美容室の試用期間は法律で長さが決まっていないため、3か月を基本に長くても6か月程度で設定し、労働条件通知書に書きます。試用期間中も最低賃金や社会保険のルールは同じで、14日を超えて働いた人を本採用しないときは30日前の予告と合理的な理由が必要です(労働基準法第20条・第21条)。
試用期間の長さの決め方、試用期間中の給与と2026年度の最低賃金、社会保険・雇用保険の扱い、労働条件通知書の記載例、本採用しない場合に認められる理由と手続きを順に整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:美容室の試用期間で押さえる6つのルール
試用期間とは、本採用の前に勤務態度や適性を確かめる期間です。法律上は「店が一定の理由で契約を解消できる権利を残した労働契約」と考えられており(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日判決)、すでに雇用契約は成立しているので、労働法のルールは本採用後と同じように適用されます。
| 論点 | ルール | 根拠 |
|---|---|---|
| ① 長さ | 法律の定めはない。3か月を基本に、長くても6か月程度が目安。不当に長いと無効とされるおそれがある | 裁判例(ブラザー工業事件など) |
| ② 給与 | 本採用後より低くしてよいが、最低賃金は下回れない。減額の特例は労働局長の許可制で上限20% | 最低賃金法第4条・第7条、同法施行規則第5条 |
| ③ 社会保険・雇用保険 | 加入要件を満たせば入社日から加入。試用期間を理由に遅らせられない | 厚生年金保険法第12条(適用除外に試用期間は含まれない)、雇用保険法 |
| ④ 明示 | 求人票と労働条件通知書に、試用期間の有無・長さ・期間中の条件を書く | 職業安定法施行規則第4条の2、労働基準法第15条 |
| ⑤ 入社14日以内 | 本採用しない場合も解雇予告は不要。ただし合理的な理由は必要 | 労働基準法第21条第4号、労働契約法第16条 |
| ⑥ 入社14日超 | 30日前の予告か、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)が必要 | 労働基準法第20条・第21条 |
「お試し期間だから社会保険はまだ」「試用期間中ならいつでも辞めてもらえる」は、どちらも誤りです。試用期間は、本採用するかどうかを記録に基づいて判断するための期間として運用します。
試用期間は何か月にするか — 3か月を基本に、長くても6か月程度まで
試用期間の長さに法律上の上限はありませんが、3か月を基本にし、長くても6か月程度に収めるのが実務の目安です。働く人の立場を長く不安定にする試用期間は、合理的な範囲を超える部分が公序良俗に反して無効とされた裁判例があります(ブラザー工業事件・名古屋地裁昭和59年3月23日判決)。
美容室では、採用区分ごとに「試用期間で何を確かめるか」を先に決め、そこから期間を決めます。
| 採用区分 | 期間の目安 | 試用期間で確かめること |
|---|---|---|
| 新卒アシスタント | 3か月 | 出勤・遅刻の状況、シャンプーや薬剤塗布など基礎技術の伸び方、お客様への接し方 |
| 中途アシスタント | 3か月 | 前の店で身に付けた技術の確認、店の手順や衛生ルールへの適応 |
| 中途スタイリスト | 3か月 | カット・カラーの技術チェック、カウンセリング、店の価格帯に合った施術時間 |
| パート・時短スタイリスト | 1〜3か月 | 勤務できる曜日・時間帯と予約の入り方、技術の確認 |
試用期間は「技術が一人前になるまでの期間」ではありません。アシスタントがデビューするまでには試用期間より長い育成期間がかかるため、試用期間で見るのは技術の到達点ではなく、指導を受けて伸びているか、勤怠や接客の基本ができているかです。面接の段階で確かめられることを増やせば、試用期間で判断する項目は減ります。面接での見極め方は採用面接で見るべきポイントで解説しています。
試用期間中の給与はいくらにできるか — 最低賃金は下回れない
試用期間中の給与を本採用後より低く設定することはできますが、都道府県の最低賃金を下回ることはできません。最低賃金法には試用期間中の人の最低賃金を減額できる特例(第7条第2号)がありますが、都道府県労働局長の許可が必要で、減額できるのは最大20%です(同法施行規則第5条)。
2026年度(令和8年度)の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円です。発効日は都道府県ごとに違い、10月1日から12月にかけて順に切り替わります。
| 都道府県 | 最低賃金(時間額) | 発効日 |
|---|---|---|
| 東京都 | 1,280円 | 2026年10月1日 |
| 神奈川県 | 1,279円 | 2026年10月1日 |
| 大阪府 | 1,231円 | 2026年10月1日 |
| 愛知県 | 1,195円 | 2026年10月1日 |
| 福岡県 | 1,114円 | 2026年10月4日 |
| 全国加重平均 | 1,177円 | ― |
最も低いのは宮崎県の1,085円(10月24日発効)で、岩手県・熊本県は12月1日、沖縄県は12月2日の発効です。自店の都道府県の額と発効日は、厚生労働省の一覧で確認してください。
試算 — 東京都で試用期間中の月給を20万円にすると最低賃金を割るか(仮の設定)
