美容室でスタッフが発熱や体調不良になったとき、営業判断で最も大切なのは「出勤停止の基準を先に決めておく」ことです。当日の朝に「熱が37.3℃だけど出られます」と言われて店長の感覚で判断すると、施術中の感染や仕上がりの低下につながります。基準があれば、シフトの組み替え、お客様への案内、休みの扱い(欠勤・有給・休業手当)が順番に決まります。
この記事では、出勤停止の基準の決め方、休ませたときの賃金の扱い(欠勤・有給・休業手当の違い)、当日の予約の振り替えの順番、お客様への案内の文例、感染症の場合の復帰基準、事前に決めておくルールと記録を、厚生労働省の資料をもとに整理します。

結論:基準を先に決め、賃金の扱いを「誰が休ませたか」で分け、予約は振り替え→担当変更→日程変更の順に
美容師の仕事は、お客様と密接した状態で1〜2時間過ごします。スタッフが発熱していれば、お客様への感染のリスクがあり、店の信用にも関わります。一方で、人手の少ない店では1人休むと当日の予約が回らず、「無理してでも出てほしい」という空気になりがちです。
この矛盾を解くのが、事前に決めた基準です。「37.5℃以上は出勤停止」「嘔吐・下痢は出勤停止」「インフルエンザ・コロナ等の診断があれば医師の指示に従う」と文書にしておけば、本人も店長も迷わず、予約の振り替えに集中できます。あわせて、休みの扱い(賃金)を決めておくことで、スタッフが「休むと給料が減るから」と無理をする動機を減らせます。
健康診断は美容室の健康診断の義務、労災(業務上の傷病)は美容室の労災保険で扱っています。この記事は「業務外の体調不良(風邪・発熱・感染症)での営業判断」に絞ります。
出勤停止の基準 — 店で決めて文書にする
| 症状・状態 | 店の基準の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 発熱 | 37.5℃以上は出勤停止。37.0〜37.4℃は他の症状とあわせて店長が判断 | 体温の基準は店で決める。測定は出勤前に本人が行い、連絡する |
| 嘔吐・下痢 | 出勤停止。症状が止まってから24時間以上経過で復帰 | ノロウイルス等の感染性胃腸炎の可能性。手指を使う仕事のため慎重に |
| 咳・喉の痛み(発熱なし) | マスク着用で出勤可。施術中の会話を控える。悪化すれば帰宅 | 軽症の判断は本人と店長で |
| インフルエンザ・新型コロナ等の診断 | 医師の指示に従う。学校保健安全法の出席停止基準(発症後5日かつ解熱後2日など)を参考に店の復帰基準を設定 | 感染症法上の位置づけと自治体の案内を確認 |
| 手指の皮膚症状(化膿・水疱) | 施術は停止。受付・電話・掃除に配置転換 | お客様への接触を避ける |
| 目の充血・かゆみ(流行性角結膜炎の疑い) | 出勤停止。医師の診断を受ける | タオル・器具を介した感染のリスク |
基準の数値は店で決めるもので、法律で一律に定められているわけではありません。大切なのは「決めてあること」と「全員が知っていること」で、基準は就業規則の安全衛生の条項か、別紙の「体調不良時の対応ルール」として周知します。
休ませたときの賃金 — 欠勤・有給・休業手当の違い
| 場面 | 扱い | 賃金 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 本人が体調不良で休むと申し出た | 欠勤(本人の希望で有給に振替可) | 欠勤なら無給、有給なら通常の賃金 | ノーワーク・ノーペイの原則。有給の事後申請を認めるかは店のルール |
| 本人は出勤できると言うが、店の基準で休ませた | 使用者の責に帰すべき事由による休業にあたる可能性 | 休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要になり得る | 店の判断で休ませた場合。基準が客観的でも、法律上の扱いは個別判断 |
| 医師から就業制限の指示(感染症法・診断書) | 就業禁止・法令に基づく休業 | 原則として休業手当の対象外(不可抗力)。傷病手当金の対象になる場合 | 健康保険の傷病手当金(連続3日休業後の4日目から) |
| 症状は軽いが、店の方針で「念のため」休ませた | 使用者の判断による休業 | 休業手当の対象になり得る | 「念のため」は店の裁量。手当を払う前提で判断する |
要点は「本人が休む」と「店が休ませる」の区別です。店の基準で出勤を止める以上、その日の賃金を全額カットすると、スタッフは体調を隠して出勤するようになります。休業手当(60%以上)を払う、または有給への振替を本人が選べる、という運用にしておくと、体調を正直に申告してもらえます。個別のケースの法的な扱いは社会保険労務士に確認してください。有給の運用は有給休暇の運用で扱っています。

スタッフの体調不良時の対応手順(5ステップ)
