美容師とお客様の連絡は、予約・施術・店販など仕事に関わるものは店のLINE公式アカウントや予約システムなど店の連絡手段に限り、スタッフ個人のLINEやSNSのDMで予約を受けたり、カルテなど店の顧客情報を個人的な連絡に使ったりしないのが基本のルールです。お客様から個人の連絡先の交換や食事の誘いを受けたときの断り方と、しつこい誘いやつきまといがあったときに店がスタッフを守る手順を、規程に書いておきます。
認める・条件付きで認める・認めないの場面別の判断表、個人LINEから店のLINEへ移す期間と案内人数の試算、移行のお知らせ・断り方・来店お断りの文例、規程と退職時の誓約書の例文、現場でつまずく点を整理します。スタッフ同士の業務連絡のツールや、退職したスタッフにお客様がついていく問題は別の記事で扱います(2026年10月時点の情報です)。
結論:お客様との連絡ルールの早見表
線引きの基準は、仕事の連絡は店の手段で、店の顧客情報は店の目的にだけ使い、誘いやつきまといはスタッフ一人に対応させないの3つです。
| 場面 | ルールの目安 | 理由・根拠 |
|---|---|---|
| 予約・変更・キャンセル | 店のLINE公式アカウント、予約システム、店の電話だけで受ける | 記録が店に残り、担当者が休みでも対応できる |
| 個人LINEの交換を頼まれた | 店のLINE公式アカウントを案内し、担当者を指名できることを伝える | 仕事の連絡を個人の端末に分散させない |
| SNSのDMで予約の依頼 | DMでは受けず、店の予約窓口に誘導する | 予約漏れや二重予約を防ぐ |
| 店の顧客情報の私的な利用 | カルテや予約システムの連絡先で個人的に連絡しない | 個人情報保護法第18条(利用目的による制限) |
| 食事・交際の誘い | 「店のルールでお断りしている」と言えるようにしておく | スタッフが個人として断る負担を減らす |
| しつこい誘い・つきまとい | 責任者が対応し、記録を残し、必要なら警察に相談する | ストーカー規制法、カスタマーハラスメント対策の措置義務(2026年10月1日施行) |
| 退職するとき | 個人の端末に残った顧客情報を消し、店のアカウントの権限を外す | 顧客情報の持ち出しを防ぐ |
なぜ個人の連絡と分けるのか — 顧客情報は店が集めたもの
お客様の連絡先は、店が予約や施術のために集めた個人情報です。個人情報保護法は、あらかじめ本人の同意を得ずに利用目的の範囲を超えて個人情報を扱うことを禁じ(第18条)、店に個人データの安全管理措置(第23条)と、扱う従業者への監督(第24条)を求めています。
- 目的外の利用になる:カルテの電話番号で誕生日に個人的なメッセージを送る、予約システムで調べた住所を私的に使うなどは、店の利用目的を超えた扱いになります。
- 記録が店に残らない:個人のLINEで受けた予約や約束は、担当者が休んだり辞めたりすると誰にも分からなくなります。
- 誤解とトラブルが生まれやすい:夜遅くの個人的なやり取りは、好意と受け取られたり、返信の遅れが不満になったりします。
- スタッフの私生活を守れる:仕事の連絡を店の手段に集めれば、休みの日や夜に個人の端末へ連絡が来ることを防げます。
顧客データへのアクセスの管理やパスワードの扱いは顧客データを守る方法にまとめています。この記事では、スタッフとお客様の間の連絡の線引きに絞ります。
認めるか・条件付きか・認めないか — 場面別の判断表
判断は「仕事の連絡か」「店の顧客情報を使うか」「お客様が断られた後も続けているか」の3つで決まります。私生活での付き合いそのものは店が一律に禁じるものではないため、線は仕事と顧客情報の側に引きます。
| 場面 | 判断 | 店のルール・対応 |
|---|---|---|
| 予約・変更・キャンセルを個人LINEやDMで受ける | 認めない | 店の予約窓口に誘導し、指名すれば担当できることを伝える |
| 施術後のフォローや髪の相談 | 条件付き:店のLINE公式アカウントで | 返信に担当者名を書き、営業時間内に返す |
| 店が認めた作品用SNSにDMが来た | 条件付き:定型文で店のLINEへ | 予約・料金・薬剤の相談にはDMで答えない |
| 個人の日常用SNSをお客様にフォローされた | 本人の判断(店として推奨を示す) | 非公開にする、フォローを返さないなどを選べるようにし、店やお客様の情報は載せない |
