労働条件通知書は、スタッフ本人が希望した場合に限って電子メールやLINEなどのSNSで交付でき、本人がその記録を出力して書面にできることが条件です(労働基準法施行規則第5条第4項)。給与明細を電子で渡すには本人の承諾が必要で(所得税法第231条第2項)、雇い入れの書類は退職の日から5年間(当分の間は3年間)保存します(労働基準法第109条・附則第143条)。
書類と状況ごとの判断表、電子交付の要件と送り方、送信件数と保存期限の試算、電子契約サービスの比べ方、希望確認書・送信文・給与明細の事前通知の文例、現場でつまずく点を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:雇用の書類を電子化するときのルール早見表
ポイントは、労働条件通知書は本人の希望、給与明細は本人の承諾、どちらも書面を求められたら紙で渡すことです。
| 書類 | 電子化の条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働条件通知書 | 本人が電子での交付を希望し、本人が出力して書面にできる方法で送る | 労働基準法第15条、同法施行規則第5条第4項 |
| 雇用契約書 | 双方の合意で電子契約にできる。契約の内容はできる限り書面で確認する | 民法第522条第2項、労働契約法第4条第2項 |
| パート・有期雇用の追加の明示事項 | 本人が希望すれば、出力できる電子メール等で明示できる | パートタイム・有期雇用労働法第6条、同法施行規則第2条第3項 |
| 給与明細・給与所得の源泉徴収票 | 本人の承諾を得て電子で提供できる。請求があれば書面で交付 | 所得税法第226条第4項・第231条第2項 |
| 保存 | 雇い入れに関する書類は退職の日から5年間(当分の間は3年間)。電子での保存も可 | 労働基準法第109条・附則第143条、同法施行規則第56条 |
この書類はこの状況で電子にできるか — 状況別の判断表
「本人の意思が記録で確かめられるか」「本人を特定した送信か」「本人が保存・印刷できるか」の3つがそろえば電子、1つでも欠ければ書面と覚えておくと迷いません。
| 書類・状況 | 判断 | やること |
|---|---|---|
| 本人が希望確認書で電子を選び、メールかLINEでPDFを受け取れる | 労働条件通知書を電子で交付できる | 希望確認書を保存し、PDFを本人あてに送る |
| 希望確認書が空欄、または返事がない | 希望が確かめられないので電子にはできない | 書面で渡す(給与明細のような「みなし承諾」は使えない) |
| SMS(ショートメッセージ)しか使えない | 厚生労働省は望ましくないとしている | メールアドレスを聞くか、書面にする |
| スタッフ全員のグループLINEに投稿したい | 本人を特定した送信ではない | 個別のトークかメールで送る |
| 電子契約サービスで雇用契約書に署名してもらう | 契約は合意で成立するが、労働条件の明示の部分は本人の希望が前提 | 送信の前に希望確認書を取る |
| 有期契約のパートの契約を更新する | 更新のたびに労働条件の明示が必要 | 更新日の1か月前に送信の予定を入れる |
| 給与明細をWeb明細にしたい | 承諾が必要。期限までに回答がなければ承諾とみなす旨を事前に通知する方法もある | 事前通知を出し、書面を求めた人には紙で渡す |
| 退職所得の源泉徴収票を電子で渡したい | 「みなし承諾」の対象外 | 本人から個別に承諾をもらう |
| 業務委託の美容師に条件を示す | 書面か電磁的方法で明示する。電磁的方法でも書面を求められたら原則として遅滞なく交付(フリーランス法第3条) | 契約書の作り方を別に確認する |
業務委託の美容師に示す条件と契約書の書き方は業務委託契約書に入れる条項、明示する労働条件の項目と2024年4月に加わった事項は雇用契約書と労働条件通知書の違いで確認してください。
労働条件通知書の電子交付の要件と送り方 — 4つの要件と5つの手順
労働条件通知書とは、賃金・労働時間・契約期間など、雇い入れるときに必ず明示する労働条件を書いた書類のことです。書面が原則ですが、2019年4月から、本人が希望した場合はFAX、電子メール、LINEなどのSNSのメッセージ機能で送れるようになりました。本人が希望していないのに電子だけで明示すると労働基準法第15条の違反となり、30万円以下の罰金の対象です(第120条)。
- 本人が希望していること:店の方針として一方的に電子にはできません。希望を個別に確かめ、その記録を残します。
- 受け取る人を特定できる方法であること:本人あてのメールやメッセージに限られ、ホームページへの掲載など第三者が見られる方法は認められません。
- 本人が出力して書面にできること:PDFの添付で送り、本人が保存・印刷できるようにします。
- 届いたことを確かめること:受け取りの返信をもらい、送った日時の記録を残します。
-
希望を確かめる
下の希望確認書で、電子メール・LINE・書面から本人に選んでもらいます。
-
PDFで作る
厚生労働省のモデル様式などで内容を確定させ、書き換えができない形式にします。
