美容室の生成AI利用ルールの作り方|個人情報・写真・著作権で決めておくことと規程の例

美容室の生成AI利用ルールの作り方|個人情報・写真・著作権で決めておくことと規程の例

美容室の生成AI利用ルールは、4つのことを決めて1〜2枚の規程にまとめれば作れます。「使ってよい業務」「入力してはいけない情報」「公開前の確認」「アカウントの管理」の4つです。お客様の氏名・連絡先・カルテ・顔写真は入力しないことを基本にし、例外は責任者の承認制にします。

この記事では、個人情報保護委員会と文化庁の資料をもとに、ルールに入れる8つの項目、入力の可否、写真と著作権の扱い、規程の例文、定着させる手順を整理します。

美容室の生成AI利用ルールの要点|個人情報・写真・著作権で決めておくこと
目次

結論:禁止事項より先に「使ってよい範囲」と「確認の手順」を決める

スタッフが個人のアカウントで生成AIを使い始めてからルールを作ると、どこまで情報が入力されたかを店が把握できません。使ってよい業務と使い方を先に示すほうが、禁止事項だけを並べるより現場で判断しやすくなります。すでに使っている場合も、今の使い方を聞き取ってから作れば、実態から離れたルールになりません。

入力した情報は、サービスや設定によっては事業者側に保存され、学習に使われる場合があるため、利用規約と設定の確認がルール作りの出発点です。個人情報保護委員会も2023年6月、生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しています。

顧客データ全体の守り方は顧客データを守る方法、LINEでの個人情報の扱いはLINE個人情報管理、AIの具体的な使い方はAI活用とChatGPT入門で扱っています。AIで変わる業務の全体像は美容師の仕事はAIに奪われるかで整理しました。この記事は、店として生成AIを使うときのルール作りに絞ります。

生成AI利用ルールとは:決めておく8つの項目

生成AI利用ルールとは、店の業務で生成AIを使うときの目的、使ってよい範囲、禁止事項、確認の手順、責任者を定めた社内の決まりのことです。1人店でもオーナー自身の使い方を書き出しておくと、スタッフを雇ったときにそのまま説明に使えます。

項目 決めること 美容室での例
使ってよい業務 対象の業務と、使ってよいサービス 口コミ返信・SNS投稿・お知らせの下書き、マニュアルの整理
入力禁止の情報 個人情報、写真、社外秘の情報 お客様の氏名・電話番号・カルテ・顔写真、スタッフの個人情報、未公開の売上
写真・画像 お客様の写真を入力するか、AIで作った画像をどう使うか 顔写真は入力しない。AIで作った画像を施術例として載せない
著作権・他人の文章 他店や他人の文章・画像の扱い 他店の文章や写真を入力して、似たものを作らない
事実の確認 出力の内容を誰が確かめるか 料金・営業日・効果の表現は、担当者が原本と照らし合わせる
公開前の承認 誰が確認して公開するか 口コミ返信は店長、広告やブログはオーナーが承認する
アカウントの管理 店のアカウントか個人のアカウントか、設定の内容 店のアカウントを使い、入力内容を学習に使わない設定を確認する
退職・異動のとき アカウントと作成物の扱い 権限を外し、作成物と履歴は店に引き継ぐ

ルールの形は、条文の形式でも箇条書きでもかまいません。大事なのは、スタッフが迷ったときに「使ってよいか」「入力してよいか」「誰に聞くか」の3つをすぐに確かめられることです。

違反したときの処分まで定める場合は、就業規則の懲戒の定めとそろえる必要があります。就業規則の整え方は就業規則は必要かを参考にし、判断に迷う点は社会保険労務士に確認してください。

入力してはいけない情報と、写真の扱い

個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、事業者が生成AIに個人情報を含む指示文(プロンプト)を入力する場合の注意を示しました。まず、利用目的の範囲内かを十分に確認することを求めています。さらに、本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反するおそれがあると示しました。そのため、入力した個人データが機械学習に使われないことなどを十分に確認するよう求めています。

美容室のカルテには、髪や頭皮の状態、アレルギーや皮膚の症状など、健康に関わる情報が含まれることがあります。内容によっては、取得に原則として本人の同意が必要な「要配慮個人情報」に当たる可能性もあるため、生成AIには入力しないことを原則にします。

