美容室の売却価格はいくらになるか|譲渡価格の決まり方・営業権の計算例・税金と高く売るための準備

美容室の売却価格は「内装・設備などの資産の時価-引き継ぐ負債+営業権(のれん)」で決まり、営業権は実質的な利益の数年分を目安に交渉されます。顧客がオーナー個人に付いている1人サロンは営業権が付きにくく、造作を譲る居抜き売却に近い金額になります。

売り方の3つの型、営業権の計算の手順、スタッフ店と1人サロンの売却価格の試算、買い手が見る数字、仲介の手数料、個人と法人の税金の違いを順に整理します(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:美容室の売却価格の決まり方の早見表

美容室の売却価格は、「モノの価値」と「稼ぐ力の価値」の合計です。モノは内装・設備・在庫、稼ぐ力は売却後も残る顧客とスタッフが生む利益で、後者が営業権として上乗せされます。決まった相場はなく、最後は買い手との交渉で決まります。

価格の構成 中身 評価の考え方 美容室での注意点
内装・設備(造作) 内装、セット面、シャンプー台、給湯器、空調など 帳簿の未償却残高を参考に、状態と残りの使用年数で時価を見る シャンプー台や給湯器の年数で大きく変わる
在庫 店販商品、カラー剤・薬剤 仕入値をもとに、使用期限と売れ残りを差し引く 期限切れが近い薬剤は値が付かない
引き継ぐ負債 リース残債、未払金など 価格から差し引くか、売り手が先に精算する リースの名義変更は貸主の承諾が必要
営業権(のれん) 売却後も残る顧客・スタッフ・立地が生む利益 実質的な年間利益に、交渉で決める年数を掛ける 顧客がオーナー個人に付いているとほぼゼロになる
賃貸借の保証金 テナントの敷金・保証金 貸主との契約で精算の仕方が決まり、売買価格とは別に扱うことが多い 償却(返らない分)の有無を契約書で確認

同じ売上の店でも、オーナーが抜けても売上が残るかどうかで価格は数倍変わります。売却を考え始めたら、まず「自分がいなくても回る売上がいくらあるか」を数字で出してください。

美容室を売る3つの方法 — 事業譲渡・株式譲渡・居抜き(造作譲渡)

美容室の売り方は、店の事業をまるごと渡す「事業譲渡」、会社の株を渡す「株式譲渡」、内装と設備だけを渡す「居抜き(造作譲渡)」の3つです。何を売るかで、付く値段と手続き、税金が変わります。

方法 売るもの 価格に入るもの 保健所の扱い 向く店
事業譲渡 内装・設備・在庫、顧客、スタッフの雇用(個別に合意)、屋号など 資産の時価+営業権 開設者が変わるため、買い手が新たに届出・検査を受ける扱いが多い 個人事業の店、スタッフがいて売上が残る店
株式譲渡 美容室を営む会社の株式 会社の純資産+営業権 開設者(法人)は変わらないため、代表者の変更などの届出で済むことがある 法人化している店、複数店舗
居抜き(造作譲渡) 内装・設備だけ。顧客やスタッフは引き継がない 造作の価値が中心 買い手が新規に開設届を出す 1人サロン、赤字の店、閉店を決めた店

保健所の扱いは自治体によって違うため、詳しくは経営者(開設者)が変わるときの手続きで確認してください。居抜きで売る場合の値付けと買い手の見方は美容室の売り物件の見方、承継全体の進め方は事業承継・譲渡の進め方にまとめています。

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営業権(のれん)はどう計算するか — 実質利益の何年分かで決まる

営業権(のれん)とは、店の資産の価値を超えて、その店が将来も稼ぐと見込まれる力の価値です。小さな事業の売買では、資産の時価に「実質的な年間利益×年数」を足す「年買法」という簡易な考え方がよく使われ、何年分にするかは交渉で決まります。

  1. 決算書の利益を「オーナーがいなくても出る利益」に直す

    個人事業の利益はオーナーの取り分を含んでいます。オーナーの代わりに店長やスタイリストを雇う場合の人件費を差し引き、私的な経費や一時的な改装費は足し戻します。

  2. 売却後に残る売上を見積もる

    オーナーの指名客が多いほど、売却後に離れる売上が増えます。担当者別の売上を出し、オーナー以外の担当分と、引継ぎで残せる見込みの分を分けます。

  3. 年数を決める材料をそろえる

    スタッフの在籍年数、再来率、賃貸借契約の残り期間、設備の更新時期が長く安定しているほど、買い手は年数を長く見ます。逆に、契約の残りが短い、主力スタッフが辞めそうといった不安は年数を縮めます。

