美容室に就業規則は必要か|10人未満でも作る理由・美容室で入れる条項・作成後の届出と周知

美容室に就業規則は必要か|10人未満でも作る理由・美容室で入れる条項・作成後の届出と周知

美容室の就業規則は、常時10人以上の労働者(パート・アルバイトを含む)を使用する店で作成と労働基準監督署への届出が義務です。10人未満の店には義務がありませんが、遅刻・無断欠勤への対応、休職、退職時の顧客情報の持ち出し、SNSでの顧客写真の扱いなどは、就業規則に定めがなければ店側がルールとして適用できません。

この記事では、就業規則が必要になる条件、10人未満でも作る理由、美容室で入れておきたい条項、厚生労働省のモデル就業規則の使い方、作成後の意見聴取・届出・周知の手順、よくある失敗を、厚生労働省の資料をもとに整理します。

美容室の就業規則の要点|10人以上は義務、10人未満でも懲戒・休職・顧客情報のルールに必要
目次

結論:10人以上は義務、10人未満でも「懲戒・休職・顧客情報」のルールを効かせるなら作る

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。「10人」は正社員だけでなく、パート・アルバイトを含めた人数で、店舗ごとではなく事業場(通常は店舗)ごとに数えます。2店舗を運営していて各店6人なら、事業場ごとには10人未満ですが、本社機能が1か所にあり同一事業場と判断されるケースもあるため、判断に迷う場合は労働基準監督署に確認します。

10人未満でも就業規則を作る実務上の理由は、「懲戒処分は就業規則に根拠がなければできない」「休職制度は就業規則で定めて初めて存在する」「顧客情報の持ち出し禁止やSNSのルールは、規則として周知して初めて守らせられる」という点にあります。スタッフが5人の店でも、これらの問題は起きます。

労働条件通知書との関係は雇用契約書と労働条件通知書の違い、有給休暇の運用は有給休暇の運用で扱っています。この記事は「就業規則そのものの作り方」に絞ります。

就業規則に書く事項 — 必ず書く「絶対的必要記載事項」と、定めるなら書く「相対的必要記載事項」

区分事項美容室での要点
絶対的必要記載事項(必ず書く)始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、交替制営業時間と労働時間を分ける。早番・遅番があるならシフトの決め方。有給の申請ルール
賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期、昇給固定給と歩合の計算式。別に「賃金規程」を作り、本則から引用する形が改定しやすい
退職に関する事項(解雇の事由を含む)自己都合退職の申し出期限、定年、解雇の事由、退職時の返却物と顧客情報
相対的必要記載事項(定めるなら書く)退職手当制度があれば対象者・計算・支払時期
臨時の賃金・賞与、最低賃金額賞与の有無と支給基準
労働者の食費・作業用品などの負担シザー等の自己負担、制服の扱い
安全衛生薬剤の取り扱い、健康診断
職業訓練営業前後の練習・レッスンの位置づけ
災害補償、表彰・制裁、休職など懲戒の種類(けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇)と事由。休職の期間と復職の手続き

懲戒と休職は「相対的」ですが、定めがなければ制度自体が存在しない扱いになります。「無断欠勤が続いたので減給した」「体調不良で長期休むので休職にした」は、就業規則に根拠がなければ店側の一方的な措置として争いになります。

美容室で入れておきたい条項

テーマ条項の要点入れていないと起きること
練習・レッスン店が指示する練習は労働時間として賃金を払う。任意参加の自主練は評価に影響しない旨営業前後の練習が未払い残業として請求される
私物の道具シザー・コーム等は自己負担、薬剤・タオル・ワゴンは店が支給。紛失・破損時の扱い道具代の負担をめぐる不満、退職時の返却トラブル
SNS・顧客写真顧客の写真は本人の同意を得たものだけ。店の公式アカウントと個人アカウントの線引き。退職後の店の写真の使用無断掲載のクレーム、退職者が店の写真で集客
顧客情報カルテ・連絡先の持ち出し禁止、退職後の連絡の禁止、違反時の懲戒独立時に顧客リストを持ち出される
服装・身だしなみ店のコンセプトに沿った基準。髪色・ネイル・アクセサリーの範囲基準がなく注意できない
兼業・副業面貸し・訪問美容などの副業を認めるか、届出制にするか競合店での副業を止められない
退職の手続き申し出の期限(法律上は2週間前で足りるが、引き継ぎのため1か月前を求める旨)、担当客の引き継ぎ、返却物突然の退職で予約の穴が空く

