遅刻やミス、ノルマ未達のたびに「罰金」を払わせたり、「辞めたら違約金」と決めたりすることは労働基準法第16条で禁止され、給与から勝手に差し引くことも全額払いの原則(第24条)に反します。認められるのは就業規則に定めた減給の制裁で、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、合計は1賃金支払期の賃金総額の10分の1までです(第91条)。
店のルールを残すか・直すか・消すかの判断表、歩合給スタイリストとパートでの上限の試算、注意書・減給処分通知書・就業規則の条文例、現場でつまずく点を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:罰金・減給・弁償のルールの早見表
判断の軸は、働かなかった分の控除か、上限付きの減給の制裁か、禁止された違約金かの3つです。
| 場面 | できること・できないこと | 根拠 |
|---|---|---|
| 遅刻した時間分の賃金を差し引く | できる(働かなかった時間の控除で、制裁ではない) | ノーワークノーペイ |
| 遅刻1回につき〇円の罰金 | できない。本人が同意していても無効 | 労働基準法第16条 |
| 減給の制裁 | 就業規則に定めがあれば、1回は平均賃金1日分の半額まで、合計は1賃金支払期の賃金総額の10分の1まで | 労働基準法第91条 |
| 「辞めたら違約金・研修費を払う」約束 | できない | 労働基準法第16条 |
| 薬剤ミス・器具の破損の弁償 | 全額は認められにくい。請求できても損害の一部 | 損害の公平な分担の考え方(最高裁判例) |
| 弁償金・ノルマ未達分を給与から天引き | できない(自由な意思による同意がある例外を除く) | 労働基準法第24条 |
| 懲戒処分(けん責・減給・出勤停止など) | 就業規則に種類と事由を定め、周知していればできる | 労働基準法第89条第9号、労働契約法第15条 |
今のルールは残すか・直すか・消すか — 店のルールの見直し判断表
決まった額を払わせるルールは消す、実際より多く差し引くルールは直す、繰り返す人への対応は懲戒の手順に移す、が見直しの基本です。店のルール表、誓約書、就業規則に次の例がないかを確かめてください。
| 今のルールの例 | 判断 | 直し方 |
|---|---|---|
| 遅刻1回1,000円、無断欠勤1万円の罰金 | 違約金・賠償額の予定にあたり違法。消す | 遅刻・欠勤した時間分の控除にし、繰り返す人は注意から懲戒の手順へ |
| 5分の遅刻を30分として控除 | 25分ぶんは減給の制裁 | 1分単位の控除に直す。制裁として残すなら規定と上限が必要 |
| 遅刻3回で欠勤1日として控除 | 実際の遅刻時間を超える部分は減給の制裁 | 実時間の控除にし、3回目で書面の注意をする |
| 薬剤ミス・器具の破損は本人が弁償 | 通常の業務のミスは店が負うリスク。天引きはできない | 消す。故意・重大な過失のときだけ話し合いで額と払い方を決める |
| 店販の目標に届かなければ自腹で購入 | 実質的な賃金の減額 | 消す。達成度は歩合の率や賞与の評価に反映する |
| 1年以内に辞めたら研修費を返す | 辞めたことへの違約金にあたるおそれ | 消すか、専門家に相談して制度を作り直す |
| 懲戒として「3か月間、給与10%カット」 | 1回の事案で平均賃金の半日分を超えるため違法 | 1事案につき1回、平均賃金1日分の半額以内の減給にする |
罰金の文言が書いてあるだけで実際には取っていない場合も、違約金を定めること自体が禁止されているため、文言ごと削除します。
罰金と減給の制裁は何が違うか — 違約金は禁止、減給は上限付き
労働契約の違反について違約金や賠償額を先に決めることは、本人が同意していても労働基準法第16条で禁止です。一方、減給の制裁とは、就業規則に定めた懲戒として給与の一部を減らす処分のことで、第91条の上限内で認められます。
- 違約金・賠償額の予定(禁止):「遅刻1回1,000円」「1年以内に辞めたら30万円」のように、違反したら払う額を先に決める約束です。違反には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の定めがあります(第119条)。
