりの店舗数を出した
- 売上見込みを低め・中間・高めの3パターンで計算した
- 計算の根拠(出典・日付・前提)を事業計画書に残した
商圏の需要は、「到達時間で範囲を決め、町丁目で人口を数え、幅で売上を見積もる」という手順で、無料の公的統計から出せます。感覚ではなく数字で判断した計画は、融資の面談でも自分の意思決定でも、根拠になります。

出典・参考資料
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)(総務省統計局、2026年9月16日確認)
- RESAS 地域経済分析システム(内閣府地方創生推進室、2026年9月16日確認)
- 衛生行政報告例(厚生労働省、2026年9月16日確認)
- 総務省統計局(国勢調査)(総務省統計局、2026年9月16日確認)
統計データは調査年・公表時期によって内容が異なります。記事内の売上見込みの計算は自分で置いた前提による試算で、利用率・来店回数・シェアの数字は根拠を示したうえで各自の計画に合わせて置き換えてください。
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