出勤前の連絡で症状を確認し、出勤の可否を決める
体温・症状・発症の時期を聞き、店の基準に照らして判断します。判断は店長かオーナーが行い、本人に「今日は休んでください」と明確に伝えます。
当日の予約を確認し、振り替えを割り当てる
休むスタッフの当日の予約を一覧にし、①他のスタッフの空き枠に振り替え、②他のスタッフの担当に変更(お客様の了承が要る)、③日程変更、の順に割り当てます。
お客様に連絡する
開店前(予約時刻の2時間以上前)にLINEか電話で、担当の体調不良による変更と、代替案(他の担当・日程変更)、キャンセル料なしを伝えます。
休みの扱いを決めて本人に伝える
欠勤・有給・休業手当のどれかを、上の表と店のルールに基づいて決め、本人に伝えます。
復帰の基準を確認して復帰日を決める
解熱後○日、症状の消失、医師の許可など、店の基準で復帰日を決めます。復帰後1〜2日はマスク着用、施術の負担を軽めに。
「今日は予約がいっぱいだから、熱があっても出てほしい」という判断は、お客様への感染、本人の重症化、店の信用の3つを同時に危険にさらします。1日の売上と、感染が広がった場合の休業・信用の損失を比べれば、答えは明らかです。基準を決めておくのは、この場面で迷わないためです。
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お客様への案内 — 文例と伝え方
| 場面 | 文例 | 要点 |
|---|---|---|
| LINEで担当変更を提案 | 「本日○時にご予約の○○様。担当の△△が体調不良のため、本日は□□が担当させていただくことは可能でしょうか。カルテは共有しております。ご都合が合わなければ、日程の変更も承ります。ご迷惑をおかけし申し訳ありません」 | 理由は「体調不良」まで。病名は言わない。代替案を2つ |
| 電話で日程変更をお願い | 「担当の△△が体調不良で本日お休みをいただくことになりました。申し訳ありませんが、別の日にご案内できますでしょうか。キャンセル料はいただきません」 | キャンセル料なしを明示。次の候補日を2〜3つ用意 |
| 来店後に気づいた場合(連絡が間に合わなかった) | 「ご連絡が遅くなり申し訳ありません。担当の△△が急な体調不良で、本日は□□が担当いたします。よろしければこのままご案内いたします」 | 謝罪を先に。この日の施術にトリートメントを付けるなどの配慮 |
| 感染症で、前日に施術したお客様への連絡 | 原則不要。保健所の指示がある場合や、症状が出た旨の申告があれば個別に対応 | 不安をあおらない。保健所の案内に従う |
病名(インフルエンザ、コロナなど)はスタッフの健康情報で、お客様に伝える必要はなく、伝えるべきでもありません。「体調不良」で十分です。予約変更の連絡の型はLINEでの予約変更の返信例文、担当変更の伝え方はLINEでの担当者変更の引き継ぎ手順で扱っています。
シフトの組み替え — 人手が少ない店の現実的な対応
スタイリスト2〜3人の店で1人が休むと、その日の予約の3〜5割が影響を受けます。振り替えの優先順位は「①他スタッフの空き枠」「②担当変更(お客様の了承)」「③日程変更」で、①②で吸収できる分を先に埋め、残りを③に回します。カラーの放置時間を使って他のスタッフが2人分を回す、アシスタントの塗布・シャンプーの割合を増やす、といった当日の工夫で、影響を減らせます。予約枠の設計は予約枠の組み方で扱っています。
1人サロンの場合は、全予約を日程変更するしかありません。体調不良で休む可能性を前提に、予約時に「体調不良の場合は日程変更をお願いすることがあります」と案内しておくと、当日の連絡が受け入れられやすくなります。1人サロンの備えは一人サロンの経営を軌道に乗せる方法で扱っています。
感染症の場合の復帰基準と店内の対策
インフルエンザや新型コロナなどの感染症は、店で復帰基準を決めておきます。学校保健安全法の出席停止基準(インフルエンザは発症後5日を経過し、かつ解熱後2日を経過するまで)は、職場の基準としても参考にされています。新型コロナの扱いは感染症法上の位置づけの変更で変わっており、厚生労働省と自治体の最新の案内を確認してください。復帰後は、マスクの着用、手指消毒の徹底、器具の消毒を通常より丁寧に行い、体調の再確認を数日続けます。店内の衛生管理は薬剤と器具の管理の記事で扱っています。労務の仕組みづくりはVAULTAの求人・採用・DX支援でも相談を受け付けています。
よくある質問
スタッフが「休むと歩合が減るから」と無理に出勤しようとします。
店の基準で休ませた日を休業手当(60%以上)か有給の振替にできるルールにし、周知します。歩合が主の給与設計なら、休んだ日の歩合分の一部を保障する制度を検討します。無理な出勤で感染が広がる方が、店の損失は大きくなります。
診断書の提出を求めてもよいですか?
