美容室の店販売上を上げる近道は、商品を増やすことでも、声かけを増やすことでもありません。「誰に・いつ・何を」を先に決めることです。ここが曖昧なままだと、スタッフは売り込みだと感じて手が止まります。
この記事では、店販が伸びない構造的な原因、粗利で見たときのインパクト、押し売りにならない提案の型、そしてスタッフが動ける仕組みの作り方を順に解説します。
結論:美容室の店販売上は「提案する場面を固定する」と動く
店販が伸びない店の多くは、提案のタイミングがスタッフ任せになっています。忙しい日は飛ばされ、余裕のある日だけ声がかかる。これでは数字が安定しません。
先に決めるべきは、提案する場面をひとつに固定することです。たとえば「シャンプー中に髪の状態を伝え、仕上げのときに一度だけ触れる」と決めれば、全員が同じ動きを取れます。回数を増やすより、型を揃えるほうが効きます。
店販は客単価を押し上げる手段のひとつでもあります。メニュー側の設計は客単価を上げるメニュー設計で、利益全体の見方は売上と利益の改善で扱っています。

店販が伸びない4つの原因
- 提案のタイミングが決まっていない。誰がいつ話すかが曖昧だと、遠慮が先に立って声がかからなくなります。
- スタッフ自身が商品を使っていない。使っていないものは語れません。実感のない説明は、そのまま伝わります。
- 置いている商品が多すぎる。選択肢が増えるほど、お客様は決められなくなります。スタッフも説明を絞れません。
- 売れた実感が共有されていない。誰が何を売ったのかが見えないと、うまくいった声かけが店内に広がりません。
この4つのうち、いちばん早く直せるのは①と③です。商品を絞り、提案の場面を固定するだけで、翌月には数字が動くことがあります。②は時間がかかりますが、効果は長続きします。
逆に、④を放置したまま目標だけを掲げると、スタッフは数字に追われる感覚だけを持ちます。売れたときの状況を共有する場を先に作っておくと、目標の受け取られ方が変わります。
粗利で見ると店販の意味が変わる
店販を売上高だけで見ていると、その重要性を過小評価しがちです。施術と比べたときの違いは、時間あたりの粗利にあります。
| 項目 | 施術(カラー) | 店販(シャンプー) |
|---|---|---|
| 単価 | 8,000円 | 3,500円 |
| 原価 | 1,200円 | 2,100円 |
| 粗利 | 6,800円 | 1,400円 |
| 所要時間 | 90分 | 2分 |
| 時間あたり粗利 | 約4,533円 | 約42,000円 |
上表は計算方法を示すためのモデルで、実測値ではありません。仕入率や価格は自店の数字に置き換えてください。
金額だけを見ればカラーのほうが大きいのですが、時間で割ると見え方が変わります。店販は施術の合間に成立するため、席を追加せずに粗利を積める数少ない手段です。
ただし、これは「売れたら」の話です。無理に押すと再来率が下がり、粗利どころではなくなります。だからこそ提案の型が重要になります。
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押し売りにならない提案の型
-
状態を伝える(売らない)
シャンプー中に「毛先が少し乾燥していますね」と事実だけを伝えます。この段階では商品の話をしません。
-
家でのケアを聞く
「普段はどんなものをお使いですか」と質問します。相手の現状を知る工程で、ここを飛ばすと提案が的外れになります。
-
仕上げのときに一度だけ触れる
「今日使ったものが合いそうです」と一度だけ伝え、断られたら引きます。二度は言いません。
-
買わなくても次につなげる
「次回また状態を見ますね」で締めます。売れなかった回も、次の来店につながれば無駄になりません。

店販商品の説明では、医薬品的な効能を示す表現を避けてください。「髪が生える」「頭皮の疾患が治る」といった説明は、医薬品医療機器等法(薬機法)で問題となる可能性があります。表示できる範囲は化粧品・医薬部外品で定められた効能効果の範囲に限られるため、メーカーが示す表現の範囲内で説明することをおすすめします。
出典:厚生労働省が所管する医薬品医療機器等法および化粧品の効能効果の範囲に関する通知。表現の可否は個別事情で異なるため、判断に迷う場合はメーカーや専門家にご確認ください。
断られたときの受け止め方も、あらかじめ決めておくと動きやすくなります。買わないという判断は、その日の予算や在庫の都合であることがほとんどです。技術や接客が否定されたわけではありません。ここを共有しておかないと、数回断られただけで声かけをやめてしまうスタッフが出ます。
また、店販は初回の来店で売れなくても構いません。2回目、3回目の来店で「前に言っていたあれ」と思い出してもらえれば十分です。むしろ初回で強く勧めると、次の来店そのものが減ります。長い目で見るほうが、結果的に売上は積み上がります。
商品を絞る基準
取り扱いを増やすほど売れるわけではありません。むしろ絞ったほうが、スタッフの説明の精度が上がります。
基準はシンプルです。第一に、店で実際に使っている商品であること。第二に、悩み別に1つずつ揃っていること。第三に、リピートしやすい価格帯であること。
悩み別というのは、乾燥・ダメージ・広がり・頭皮といった軸です。それぞれに1品ずつあれば、どんな相談にも答えられます。同じ悩みに3品あると、スタッフもお客様も迷います。
在庫の面でも、絞ったほうが管理しやすくなります。売れ残りは仕入れた時点で費用になっているため、回転しない商品を抱えることは資金の固定化にほかなりません。月次の資金の動きは資金繰り表の作り方で確認してください。
価格帯についても補足します。高価格帯の商品ばかりだと、提案のハードルが上がります。3,000円前後で試せるものを1つ用意しておくと、初めての方にも勧めやすくなります。まず1本使ってもらい、良ければ次につながる、という流れを作るほうが現実的です。
スタッフが動ける仕組みにする
最後は運用です。個人にノルマを課すやり方は、短期的には数字が出ても長続きしません。次の3つを試してください。
第一に、店全体の目標にすること。個人別の順位を貼り出すより、店の合計を追うほうが協力が生まれます。第二に、売れた場面を共有すること。朝礼で1分、「こう伝えたら買っていただけた」を話す時間を作ります。第三に、まずスタッフに使ってもらうこと。社販価格で試せるようにすると、実感を持って話せるようになります。

効果の確認は月次で行います。見るのは店販売上そのものより、店販が付いた会計の比率です。全体の何割に店販が付いているかが分かると、提案が実行されているかどうかが判断できます。
店販は、無理に伸ばそうとすると接客の質を損ないます。逆に、髪の状態を丁寧に伝える延長線上に置ければ、お客様にとっても役立つ情報になります。売ることではなく、伝えることを起点に組み立ててみてください。
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