医療用ウィッグの美容室での対応|受ける・断るの判断表、カット料金の決め方、声かけ文例と自治体の助成

医療用ウィッグのお客様には、持ち込みウィッグのカットや調整を個室や人目の少ない時間帯で受け、料金・所要時間・扱える素材を事前に示し、ウィッグの購入費を助成する自治体もあることを案内します(例:横浜市は1万円を助成、購入額が1万円未満なら実額)。治療や病気のことは聞きすぎず、治療後に髪が生え始めたときのカットやウィッグを外す時期の相談には本人のペースで応じ、カラーやパーマの再開時期は主治医に確認してもらいます。

受ける・条件付きで受ける・ほかを案内するの判断表、ウィッグカットの料金と予約枠の試算、メニュー表・予約時・声かけ・助成の案内にそのまま使える文例、横浜市の助成での自己負担の計算、現場でつまずく点を整理します。髪を寄付するヘアドネーションの受け入れは別の記事で扱います(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:医療用ウィッグのお客様の受け入れ早見表

受け入れの要点は、人目に触れない場所と時間を用意する、メニューと料金を先に示す、治療のことは本人が話した範囲で受け止めるの3つです。

項目 対応の目安 理由
場所 個室・半個室、または仕切りのある席 ウィッグを外す場面をほかのお客様に見られたくないと考える方がいる
時間帯 開店直後、閉店前、平日の空いている時間 待ち合いやほかの席との距離を確保しやすい
メニュー 「ウィッグカット・調整」を税込料金と所要時間付きで載せる 問い合わせのたびに事情を説明しなくて済む
持ち込みウィッグ 人毛か人工毛か、熱を使えるかをメーカーの表示で確かめる。ウィッグへの薬剤施術はしない 素材によって熱に弱いものがあり、切った毛は戻せない
自治体の助成 制度があることを伝え、自治体か病院のがん相談支援センターでの確認をすすめる 対象・金額・期限は自治体ごとに違う
カラー・パーマの再開 主治医に確認してもらい、再開時はパッチテストから 体の状態の判断は医師が行う
情報の扱い 治療の情報は本人の同意を得て記録し、共有は必要な範囲に 病歴は要配慮個人情報に当たる

アピアランスケアと医療用ウィッグとは — 店が担えるのは整容の部分

アピアランスケアとは、医学的・整容的・心理社会的な支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケアのことで、国立がん研究センター中央病院の外見関連の支援チームが提唱した言葉です。美容室が担えるのは、このうち髪とウィッグで見た目を整える「整容」の部分で、具体的にはウィッグをかぶった状態での前髪・長さ・量の調整、治療前に自毛を短く整えること、治療後の生え始めの髪をそろえること、手入れの相談の4つです。

医療用ウィッグとは、がん治療などによる脱毛に対応するために作られたウィッグの通称で、法律上の区分ではありません。2015年には医療用ウィッグの日本産業規格(JIS S 9623)が定められ、適合をうたう製品もあります。治療の内容、副作用、髪がいつ生えるかといった医療の判断は店では行わず、療養生活の困りごとは、がん診療連携拠点病院などに置かれている「がん相談支援センター」を案内します。

受けるか・条件付きか・ほかを案内するか — 素材と作業別の判断表

判断は「ウィッグの素材と表示」「頼まれた作業」「購入店のアフターサービスの有無」「本人の体調」で決めます。切った毛は戻せず、熱で傷んだ人工毛も元に戻らないため、分からないものは受けない側で決めておきます。

状況 判断 店の対応
人毛または人毛ミックスのウィッグのカット・調整 受ける かぶった状態で少しずつ切る。熱はメーカーの表示の範囲で使う
人工毛で、耐熱の表示と使える温度が分かる 条件付きで受ける カットは受け、アイロンは表示温度より低い設定から試す
人工毛で、耐熱の表示がない・タグがなく素材が分からない 条件付きで受ける カットと量の調整だけにし、熱は使わない
ウィッグへのカラー・パーマ・縮毛矯正 受けない メーカーか購入店に相談するよう案内する
購入店の無料調整やアフターサービスの期間中 先に購入店を案内する 他店での加工が保証の条件に影響しないか、説明書や購入店で確かめてもらってから受ける
治療中の自毛のカット、当日の体調に問題がない 受ける 短時間で終える段取りにし、途中で休めることを伝える
当日の体調がすぐれない、頭皮に気になる症状がある 日を改める 症状があれば主治医への相談をすすめ、キャンセル料はとらない
治療後に自毛のカラー・パーマを再開したい 条件付きで受ける 主治医の了承を本人に確かめ、カラーは48時間前のパッチテストから始める
体調などで来店が難しい 訪問を検討する 美容師法施行令第4条により美容所以外の場所で施術できる。始め方は訪問美容の始め方を参照