| カルテや予約システムの連絡先で個人的に連絡する | 認めない | 利用目的を超えた扱いになる。在職中も退職後も同じ |
| 業務中に食事や交際に誘われた(1回目) | 店のルールを理由に断る | 断り方の文例で断り、日時と内容を責任者に報告する |
| 断った後も誘われた(2回目以降)、または店の外で声をかけられた | 責任者が引き取る | 次の予約から担当を変えるか責任者が同席し、記録を残す |
| 待ち伏せ・見張り・拒まれた後も続く電話やメッセージ | 警察に相談する | 危険が迫っていれば110番、そうでなければ#9110か最寄りの警察署。来店の制限を検討する |
| 業務委託・面貸しの美容師 | 契約で決める | 顧客情報の管理者と、契約終了時の扱い、連絡手段の使い方を契約書に書く |
個人LINEから店のLINEへ移す — 移行の試算と返し方の文例
すでに個人LINEで予約を受けているスタッフがいる店は、指名客の来店周期1回分を移行期間にして、来店時に1人ずつ店のLINEを案内すると、突き放す印象を与えずに移せます。
試算の前提(仮定):スタイリストAの個人LINEでやり取りしている指名客は120人、平均の来店周期は6週間。1件の予約・相談のやり取りは平均3分で、個人LINEでのやり取りは月40件。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 移行期間 | 平均の来店周期と同じ長さ | 6週間 |
| 1週間あたりの来店時の案内 | 120人÷6週間 | 週20人(1日あたり3〜4人) |
| 期間中に来店しなかった人 | 6週間たっても案内できていない人 | 個人LINEで移行のお知らせを1回だけ送り、その後は個人LINEで予約を受けない |
| 店から見えていなかったやり取り | 月40件×3分 | 月120分(2時間)分の予約と相談が、店の記録の外にあった計算 |
移行のお知らせと、お客様への返し方の文例
- 【個人LINEで送る最後のお知らせ】いつもありがとうございます。12月1日から、ご予約とご相談はお店のLINEでお受けすることになりました。お店のLINEで私宛てに送っていただければ、これまでどおり私が確認してお返事します。こちらから登録できます(店のLINEのURL)。
- 【来店時の案内】次回から、ご予約はお店のLINEでお願いしています。私を指名していただければ、私がお返事しますので、今ここで登録していただいてもよろしいですか。
- 【個人LINEを頼まれたとき】ありがとうございます。ご予約やご相談は、お店のLINEで私宛てに送っていただければ、私が確認してお返事します。こちらのQRコードから登録できます。
- 【InstagramのDMで予約を頼まれたとき】ご連絡ありがとうございます。ご予約はこちらの予約ページかお店のLINEからお願いしています。私を指名していただければ、私が担当します。
- 【DMで髪の相談が来たとき】写真を見てお答えしたいので、お店のLINEに同じ内容を送っていただけますか。カルテと合わせて確認します。
LINE公式アカウントで担当者ごとに返信できるようにする設定や、スタッフに与える権限の範囲はLINEのスタッフ権限管理で確認してください。
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食事や交際の誘いへの断り方 — 店のルールを理由にできるようにする
お客様からの誘いを、スタッフが個人の判断だけで断ると角が立ちやすく、次の来店を気にして断れないこともあります。「お店のルールで、お客様と個人的にお会いすることはお断りしています」と言えるよう、店の規程に書いておきます。笑ってごまかすと、脈があると受け取られることがあります。
断り方と、責任者が引き取るときの文例
- 【1回目】お誘いありがとうございます。お店のルールで、お客様と個人的にお食事に行くことはお断りしているんです。ご来店のときに、またお話を聞かせてください。
- 【連絡先を聞かれた】連絡先の交換もお店で決まりがあって、お店のLINEでのやり取りにさせていただいています。
- 【2回目以降】何度も申し訳ないのですが、お受けできません。このお話は今日で終わりにさせてください。
- 【責任者から・担当の変更】次回から、担当は私(責任者)が務めます。お店の方針として決めたことですので、ご理解をお願いします。
