美容室の採用面接では、本籍・出生地、家族の職業や収入、住宅の状況、宗教や支持政党、尊敬する人物、愛読書など、本人の適性や能力に関係のない事項を聞いてはいけません(厚生労働省「公正な採用選考の基本」)。結婚や出産の予定は男女を問わず聞かず、確かめたいのが勤務できる時間なら「土日や19時以降の勤務はできますか」と全員に同じ形で聞きます。
その質問を聞いてよいかの判断表、就職差別につながるおそれがある14の事項、NG質問の言い換え、30分面接の時間配分と評価の付け方の試算、そのまま使える面接シート、2026年10月から義務になった求職者へのセクハラ防止を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:採用面接で聞いてはいけない質問の早見表
NG質問の多くは、雑談のつもりで聞いてしまう出身・家族・住まい・結婚の話です。
| 聞いてはいけない質問の例 | 理由 | 代わりに聞くこと |
|---|---|---|
| 「出身はどこ?」「本籍は?」 | 本籍・出生地は本人に責任のない事項 | 通勤にかかる時間と手段 |
| 「ご両親の仕事は?」「兄弟は何人?」 | 家族に関することは適性と関係がない | 聞かない |
| 「実家暮らし?」「持ち家?」 | 住宅状況・生活環境に関すること | 通勤にかかる時間と手段 |
| 「結婚や出産の予定は?」「恋人はいる?」 | 性別による差別やセクシュアルハラスメントの問題 | 勤務できる曜日・時間帯(全員に同じ質問) |
| 「信じている宗教は?」「支持政党は?」 | 思想・信条の自由に関わる | 聞かない |
| 「尊敬する人は?」「愛読書は?」 | 思想・信条に関わる事項とされている | 目指す美容師像、技術の学び方 |
| 「持病はある?」 | 業務に関係のない健康情報 | 業務で配慮が必要なことがあるか(任意) |
その質問は聞いてよいか — 3つの基準で決める判断表
「仕事の条件や能力に関係するか」「全員に同じ形で聞くか」「答えなくても不利にならないか」の3つを満たす質問だけを面接シートに残します。迷う質問は次の表で判断してください。
| 聞きたいこと | 判断 | 聞き方・扱い |
|---|---|---|
| 出身・家族・住まい・家庭環境 | 聞かない | 通えるかは「通勤時間と手段」で聞く |
| 宗教・支持政党・思想・尊敬する人物・愛読書・組合活動 | 聞かない | 人柄は「頑張ったことと工夫したこと」で聞く |
| 結婚・出産・交際の予定 | 男女を問わず聞かない | 勤務できる曜日・時間帯を全員に聞く |
| 勤務できる曜日・時間帯、入社できる日、通勤時間 | 聞いてよい | 全員に同じ文言で聞き、答えを面接シートに書く |
| 健康状態 | 業務上の配慮に限って本人の申告として聞く | 病名や通院歴は聞かない。答えは任意と伝える |
| 外国籍の応募者の就労 | 在留カードで就労できる在留資格かを確かめる | 国籍そのものを採否の基準にしない |
| 年齢 | 募集・採用は原則として年齢不問(労働施策総合推進法第9条) | 例外事由で求人を出した場合を除き、年齢で採否を決めない |
| 応募者が自分から家族や持病の話を始めた | 深掘りしない | 「ありがとうございます。お仕事の条件のお話に戻りますね」と戻し、メモに残さない |
職業安定法第5条の5は、求人者が応募者の個人情報を集めるときは業務の目的に必要な範囲で目的を明らかにすることを求めており、同法の指針では、本籍・出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況は原則として集めてはならないとされています。スタッフ1人の店の採用でも同じです。
就職差別につながるおそれがある14の事項とは
公正な採用選考とは、応募者の基本的人権を尊重し、仕事に必要な適性と能力だけを基準に採否を決めることです。厚生労働省は、面接で聞いたり応募書類に書かせたりすると就職差別につながるおそれがある事項として14項目を示しています。
| 区分 | 事項 | 美容室の面接で出やすい聞き方の例 |
|---|---|---|