試算:ウィッグカットの料金と予約枠 — 通常のカットと同じ料金にしない理由

ウィッグカットは、かぶった状態でのカットに加えて、個室の準備と前後の空き時間がかかるため、通常のカットより長い枠が必要です。店の時間単価から料金を逆算します。

試算の前提(仮定):セット面4と半個室1の店。スタイリストの時間単価(1時間あたり売上)の目標は6,000円。通常のカットは予約枠60分・税込5,500円。ウィッグカットは受付とカウンセリング10分、かぶった状態でのカット40分、手入れの説明10分の計60分に、半個室の準備・片付けとほかのお客様と重ならないための空き15分を加える。

メニュー 予約枠 時間単価から出した料金 通常カットと同額(5,500円)にした場合の時間単価
ウィッグカット(持ち込み) 60分+15分=75分 6,000円×75÷60=7,500円 5,500円÷75×60=4,400円(目標より27%低い)
ウィッグの調整・相談(カットなし) 20分+10分=30分 6,000円×30÷60=3,000円 —
生え始めのカット(ウィッグの調整込み) 45分+15分=60分 6,000円×60÷60=6,000円 5,500円(目標より約8%低い)
治療前のショートカット 40分+10分=50分 6,000円×50÷60=5,000円 —

通常のカットと同じ5,500円で受けると、75分の枠で時間単価は4,400円になります。治療中のお客様の負担を考えて料金を抑える判断もありますが、その場合は「目標との差額×件数」を店の負担として把握しておきます。月4件なら(7,500円−5,500円)×4件=8,000円です。料金はメニュー表に税込の総額で示し、表示のルールは料金表示のルールで確認できます。時間単価の出し方は時間単価の出し方と上げ方にまとめています。