- 【責任者から・来店のお断り】お店として検討した結果、今後のご予約はお受けできないことになりました。担当していたスタッフへのご連絡もお控えください。
誘いやしつこい連絡は、スタッフの性別や年齢、経験にかかわらず起こり得ます。新人やアシスタントほど断りにくい立場にあるため、入社時にこのルールと報告先を伝えます。2026年10月1日から、顧客等からの言動のうち社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの(カスタマーハラスメント)への対策が事業主の義務になり、方針の明確化と周知、相談窓口の設置、事後の迅速な対応などが求められています。店がやるべきことはカスハラ対策の義務化で店がやることで確認してください。
つきまといやしつこい連絡があったら — スタッフを一人にしない
繰り返しの連絡、待ち伏せ、SNSでの執拗なメッセージなどがあれば、スタッフ一人に対応させず、店として記録を残して責任者が対応し、警察に相談します。ストーカー規制法は、恋愛感情などを満たす目的で行う、つきまとい、待ち伏せ、勤務先の付近での見張り、拒まれたのに続ける電話やメッセージの送信などを「つきまとい等」として規制しています(第2条)。
- 記録を残す:「日時・場所・相手の言動・スタッフの対応・証拠(画面の保存、写真)」の5項目を1件ずつ書きます。警察に相談するときの材料になります。
- 予約の受け方を変える:該当のお客様の担当を外し、来店時は責任者が対応します。予約サイトに登録が残っている場合は、予約を受け付けない設定ができるかも確かめます。
- 帰り道の安全を確保する:閉店後に一人で帰らない、出口や時間を変えるなど、スタッフの退勤時の安全を店が一緒に考えます。
- 警察に相談する:危険が迫っているときは110番、そうでなければ警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談します。
- スタッフの心身を気にかける:勤務の調整や休みの取り方を本人と相談し、不安を一人で抱えさせません。
規程と退職時の誓約書の例文 — 連絡手段・顧客情報・誘いへの対応を書く
ルールは、就業規則の服務規律か、別に作る顧客対応の規程に書き、入社時と年に1回は説明します。私生活での交際そのものを一律に禁じる規定は、私生活への過度な干渉と受け取られかねないため、仕事の連絡と顧客情報の扱い、誘いを受けたときの対応に絞ります。
規程(顧客との連絡)と退職時の誓約書の例文
- 第( )条(顧客との連絡) 従業員は、予約、施術、商品の案内その他業務に関する顧客との連絡を、会社が指定する連絡手段(LINE公式アカウント、予約システム、店舗の電話)によって行う。
- 2 従業員は、業務に関する連絡のために、個人の電話番号、個人のLINE、個人のSNSアカウントを顧客に教え、または顧客から予約を受け付けてはならない。
- 3 従業員は、業務を通じて知った顧客の個人情報を、業務以外の目的で利用してはならない。在職中及び退職後も同様とする。
- 4 従業員は、顧客から私的な交際や面会を求められたときは、会社の規程によりお断りしている旨を伝え、速やかに責任者に報告する。会社は、報告した従業員に不利益な取扱いをしない。
- 5 会社は、顧客からのつきまとい等により従業員の安全が害されるおそれがあるときは、担当の変更、来店の制限、警察への相談その他必要な措置をとる。
- 【退職時の誓約書】私は、在職中に業務を通じて知った顧客の氏名・連絡先・カルテの情報を、個人の端末(スマートフォン、パソコン、個人のSNS・LINE)から削除したことを確認しました。退職後、これらの情報を利用して顧客に連絡しないことを誓約します。 年 月 日 氏名:
規程を作ったり変えたりしたときは、ミーティングで文例を使って断り方を練習し、説明した日と参加したスタッフを記録します。就業規則に書く場合の手続きは就業規則は必要かで、スタッフ同士の業務連絡を個人LINEから移す手順はスタッフ連絡ツールの選び方で確認できます。
現場でつまずく6つの点 — 防ぎ方まで決めておく
規程があっても、アカウントの権限、歩合の計算、退職時の確認でルールが崩れます。
- 店のLINEを共有のログインで使う:全員が同じIDで入ると、誰が返信したか分からず、退職者もログインできたままになります。スタッフごとに権限を付け、退職日に外します。