-
本人あてに送る
本人が指定したアドレスかアカウントに、送信文の例のとおり保存と受け取りの返信を頼んで送ります。
-
受け取りを確かめる
開けない、保存できないという場合は書面に切り替えます。
-
控えを保存する
送ったPDF、送信日時、希望確認書を、スタッフごとのフォルダにまとめます。
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送信件数と保存期限を数字で出す — スタッフ8人の店の試算
次のモデルでは、電子で送る雇用の書類は年10件、2026年10月31日に退職した人の書類は少なくとも2029年10月末まで保存します。年10件なら、送信1件ごとの料金か、メールでのPDF送付で足ります。
試算の前提(仮定):正社員5人、6か月契約を更新する有期のパート3人。年間の新規採用2人、労働条件の変更2件。電子契約サービスの料金は、月額固定10,000円のプランと送信1件200円のプランがあるとした計算上の数字で、実際の料金は各社の最新の情報で確認してください。給与明細の電子化に8人中1人が承諾しない。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 年間の送信件数 | 新規採用2件+パートの更新3人×年2回+条件変更2件 | 10件 |
| 月額固定のプラン | 10,000円×12か月 | 年120,000円 |
| 送信1件ごとのプラン | 200円×10件 | 年2,000円 |
| 月額固定の方が安くなる件数 | 120,000円÷200円 | 年600件以上 |
| パートの更新の送信予定 | 更新日4月1日・10月1日の各1か月前 | 3月1日・9月1日に送信 |
| 2026年10月31日に退職した人の書類 | 退職の日から3年(当分の間) | 少なくとも2029年10月末まで |
| 本則の5年で管理する場合 | 退職の日から5年 | 2031年10月末まで |
| 紙の給与明細 | 承諾しない1人×12か月 | 年12通は紙で交付 |
ほかの書類の保存期間は美容室の書類の保存期間一覧、給与明細に載せる項目は美容室の給与計算のやり方で確認できます。
電子契約サービスはどう選ぶか — 少人数の店で比べる6点
雇用契約は当事者の合意で成立し、書面は法律上の成立の要件ではありません(民法第522条第2項)。少人数の店は、スタッフがアカウントを作らずスマートフォンで署名でき、件数に応じた料金で、解約後もデータを取り出せるサービスを選びます。
| 比べる点 | 確かめること |
|---|---|
| 署名の方式 | メール認証で本人を確かめる方式か、電子証明書を使う方式か |
| スタッフ側の手間 | アカウントを作らずに、スマートフォンで内容を確認して署名できるか |
| 料金の仕組み | 月額固定か送信1件ごとか。試算のように年間の件数で比べる |
| 保存と検索 | 締結後のPDFと署名の記録を保存でき、氏名や日付で探せるか |
| ひな型の登録 | 労働条件通知書兼雇用契約書のひな型を登録して使い回せるか |
| 解約後のデータ | サービスをやめても、過去の契約のPDFと署名の記録を一括で取り出せるか |
そのまま使える文例 — 希望確認書・送信文・給与明細の事前通知
入社の手続きの最初に、希望確認書1枚で労働条件通知書の受け取り方と給与明細の承諾をまとめて確かめます。選択欄はすべて空欄のまま渡し、本人に印を付けてもらいます。
例文 労働条件通知書等の受け取り方に関する希望確認書
- ヘアサロン〇〇(株式会社〇〇)代表 〇〇 様
- 1 労働条件通知書(雇用契約書を兼ねるもの、契約の更新や条件の変更のときに渡すものを含む)について、次の方法による交付を希望します。□ 電子メール(アドレス:〇〇) □ LINEの個別のトーク(アカウント名:〇〇) □ 書面
- 2 電子で受け取る場合、受け取ったPDFを自分で保存し、必要に応じて印刷できることを確認しました。受け取ったら「受け取りました」と返信します。
- 3 電子で受け取ることにした後も、書面での交付を申し出られることを確認しました。
- 4 給与明細・給与所得の源泉徴収票を電子で受け取ることについて □ 承諾する □ 承諾しない(承諾した後も書面を請求できます)
- 2026年〇月〇日 氏名(署名)〇〇〇〇
例文 送信文と、給与明細の電子化の事前通知
- 送信文(メール・LINE):〇〇さん 労働条件通知書兼雇用契約書(2026年〇月〇日付)をPDFでお送りします。ご自身の端末に保存し、必要なときは印刷してください。内容を確認したら「受け取りました」と返信をお願いします。開けない場合や書面を希望される場合は、紙でお渡しします。ヘアサロン〇〇 〇〇
- 給与明細の事前通知:2027年1月支給分から、給与明細を〇〇(給与計算サービスのWeb明細。スマートフォンでログインして表示・PDF保存ができます)で提供します。書面での受け取りを希望される方は、2026年12月15日までに〇〇へお知らせください。期限までにお知らせがない場合は、電子での提供を承諾されたものとして取り扱います。承諾後も、書面の交付を請求できます。
