美容室の防災で最も難しいのは、施術の途中で止まる可能性があることです。薬剤を塗布した状態で停電すれば、待つことも流すこともすぐには判断できません。
この記事では、施術中に想定すべき状況、備えておく物、当日の判断手順、そして再開までの対応を整理します。
結論:美容室の防災は「施術中に止まったら」から考える
一般的な防災の備えは、避難と備蓄が中心です。美容室の場合、それに加えて「進行中の施術をどうするか」という固有の課題があります。
薬剤の塗布中、シャンプー中、カット中。それぞれで取るべき行動が違います。この判断を事前に決めておくことが、他の備えより先に必要です。
衛生面の日常運用は衛生管理と器具消毒の運用、保険の考え方は開業で入るべき保険で扱っています。

この判断を事前に決めておく理由は、その場では冷静に考えられないためです。揺れている最中や真っ暗な店内で、薬剤の扱いを判断するのは困難です。方針が決まっていれば、迷わず動けます。
公的な備えの考え方を確認する
災害への備えについては、内閣府が防災に関する情報を公表しており、事業者向けには事業継続に関する考え方が示されています。中小企業向けには、中小企業庁が事業継続力強化計画の認定制度を設けています。
出典:内閣府の防災に関する公表情報、および中小企業庁の事業継続力強化計画に関する案内。制度の要件は変更されることがあるため、最新の情報をご確認ください。
大掛かりな計画を作る必要はありません。まずは「誰が・何を・どの順で」を1枚にまとめるところからで十分です。
あわせて、避難経路と集合場所も決めておいてください。店内にお客様がいる状態での避難は、誘導する人が必要です。誰が先導し、誰が最後尾を確認するかを決めておくと、いざというときに動けます。
手順書は1枚に収め、バックヤードに貼っておいてください。読む時間はありません。
施術中の状況別の対応
| 状況 | まずやること | 注意点 |
|---|---|---|
| 薬剤塗布中 | 安全を確保し、状況を説明 | 放置時間の管理ができなくなる |
| シャンプー中 | 顔を上げてもらい安全確保 | 給湯が止まる可能性がある |
| カット中 | はさみを置き、その場で待機 | 暗所での作業は行わない |
| 会計時 | 決済端末が止まる前提で対応 | 現金の用意と記録 |
上表は想定を整理したものです。実際の判断は状況と安全を最優先に行ってください。
薬剤塗布中の停電は、判断が難しい場面です。時間の管理ができなくなるため、安全を確認したうえで、可能であれば早めに流す方向を検討することになります。事前に方針を決めておいてください。
シャンプー中は姿勢の問題があります。仰向けの状態で急に揺れた場合、自力で起き上がるのが難しい方もいます。まず声をかけ、体を支えることを優先してください。
会計時については、停電すると決済端末だけでなくレジそのものが使えなくなることがあります。手書きの控えを残せる用意があると、後から記録を復元できます。
カット中については、無理に仕上げようとしないことが重要です。暗い状態でのはさみの使用は危険です。安全が確認でき、十分な明るさが確保できてから再開してください。仕上がりより安全が優先されます。
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備えておく物
- 照明。乾電池式のランタンを複数。スマートフォンの明かりでは作業も避難もできません。
- 水。給湯が止まった場合に備え、洗い流し用の水を確保します。
- 現金とつり銭。決済端末が使えない場合の会計に必要です。
- 顧客名簿の控え。予約システムが見られない状態でも、当日の予約が分かる形にしておきます。
- 連絡手段。スタッフ間の連絡方法を、電波が不安定な場合も含めて決めておきます。
④は見落とされがちです。クラウドの予約システムしか見られない状態だと、停電時に誰が来る予定かも分かりません。当日分だけでも紙に出しておく運用が有効です。