| 本人に責任のない事項 | 1 本籍・出生地/2 家族(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)/3 住宅状況/4 生活環境・家庭環境 | 「地元はどこ?」「親は美容師になるのに賛成している?」「一人暮らし?」 |
| 本来自由であるべき事項 | 5 宗教/6 支持政党/7 人生観・生活信条/8 尊敬する人物/9 思想/10 労働組合・学生運動などの社会運動/11 購読新聞・雑誌・愛読書 | 「人生のモットーは?」「尊敬する人は?」「前の店で組合に入っていた?」「どの雑誌を読んでいる?」 |
| 採用選考の方法 | 12 身元調査などの実施/13 適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用/14 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施 | 同意のない前職への問い合わせ、家族欄や本籍欄のある店独自の応募用紙、一律に求める健康診断書 |
応募書類は、厚生労働省の履歴書様式例のように、性別欄が任意記載で、通勤時間・扶養家族数・配偶者・配偶者の扶養義務の欄がない様式を使います。古い様式で家族欄があっても、そこを読んで質問したり判断に使ったりしないことを面接する人の間で決めておきます。
NG質問の言い換え例 — 確かめたいことを仕事の条件で聞く
NG質問の多くは、本当は勤務できる時間や通勤、長く働けるかを知りたくて出てくるものです。確かめたいことを仕事の条件に置き換えます。
| 確かめたいこと | NGの聞き方 | 言い換え |
|---|---|---|
| 土日・夜の勤務ができるか | 「結婚の予定は?」「小さい子はいる?」 | 「土日と、平日19時以降の勤務はできますか」 |
| 遅れずに通えるか | 「実家はどこ?」「一人暮らし?」 | 「通勤にかかる時間と手段を教えてください」 |
| 長く続けてくれそうか | 「親は賛成している?」 | 「3年後にどんな美容師になっていたいですか」 |
| 人柄や考え方 | 「尊敬する人は?」「愛読書は?」 | 「前の職場や学校で頑張ったことと、そのとき工夫したことを教えてください」 |
| トレンドへの関心 | 「どの雑誌を読んでいる?」 | 「最近気になっているヘアスタイルと、その理由を教えてください」 |
| 体力や健康面 | 「持病はある?」 | 「立ち仕事や薬剤を扱う作業で、配慮が必要なことがあれば教えてください(任意です)」 |
勤務できる時間などの条件は、面接より前に求人票で示しておくと、条件の合わない応募を減らせます。書き方は美容師求人票の書き方で確認してください。
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30分の面接をどう組むか — 時間配分と評価の付け方の試算
次のモデルでは、共通の6問に18分、応募者からの質問に5分を取り、4つの観点を各4点・合計16点で評価します。台本と点の付け方を先に決めておくと、雑談からNG質問に流れるのを防げます。
試算の前提(仮定):面接は30分、面接する人はオーナーと店長の2人。共通質問は1問3分。評価は「技術・経験」「接客の姿勢」「条件の合致」「成長の意欲」を各1〜4点。合格の目安は2人の平均の合計が11点以上、かつ「条件の合致」が3点以上(店の基準の例)。応募者Hさんの点は計算の例です。
| 項目 | 計算・内容 | 結果 |
|---|---|---|
| 0〜3分 | 店の紹介と面接の流れの説明 | 3分 |
| 3〜21分 | 共通質問1〜6(3分×6問) | 18分 |
| 21〜23分 | 配慮が必要なこと(任意)、在留カードの確認(該当者のみ) | 2分 |
| 23〜28分 | 応募者からの質問 | 5分 |
| 28〜30分 | 合否の連絡日と方法を伝える | 2分 |
| Hさんの点(オーナー) | 技術3+接客3+条件2+意欲4 | 12点 |
| Hさんの点(店長) | 技術3+接客4+条件3+意欲3 | 13点 |
| 2人の平均 | (12点+13点)÷2、条件は(2+3)÷2 | 12.5点、条件2.5点 |
| 判定 | 合計は11点以上だが、条件が3点未満 | 保留。勤務できる曜日を同じ質問で再確認する |