3日以上の欠勤や感染症の疑いがある場合に、就業規則で診断書の提出を定めることは可能です。ただし1日の風邪で毎回求めるのは負担が大きく、受診の費用の扱いも決めておく必要があります。
お客様に感染させてしまった場合、店の責任はありますか?
店が基準を設けて休ませる措置を取っていれば、通常は責任を問われにくいですが、明らかな症状のあるスタッフに施術させた場合は安全配慮の問題になり得ます。基準と記録が、店を守ります。
家族が感染症にかかったスタッフは出勤させてよいですか?
本人に症状がなければ、法律上の就業制限はありません。店の方針として、本人の体調確認を数日続ける、マスクを着用する、といった対応を決めておきます。過度な出勤停止は休業手当の対象になり得ます。
体調不良で当日休むスタッフが多く、予約が回りません。
特定のスタッフの頻度が高い場合は面談で原因(労働時間、練習、生活)を確認します。店全体で多い場合は、労働時間と休日の設計を見直す必要があります。体調不良の記録(日付・症状)を残しておくと、傾向が見えます。
感染症で店を数日休業する場合、スタッフの賃金は?
保健所の指示による休業は不可抗力として休業手当の対象外とされる場合があり、店の自主判断による休業は休業手当の対象になり得ます。判断は個別の事情によるため、社会保険労務士に確認し、雇用調整助成金など公的支援の有無も厚生労働省の案内で確認してください。
体調不良時の対応チェックリスト
次の7項目で、店の備えを確認してください。
- 出勤停止の基準(体温・症状・診断)を文書で決め、スタッフに周知している
- 休みの扱い(欠勤・有給・休業手当)の判断基準を決めている
- 当日の予約を振り替える手順(連絡担当・優先順位)を決めている
- お客様への連絡文(LINE・電話)の型を用意している
- 感染症の場合の復帰基準(解熱後の日数など)を決めている
- スタッフが連絡しやすい体制(当日朝の連絡先・時間)を作っている
- 体調不良の記録(日付・症状・対応)を残している
スタッフの体調不良は、「基準を先に決める」「賃金の扱いを誰が休ませたかで分ける」「予約は振り替え→担当変更→日程変更」「お客様には体調不良とだけ伝える」の4点で、当日に迷わず対応できます。基準がある店は、スタッフが正直に申告し、お客様への感染も防げます。

出典・参考資料
- 労働基準法(第26条 休業手当)(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
- 労働基準に関するよくある質問(休業手当の考え方)(厚生労働省、2026年9月16日確認)
- 感染症情報(厚生労働省、2026年9月16日確認)
- 新型コロナウイルス感染症について(厚生労働省、2026年9月16日確認)
- 労働安全衛生法(第68条 病者の就業禁止)(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
出勤停止の基準の数値は店で定めるもので、記事内の体温・日数は例です。休業手当の要否は個別の事情で判断が分かれるため、社会保険労務士にご相談ください。感染症の復帰基準は厚生労働省・自治体の最新の案内をご確認ください。
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