試算 — スタッフ店と1人サロンの売却価格(仮の設定)

2つの店を仮定して、年買法で価格の幅を出します。売上・利益・資産額と年数はすべて自分で置いた仮定で、実際の価格を示すものではありません。

項目 A:スタッフ3人の店 B:1人サロン
年間売上 3,600万円 1,000万円
オーナーの取り分を引く前の利益 900万円 450万円
オーナーの代わりの人件費 -450万円(店長を雇う想定) オーナーが抜けると顧客の大半が離れる想定
一時的な費用の足し戻し +50万円(改装費) —
実質的な年間利益 500万円 見込みにくい
内装・設備・在庫の時価-引き継ぐ負債 450万円-100万円=350万円 150万円
営業権(実質利益×1〜3年) 500万〜1,500万円 0〜50万円
売却価格の目安 850万〜1,850万円 150万〜200万円

Aの店は、スタッフが残り売上が続く見込みがあるため営業権が付きます。Bの1人サロンは、売上の多くがオーナー個人に付いているため、価格は内装・設備の価値とほぼ同じになります。1人サロンでも、売り手が数か月残って顧客を紹介する引継ぎ期間を設けると、買い手が受け取れる売上が増え、営業権を交渉しやすくなります。

買い手が見る数字と、高く売るための準備 — 1〜2年前から整える

買い手が確かめるのは、「買った後も売上が続くか」と「後から想定外の支払いが出てこないか」の2点です。次の項目を資料で示せるほど、価格の交渉で不利になりにくくなります。

見られる項目 見られる理由 準備する資料
売上・利益の3年分の推移 実質利益が安定しているか 決算書・確定申告書、月次の売上表
顧客数・再来率・担当者別の売上 顧客がオーナー個人に偏っていないか 顧客管理データの集計値、担当別売上
スタッフの在籍年数と雇用条件 売却後に辞めないか、未払いの残業代などがないか 雇用契約書、就業規則、勤怠記録
賃貸借契約 残り期間、譲渡や名義変更の承諾、原状回復の範囲 賃貸借契約書、貸主とのやり取りの記録
設備の状態と使用年数 すぐに買い替えが必要にならないか 固定資産台帳、購入時の資料、リース契約書
集客の入口 予約サイト・LINE公式・SNSを引き継げるか アカウントの名義と契約内容

賃貸借契約は、名義変更に貸主の承諾が要る、原状回復の範囲が広いといった条件次第で、買い手が付かないこともあります。契約書の確認点は店舗賃貸借契約で確認する条項、設備の帳簿上の価値は内装の耐用年数と減価償却で確認できます。

売却の1〜2年前から、次の8項目を整えてください。

  • 帳簿と実態(現金売上や私的な経費)を一致させている
  • オーナーの担当客を、スタッフに少しずつ引き継いでいる
  • 担当者別・メニュー別の売上を毎月記録している
  • 雇用契約書と就業規則を整え、残業代の未払いがない
  • 貸主に名義変更や譲渡の承諾条件を確認している
  • リースと借入の残高、途中解約の条件を一覧にしている
  • 予約サイト・LINE公式・SNSを店の名義で管理している
  • 設備の購入時期と修繕の記録をまとめている

相談先と仲介手数料 — 公的窓口・仲介会社・マッチングサイトの違い

売却の相談先は、公的な事業承継・引継ぎ支援センター、M&A仲介会社、マッチングサイト、居抜き物件の仲介の4つが中心です。手数料の決め方が大きく違うため、店の規模に合う先を選びます。

相談先 主な支援 費用の考え方
事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業基盤整備機構が全国で支援する公的窓口) 第三者への承継の相談、譲受先の紹介、後継者人材バンク 公的支援。費用の有無は各窓口で確認
M&A仲介会社・FA 相手探し、価格と条件の調整、契約まで 着手金・中間金・成功報酬。成功報酬は金額帯ごとの料率を掛けるレーマン方式が多く、最低報酬額を設ける会社もある
M&Aマッチングサイト 案件を掲載し、買い手を自分で探す 成約時の手数料など、サイトごとに異なる
居抜き物件の仲介(不動産会社・造作売買の業者) 内装・設備ごと店舗を引き継ぐ相手を探す 造作売買の手数料や賃貸の仲介手数料など

