美容室にまつげ・ネイル・エステを併設するとき、まつげエクステとまつげパーマは厚生労働省の通知で「美容」に当たるため美容師免許を持つ人が美容所の中で施術し、ネイルとエステは国家資格がなくても行えますが、レーザーなどによる脱毛、アートメイク、HIFUなどの医行為はできません。どの形で併設するかは月の見込み人数で決まり、ネイル1席の試算では月20人未満なら面貸し、20〜78人なら業務委託、78人以上なら雇用が店に残る利益の多い形です。
メニューごとの資格と法律、面貸し・業務委託・雇用を人数で決める判断表と1区画の損益の試算、保健所に相談するときの一覧の記入例、エステのコース契約と特定商取引法の書面、脱毛と医療機器の線引き、つまずきやすい6つの点を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:トータルビューティーサロンの開業の早見表
トータルビューティーサロンは、メニューごとに適用される法律と必要な資格が違い、併設の形ごとに店に残る利益も違うことを前提に計画します。
| メニュー・項目 | 資格・施術する場所・目安 | 根拠・注意 |
|---|---|---|
| ヘア(カット・カラー・パーマ・セット)、メイク | 美容師が美容所の中で行う | 美容師法第2条・第6条・第7条 |
| まつげエクステ・まつげパーマ | 美容師が美容所の中で行う(雇用・委託・面貸しのどの形でも) | 平成20年3月7日 健衛発第0307001号 |
| ネイル | 国家資格は不要 | 美容は通常首から上の容姿を美しくすることと解されている(同通知) |
| エステ(ボディ・フェイシャル) | 国家資格は不要。首から上の施術は内容によって保健所に確認 | 医行為に当たる施術はできない |
| 脱毛・アートメイク・ケミカルピーリング・HIFU | 医師でなければ行えない | 医師法第17条、平成13年11月8日 医政医発第105号ほか |
| エステのコース契約 | 期間1か月超かつ総額5万円超は特定継続的役務提供 | 特定商取引法(書面交付、クーリング・オフ8日、中途解約) |
| 併設の形(ネイル1席の試算) | 月20人未満は面貸し、20〜78人は業務委託、78人以上は雇用 | 区画の固定費4万円・席料5万円・委託報酬50%などの前提 |
トータルビューティーサロンとは — メニューごとに適用される法律が違う
トータルビューティーサロンとは、ヘアに加えて、まつげ、ネイル、エステ、メイクなど複数の美容メニューを1つの店で提供するサロンのことです。1つの店でも、美容師法の「美容」に当たるメニューと当たらないメニューが混在します。
- 美容師法の対象になるメニュー:ヘア、メイク、まつげエクステ、まつげパーマ。美容師免許を持つ人が、開設届を出して確認を受けた美容所の中で施術します。
- 美容師法の対象外とされるメニュー:ネイル、ボディのエステなど。国家資格は不要ですが、衛生管理と事故への備えは美容所と同じ水準で行います。フェイシャルエステや眉の施術のように首から上で行うメニューは、内容によって美容に当たるかが問題になり得るため保健所に確認します。
- 医師法の対象になる行為:毛根を破壊する脱毛、アートメイク、薬品による表皮剥離、HIFUなど。サロンでは扱えません。
- 契約の法律が関わるメニュー:エステの継続的なコース契約は特定商取引法、前払いの回数券は資金決済法の確認が必要になることがあります。
どのメニューをどの形で併設するか — 月の見込み人数で決める判断表
併設の形は、そのメニューを月に何人見込めるかで決めます。人数が少ないうちは席料が固定で入る面貸し、増えたら売上を分ける業務委託、さらに増えたら雇用のほうが店に残る利益が多くなります。
| メニューと条件 | 選ぶ形 | しきい値・理由 |
|---|---|---|
| ネイル・エステで、月の見込みが20人未満 | 面貸し(席料制) | 委託で席料5万円と同じ利益を出すには月約20人が必要(試算) |
| ネイル・エステで、月20〜78人 | 業務委託(売上を分ける) | 雇用が委託を上回るのは月約78人から |