- 減給の制裁(上限付きで可):就業規則の懲戒の定めに基づき、問題のある行為1件について給与を減らす処分です。10人未満の店で作る社内の規則も、ここでいう規定に含まれると考えられています。
- 欠勤控除(制裁ではない):遅刻・早退・欠勤で働かなかった時間の賃金を払わないことです。働かなかった分を1円でも超えて差し引けば、超えた部分は制裁になります。
- 制裁と別のもの:出勤停止の期間が無給になるのは出勤停止の結果で、降格や異動で仕事が変わったことによる賃金の低下も、減給の制裁とは別の扱いです。
上限はいくらか — 歩合給スタイリストとパートの試算
次のモデルでは、スタイリストの減給は1回4,646円まで・その月の合計27,000円まで、パートは1回2,160円までになります。歩合給も平均賃金と賃金総額に含め、時給・日給・歩合の人は最低保障額とも比べます。
試算の前提(仮定):スタイリストFさんは月給の固定部分200,000円+歩合給。減給の通知が本人に届いた日の直前の賃金締切日からさかのぼる3か月(92日)の賃金総額855,000円(固定600,000円・歩合255,000円)、その間の労働日数65日。減給する月の賃金総額270,000円(固定200,000円・歩合70,000円)。年間休日105日・1日8時間。パートGさんは時給1,200円、直前3か月(92日)の労働日数40日・1日6時間で賃金総額288,000円。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| Fさんの平均賃金(原則) | 855,000円÷92日 | 9,293円47銭 |
| Fさんの最低保障額 | 600,000円÷92日+255,000円÷65日×60% | 8,875円58銭(原則の方が高い) |
| Fさんの1回の上限 | 9,293円47銭÷2 | 4,646円(円未満切り捨て) |
| Fさんのその月の合計の上限 | 270,000円×10分の1 | 27,000円 |
| Fさんの15分の遅刻控除(制裁ではない) | 時間単価:200,000円÷{(365日−105日)×8時間÷12}=1,153円、1,153円×15分÷60分 | 288円(歩合は控除しない) |
| Gさんの平均賃金(原則) | 288,000円÷92日 | 3,130円43銭 |
| Gさんの最低保障額 | 288,000円÷40日×60% | 4,320円(こちらが高いので平均賃金になる) |
| Gさんの1回の上限 | 4,320円÷2 | 2,160円 |
| Fさんに「3か月間10%カット」をした場合 | 27,000円×3か月=81,000円を1事案で減らす | 1回の上限4,646円を大きく超え違法 |
同じ月に別々の事案で処分が重なり合計が賃金総額の10分の1を超えるときは、引けなかった部分を翌月に回す扱いとされています。平均賃金の銭未満は切り捨ててかまいません。給与明細には「減給(懲戒)」と「遅刻控除」を別の項目で載せ、制裁と控除を区別できるようにします。遅刻の時間を分単位で残す方法は美容室の勤怠管理で整理しています。
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薬剤ミスや器具の破損は弁償させられるか — 請求できるのは一部、天引きは不可
仕事中のミスで店に損害が出ても、スタッフに全額を弁償させることは基本的にできません。最高裁は、使用者が請求できるのは、事業の性格や規模、労働条件、損害を防ぐための使用者の配慮などを考え、損害の公平な分担という見地から相当と認められる限度に限られるとしています(茨城石炭商事事件・最高裁昭和51年7月8日判決)。
| 場面 | 考え方 | 店の対応 |
|---|---|---|
| カラー剤の調合を間違えて薬剤を無駄にした | 通常の業務の中のミスで、店が負うべきリスク | 弁償させず、調合の手順とダブルチェックを見直す |
| 施術のミスでお客様に返金・やり直しをした | お客様への責任は店が負う(民法第715条)。スタッフへの請求は限られる | やり直しの基準と賠償責任保険で備える |
| 不注意でドライヤーやハサミを落として壊した | 軽い過失なら請求は難しい | 消耗・故障として店の経費で処理する |
| 故意に店の物を壊した、無断で持ち出した | 一部の請求が認められる余地がある | 事実を記録し、話し合いで額と払い方を決め、給与とは別に払ってもらう |
