美容室の身だしなみ規定の作り方|髪色・ネイル・服装を決めてよいかの判断表・制服費用の試算・規程の例文

美容室の身だしなみ規定は、衛生・安全・お客様への印象という業務上の必要があり、その内容が合理的な範囲にとどまれば決められます。爪の長さや施術中のアクセサリーのように衛生・安全に直結するものは具体的に定め、髪色のように美容師の表現に関わるものは禁止より「清潔でお客様にスタイルを提案できる状態か」を基準にすると、説明がしやすく採用でも不利になりにくくなります。

項目を決めてよいかの判断表、制服の費用と新しい基準の猶予期間の試算、そのまま使える身だしなみ規程と開店前チェックシート、見直しと違反時の手順、現場でつまずく点を整理します(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:項目別の身だしなみ規定の早見表

決め方の軸は、衛生と安全に関わるものは具体的に、個人の表現に関わるものはゆるやかにです。

項目 決め方の目安 理由・根拠
爪 常に短く切る。長さの基準を書く(手のひら側から見て指先から出ない) 国の衛生管理要領が「常につめを短く切り」と示す
手指 お客様1人ごとの作業の前後に洗浄し、必要に応じて消毒 同じ要領
外衣(作業着) 作業中は清潔な外衣を着る。色の基準は管轄の保健所の要領を確認 国の要領は「白色又はこれに近い色で汚れが目立ちやすいもの」と示す
ネイル 長さは爪と同じ基準、立体的な装飾は付けない。色は自由にできる 引っかかり、手袋の破れ、頭皮を傷つけるおそれ
指輪・ブレスレット・腕時計 施術中は外す お客様の髪や肌に当たる、薬剤が付く
髪色・髪型 原則自由。清潔さと、スタイルを提案できる状態を基準にする 美容師の髪は店の表現にもなる
ひげ・ピアス・タトゥー 整っているか、施術中にお客様に触れないかを基準にする 業務との関係が薄いほど制限できる範囲は狭い

その項目は決めてよいか — 理由の種類で分ける判断表

身だしなみ規定とは、働くときの髪・爪・服装・装飾品などについて店が定めるルールのことです。厚生労働省は、髪型やひげ、服装は本来個人の自由だが、制限に合理的な理由があれば就業規則で制限でき、定めがないか合理性を欠く場合は制限は難しいと説明しています。項目ごとに「どの理由で決めるか」を当てはめると、決めてよい範囲が分かります。

決める理由・状況 判断 規程の書き方
お客様の頭皮・肌を傷つける、手袋を破る(爪、立体ネイル、指輪) 具体的に決めてよい 長さ・形・外す場面を数字や動作で書く
衛生管理要領・条例に書かれている(外衣、爪、手指の洗浄) 規程に入れる 管轄の保健所の要領の文言に合わせる
お客様への印象だけ(髪色、ひげ、ピアス) 状態の基準にとどめる 「清潔」「整っている」「施術中に触れない」で書く
特定の場面だけ(ブライダル、施設への訪問美容) 場面を限って決めてよい 対象の日と理由を書く
店主の好み、ほかの業種のマナー本の流用 理由にならない 規程から外す
男女で基準を分けたい 合理的な理由がなければ共通にする 性別ではなく作業で書く
スタッフに費用が生じる(指定の制服、ネイルの付け替え) 就業規則の定めと猶予が必要 負担の範囲と施行日を書く
健康上・宗教上の理由で守れない 個別に相談する 相談の窓口と例外の手続きを書く

厚生労働省の同じ説明で紹介されている裁判例では、就業規則で禁止されたひげを剃らなかったハイヤー運転手への処分(イースタンエアポートモータース事件・東京地裁昭和55年12月15日)や、髪とひげを理由とした郵便局職員への扱い(郵便事業(身だしなみ基準)事件・大阪高裁平成22年10月27日)が、いずれも無効とされています。美容室で髪色を制限するなら、美容師の髪がスタイルの見本になることを踏まえた説明が要ります。