情報 入力 理由と代わりの方法
お客様の氏名・電話番号・メールアドレス・LINEの表示名 しない 個人を特定できる。「お客様A」などに置き換える
カルテの内容(施術履歴・薬剤・アレルギー・頭皮の状態) しない 健康に関わる情報を含むことがある。一般的な髪の悩みに言い換える
お客様の顔写真・施術写真 しない(例外は承認制) 顔は個人を識別できる。掲載の同意とAIへの入力は分けて考える
口コミの本文 投稿者名や来店日を除けば可 公開されている文でも、個人が分かる情報を一緒に入れない
スタッフの個人情報・評価 しない 労務の情報で、目的外の利用になりやすい
料金表・営業時間・公開済みのメニュー 可 公開情報。最新の内容かどうかは人が確認する
売上・原価など未公開の経営数字 原則しない 社外秘。使う場合は学習に使わない設定と責任者の承認を条件にする

個人を特定できない形に言い換える例

入力禁止のルールは、「どう言い換えればよいか」とセットで示すと守りやすくなります。カルテの内容をもとに説明文やホームケアの案内を作りたいときは、次のように置き換えます。

  • 名前・連絡先・来店日は入れない(「〇〇様、9月20日来店」は削る)
  • 年齢は年代に、施術の履歴は一般的な表現にする(「32歳、ブリーチ2回」は「30代、ブリーチを2回した髪」にする)
  • 健康に関わる内容は入れず、知りたいことだけを書く(「頭皮に赤みが出やすい」は「頭皮にやさしいホームケアの一般的な注意点」にする)

言い換えた文から出てくる答えは、一般論にとどまります。目の前のお客様に合わせる部分は、カルテを見ながら美容師が判断して補います。

写真とAIで作った画像の扱い

顔が写った写真は、特定の個人を識別できる情報です。SNSに載せる同意を得ていても、外部のAIサービスに入力して加工することまで同意の範囲に入っているとは限りません。掲載の同意の取り方は写真撮影と掲載許可の取り方を参照し、AIへの入力は原則として行わない運用にします。

AIで作ったヘアスタイルの画像を、店で実際に施術した例のように載せると、実際より良い仕上がりを期待させる表示になります。景品表示法の優良誤認表示にあたるおそれもあるため、使う場合は「AIで作成したイメージ」と明記し、施術例とは分けて載せます。

著作権で決めておくこと(文化庁の考え方)

「AIと著作権に関する考え方について」は、文化審議会著作権分科会の法制度小委員会が2024年3月15日にまとめた資料です。生成AIで作った文章や画像の利用が著作権侵害になるかを整理しています。判断は、人がAIを使わずに作った場合と同じく、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」によります。

依拠性は、利用者が既存の作品を知っていて、それに似たものを生成させた場合に認められると整理されています。例として、既存の作品そのものを入力して画像を作る場合や、作品名などの固有名詞を入力する場合が挙げられています。

一方で、作風が共通しているだけなら、作風はアイデアにとどまるため、それ自体は著作権侵害にならないという考え方も示されています。ただし表現のレベルで似ていれば別で、最終的には個別の事例ごとに判断されます。

AIが作った文章や画像そのものは、指示が表現に至らないアイデアにとどまる場合、著作物とは認められないと考えられています。人が具体的に手を加えた部分は著作物になり得るため、店のブログやお知らせは、AIの下書きを人が書き直して仕上げます。なお、この考え方自体に法的な拘束力はありません。

美容室で起きやすい3つの場面

  1. 他店のブログやメニューの説明を貼り付けて言い換えさせる:元の文章を知ったうえで似た文章を作ることになり、類似性と依拠性が認められやすい使い方です。自店の施術内容から一から書かせます。
  2. 人気サロンやモデルの写真を入力して似た画像を作る:既存の写真を入力する生成は、依拠性が認められる例として挙げられている使い方です。写真に写った人の肖像の問題も重なります。
  3. 作品名やキャラクター名を入れて画像を作る:固有名詞の入力も、依拠性が認められる例に挙がっています。店の告知画像には使いません。

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そのまま使える生成AI利用ルールの例文

次の例文は、スタッフが数人いる店を想定しています。1人店では「店長」を「オーナー」に読み替え、使っていない業務やサービスは削って使います。

生成AI利用ルール(例)