点の差が開いた観点は、面接シートのメモで理由を見比べます。理由に「家族」「出身」など14の事項に関わる言葉が出てきたら、その点は判断から外します。技術や定着の見込みを見極める質問の作り方は美容師の採用面接で見るべきポイントで扱っています。
健康状態・在留資格・前職の確認 — 聞いてよい範囲
健康状態は、仕事を行ううえで必要な範囲に限って確かめます。病名や通院歴を一律に聞いたり、採用を決める前に必要性のない健康診断を求めたりはしません。
- 健康状態:薬剤を扱う作業や長時間の立ち仕事について、配慮が必要なことがあるかを本人の申告として聞きます。答えは任意と伝え、病名を答えさせません。
- 雇入時の健康診断:入社のときの健康診断(労働安全衛生規則第43条)は採用を決めた後に行うもので、採否を決める材料にはしません。
- 障害のある応募者:面接の方法などについて配慮を求められたら、店にとって過重な負担にならない範囲で応じます(障害者雇用促進法)。
- 在留資格:外国籍の応募者は、在留カードで日本で美容の仕事ができる在留資格かを確かめます。国籍そのものを理由に採否を決めません。
- 前の店への問い合わせ:前の職場に勤務の様子を聞くときは、本人の同意を得てからにします。
入社後の健康診断の対象と費用は美容室の健康診断の義務、外国籍の美容師が働ける在留資格は美容室の外国人雇用で整理しています。
そのまま使える面接シートと、面接・見学のルール
面接シートとは、面接で聞く質問と評価の観点をあらかじめ決めて、全員に同じ順番で使う記録用紙のことです。2026年10月1日からは、改正男女雇用機会均等法により求職者などへのセクシュアルハラスメントの防止措置も事業主の義務になったため、面接と見学のルールも合わせて決めます。
面接シート(スタイリスト・アシスタント共通)
- 冒頭の説明:本日は30分ほどお時間をいただきます。全員に同じ質問をしています。答えにくいことは答えなくてかまいません。
- 1 応募の理由:当店を選んだ理由を教えてください。
- 2 経験と技術:これまでに担当してきた施術と、得意な技術を教えてください(スタイリストは作品写真も確認)。
- 3 働き方の条件:勤務できる曜日と時間帯、土日と平日19時以降の勤務ができるか、入社できる日を教えてください。
- 4 通勤:通勤にかかる時間と手段を教えてください。
- 5 仕事への向き合い方:前の職場や学校で頑張ったことと、そのとき工夫したことを教えてください。
- 6 これからの目標:3年後にどんな美容師になっていたいですか。
- 7 配慮が必要なこと(任意):立ち仕事や薬剤を扱う作業で、配慮が必要なことがあれば教えてください。
- 8 応募者からの質問:当店について確かめたいことをどうぞ。
- 評価欄:技術・経験/接客の姿勢/条件の合致/成長の意欲(各1〜4点:1=求める水準に届かない、2=一部届かない、3=届いている、4=上回る)と、点の理由のメモ。14の事項に関わることは書かない。
- 締めの説明:結果は〇月〇日までに、ご登録のメールアドレスにお送りします。
面接・見学の場で守るルール(面接する人全員で共有)
- 恋愛・交際・結婚の話題を出さない。容姿や体型について意見を言わない
- 面接は店内で、営業前後などあらかじめ決めた時間に行う
- 応募者への連絡は店の電話やメールで行い、個人のLINEやSNSを使わない
- 面接や見学の後に、飲食に誘わない
- 応募者から相談や苦情があったときの窓口(〇〇、電話〇〇)を決め、求人ページに載せる
- 不採用の人の応募書類と面接シートは、保管の期限を決め、必要がなくなったら消去・廃棄する
個人情報保護法第22条は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めています。見学で聞かれる質問と答え方はサロン見学で聞かれる質問と答え方、スタッフ向けを含む相談窓口の作り方は美容室のパワハラ防止で確認してください。
現場でつまずく点 — 5つの落とし穴と防ぎ方
NG質問は、台本の外で起きます。次の場面を先に想定しておきます。
- 緊張をほぐす雑談で「地元どこ?」:最初の2分の雑談で出やすい質問です。冒頭は店の紹介から入り、雑談の話題は「今日の道は迷いませんでしたか」程度にとどめます。