| ネイル・エステで、月78人以上を安定して見込める | 雇用 | 固定の人件費を払っても店に残る利益が最も多い |
| まつげ | どの形でも施術者は美容師免許が必須。人数のしきい値は同じ考え方で単価を入れ替えて計算 | 美容師法第6条、平成20年の通知 |
| エステのコースを売りたいが、書面の準備ができない | 1回ごとの料金にするか、期間1か月以内または総額5万円以下のコースにする | 両方を超えると特定継続的役務提供(金額は入会金・関連商品を含む) |
| 脱毛機・HIFU機器の導入を勧められた | 導入しない | 機器が医療用かどうかを問わず医行為になる行為がある |
面貸しは施術の責任を施術者が負い、店の初期投資も小さく済みます。業務委託は売上が店に入り、報酬を歩合で払いますが、指揮命令の仕方によっては雇用と判断されることがあります。ネイル・まつげの施術者に場所を貸すときの免許と保健所の扱い、席料の決め方は美容室でネイル・アイラッシュに面貸しする方法で詳しく扱っています。
1区画の損益 — 面貸し・業務委託・雇用の分かれ目を試算する
併設メニューの採算は、その区画の月の固定費を、形ごとの1人あたりの利益で何人で回収できるかで比べます。ネイル1席を例に、店に残る利益が入れ替わる人数を出します。
| 形 | 店に残る利益の計算式 | 分かれ目 |
|---|---|---|
| 面貸し | 席料5万円−区画の固定費4万円 | 人数にかかわらず月1万円 |
| 業務委託 | 人数×6,500円×(1−報酬50%−材料8%−決済3%)=人数×2,535円−4万円 | 月約16人で損益分岐、約20人で面貸しと同じ |
| 雇用 | 人数×6,500円×(1−材料8%−決済3%)=人数×5,785円−(人件費25.3万円+4万円) | 月約51人で損益分岐、約78人で業務委託と同じ |
試算の前提(仮定):ジェルネイル1回6,500円(税抜)・90分。区画の固定費は2坪×坪1.5万円の家賃相当+予約・告知・光熱1万円で4万円。席料月5万円、委託報酬は税抜売上の50%、雇用は月給22万円×1.15(社会保険料などの事業主負担を含む概算)。金額は計算方法を示すための仮の数字で、相場ではありません。
雇用の分かれ目の約78人は、90分の施術で1か月に約117時間です。施術者1人の勤務時間で受けられるか、予約が平日に偏らないかも合わせて確かめます。委託報酬の率の考え方は美容室の業務委託の相場で、契約に入れる条項は業務委託契約書に入れる条項で確認してください。
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美容所の範囲と区画 — 保健所に持っていく一覧の記入例
まつげの施術は美容なので、施術用のベッドや椅子を美容所として届け出た作業室の中に置きます。ネイルやエステの区画を美容所の範囲に含めるか、別の区画として分けるかは保健所によって考え方が違うため、メニューと施術場所の一覧と図面を持って相談します。
保健所に相談するときの一覧(記入例)
- ヘア:施術者は美容師3人(免許番号を記載)/作業室・セット面4・シャンプー台2(図面の①)
- まつげエクステ:施術者は美容師1人/作業室内のベッド1台(図面の②)、手元照明・換気扇を設置
- ジェルネイル:施術者はネイリスト1人(美容師免許なし・面貸し)/作業室の外の区画(図面の③)、集じん機と換気を設置
- フェイシャルエステ:施術者はエステティシャン1人/個室(図面の④)。首から上の施術のため、施術内容を書き出して美容に当たるかを確認したい
- 待合:全メニュー共用(図面の⑤)。作業室とは扉で区分
- 確認したいこと:作業室の面積にベッドを含めるか、ネイル区画を美容所に含めるか、待合の共用の可否、変更届か新規の開設届か
既存の美容室にベッドや席を増やすときに届出が要る変更と、工事の順番はセット面・シャンプー台の増設と保健所への変更届で整理しています。まつげの施術では接着剤のにおいがこもりやすく、エステ室ではオイルやタオルの量が増えるため、換気と洗濯の計画も区画ごとに立てます。