  • 第1条(目的)このルールは、当店の業務で生成AIを使うときに、お客様とスタッフの情報を守り、正確な情報を発信するために定める。
  • 第2条(使ってよい業務)生成AIは、口コミ返信・SNS投稿・お知らせ・社内マニュアルの下書き、文章の要約と言い換えに限って使うことができる。
  • 第3条(サービスとアカウント)店が指定したサービスを、店が発行したアカウントで使う。入力内容を学習に使わない設定がある場合は、その設定にする。
  • 第4条(入力の禁止)お客様とスタッフの氏名・連絡先・カルテ・写真、未公開の経営数字、他人の文章・画像は入力しない。必要な場合は店長の承認を得る。
  • 第5条(確認と公開)出力は、担当者が料金・日付・事実・表現を確認してから使う。外部に公開する文章は、店長の承認を受ける。
  • 第6条(画像)AIで作成した画像を施術例として使わない。イメージとして使う場合は、AIで作成したことを明記する。
  • 第7条(報告)禁止された情報を誤って入力したときは、すぐに店長に報告する。
  • 第8条(退職・異動)退職・異動のときは、アカウントの権限を外し、作成物は店に引き継ぐ。
  • 第9条(見直し)このルールは年1回以上、サービスの規約や法令の変更に合わせて見直す。

例文を配るだけでなく、第4条の入力禁止の情報は具体例を付けて説明します。「お客様A、30代、ブリーチ2回」のように、個人を特定できない形に言い換える練習をしておくと、禁止の意味が伝わりやすくなります。退職時の手続き全体はスタッフ退職時の手続き一覧と合わせて確認します。

承認の流れの例

  • 星4〜5の口コミへの返信:担当者が下書きを直し、そのまま返信する
  • 星1〜3の口コミやクレームへの返信:店長が内容を確認してから返信する
  • 料金・キャンペーン・営業日の告知、ブログ:オーナーが確認して公開する

承認の段階を内容の重さで分けると、確認が負担になりすぎず、判断が必要な文章だけに時間をかけられます。

美容室で生成AI利用ルールを作って定着させる5つの手順のフロー図

ルールを作って定着させる5つの手順

  1. スタッフの使い方の実態を聞く

    誰が、どのサービスを、どの業務に使っているかを聞き取ります。責めない前提で聞くと実態が出やすく、ルールの対象業務を現実に合わせられます。

  2. 使うサービスとアカウント、設定を決める

    店として使うサービスを決め、利用規約とプライバシーに関する設定を確認します。入力内容を学習に使わない設定がある場合はその設定にし、店が管理するアカウントで使います。店で使うツール全体の選び方は経営に使えるアプリ・ツール一覧で扱っています。

  3. 例文を店に合わせて直し、全員に説明する

    例文の業務・承認者・禁止事項を店の実態に合わせて直し、ミーティングで説明します。目的は「お客様の情報を守り、正確な情報を出すため」と伝え、禁止の理由を1つずつ話します。説明した日と参加者を記録し、入社時の説明にも加えます。

  4. 入力前と公開前の確認を習慣にする

    入力前は「個人を特定できる情報が入っていないか」、公開前は「料金・日付・事実・表現が正しいか」を確認します。確認項目を短いチェック表にして、パソコンやタブレットの近くに置きます。表には「名前・連絡先・来店日が入っていない」「料金と日付を原本で確かめた」「効果を言い切る表現がない」の3行を書きます。

  5. 3か月後と年1回、ルールを見直す

    使ってみて困った点、誤って入力しそうになった場面、サービスの規約の変更を集めて直します。スタッフから「使ってよいか迷った場面」を集めると、次の版で書き足すべき項目が見つかります。法令や国の考え方が変わったときも見直します。

運用の具体例とよくある失敗(仮の設定)

口コミ返信やSNS投稿の下書きに生成AIを使い、確認の時間を残した場合の作業時間を、仮の設定で試算します。

業務(月あたり・仮の設定) 導入前 導入後(下書き+確認) 差
口コミ返信 20件 15分×20件=300分 7分×20件=140分 160分
SNS投稿文 12本 30分×12本=360分 15分×12本=180分 180分
お知らせ文 4本 20分×4本=80分 10分×4本=40分 40分
合計 740分 360分 380分(約6時間20分)

この仮の設定でも、確認の時間は削っていません。確認を省いて生まれる時間は、誤りや情報漏えいのリスクと引き換えになるため、ルールには確認の時間を含めて運用を組み立てます。

依頼文は、たとえば「40代のお客様から、白髪染めの色持ちがよかったという口コミ。お礼と次回の提案を150字で」のように、名前・来店日・施術の細部を入れずに書きます。出てきた文は、実際の施術と店の言葉に合わせて直してから返信します。