- 2人目の面接者が台本にない質問をする:店長やスタイリストが同席すると起きやすくなります。面接シートを事前に渡し、追加の質問は「仕事の条件か技術」に限ると決めます。
- 応募者が話した家族の事情をメモする:記録が残ると、判断に使ったと受け取られかねません。評価欄には仕事に関係することだけを書きます。
- 私生活のSNSを調べて判断する:本人が作品として示したアカウントで技術を見るのは仕事の確認ですが、交友関係や家族、考え方を調べるのは身元調査に近く避けます。
- 見学の後に「ご飯でも」と誘う:求職者へのセクハラ防止の観点から、面接・見学の後の飲食には誘わないとルールで決めておきます。
面接の前に、次の8項目を確認してください。
- 面接シートに、本籍・家族・住宅・宗教・支持政党・尊敬する人物・愛読書を聞く質問がない
- 勤務できる時間帯や通勤は、全員に同じ文言で聞く
- 結婚・出産・交際について、男女を問わず質問しない
- 健康状態は、業務で配慮が必要なことの任意の申告にとどめている
- 応募書類に、家族構成や本籍を書かせる欄がない
- 評価の観点と点の付け方、合格の目安を面接する人全員で共有した
- 面接や見学で個人のLINEやSNSを使わない、飲食に誘わないルールを決めた
- 不採用の人の書類の保管期限と消去の方法を決めた
よくある質問
採用面接で聞いてはいけない質問をすると罰則はありますか?
14の事項を聞くこと自体に直接の罰則はありませんが、就職差別につながるおそれがあるとして行政の指導の対象になることがあります。思想・信条などの個人情報を集めることは職業安定法の指針で原則として禁止され、性別で異なる扱いをすれば男女雇用機会均等法に反します。
「結婚しても働き続けますか」と聞くのは問題ですか?
女性にだけ聞く場合は性別による差別にあたり、男女ともに聞く場合でも、結婚は適性・能力と関係がないため避けるべき質問です。確かめたいのは働き続けられる条件なので、勤務できる曜日・時間帯やこれからの目標を聞きます。
応募者が自分から家族の事情を話してきたら、どうすればよいですか?
深掘りせずにお礼を言い、仕事の条件の話に戻します。話された内容は面接シートに書かず、採否の判断にも使いません。勤務できる曜日や時間帯は、全員に聞く同じ質問で確かめます。
応募者のSNSを見て採用を判断してもよいですか?
本人が作品として示したアカウントで、技術やセンスを確かめるのは仕事に関係する確認です。私生活の投稿から交友関係や家族、考え方を調べて判断の材料にするのは、身元調査に近く避けるべきです。
健康診断書の提出を応募の条件にしてもよいですか?
業務に照らして合理的・客観的な必要性がない限り、採用選考の段階で健康診断を求めることは避けるべきとされています。入社後に行う雇入時の健康診断とは分けて考えます。
年齢を理由に不採用にしてもよいですか?
募集と採用では、原則として年齢を不問にしなければなりません(労働施策総合推進法第9条)。長期勤続によるキャリア形成のために若年者を期間の定めのない雇用で募集するなどの例外事由で求人を出した場合を除き、年齢で採否を決めないでください。
出典:厚生労働省「公正な採用選考をめざして(採用選考時に配慮すべき事項)」、厚生労働省「履歴書の様式例の作成について」、職業安定法第5条の5(e-Gov法令検索「職業安定法」)、男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」)、厚生労働省「労働者の募集及び採用における年齢制限禁止の義務化に係るQ&A」、求職者等へのセクシュアルハラスメント防止措置の施行(山梨労働局「法改正のご案内」)、個人情報保護法第22条(e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」)、労働安全衛生規則第43条(e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」)。
まず、今使っている面接の質問と応募用紙を判断表と14の事項に照らし、当てはまる質問と欄を消してから、面接シートを全員で共有することから始めてください。求人の段階で条件を示す方法は美容師求人票の書き方で確認できます。
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