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施術の流れ — 予約から返却までの5つの手順

流れは予約時に聞くのは希望と素材だけ、来店後は個室へ、表示を確かめてからかぶった状態で少しずつ切るが基本です。

  1. 予約時に聞くのは希望と素材だけ

    仕上がりの希望と、人毛か人工毛か、耐熱の表示があるかを聞きます。治療のことは聞きません。開店直後か閉店前の枠を提案します。

  2. 来店したら個室か仕切りのある席へ

    受付から席までの動線を短くし、ウィッグを外す・かぶる場面が通路や待合から見えない向きに鏡を置きます。仕切りの作り方は半個室の内装で扱っています。

  3. 預かる前に表示と状態を一緒に確かめる

    タグや取扱説明書で素材と使える温度を確かめ、毛の傷みやほつれがあれば本人と一緒に見て、カルテに書きます。

  4. かぶった状態で少しずつ切る

    ウィッグの毛は伸びないため、長さは控えめに切り、前髪は最後に鏡で本人と確かめてから仕上げます。

  5. 手入れの方法と次の予約を伝えて返す

    普段のまとめ方と外出前の整え方を伝え、かぶり方を一緒に確かめてから返します。手入れの方法はメーカーの説明書に沿って伝えます。

持ち込まれたウィッグを置く台やスタンド、留めるピンは客ごとに清潔なものを使い、床やワゴンに直接置きません。

そのまま使える文例 — メニュー表・予約時・声かけ・記録の同意

文面は治療や病気に触れずに予約でき、当日も希望と使い心地だけを聞く形にそろえます。

メニュー表から記録までの文例

  • 【メニュー表】ウィッグカット・調整(持ち込み可)|税込7,500円|約60分|半個室でご案内します。人毛・人工毛どちらにも対応します(人工毛は耐熱の表示を確かめてから熱を使います)。ウィッグへのカラー・パーマは行っていません。
  • 【予約時】ウィッグのカットのご希望ですね。人毛か人工毛か、耐熱の表示があるか、お分かりになる範囲で教えてください。開店直後の10時の枠でしたら、ほかのお客様と重なりません。
  • 【来店時】今日はこちらのお部屋をご用意しています。ウィッグを外していただくときも、ほかの方からは見えませんのでご安心ください。
  • 【カウンセリング】前髪の長さや分け目など、気になっているところから教えてください。お話ししたくないことは、無理にお話しいただかなくて大丈夫です。
  • 【カット中】ウィッグの毛は伸びないので、少しずつ切って、鏡で一緒に確かめながら進めます。
  • 【助成の案内】お住まいの市区町村によっては、ウィッグの購入費を助成する制度があります。病院のがん相談支援センターか、市区町村の窓口で確かめてみてください。申請には購入時の領収書が必要になることが多いので、捨てずに保管しておくと安心です。
  • 【記録の同意】次回も同じように整えられるよう、ウィッグの種類と今日の調整の内容をカルテに残してもよろしいですか。治療に関することは、お話しいただいた場合も、ご了解をいただいた範囲だけを記録します。

病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報に当たり、記録するには本人の同意が必要です。カルテには施術に必要なことだけを書き、担当者を固定すると、毎回事情を話す負担がなくなります。障害や体の状態を理由に配慮を求められたときの考え方は合理的配慮の考え方と対応例も参考になります。

自治体の購入助成 — 横浜市の例と自己負担の計算

がん治療などで脱毛した方のウィッグ購入費を助成する自治体があります。対象者、金額、対象品、申請期限は自治体ごとに違うため、店は制度があることを伝え、詳しくはお住まいの自治体か病院のがん相談支援センターで確かめるよう案内します。

項目 横浜市の例(市のページ、2026年10月6日更新時点)
対象者 申請日時点で横浜市に住民票があり、抗がん剤治療等の副作用による脱毛に対処するためにウィッグを購入した方(治療中、または申請日から2年以内に治療を受けていた方)
対象品 ウィッグ等。帽子や材料を購入して作成する場合も対象。レンタルは対象外(レンタル期間後に買い取る場合は対象)
助成額 1万円(購入額が1万円未満の場合は実際の購入額)。1万円未満の品を複数買った場合は、購入日から1年以内なら合算して申請できる
申請期限・書類 購入日から1年以内。申請書、領収書等のコピー、治療を確認できる書類のコピー(お薬手帳など)。郵送のほか、2026年8月3日からオンライン申請も可能
再申請 交付決定の翌年度から5年間は新たな申請ができない

横浜市の制度で自己負担を計算すると、38,500円のウィッグを買った場合は38,500円−10,000円=28,500円、7,700円のウィッグなら助成は実額の7,700円で自己負担は0円です。4,400円と3,300円の帽子を別の日に買い、どちらも購入日から1年以内に申請すれば、合算した7,700円が助成されます(金額は計算のための例)。カット代など購入費以外の費用は横浜市の例では対象に含まれていないため、ほかの自治体でも要綱で確かめてもらいます。店がウィッグや帽子を販売する場合は、品名・金額・日付・店名が分かる領収書を発行します。

治療後の髪の生え始め — ウィッグを外す時期は本人と決める

治療後に髪が生え始めたら、ウィッグを外す時期と長さの整え方は本人の希望で決め、カラーやパーマを再開する時期は主治医に確かめてもらいます。髪が生えそろうまでの経過には個人差があり、店から見通しを言い切ることはしません。

生え始めの時期は、伸び方がそろわない部分や襟足を整えてウィッグの下で落ち着かせ、前髪や顔まわりだけ自毛を出すなど移行の途中の見せ方を一緒に考えます。職場や外出先での見え方を本人と確かめ、短い髪型のまま外すか、もう少し待つかを決めます。来店の間隔を短めにして少しずつ形を変えると、ウィッグから自毛への移り変わりが目立ちにくくなります。伸びた髪をいずれ寄付したいと考える方には、ヘアドネーションに対応する美容室になるにはの内容で案内できます。