制服の費用と新しい基準の猶予を数字で出す — スタッフ6人の店の試算

次のモデルでは、制服を貸与すると年84,000円、被服手当なら年108,000円です。ネイルの基準を新しく設けるなら、付け替えの周期を見込んで施行日を周知から5週間後に置きます。

試算の前提(仮定):スタッフ6人(常時10人未満)。制服はエプロン1枚4,000円、トップス1枚3,000円を1人2枚ずつ、年1回入れ替える。被服手当は月1,500円。ジェルネイルの付け替えは4週間ごと。金額は計算上の数字で、相場を示すものではありません。2027年1月8日に新しい規程を周知する。

方法・項目 計算 結果・注意点
制服を貸与する (4,000円+3,000円)×2枚×6人 年84,000円。店の負担。退職時に返却
被服手当を払い、私服に基準を設ける 1,500円×12か月×6人 年108,000円。手当は給与として課税される場合がある
指定の制服を本人が買う (4,000円+3,000円)×2枚 1人年14,000円の負担。就業規則に定める必要(労働基準法第89条第5号)
ネイルの猶予期間 付け替え周期4週間+1週間の余裕 5週間
施行日 2027年1月8日+35日 2027年2月12日。それまでは試行期間として運用

制服代を給与から差し引くなら、労使協定が必要です(労働基準法第24条)。制服や仕事着を経費にできる範囲は美容室の服は経費になるか、髪色やネイルの自由度を応募者に伝える方法は美容師求人票の書き方で確認できます。

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そのまま使える身だしなみ規程と開店前チェックシート

就業規則には基本の考え方だけを書き、細かい基準は別の「身だしなみ規程」にまとめると、見直しがしやすくなります。規程の各項目には理由を添えます。

例文 就業規則の条文と身だしなみ規程

  • 就業規則 第〇条(身だしなみ)従業員は、衛生と安全に配慮し、お客様に不快感を与えない清潔な身だしなみを保たなければならない。具体的な基準は身だしなみ規程に定める。
  • 規程1(爪・手指)爪は常に短く切り、手のひら側から見て指先から出ない長さとする。お客様1人ごとの施術の前後に手指を洗浄し、必要に応じて消毒する。(理由:衛生管理要領、お客様の頭皮の保護)
  • 規程2(ネイル)ネイルの長さは規程1と同じとし、ストーンなどの立体的な装飾は付けない。色は自由とする。(理由:手袋の破れと引っかかりの防止)
  • 規程3(装飾品)施術中は指輪・ブレスレット・腕時計を外し、バックヤードの鍵付き引き出しに保管する。ピアス・イヤリングは、施術中にお客様に触れる大きさや揺れ方のものを着けない。(理由:お客様の髪や肌の保護、薬剤の付着の防止)
  • 規程4(髪・ひげ)髪の色・髪型は自由とする。清潔に保ち、お客様にスタイルを提案できる状態を保つ。ひげは整えた状態とする。(理由:清潔感と、スタイルの見本としての役割)
  • 規程5(服装)作業中は店が貸与する外衣を着用し、汚れたら交換する。靴は濡れた床でも滑りにくいものとする。(理由:衛生管理要領、転倒の防止)
  • 規程6(香り)香水・柔軟剤などの強い香りは控える。(理由:施術中はお客様との距離が近い)
  • 規程7(相談と例外)健康上・宗教上などの理由でこの規程によりがたいときは、店長に相談する。店は個別に代わりの方法を決める。
  • 附則 この規程は2027年2月12日から施行する。施行日までは試行期間とする。