公開した文章のうち、AIで下書きしたものは、作成者と確認者を簡単に記録しておきます。後から誤りが見つかったときに、どこで確認が漏れたかを振り返れます。

始めるなら、口コミ返信のように件数が多く、1件ごとの確認がしやすい業務が向いています。効果と手間を比べやすく、ルールの不足にも早く気づけます。

よくある失敗

  1. 個人のアカウントでの利用を黙認する:履歴や作成物が個人の手元に残り、退職時に店が回収できません。店のアカウントを用意します。
  2. 禁止事項だけを配る:何に使ってよいかが分からず、隠れて使う人が出るおそれがあります。使ってよい業務と例を示します。
  3. 出力をそのまま公開する:料金や営業日の誤り、効果を言い切るなどの広告で使えない表現が混じることがあります。担当者が原本と照らして直します。
  4. 他店や有名人の写真で画像を作る:著作権や肖像の問題になり得ます。画像は、店が権利を持つ素材か、素材を使わない指示で作ります。
  5. 誤って入力したときの報告先がない:報告が遅れると対応も遅れます。報告先と、サービス側で履歴を削除できるかを確認しておきます。

サービスや料金プランによって、入力した内容を学習に使うかどうかの初期設定や、履歴の保存期間は異なります。利用規約と設定画面は、使い始める前と規約が改定されたときに確認してください。個人のスマホに入れたAIアプリで店の写真や文章を扱うと、店の管理の外に情報が残ります。無料で使えるかどうかより、入力した情報がどう扱われるかでサービスを選ぶことが、お客様の情報を守る前提になります。

よくある質問

  1. 1人美容室でもルールは必要ですか?:法律で作成が義務づけられたものではありませんが、作っておくと判断がぶれません。オーナー自身が使う業務と入力しない情報を1枚に書いておけば、スタッフを雇うときの説明にもそのまま使えます。
  2. お客様の同意があれば、カルテの内容を入力してもよいですか?:同意があっても、サービスで入力内容がどう保存・利用されるかを確認し、必要最小限にとどめます。原則は、個人を特定できない形に言い換えて入力することです。
  3. AIで作った文章に著作権はありますか?:文化庁の考え方では、指示が表現に至らないアイデアにとどまる場合、AIの生成物は著作物と認められないとされています。人が具体的に加筆・修正した部分は、著作物になり得ます。
  4. AIで作った髪型の画像を、メニュー表やSNSに使えますか?:施術例としては使いません。イメージとして使う場合は、AIで作成したことを明記し、既存の写真を元にして作らないようにします。
  5. スタッフが個人で契約したAIを業務に使ってもよいですか?:原則として、店が指定したアカウントを使うルールにします。個人の契約では、履歴や作成物が退職後も個人の手元に残り、店が管理できません。店が費用を負担するアカウントを用意すると、ルールも守りやすくなります。
  6. ルールに違反したスタッフを処分できますか?:処分をするには、就業規則に懲戒の理由と種類を定めておく必要があります。まずは注意と再発防止の説明から始め、処分の判断は社会保険労務士などの専門家に確認します。

生成AI利用ルールのチェックリスト

ルールを配る前に、次の項目がそろっているかを確認します。

  • 使ってよい業務と、使うサービスを決めた
  • お客様とスタッフの個人情報、写真を入力しないと決めた
  • 入力内容を学習に使わない設定を確認した
  • 他店や他人の文章・画像を入力しないと決めた
  • 公開する文章は、担当者が事実と表現を確認してから出す
  • AIで作った画像は施術例に使わず、使うときは明記する
  • 店のアカウントを使い、退職時の権限停止と引き継ぎを決めた
  • 誤って入力したときの報告先と、見直しの時期を決めた
美容室の生成AI利用ルールのチェックリスト

出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)、文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)、文化庁「AIと著作権」。2026年9月時点で確認した情報です。規程の例文は一般的な例で、就業規則との関係や個別の事案の判断は、社会保険労務士・弁護士などの専門家に確認してください。作業時間の試算は仮の設定です。

生成AIの利用ルールは、使ってよい業務を示すこと、お客様の情報と写真を入力しないこと、公開前に人が確認することの3点を核にすれば、小さな店でも運用できます。例文を店に合わせて直し、3か月後に見直してください。

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この記事を書いた人

美容室オーナー・経営者向けメディア「vaulta」編集部。集客・リピート・融資・求人・DX・独立の実務情報を、一次情報を確認のうえ発信。お金に関わる記事は中小企業診断士の監修を受けています。編集責任者:ISOYAMA。

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