- 移行を一斉に宣言して突き放す:「今後は個人LINEで受けません」とだけ送ると、担当が変わるのかと不安にさせます。先に「指名すれば私が返信する」ことを伝えます。
- 担当を変えると歩合が減る:歩合制の店では、つきまといを報告して担当を外れたスタッフの売上が減り、報告をためらう原因になります。担当変更で減った分の扱い(一定期間は元の担当の実績として数えるなど)を先に決めます。
- 来店のお断りを担当スタッフに伝えさせる:本人が伝えると、逆恨みの矛先が担当に向きます。責任者が、記録の残る方法で店の決定として伝えます。
- 退職時の削除を口頭で済ませる:「消しました」の一言では確かめられません。最終出勤日に誓約書に署名してもらい、店のアカウントの権限を外したことを確かめます。
- 業務委託の美容師に規程が届かない:雇用のスタッフ向けの就業規則は、業務委託の美容師には当然には当てはまりません。顧客情報と連絡手段の扱いを業務委託契約書に条項として書きます。
お客様との連絡ルールを決めるときに、次の8項目を確認してください。
- 予約・相談・フォローを受ける店の連絡手段を決め、スタッフごとの権限で使える
- 個人LINEで予約を受けているスタッフがいれば、来店周期1回分の移行期間を決めている
- 個人LINEやSNSのDMで予約を受けないことを、規程に書いている
- 店の顧客情報を業務以外に使わないことを、入社時に説明している
- 誘いの1回目と2回目以降で、誰が何をするかを判断表で決めている
- 報告した人を不利益に扱わないこと、担当変更で減る歩合の扱いを決めている
- つきまといの記録の5項目と、警察への相談の判断をする人を決めている
- 退職時に誓約書と、店のアカウントの権限の解除を確かめている
よくある質問
スタッフがお客様と個人LINEを交換するのは違法ですか?
交換そのものを禁じる法律はありません。ただし、カルテや予約システムなど店の顧客情報から連絡先を調べて個人的に連絡するのは、利用目的を超えた個人情報の扱いになります。店としては、仕事の連絡は店の手段で行うと規程で決めておきます。
お客様との交際を就業規則で禁止できますか?
私生活での交際を一律に禁じるのは、私生活への過度な干渉と受け取られかねません。店が決めるのは、業務中の誘いへの対応、顧客情報の扱い、交際している相手を担当するかどうかなど、仕事に関わる部分にとどめるのが現実的です。
指名のお客様からInstagramのDMで予約したいと言われたら?
DMでは受けず、予約ページか店のLINEに誘導し、指名すれば担当できることを伝えます。DMで受けた予約は店の予約表に反映されず、予約漏れや二重予約の原因になるためです。
しつこく食事に誘われて困っているとスタッフから相談されたら?
本人に断らせ続けず、責任者が対応を引き取ります。次回から担当を変える、来店時に責任者が同席するなどの措置をとり、店の外での接触があれば記録を残して警察に相談します。
お客様から個人的にプレゼントや差し入れをもらってもよいですか?
受け取ってよい範囲を店のルールで決めておきます。たとえば、店のスタッフみんなで分けられる菓子などはお礼を伝えて受け取り、現金や高額な品、個人の連絡先が添えられたものは丁寧にお断りする、と決めておくと、スタッフが一人で判断に迷わずに済みます。
退職したスタッフが個人LINEでお客様に独立の案内を送っていたら?
在職中に店の顧客情報から得た連絡先を使った案内なら、個人情報の目的外利用や、顧客名簿が営業秘密に当たる場合の不正使用として問題になり得ます。予防には、退職前に個人の端末から顧客情報を削除させ、誓約書で確認しておくことが有効です。
出典:個人情報の保護に関する法律第18条・第23条・第24条(e-Gov法令検索「個人情報保護法」)、ストーカー行為等の規制等に関する法律第2条(e-Gov法令検索)、厚生労働省「従業員を守るために ― カスタマーハラスメント対策の新ルール」(厚生労働省)。移行期間と件数は前提を置いた試算です。被害の相談は警察相談専用電話(#9110)または最寄りの警察署へ。
まずは、スタッフごとに個人LINEやDMで受けている予約の件数を聞き取り、来店周期1回分の移行期間と、お知らせの文面を決めるところから始めてください。退職するスタッフとお客様の関係の整理はスタッフの独立と顧客の引き継ぎで準備できます。
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