開店前チェックシートと、合わないときの伝え方の文例

  • チェック:爪は指先から出ていない/立体的なネイル装飾はない/指輪・腕時計は外して保管した/外衣は清潔で汚れがない/靴は滑りにくい/強い香りはない/髪は清潔で整っている
  • 使い方:各自が開店前に鏡の前で確認し、店長はチェックの有無だけを見る(1人ずつ点検して回らない)
  • 伝え方の文例:「〇〇さん、今日のネイルのストーンが手袋を破りそうなので、次の付け替えのときに平らなデザインにしてもらえますか。規程2の手袋が破れやすいという理由です。それまでは薬剤の作業のときに手袋を二重にしてください」

規程は、スタッフがいつでも見られる状態にして周知します。就業規則の作成と周知の手順は美容室に就業規則は必要か、身だしなみ以外の衛生の手順は衛生管理と器具消毒の運用で整理しています。

規程を作る・変えるときの進め方 — 5つの段階

身だしなみ規定は、今のルールを書き出し、理由を付け、スタッフの意見を聞いてから決めると守られやすくなります。働いているスタッフに不利になる変更は、変更の必要性や内容の相当性、話し合いの経過などが問われます(労働契約法第10条)。

  1. 今のルールを書き出す

    口頭で伝えてきたルールも含めて、項目ごとに一覧にします。

  2. 判断表に当てはめて理由を付ける

    理由を説明できない項目は外すか、状態の基準にゆるめます。

  3. スタッフの意見を聞く

    ミーティングで案を示し、施術のしやすさや費用の負担について意見を集めます。出た意見と、採用しなかった理由も記録に残します。

  4. 猶予を置いて試行する

    ネイルの付け替えや制服の準備に必要な期間を試行期間にし、お客様の反応や作業への影響を確かめます。

  5. 施行日を決めて周知する

    常時10人以上が働く店で就業規則を変えるときは、労働者の過半数代表の意見を聞き、労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第89条・第90条)。

現場でつまずく点と違反したときの対応 — 6つの落とし穴

身だしなみのもめごとは、基準のあいまいさと、注意の仕方から起きます。規定に合わないときは、理由を伝えて直してもらう注意から始め、いきなり懲戒にしません。身だしなみを理由にした重い処分は、相当性を欠くとして無効になるおそれがあります(労働契約法第15条)。

  1. 「清潔感のある髪色」のような基準:人によって受け取り方が違い、注意された側が納得しません。「根元の伸びや色落ちが目立つ状態のままにしない」のように状態で書きます。
  2. 黒い作業着で統一したが、保健所の要領を見ていない:国の要領は外衣を「白色又はこれに近い色で汚れが目立ちやすいもの」と示しています。条例や自治体の要領での扱いを管轄の保健所に確かめてから決めます。
  3. 新しい基準を翌日から適用する:ネイルの付け替えや服の買い替えの費用がスタッフに生じます。試算のように付け替えの周期を見込んだ猶予を置きます。
  4. 外したアクセサリーの置き場がない:セット面やポケットに入れて紛失や破損が起きます。鍵付きの引き出しなど保管場所を決めてから「外す」ルールを始めます。
  5. お客様やほかのスタッフの前で注意する:ハラスメントの問題になりかねません。休憩中などに1対1で、どの規程のどの理由に合わないかを伝え、日付と内容を記録します。線引きは美容室のパワハラ防止で確認できます。
  6. 男性だけにピアスやひげの制限を設ける:衛生や安全の理由は性別に関係なく当てはまることが多いため、作業で基準を書き、全員に共通にします。

求人と見学で基準をどう伝えるか — 応募者に見せる文例

身だしなみの基準は、応募者が「この店で自分らしく働けるか」を判断する条件の一つです。厳しすぎる基準は応募をためらわせ、あいまいな基準は入社後の行き違いになるため、求人票と見学で具体的に伝えます。