小さな美容室の売買では、仲介会社の最低報酬額が譲渡価格に対して重くなることがあります。報酬の計算の基準になる金額(譲渡価格か、負債を含む金額か)と、総額でいくら払うかを契約前に必ず確認してください。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、手数料体系や仲介と依頼者の利益相反について確認すべき点をまとめています。

売却にかかる税金 — 個人は譲渡所得と事業所得、法人の株式は20.315%

個人事業主が店を売ると、営業権や内装・設備の売却益は譲渡所得(総合課税)、在庫の売却は事業所得になります。法人の株式を売る場合は、株主の譲渡所得として約20%の申告分離課税です。

売るもの 個人事業主の場合 法人の場合
営業権(のれん) 譲渡所得(総合課税)。所有5年超は長期で、特別控除50万円の後の2分の1が課税対象 法人の利益として法人税の対象
内装・設備 譲渡所得(総合課税)。取得費は未償却残高。使用可能期間1年未満の資産などは事業所得など 同上
店販・薬剤の在庫 事業所得 同上
株式 — 株主個人の譲渡所得として申告分離課税20.315%(所得税15%・復興特別所得税・住民税5%)
消費税 課税事業者なら、営業権・設備・在庫の譲渡代金が課税対象 事業譲渡は同左。株式の譲渡は非課税

試算 — 個人事業の店を1,200万円で売った場合の譲渡所得(仮の設定)

営業権750万円、内装・設備400万円(未償却残高400万円)、在庫50万円(仕入値50万円)で売り、仲介手数料などの譲渡費用120万円はすべて営業権の譲渡にかかったと仮定します。営業権は自分で育てたもので取得費はゼロ、事業開始から5年超とします。

区分 計算 所得
営業権 750万円-取得費0円-譲渡費用120万円 630万円(長期)
内装・設備 400万円-未償却残高400万円 0円
譲渡所得の合計 630万円-特別控除50万円=580万円 580万円
総所得金額に入る額 長期のため580万円×2分の1 290万円
在庫(事業所得) 50万円-仕入値50万円 0円

290万円はその年のほかの所得と合算され、所得税・住民税が計算されます。売却の年は所得が一時的に増えるため、売る時期と価格の内訳は税理士と事前に決めておくことが大切です。法人の例では、株式を1,500万円で売り、出資額300万円・譲渡費用100万円なら、所得1,100万円に20.315%を掛けて約223万円が税額の目安です(仮の設定)。閉店する場合の手続きとの違いは閉店・廃業の手続きを参照してください。

よくある質問

赤字の美容室でも売れますか?

売れることはありますが、営業権はほとんど付かず、内装・設備や立地、賃貸条件の価値が中心の価格になります。現実的には、居抜き物件として開業したい美容師に引き継ぐ形を検討します。

顧客カルテや顧客リストを買い手に引き継いでもよいですか?

事業の承継に伴って個人データを渡す場合は、本人の同意がなくても第三者提供の制限の対象外とされています(個人情報保護法第27条第5項第2号)。ただし交渉段階で買い手候補に顧客情報を見せることは避け、引継ぎ後も元の利用目的の範囲で使うよう契約で定めます。

美容室を売ると保健所の手続きは必要ですか?

必要です。開設者が変わると、多くの自治体で買い手が新たに開設届を出して検査を受ける扱いになり、売り手は廃止の届出をします。法人の株式譲渡で開設者が変わらない場合の扱いも含め、管轄の保健所で確認してください。

売却代金に消費税はかかりますか?

売り手が消費税の課税事業者なら、営業権や内装・設備、在庫の譲渡代金は課税の対象になります。株式の譲渡は非課税です。契約書では価格が税込か税抜かを必ず明記してください。

仲介手数料の相場はいくらですか?

一律の相場はありません。成功報酬は金額帯ごとの料率を掛けるレーマン方式が多く使われますが、計算の基準になる金額や最低報酬額は会社ごとに違うため、契約前に総額で比べてください。

出典:国税庁タックスアンサー「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」「No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)」(国税庁「No.3152」)、「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(国税庁「No.1463」、いずれも令和8年4月1日現在法令等)、所得税法第33条、消費税法第4条、個人情報の保護に関する法律第27条(e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」)、中小企業庁「中小M&Aガイドライン」、独立行政法人中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」。個別の税額や契約は税理士・弁護士に、保健所の手続きは管轄の保健所に確認してください。

美容室の値段は、オーナーがいなくても続く売上の大きさで決まります。売却を考え始めたら、まず担当者別の売上を出し、自分以外に付いている売上がいくらあるかを確かめてください。

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この記事を書いた人

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