物の備えは、置き場所を決めることとセットです。どこにあるか分からなければ意味がありません。バックヤードの決まった棚にまとめ、全スタッフに場所を共有してください。
点検の頻度も決めておいてください。乾電池は使わなくても劣化します。年に2回、季節の変わり目に確認する形にすると忘れません。
照明については、明るさだけでなく置き方も考えてください。手に持つタイプだけだと、作業しながら使えません。据え置きできるものを1つは用意しておくと、避難誘導や後片付けで役立ちます。
水は、飲用と洗い流し用で必要量が違います。洗い流しにはある程度の量が要るため、ポリタンクなどでまとまった量を確保できると安心です。ただし保管場所と入れ替えの手間も考えて、無理のない範囲にしてください。
⑤の連絡手段は、スタッフの私物端末に依存しすぎないよう注意してください。
当日と翌日の判断
-
安全を確認する
在店者の安全が最優先です。設備の破損や漏水がないかを確認します。
-
営業可否を判断する
電気・水道・ガスの状況で決めます。無理に続けると事故につながります。
-
予約客へ連絡する
当日と翌日の予約を確認し、早めに連絡します。判断が遅れるほど相手に迷惑がかかります。
-
再開の見通しを発信する
店頭とオンラインの両方で状況を伝えます。情報がないと、来店を試みる方が出ます。
設備に破損がある状態での営業は避けてください。給排水や電気設備に問題がある場合、施術中の事故につながります。安全が確認できるまでは休業する判断が必要です。判断に迷う場合は、設備業者や管理会社に確認してください。
③の連絡は、経路を複数用意しておくと確実です。電話が繋がりにくい状況でも、メッセージなら届くことがあります。普段から複数の経路で連絡できる状態にしておくことが備えになります。
②の判断は、早めに下すほうが結果的に負担が小さくなります。営業できるかどうかを迷いながら待つと、来店した方を待たせることになります。午前中に判断して発信する、といった時間の目安を決めておくと動きやすくなります。
④の予約控えは、当日の朝に印刷する運用で足ります。氏名と時間、担当者、メニューが分かれば十分です。個人情報を含むため、営業終了後は適切に処分してください。
再開に向けて
休業が数日に及ぶ場合、資金面の影響も出ます。固定費は営業していなくても発生します。
備えとしては、休業補償を含む保険の確認と、手元資金の把握が中心になります。運転資金の考え方は運転資金はいくら必要かを参考にしてください。

再開後は、休業中に来られなかった方への案内が必要です。順番に連絡し、優先的に枠を確保する形にすると、失客を抑えられます。
防災の備えは、使わずに済むのが一番です。ただし美容室は施術の途中で止まる可能性がある業態です。年に一度、スタッフで手順を確認する時間を取ってみてください。
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停電・災害時の連絡文例と、休業した日の賃金・保険・予約の扱い
停電の最中に迷うのは、施術の判断より「誰に、何を、どの順で伝えるか」です。文例を先に決めておくと、暗い店内でもスマホから同じ内容を送れます。
| 相手 | タイミング | 文例 |
|---|---|---|
| 施術中のお客様(口頭) | 停電直後 | 「停電のようです。安全のため一度手を止めます。薬剤はこのまま進めて問題のない状態ですので、少しお待ちください」(薬剤が乗っている場合は、流す手段の有無を先に確認) |
| これから来る予約客(LINE・電話) | 営業可否を決めた直後 | 「◯時から停電のため、本日◯時以降のご予約は施術ができない可能性があります。振替のご希望日を2つお知らせいただけますか。復旧しだいご連絡します」 |
| スタッフ(グループ) | 停電直後と、営業可否決定後の2回 | 「停電中。ドライヤー・アイロン使用禁止、非常灯とスマホライトで対応。◯時に営業可否を判断します」→「本日◯時で閉店。明日は通常営業予定、変更あれば朝7時までに連絡」 |
| 全体(SNS・Googleビジネスプロフィール) | 営業可否決定後 | 「本日は停電のため◯時で営業を終了します。ご予約のお客様には個別にご連絡しています。再開は明日◯時を予定しています」 |
休業した日の賃金・保険・予約の扱い
- 賃金(休業手当):停電や災害そのものが原因で営業できない場合は「使用者の責に帰すべき事由」に当たらないと判断されることが多く、休業手当の支払い義務が生じない場合があります。ただし店の設備トラブルや、営業できたのに店の判断で閉めた場合は支払いが必要になることがあります。判断に迷うときは労働基準監督署に確認します。
- 保険:店舗の火災保険に休業補償の特約があれば、対象の事故(火災・水災・落雷など)による休業で補償される場合があります。停電のみは対象外のことが多いため、約款を確認します。
- 予約:キャンセル料は請求しない。振替の希望日を2つ聞く。振替の来店時に「お待たせしたお詫び」を言葉で伝えれば足り、割引は必須ではありません。
- 売上の記録:停電中に現金で受けた会計は、復旧後にレジへ入力して日付を合わせます。手書きの控えを残します。
復旧後に確認する設備
| 設備 | 確認すること |
|---|---|
| 給湯器 | 再点火・エラー表示。停電復帰後にリセットが要る機種がある |
| 冷蔵庫(薬剤・飲料) | 庫内温度と、停電時間が長かった場合の薬剤の状態 |
| 予約システム・決済端末・Wi-Fi | 予約データの同期、端末の再起動、未送信の決済 |
| 電動椅子・シャンプー台 | 動作と異音。途中で止まった椅子は無理に動かさない |
| 照明・ブレーカー | 復帰時に一斉に入ると落ちることがある。順に入れる |
出典:労働基準法第26条(休業手当)、厚生労働省「自然災害時の労働基準法等の取扱いに関するQ&A」、内閣府「事業継続ガイドライン」。休業手当の要否は個別の事情で変わるため、労働基準監督署または社会保険労務士に確認してください。備品の一覧は本文の「備えておく物」、スタッフの体調不良時の対応は「スタッフが発熱したときの営業判断」の記事を参照してください。
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