1日8時間・年間休日105日のアシスタント(年間所定労働時間2,080時間、月平均約173.3時間)で計算します。月給20万円を時給に直すと約1,154円で、東京都の最低賃金1,280円を下回ります。同じ条件で最低賃金を満たす月給の下限は、東京都で221,867円、大阪府で213,374円、福岡県で193,094円です。
最低賃金と比べる賃金に入るのは、基本給と毎月決まって払う手当です。通勤手当・家族手当・皆勤手当や残業代は含めません。歩合給がある店や、週44時間の特例を使って所定労働時間が長い店は計算が変わるため、最低賃金引き上げへの対応の計算式で確認してください。
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試用期間中も社会保険・雇用保険に入るか — 要件を満たせば入社日から
入ります。健康保険・厚生年金の適用除外に「試用期間中の人」は含まれておらず、加入要件を満たすスタッフは試用期間中でも入社日から加入させます。雇用保険も、週20時間以上働き31日以上の雇用が見込まれれば入社日から対象です。
| 制度 | 試用期間中の扱い | 美容室での注意点 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 適用事業所なら、加入要件を満たす人は入社日から加入 | 法人の美容室は1人から強制適用。個人経営の美容室は人数に関係なく任意適用 |
| 雇用保険 | 週20時間以上・31日以上の雇用見込みで入社日から加入 | 個人経営の店でも、スタッフを雇えば対象 |
| 労災保険 | 雇った日から全員が対象 | パート・アルバイトも含む |
| 年次有給休暇 | 「6か月継続勤務」は入社日から数える | 試用期間が終わってから数えるのは誤り |
個人経営の美容室が任意適用になるのは、理容・美容業が厚生年金保険法第6条で定める個人事業所の強制適用業種に入っていないためです。法人化している店や任意適用の認可を受けた個人店では、試用期間を理由に加入を遅らせると、後からさかのぼって手続きと保険料の支払いが必要になります。加入の要件と手続きは社会保険の加入義務にまとめています。
労働条件通知書・求人票・就業規則への書き方(記載例)
試用期間は、求人票と労働条件通知書の両方に、有無・長さ・期間中の条件を書きます。職業安定法施行規則は求人の段階で試用期間を明示するよう定め、期間中と期間後で条件が違う場合はそれぞれを示すよう求めています(第4条の2第3項・第6項)。
労働条件通知書の記載例(日付・金額は記入例です)
- 試用期間:あり(入社日から3か月。2027年4月1日〜2027年6月30日)
- 試用期間中の賃金:基本給 月額225,000円(本採用後 月額235,000円)
- 試用期間中の労働時間・休日・社会保険:本採用後と同じ
- 本採用の判断:勤務態度、技術の習得状況、健康状態等を総合して判断し、就業規則第◯条の事由に該当する場合は本採用しないことがある
- 延長:適性の判断に必要な場合は、本人と面談のうえ、1回に限り最長3か月延長することがある
記載例の試用期間中の基本給225,000円は、前の試算の条件で東京都の最低賃金を満たす水準(時給換算で約1,298円)です。労働条件通知書の全体の書き方は雇用契約書と労働条件通知書の違いで記入例を紹介しています。
就業規則に入れておく4つの項目
常時10人以上の店は、試用期間の定めを就業規則に入れて労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第89条)。10人未満の店でも、次の4つは就業規則か労働条件通知書に書いておかないと、後で判断の根拠を示せません。①試用期間の長さ、②本採用しない事由(無断欠勤・遅刻の繰り返し、指導しても改善しない、重要な経歴の詐称、健康上の理由で業務に耐えられないなど)、③延長の条件と上限、④試用期間を勤続年数に通算することです。条項の入れ方は就業規則は必要かで整理しています。
本採用しない(本採用拒否)が認められるのはどんな場合か
本採用しないことは法的には解雇にあたり、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限って有効です(労働契約法第16条)。最高裁は、試用期間中の解約権は通常の解雇より広く認められるとしつつ、その趣旨・目的に照らして合理的な理由が必要だと判断しています(三菱樹脂事件)。
| 本採用しない理由 | 認められやすさ | ポイント |
|---|---|---|
| 無断欠勤や遅刻が続き、注意しても改善しない | 認められやすい | 日付と注意した内容を記録しておく |
| 美容師免許の有無や職歴など、採用の前提になる経歴を偽っていた | 認められやすい | 入社時に免許証の原本で確認しておく |
| 指導しても基礎技術の習得がほとんど進まない | 指導の記録しだい | 何をいつ教え、どこまでできたかを残す |
| お客様や同僚への態度に問題があり、注意しても直らない | 指導の記録しだい | 具体的な出来事と注意した日時を残す |
| 「店の雰囲気に合わない」「なんとなく合わない」 | 認められにくい | 理由に具体性がない |
| 売上が落ちたので人件費を減らしたい | 認められにくい | 本人の適性とは関係がない |
どの理由でも、判断の材料になるのは記録です。試用期間中は2週間〜1か月ごとに面談し、課題と改善の状況を書面で残しておくと、本採用するにしてもしないにしても本人に説明できます。