顧客写真の同意は顧客の写真撮影の許可、退職時の顧客の引き継ぎはスタッフの独立で顧客がついていくのを防ぐにはで扱っています。退職の申し出期限を1か月前と定めても、法律上は2週間前の申し出で退職できる(期間の定めのない契約の場合)ため、規則は「お願い」の根拠であって、退職を止める効力はありません。

美容室の就業規則を作って運用するまでの5ステップのフロー図

就業規則を作って運用するまでの手順(5ステップ)

  1. モデル就業規則を入手し、店の実態に合わせて条文を直す

    厚生労働省のモデル就業規則は、条文と解説がセットになっています。労働時間・休日・賃金の条文を店の実態(営業時間、シフト、歩合)に合わせて書き換えます。モデルをそのまま使うと、店の運用と合わない条文が「規則」として残り、後で店側が不利になります。

  2. 美容室固有の条項を追加する

    練習・道具・SNS・顧客情報・身だしなみ・兼業・懲戒の条項を追加します。懲戒は「事由」と「処分の種類」を対応させて書きます。

  3. 賃金規程などを別規程として整える

    賃金の計算式、育児・介護休業、パート用の規程は、本則と分けて別規程にすると、最低賃金の改定や歩合率の変更のたびに本則を触らずに済みます。別規程も就業規則の一部として届出・周知の対象です。

  4. 労働者代表の意見を聴き、意見書を添える

    労働者の過半数を代表する者(管理監督者ではない者を民主的に選出)から意見を聴き、意見書を添付します。同意は不要ですが、意見を聴く手続きは必須です。10人以上の事業場は、労働基準監督署へ届け出ます。

  5. 全員に周知する

    休憩室への備え付け、書面の交付、社内のクラウドで閲覧できる状態のいずれかで、いつでも見られるようにします。入社時に説明し、説明した記録を残します。周知していない就業規則は効力が認められません。

作って届け出ただけで、スタッフが見られる場所に置いていない就業規則は、懲戒や休職の根拠になりません。オーナーの机の引き出しにしまってある、PDFはあるが共有していない、という状態は「周知」に当たりません。入社時の説明と、いつでも閲覧できる保管の両方を行ってください。

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10人未満の店が就業規則を作るときの現実的な進め方

スタッフが3〜5人の店で、いきなり数十条の就業規則を作るのは負担です。優先順位は「労働時間・休日・賃金(絶対的記載事項)」→「退職・懲戒・休職」→「美容室固有の条項」の順で、まず前半を作って周知し、後から条項を追加する形でも構いません。

費用は、モデル就業規則をもとに自分で作れば無料、社会保険労務士に依頼する場合は内容と規程の数で変わります。賃金規程と懲戒の条文は争いになったときの影響が大きいため、自作した場合でも、この2つは専門家の確認を受けることを勧めます。就業規則の作成や改定に使える助成金は、要件が年度ごとに変わるため、厚生労働省の雇用関係助成金の案内で確認してください。雇用系の助成金の考え方は美容室が使える雇用系の助成金で扱っています。

懲戒の条文は「事由」と「処分」を対応させる

懲戒の条文で多い失敗は、「店の秩序を乱したとき」のような抽象的な事由に、けん責から懲戒解雇までの処分を一括で結びつける書き方です。「無断欠勤が連続3日以上」「顧客情報を持ち出した」「顧客の写真を無断でSNSに掲載した」のように事由を具体的に書き、軽い処分から段階的に適用する形にします。減給には労働基準法上の上限(1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が賃金総額の10分の1)があり、これを超える減給は無効です。処分の前に本人の弁明を聞く手続きも条文に入れておくと、後の争いで手続きの正当性を示せます。