求人票・採用ページに載せる身だしなみの文例

  • 髪色・髪型:自由です。スタッフの髪はスタイルの提案にもなるため、清潔に整えてください。
  • ネイル:色は自由です。施術で手袋を使うため、長さは指先から出ない程度、立体的な装飾はなしでお願いしています。
  • アクセサリー:施術中は指輪・腕時計を外します(鍵付きの保管場所があります)。ピアスはお客様に触れない大きさならOKです。
  • 服装:エプロンとトップスを1人2枚ずつ貸与します(費用は店の負担)。靴は滑りにくいものを各自で用意してください。
  • タトゥー:施術中に見える部分の扱いは、入社前に相談して決めます。

見学では、規程そのものを見せて「どの項目にどの理由があるか」を説明すると、基準が店主の好みではないことが伝わります。見学の受け入れ方はサロン見学の受け入れ方で整理しています。

身だしなみ規定を作る前に、次の8項目を確認してください。

  • 項目ごとに、衛生・安全・お客様への印象のどの理由で決めるかを書いた
  • 爪とネイルは、色ではなく長さと形で基準を書いた
  • 外衣の色と手指の洗浄の基準を、管轄の保健所の要領と照らし合わせた
  • 施術中に外すアクセサリーと、保管場所を決めた
  • 髪色は禁止ではなく、清潔さと提案できる状態を基準にした
  • 制服の費用負担を決め、本人負担なら就業規則に定めた
  • 新しい基準には、付け替えや買い替えの猶予期間を置いた
  • 違反したときは、1対1の注意から始める手順にした

よくある質問

美容室で髪色を禁止することはできますか?

業務上の必要性と合理性があれば制限できますが、美容室では美容師の髪がスタイルの見本にもなるため、髪色を禁止する理由は説明しにくいことが多いです。禁止より、清潔さやお客様に提案できる状態かを基準にするほうが運用しやすくなります。

ネイルを禁止してもよいですか?

長い爪や立体的な装飾は、お客様の頭皮を傷つける、手袋が破れるといった安全・衛生上の理由で制限できます。色まで一律に禁止するならその理由を説明できるかを考え、長さと形の基準にとどめる方法を検討してください。

美容師の作業着は黒でもよいですか?

国の衛生管理要領は、作業中の外衣を「白色又はこれに近い色で汚れが目立ちやすいもの」としています。実際の基準は都道府県などの条例や要領で定められ、扱いが異なることがあるため、管轄の保健所に確認してから決めてください。

制服代をスタッフに払ってもらうことはできますか?

できますが、作業用品を本人の負担にする定めは就業規則に記載する必要があります(労働基準法第89条第5号)。給与から差し引く場合は、労使協定を結んでおく必要があります(同法第24条)。

タトゥーのある美容師の採用を断ってもよいですか?

タトゥーは法律で不採用の理由にすることを禁じた事項ではありませんが、業務との関係が薄い事項で一律に不採用にすることは、適性と能力で判断する公正な採用の考え方に合いません。施術中に見える部分の扱いを、入社前に話し合って決める方法があります。

身だしなみの規定に違反したスタッフを懲戒できますか?

就業規則に根拠があれば懲戒できますが、まず注意して直してもらうのが先で、いきなり重い処分にすると相当性を欠くとして無効になるおそれがあります(労働契約法第15条)。注意した日と内容は記録しておきます。

出典:労働基準法第24条・第89条・第90条(e-Gov法令検索「労働基準法」)、労働契約法第10条・第15条(e-Gov法令検索「労働契約法」)、厚生労働省「理容所及び美容所における衛生管理要領について」、厚生労働省「確かめよう労働条件 働くときの権利と義務」(髪型・ひげ・服装の制限と裁判例)、衛生管理要領の自治体の例(大阪府「理容所及び美容所衛生管理要領」)。衛生上の基準は自治体の条例・要領によって異なるため、管轄の保健所に確認してください。

まず、今のルールを項目ごとに書き出し、判断表に当てはめて理由を付けられない項目を外すことから始めてください。お客様への接し方の基準とあわせて整えるなら、接客マニュアルの作り方でルールの重複を防げます。

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この記事を書いた人

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