- ファイル名の決まり:「入社年_氏名_書類名_交付日」(例:2026_山田花子_労働条件通知書_20261101.pdf)とし、スタッフごとのフォルダに保存する。
現場でつまずく点 — 6つの落とし穴と防ぎ方
電子化のつまずきは、希望の取り方と、店側の控えの残し方に集中します。
- 希望確認書の「電子」に最初から印を付けておく:本人の希望とは言えなくなります。選択欄は空欄で渡し、本人に選んでもらいます。
- 給与明細の「みなし承諾」を労働条件通知書にも使う:労働条件通知書は本人の希望が条件で、返事がないことを希望とは扱えません。書類ごとに確かめ方を分けます。
- 条件を本文に打ち込む、画像のスクリーンショットで送る:版の管理と印刷がしにくくなります。書き換えできないPDFを添付します。
- LINEだけに記録が残っている:トークのファイルは保存期間が限られることがあり、機種変更や退会でも消えます。送ったPDFと送信日時を店のフォルダに別に保存し、クラウドと外付けの記録媒体の2か所に置きます。
- 電子契約サービスを解約したら過去の契約が見られない:解約前に、PDFと署名の記録を一括で取り出して保存します。
- 退職後にWeb明細へログインできない:退職者から過去の明細を求められても出せません。毎月の明細をPDFでも店側に保存しておきます。
データを失わない仕組みはデータ管理とバックアップ、スタッフとの連絡に個人のLINEを使い続けるかの考え方はスタッフ連絡ツールの選び方で整理しています。
雇用の書類の電子化を始める前に、次の8項目を確認してください。
- 労働条件通知書の電子交付は、空欄の希望確認書で本人に選んでもらっている
- PDFを添付して送り、受け取りの返信をもらっている
- SMSやグループLINE、ホームページへの掲載で労働条件を示していない
- 書面を希望する人には紙で交付する
- 有期契約の更新日の1か月前に、送信の予定を入れている
- 給与明細の電子化は、承諾か事前通知の記録を残し、書面の請求に応じる
- 送った書類の控えを、LINEや電子契約サービスとは別の場所に2か所で保存している
- 雇い入れの書類を、退職の日から少なくとも3年(本則5年)保存する管理表を作った
よくある質問
労働条件通知書をLINEで送ってもよいですか?
スタッフ本人がLINEでの受け取りを希望した場合は送れます。本人が出力して書面にできることが条件なので、個別のトークでPDFを添付して送り、保存してもらいます。希望していない人には書面で渡します。
入社するスタッフ全員を電子交付に統一できますか?
労働条件通知書の電子交付は本人の希望が条件なので、店の方針として一律に電子だけにすることはできません。電子を基本にしつつ、書面を希望する人には紙で渡す運用にします。
電子契約で結んだ雇用契約書に印鑑は必要ですか?
雇用契約は双方の合意で成立し、印鑑は法律上の要件ではありません。電子契約サービスの署名の記録と締結後のPDFを、店とスタッフの双方が保存できるようにしておきます。
給与明細をアプリで見られるようにすれば、紙は渡さなくてよいですか?
本人の承諾を得れば電子での提供に代えられ、期限までに回答がなければ承諾とみなす旨を事前に通知する方法も国税庁のQ&Aで示されています。承諾した人でも書面を求めれば紙で交付し、承諾の記録や通知の控えを残します。
退職したスタッフの労働条件通知書は、いつまで保存しますか?
雇い入れに関する重要な書類として、退職の日から5年間(当分の間は3年間)保存します。電子で保存する場合も、すぐに表示・印刷できる状態にしておきます。
内定の段階で労働条件通知書をメールで送る場合も、希望の確認が必要ですか?
必要です。内定の連絡と一緒に労働条件通知書を渡す場合も、電子で送るなら本人が電子での交付を希望していることが条件です。内定の連絡のときに希望確認書を同封するか、メールで希望を確かめてから送ります。
出典:労働基準法第15条・第109条・第120条・附則第143条(e-Gov法令検索「労働基準法」)、労働基準法施行規則第5条・第56条(e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則第2条(e-Gov法令検索)、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第3条(e-Gov法令検索)、厚生労働省リーフレット「平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」、厚生労働省「労働契約締結時の労働条件の明示」、所得税法第226条・第231条(e-Gov法令検索「所得税法」)、国税庁「給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A」、民法第522条、労働契約法第4条。
まず、空欄の希望確認書を印刷し、次に入社するスタッフと更新を迎えるパートに渡すことから始めてください。入社のときのほかの手続きと期限はスタッフを雇ったときの手続き一覧にまとめています。
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