事由の例1回目繰り返し・重大な場合
正当な理由のない遅刻・欠勤の繰り返しけん責(始末書)減給、出勤停止
顧客写真の無断掲載、顧客への私的な連絡けん責、減給出勤停止、諭旨解雇
顧客情報の持ち出し、競合店への提供出勤停止、諭旨解雇懲戒解雇
店の金銭・商品の横領懲戒解雇

就業規則と労働条件通知書、どちらが優先されるか

就業規則で定める基準に達しない労働条件を個別の契約で定めても、その部分は無効となり、就業規則の基準が適用されます。逆に、個別の契約で就業規則より有利な条件を定めた場合は、その契約が優先されます。つまり就業規則は「最低ライン」で、通知書と食い違いがあると労働者に有利な方が適用されることになります。両方を作るときは、条件を一致させます。

変更(不利益変更)のときの注意

歩合率の引き下げ、休日の削減、手当の廃止など、労働者に不利な変更は、原則として労働者の合意が必要です。合意なく就業規則を変更する場合は、変更の必要性、内容の相当性、労働者への説明などの事情から、合理的と認められる範囲でしか効力がありません。変更のたびに意見聴取・届出・周知をやり直し、説明の記録を残してください。給与制度の変更は給与・歩合制度の作り方で扱っています。労務の仕組みづくりはVAULTAの求人・採用・DX支援でも相談を受け付けています。

よくある質問

業務委託の美容師は「10人」に数えますか?

業務委託は労働者ではないため、原則として数えません。ただし実態が雇用と変わらない場合は労働者として数えられます。正社員・パート・アルバイトは全員数えます。

ネットのテンプレートを使ってもよいですか?

使えますが、出典が古いと法改正に対応していないことがあります。厚生労働省のモデル就業規則は改正に合わせて更新されているため、まずこれをもとにし、美容室の実態に合わせて直すことを勧めます。

就業規則を作ると、店の自由がなくなりませんか?

就業規則は店側が定めるルールです。作らないことで自由になるのではなく、懲戒・休職・退職時のルールを店側が主張できなくなります。実態に合った内容で作れば、店の運営を守る道具になります。

パートだけの店でも必要ですか?

パートも労働者として数えるため、常時10人以上なら義務です。10人未満でも、パートの契約更新、有給、退職のルールを定める意味で作る価値があります。パート用の規程を別に作ることもできます。

届出をしていない就業規則は無効ですか?

届出は義務ですが、届出の有無と効力は別で、周知されていれば効力があります。ただし10人以上で届け出ていない状態は法律違反です。周知は必須で、周知がなければ効力が認められません。

SNSの投稿を禁止することはできますか?

私生活上の投稿を全面的に禁止することはできませんが、顧客の写真・情報の掲載、店の信用を損なう投稿、営業秘密の漏えいを禁止し、違反時の懲戒を定めることはできます。範囲を具体的に書くことが重要です。

美容室の就業規則チェックリスト

作成・改定のときに、次の7項目を確認してください。

  • 労働時間・休憩・休日・休暇(有給の取得ルール)を店の実態どおりに書いた
  • 賃金(固定給・歩合・締め日・支払日・昇給)を賃金規程で定めた
  • 練習・レッスンの扱い(労働時間か任意か)を書いた
  • 私物の道具の負担、店の備品の扱いを書いた
  • SNS・顧客写真・顧客情報の取り扱いと、退職後の持ち出し禁止を書いた
  • 懲戒の種類と事由、休職、退職・解雇の手続きを書いた
  • 労働者代表の意見書を添えて届け出た(10人以上)/全員に周知した

就業規則は、「モデルをベースに実態に合わせる」「美容室固有の条項を足す」「周知して初めて効く」の3点が要です。10人未満でも、懲戒・休職・顧客情報のルールを効かせたいなら、作る価値があります。

美容室の就業規則チェックリスト

出典・参考資料

就業規則の記載事項と手続きは法改正で変わることがあります。作成の際は厚生労働省のモデル就業規則の最新版を確認し、賃金規程・懲戒条項・不利益変更の判断は社会保険労務士にご相談ください。

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この記事を書いた人

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