本採用しない場合の手続き — 入社14日以内か、14日を超えたかで変わる
入社から14日以内なら解雇予告は不要ですが、14日を超えて働いた人には30日前の予告か、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です(労働基準法第20条・第21条)。予告の日数は、手当を払った日数分だけ短くできます。
-
面談で課題を伝え、改善の期間を示す
結論を出す前に、何がどの程度足りないのかを具体的に伝え、改善を求めた日と内容を記録します。
-
本採用しないと決めたら、早めに本人に伝える
試用期間の満了日の30日以上前に予告すれば、解雇予告手当は不要です。満了直前に伝えると手当が必要になります。
-
解雇予告手当と最終給与を計算する
予告が30日に足りない日数分の平均賃金を、最終給与とは別に計算して支払います。
-
理由の証明書を求められたら交付する
退職する本人から退職理由の証明書を請求されたら、遅滞なく交付する義務があります(労働基準法第22条)。
-
退職の手続きを進める
社会保険の資格喪失届(5日以内)、雇用保険の資格喪失届と離職証明書(10日以内)、保健所への従業者の変更届などを進めます。順番はスタッフ退職時の手続き一覧で確認できます。
試算 — 解雇予告手当はいくらになるか(仮の設定)
平均賃金は、原則として直前3か月の賃金総額をその期間の暦日数で割って出します(労働基準法第12条)。月給22.5万円のスタッフで、直前3か月(92日)の賃金総額が67.5万円なら平均賃金は約7,337円です。予告なしで本採用を取りやめる場合の解雇予告手当は30日分の約22万円、15日前に予告すれば残り15日分の約11万円になります。数字は自分で置いた前提です。
試用期間を延長するときの条件
延長は、就業規則や労働条件通知書に延長の定めがあり、延長が必要な合理的な理由がある場合に限って認められると考えられています。延長するときは満了前に本人と面談し、何ができれば本採用するのかと延長期間を書面で示します。定めがないまま一方的に延長したり、何度も延長したりするのは避けてください。
試用期間の運用を、次の8項目で点検してください。
- 試用期間の長さを3か月程度(長くても6か月程度)で決めている
- 求人票に試用期間の有無・長さ・期間中の給与を書いている
- 労働条件通知書に試用期間、期間中の賃金、本採用しない事由、延長の条件を書いている
- 試用期間中の給与が、改定後の最低賃金を上回っている
- 社会保険(適用事業所の場合)と雇用保険に入社日から加入させている
- 2週間〜1か月ごとに面談し、指導内容と改善状況を記録している
- 本採用しない場合は、満了日の30日以上前に伝える段取りにしている
- 有給休暇の起算日を入社日にしている
よくある質問
試用期間中のスタッフから「辞めたい」と言われたら、すぐに辞めてもらってよいですか?
本人の申し出による退職なので、合意できれば退職日を決めて辞めてもらって構いません。期間の定めのない雇用では、本人は2週間前に申し出れば退職できるとされています(民法第627条第1項)。
試用期間中の練習時間にも給料を払う必要がありますか?
店の指示で行う練習や、参加が事実上強制されている練習は労働時間なので、試用期間中でも賃金の支払いが必要です。完全に自由参加の自主練習であれば労働時間にはあたりません。
3か月の有期契約で採用して、様子を見てから正社員にするのは試用期間と同じですか?
実質的に試用期間と扱われることがあります。最高裁は、適性を見る目的で期間を定めた場合、期間の満了で当然に終了する明確な合意がない限り、その期間は試用期間と判断しています(神戸弘陵学園事件・平成2年6月5日判決)。
試用期間は有給休暇の「6か月継続勤務」に含まれますか?
含まれます。継続勤務の期間は入社日から数えるため、3か月の試用期間を経て本採用された人も、入社から6か月で年次有給休暇が付与されます(全労働日の8割以上の出勤が条件です)。
試用期間中に体調を崩して休みが多いスタッフを本採用しないことはできますか?
休みが多いことだけを理由にすると争いになりやすく、慎重な判断が必要です。業務に耐えられるかを本人と話し合い、医師の意見や勤務時間の調整を検討したうえで判断し、経過を記録に残してください。
出典:労働基準法第12条・第15条・第20条・第21条・第22条・第39条・第89条(e-Gov法令検索「労働基準法」)、労働契約法第16条、最低賃金法第4条・第7条、最低賃金法施行規則第5条、職業安定法施行規則第4条の2、厚生年金保険法第6条・第12条、民法第627条、最高裁昭和48年12月12日大法廷判決(三菱樹脂事件)、最高裁平成2年6月5日判決(神戸弘陵学園事件)、名古屋地裁昭和59年3月23日判決(ブラザー工業事件)、厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」(厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」)。個別の判断は社会保険労務士か労働基準監督署に確認してください。
試用期間は「3か月・書面で明示・記録を残す」の3点で運用します。まず労働条件通知書のひな形に試用期間の欄と本採用しない事由を加え、試用期間中の給与が改定後の最低賃金を上回っているかを確認してください。
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