現場でつまずく6つの点 — 防ぎ方まで決めておく

受け入れの準備をしても、素材の扱いと情報の見え方で行き違いが起きます。

  1. 人工毛に熱を当てすぎる:耐熱の表示がないものや、表示温度を超える設定では、毛が縮れたり溶けたりして戻りません。表示を確かめ、表示より低い温度で目立たない内側から試します。
  2. 切りすぎる:自毛のつもりで長さを決めると、伸びないウィッグでは取り返しがつきません。仕上がりより長めに切ってから、前髪と顔まわりを本人と確かめて詰めます。
  3. 預かる前の状態を確かめない:もともとあったほつれや傷みを、後から施術のせいだと受け取られることがあります。預かる前に本人と一緒に見てカルテに書きます。
  4. メニュー名から事情が伝わる:「医療用ウィッグ」というメニュー名は、予約確認のメールやLINE、会計の明細に表示され、家族や職場の人の目に触れることがあります。メニュー名は「ウィッグカット・調整」にし、説明欄で医療用にも対応することを書きます。
  5. カット代も助成されると案内してしまう:横浜市の例では対象はウィッグ等の購入経費です。助成の対象は店が言い切らず、自治体か病院の相談窓口で確かめてもらいます。
  6. 体調が変わった日のキャンセルに料金がかかる:治療中は当日に体調が変わることがあります。ウィッグカットの予約は体調による当日の変更でもキャンセル料をとらないと、予約時に伝えておきます。

医療用ウィッグのお客様を受け入れる前に、次の8項目を確認してください。

  • 個室・半個室・仕切りのある席のどれかを用意でき、人目の少ない時間帯の枠を確保できる
  • ウィッグカット・調整のメニューを、税込の料金と所要時間付きで載せている
  • 料金を、前後の空き時間を含めた予約枠と時間単価から決めている
  • 人毛と人工毛で扱いを分け、表示を確かめてから熱を使う手順にしている
  • 預かる前のウィッグの状態を、本人と一緒に確かめて記録している
  • メニュー名や予約通知に、治療や病気を連想させる言葉を出していない
  • 自治体の助成制度があることと、確認先(自治体・がん相談支援センター)を案内できる
  • 治療の情報を記録するときに本人の同意を得て、共有する範囲を決めている

よくある質問

医療用ウィッグを持ち込んだカットは、どの美容室でも受けてもらえますか?

受けるかどうかは店ごとの判断です。受けない場合は、理由を伝えたうえで、購入したウィッグ店のアフターサービスや対応している美容室を案内すると、お客様が探し直す負担が減ります。

ウィッグのカット代は自治体の助成の対象になりますか?

自治体によって違います。横浜市の例ではウィッグ等の購入経費が助成の対象で、ほかの費用が対象になるかは各自治体の要綱で確かめる必要があります。お客様には自治体か病院のがん相談支援センターで確認するよう案内します。

人工毛のウィッグにアイロンを使ってもよいですか?

製品によります。人工毛には熱に弱いものと耐熱のものがあるため、タグや取扱説明書で使える温度を確かめ、分からない場合は使いません。使う場合も表示より低い温度で、内側から試します。

ウィッグカットの料金は、通常のカットと同じでよいですか?

個室の準備や前後の空き時間を含めると通常より長い枠が必要になるため、予約枠の長さと時間単価から決めるのが基本です。料金を抑える場合は、目標との差額を店の負担として把握しておきます。

治療中のお客様の自毛をカットするときに気をつけることは?

当日の体調と頭皮の状態を確かめ、体調がすぐれない日は無理に進めず日を改めます。頭皮に気になる症状があれば主治医への相談をすすめ、カラーやパーマは主治医の了承を得てから行います。

ウィッグの洗い方や手入れを聞かれたら、どう答えればよいですか?

ウィッグのメーカーの取扱説明書に沿って答えます。人毛と人工毛では使えるシャンプーや乾かし方、熱の使い方が違うため、説明書が手元にない場合は、購入したウィッグ店に確認するよう案内します。

出典:横浜市「がん患者へのウィッグ購入費助成」(横浜市、2026年10月6日更新時点)、国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センターによるアピアランスケアの定義、美容師法施行令第4条(e-Gov法令検索)、個人情報の保護に関する法律第2条第3項・第20条(e-Gov法令検索)。料金と自己負担の金額は前提を置いた試算です。助成の内容はお住まいの自治体で確認してください。

まずは、ウィッグカットを受けるかどうかを決め、受ける場合は予約枠の長さと時間単価から料金を出し、メニュー名・税込料金・所要時間・使う席を1行で書き出すところから始めてください。メニューの見せ方は追加メニューの作り方の考え方が使えます。

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この記事を書いた人

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