エステのコース契約 — 1か月超かつ5万円超なら特定商取引法の書面が要る
エステティックの契約は、期間が1か月を超え、かつ金額が5万円を超える場合に特定商取引法の「特定継続的役務提供」に当たります。金額は入会金や関連商品の代金を含めた総額で判断され、書面の交付、クーリング・オフ、中途解約のルールが適用されます。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 対象になるエステ | 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術(美容医療に当たるものを除く) |
| 書面の交付 | 契約前に概要書面、契約後に遅滞なく契約書面を交付する |
| クーリング・オフ | 法定の書面を受け取った日から8日以内なら解除できる。使い切った健康食品・化粧品などの関連商品は対象外 |
| 中途解約の上限(エステ) | 施術開始前は2万円、開始後は提供済みの対価に「2万円」か「契約残額の10%」の低い方を加えた額 |
| 関連商品 | 健康食品、化粧品・石けん・浴用剤、下着、美顔器、脱毛器などは本体と一緒に解除の対象になる |
コースを売る前に書面に入れる項目(消費者庁の案内に沿ったチェック)
- 店の名称・住所・電話番号、契約を担当した者の氏名(契約書面)
- 施術の内容と回数、購入が必要な関連商品とその販売者
- 料金の総額と内訳、支払いの時期と方法、施術の期間
- クーリング・オフ、中途解約、抗弁権の接続に関する事項
- 前受金の保全措置の有無と内容、特約があればその内容
- 契約を結んだ日(契約書面)
スタッフがコースを勧めるときは、効果を断定しない、即日の契約を迫らないなど、勧誘の仕方もそろえます。ヘアやまつげの回数券など前払いの商品を売る場合の資金決済法の確認と返金ルールは回数券・前払いチケットの作り方で扱っています。
脱毛・医療機器の線引き — 機器が医療用でなくても医行為になる
厚生労働省は、用いる機器が医療用かどうかを問わず、レーザーなど強いエネルギーの光を毛根部分に当てて毛乳頭や皮脂腺開口部などを破壊する行為、針で皮膚に色素を入れる行為、薬品を塗って皮膚の表面を剥離する行為を、医師でなければ業として行えない行為としています(平成13年11月8日 医政医発第105号)。
2023年にはアイライン・眉・リップなどを描くアートメイク、2024年には高密度焦点式超音波(HIFU)による施術も医行為に当たると整理され、2025年8月15日の通知「美容医療に関する取扱いについて」でもこれらが改めて示されています。エステや美容室の名目で行っても医師法違反になるため、機器の導入やメニュー名を決める前に、施術の内容がこれらに当たらないかを確認してください。
国民生活センターが2017年に公表した「なくならない脱毛施術による危害」では、2012年度以降の約5年間に脱毛施術による危害の相談が964件(エステ680件、医療機関284件)寄せられ、皮膚障害とやけどが多かったとされています。広告で使えない表現と言い換えは美容室の広告・SNSで使えない表現で確認できます。
併設でつまずく6つの点 — 起きる場面と防ぎ方
併設を始めてから起きやすいのは、免許の範囲を越えた施術、気づかないうちの特定商取引法の対象、歩合の計算、責任の所在です。
- 手の空いたネイリストがまつげのリペアをする:美容師免許のない人のまつげの施術は美容師法第6条に反します。防ぎ方:予約システムでまつげのメニューを担当できるスタッフを美容師に限定します。
- エステの回数券をコースと思わずに売る:「10回6万円・有効期限6か月」は1か月超かつ5万円超で特定継続的役務提供に当たります。防ぎ方:販売前に期間と、入会金・関連商品を含めた総額を確かめ、当たるなら概要書面と契約書面を用意します。
- 委託報酬を税込売上で計算する:契約で決めていないと、消費税分まで報酬に回り店の取り分が減ります。防ぎ方:「税抜売上×50%、材料は店が負担」のように計算式と材料の扱いを契約書に書きます。