お客様への初動と賠償の進め方は施術事故の対応と賠償の範囲にまとめています。売上や店販の目標は罰則ではなく行動の目安として使い、歩合給のスタッフにも労働時間に応じた保障給を設けます(労働基準法第27条)。目標の立て方はスタッフの売上目標の立て方で解説しています。
処分の前に踏む段階 — 口頭の注意から減給までの基準
いきなり減給せず、口頭の注意→書面の注意→けん責→減給の順に段階を踏み、そのつど記録します。1回の遅刻で減給すると、処分の合理性が問題になり得ます。回数は店の基準の例です。
-
1回目:事実を確かめて口頭で注意する
日時、遅れた分数、お客様への影響を記録し、何をどう直すかを具体的に伝えます。
-
同じ月に3回目:書面で注意する
下の注意書を渡し、改善を確認する期間(例:1か月)を示します。
-
確認期間中にまた起きた:けん責
本人の言い分を聞いたうえで、始末書の提出を求めるけん責にします。
-
けん責の後も繰り返す:減給
弁明の機会を設け、条文・理由・金額・控除する給与月を書いた通知書で知らせます。
注意の言い方が人格を否定する言葉や大声での叱責になると、ハラスメントの問題になります。指導との線引きは美容室のパワハラ防止で確認してください。
そのまま使える書面 — 就業規則の条文例・注意書・減給処分通知書
減給を含む懲戒は、就業規則に懲戒の種類と事由を定め、周知していることが前提です(労働基準法第89条第9号)。処分が行為に比べて重すぎれば、権利の濫用として無効になります(労働契約法第15条)。
就業規則の条文例(遅刻の控除・懲戒の種類と事由)
- 第〇条(遅刻・早退の控除)遅刻・早退により勤務しなかった時間の賃金は、基本給を1か月平均所定労働時間で除した額(円未満切り捨て)に、勤務しなかった時間(分単位)を乗じた額を控除する。歩合給は控除の対象としない。
- 第〇条(懲戒の種類)懲戒は、その情状に応じ、次の区分により行う。(1)けん責:始末書を提出させて将来を戒める。(2)減給:始末書を提出させて減給する。ただし、1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。(3)出勤停止:始末書を提出させるほか、〇日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。(4)懲戒解雇
- 第〇条(懲戒の事由)従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。(1)正当な理由なく、しばしば遅刻、早退又は欠勤をし、書面による注意を受けても改めないとき(2)故意又は重大な過失により店の設備・器具を壊したとき(3)衛生管理の手順に繰り返し違反したとき(4)その他前各号に準ずる行為があったとき
- 第〇条(弁明の機会)懲戒を行うときは、あらかじめ本人に事情を説明する機会を与える。
例文 注意書と減給処分通知書
- 注意書:〇〇〇〇様 あなたは2026年11月5日・12日・19日に、始業時刻の10時に遅れて出勤しました(それぞれ12分・20分・15分)。11月5日に口頭で注意しましたが改善されていません。遅刻はお客様の施術開始の遅れにつながり、就業規則第〇条(服務規律)に反します。今後は始業時刻の10分前までに出勤し、遅れるときは始業時刻前に店長へ電話してください。12月19日までの出勤状況を確認し、改善がない場合は就業規則第〇条に基づく懲戒を検討します。2026年11月20日 ヘアサロン〇〇 代表 〇〇 (受領しました 署名〇〇)
- 減給処分通知書:〇〇〇〇様 あなたは2026年11月20日付の注意書と12月4日付のけん責の後も、2027年1月8日・15日に遅刻(各20分)しました。これは就業規則第〇条第1号に該当するため、同第〇条第2号により減給の処分とします。減給額は4,646円(平均賃金9,293円47銭の1日分の半額以内)とし、2027年1月分の給与(2月25日支払)から1回に限り控除します。1月20日の面談で事情を伺ったうえでの処分です。2027年1月22日 ヘアサロン〇〇 代表 〇〇
常時10人未満の店は就業規則の届出義務はありませんが、懲戒をするなら規定を作って周知しておきます。作成と周知の手順は美容室に就業規則は必要かで確認できます。
現場でつまずく点 — 5つの落とし穴と防ぎ方
違反の多くは、悪意よりも計算の仕方と給与明細の書き方から起きます。