- 面貸しの施術者の事故で苦情が店に来る:お客様からは店のサービスに見えます。防ぎ方:契約で責任分担を決め、施術者の賠償責任保険への加入を条件にし、店頭と予約ページに施術者の名前を表示します。
- 業者に勧められて脱毛機やHIFU機器を入れる:施術の内容によっては医行為になり、名目を変えても違反です。防ぎ方:導入前に施術内容を書き出し、2001年と2025年の通知に照らして判断し、迷えば保健所に相談します。
- 届けずにベッドやネイル席を置く:作業室の面積や区画の扱いで検査時に指摘されます。防ぎ方:上の一覧と図面で事前に相談し、必要な届出を済ませてから使います。
メニューを併設する前に、次の8項目を確認してください。
- メニューごとに、施術する人の資格と施術する場所を一覧にした
- まつげを担当する人全員の美容師免許を確認した
- メニューごとの月の見込み人数から、面貸し・業務委託・雇用のどれにするかを決めた
- 区画の固定費と1人あたりの利益から、損益分岐と形の分かれ目の人数を計算した
- 一覧と図面を持って保健所に相談し、美容所の範囲と届出の種類を決めた
- 脱毛・アートメイク・HIFUなど医行為に当たる施術をメニューに入れていない
- エステのコースや回数券が1か月超かつ5万円超になる場合の書面を用意した
- 委託報酬の計算式と、面貸しの施術者との責任分担を契約書に書いた
よくある質問
まつげエクステを担当するスタッフにも美容師免許は必要ですか?
必要です。厚生労働省はまつ毛エクステンションを美容師法の美容に当たるとしており、美容師免許を持つ人が美容所の中で施術しなければなりません。雇用・業務委託・面貸しのどの形でも同じです。
ネイルとエステは資格がなくても提供できますか?
国家資格は不要で、美容師免許がなくても施術できます。ただし医行為に当たる施術はできず、首から上で行うエステなどは内容によって美容との関係を保健所に確認します。器具の消毒や事故への備えは美容所と同じ水準で行います。
ネイルを併設するなら、面貸しと雇用のどちらがよいですか?
月の見込み人数で決めます。この記事の試算では、区画の固定費4万円・単価6,500円で、月20人未満なら席料5万円の面貸し、20〜78人なら報酬50%の業務委託、78人以上なら雇用が店に残る利益の多い形でした。自店の家賃と単価で計算し直してください。
エステのコースを売るときに、どんな書面が必要ですか?
期間が1か月を超え、総額が5万円を超えるエステの契約は特定商取引法の対象で、契約前の概要書面と契約後の契約書面を交付します。書面には施術の内容、金額、期間、クーリング・オフ、中途解約などを記載し、クーリング・オフの記載は赤枠・赤字にします。
エステサロン向けの脱毛機を導入してもよいですか?
強いエネルギーの光を毛根部分に当てて毛乳頭などを破壊する行為は、機器が医療用かどうかを問わず医師でなければ行えないとされています。導入を考える場合は、施術の内容がこれに当たらないかを確認し、判断に迷うなら保健所や専門家に相談します。
出典:厚生労働省「まつ毛エクステンションによる危害防止の徹底について」(平成20年3月7日 健衛発第0307001号)、厚生労働省「美容医療に関する取扱いについて」(令和7年8月15日)、美容師法第2条・第6条・第7条(e-Gov法令検索)、医師法第17条(e-Gov法令検索)、消費者庁「特定商取引法ガイド 特定継続的役務提供」、特定商取引に関する法律(e-Gov法令検索)、国民生活センター「なくならない脱毛施術による危害」(2017年5月11日)。美容所の範囲と区画の扱いは自治体ごとに異なるため、管轄の保健所で確認してください。損益の数字は前提を置いた試算です。
併設を決めたら、まずメニューごとの月の見込み人数を出して併設の形を決め、資格と施術場所の一覧と区画を書き込んだ図面の案を作って保健所に相談することから始めてください。開設届と検査の流れは美容室開業の保健所の検査と基準で確認できます。
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