- 合計の上限を「いつもの月給」で計算する:上限は減給する月に実際に払う賃金総額の10分の1です。欠勤が多く賃金が少ない月は上限も下がるため、その月の総支給額で計算し直します。
- パートの平均賃金を原則の計算だけで出す:出勤日が少ない人は、労働日数で割った額の60%の最低保障額の方が高くなることがあります。両方を計算して高い方を使います。
- 給与明細に「罰金」「ペナルティ」と書く:違約金と受け取られ、遅刻控除との区別もつきません。「減給(懲戒)」「遅刻控除」と分け、処分は通知書を先に渡します。
- 弁償の同意書を取って天引きする:天引きが認められるのは、本人の自由な意思による同意と認められる合理的な理由があるときに限られます。弁償は給与とは別に払ってもらいます。
- 1つの事案で何か月も減らす:「1回」は1つの事案につき1回です。処分は1回の控除で終わらせ、改善しなければ次の事案として段階を進めます。
罰金や減給のルールを見直すときは、次の8項目を確認してください。
- ルール表・誓約書・就業規則から「罰金」「違約金」「自腹」の文言を消した
- 遅刻の控除は、実際に働かなかった分だけを分単位で計算している
- 減給の制裁の種類・事由・上限を就業規則に書き、周知した
- 平均賃金は原則と最低保障額の両方を計算し、高い方を使っている
- 合計の上限は、減給する月の賃金総額で計算している
- 弁償金やノルマ未達分を給与から差し引いていない
- 口頭の注意→書面の注意→けん責→減給の段階と記録を残している
- 処分の前に本人の言い分を聞き、通知書で条文・理由・金額を伝えている
よくある質問
遅刻したスタッフに「罰金1,000円」を払わせるのは違法ですか?
遅刻のたびに決まった額を払わせる約束は、労働契約の違反について違約金を定めることにあたり、労働基準法第16条で禁止されています。給与を減らすなら、就業規則に減給の制裁として定め、第91条の上限の範囲で行います。
スタッフ本人が罰金に同意していても違法ですか?
違法です。第16条は本人が同意していても違約金や賠償額の予定を禁止しているため、同意書があっても無効です。給与から差し引けば、全額払いの原則(第24条)にも反します。
ミスで薬剤を無駄にしたスタッフに材料費を払ってもらえますか?
通常の業務の中で起きるミスは店が負うべきリスクとされ、弁償を求めるのは難しいと考えてください。故意や重大な過失がある場合でも、請求できるのは事情を考えた一部に限られ、給与からの天引きもできません。
歩合給のスタイリストの減給の上限はどう計算しますか?
平均賃金は、減給の通知が本人に届いた日の直前の賃金締切日からさかのぼる3か月の、固定給と歩合給を合わせた賃金総額を暦日数で割って出し、固定給は暦日数、歩合給は労働日数で割って60%を掛けた最低保障額とも比べます。1回の上限はその半額、その月の合計の上限は歩合給を含めた賃金総額の10分の1です。
減給の制裁の上限を超えて減らしたらどうなりますか?
上限を超えた減給は労働基準法第91条の違反となり、30万円以下の罰金の対象です(第120条)。上限を超えて差し引いた分は本人に返します。
就業規則がない店でも減給の制裁はできますか?
減給を含む懲戒は、どんな行為にどんな処分をするかをあらかじめ定めて周知していることが前提です。就業規則がない店は、まず懲戒の種類と事由を定めた規定を作り、スタッフに示してから運用してください。
出典:労働基準法第12条・第16条・第24条・第27条・第89条・第91条・第119条・第120条(e-Gov法令検索「労働基準法」)、労働契約法第15条(e-Gov法令検索「労働契約法」)、民法第715条(e-Gov法令検索「民法」)、山梨労働局「制裁!」、鹿児島労働局「賃金・退職金・賞与関係Q5」、神奈川労働局「平均賃金について」、労働者への損害賠償請求に関する裁判例(厚生労働省「確かめよう労働条件」損害賠償)。個別の判断は社会保険労務士、弁護士、管轄の労働基準監督署に確認してください。
まず、ルール表や誓約書、就業規則に「罰金」「違約金」「自腹」の言葉がないかを確認し、判断表に沿って消すか直すことから始めてください。罰則に頼らず、評価と手当で行動を後押しする仕組みはスタッフ評価制度の作り方で解説しています。
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