常連のお客様に予約の忘れや重複、支払いの間違いが続いても、店は認知症かどうかを判断せず、本人を責めない声かけで事実を確かめ、予約は前日の電話や紙の予約カードなど本人に届く方法で確認し、支払いはその場で一緒に確かめます。家族への連絡は原則として本人の同意を得てから行い、暮らしの心配がある場合は本人の住む地域の地域包括支援センターに相談でき、認知症基本法は事業者に認知症の人への必要かつ合理的な配慮をするよう努めることを求めています。
施術・販売・連絡をどうするかの状況別の判断表、予約の忘れへの対策の手間と空き枠の試算、予約カード・前日の電話・会計・家族や相談窓口への連絡にそのまま使える文例、カルテの書き方、現場でつまずく点を整理します。高齢のお客様を増やす集客の考え方は別の記事で扱います(2026年10月時点の情報です)。
結論:認知症の疑いがあるお客様への対応早見表
対応の軸は、判断しない・責めない・一人で抱えないの3つです。
| 場面 | 対応の目安 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 変化に気づいた | 病名を判断せず、起きた事実を日時とともに記録する | 診断は医師が行う。変化はほかの理由でも起こる |
| 予約の忘れ・重複 | 前日の電話、紙の予約カード、同じ曜日・時間の固定予約に切り替える | 本人に届く方法で確かめる |
| 支払いの間違い | 金額を一緒に確かめ、レシートを渡す。過不足は記録して連絡する | 後から説明できるようにする |
| 回数券・高額の商品 | 判断が難しそうなら、その場で販売しない | 意思能力がない状態での契約は無効(民法第3条の2) |
| 家族への連絡 | 原則は本人の同意を得てから。命や身体・財産を守るために必要で同意が得られないときは例外 | 個人情報保護法第27条第1項第2号 |
| 相談先 | 本人の住所地の地域包括支援センター | 介護保険法第115条の46 |
| 来店が難しくなった | 訪問美容への切り替えを提案する | 美容師法施行令第4条第1号 |
| 配慮の考え方 | 事業に支障のない範囲で、必要かつ合理的な配慮をする | 認知症基本法第7条(2024年1月1日施行) |
高齢のお客様に来店してもらうための導線やメニューづくりはシニア客の集客にまとめています。この記事は、すでに通っているお客様に変化が見られたときの対応に絞ります。
店ができること・しないこと — 判断せず、事実と配慮で対応する
店ができるのは、変化に気づき、本人を傷つけない形で予約や支払いを支え、必要なら相談先につなぐことです。認知症かどうかを判断したり、本人の前で病名を口にしたりはしません。
認知症とは、認知症基本法で「アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態」と定義されています(第2条)。同法第7条は、金融機関や小売業者など日常生活や社会生活の基盤となるサービスを提供する事業者に、事業に支障のない範囲で認知症の人に必要かつ合理的な配慮をするよう努めることを求めています。美容室も、この考え方を参考に対応を決められます。
店が気づきやすい変化は、予約日を間違えて来店する・同じ予約を何度も入れる、会計で金額を何度も確かめる・支払ったかを覚えていない、前回の施術や話を覚えていない・同じ質問を繰り返す、店までの道に迷う、といったものです。こうした変化は体調、服薬、聴力や視力の変化など、ほかの理由でも起こります。施術中は、これから何をするかを一つずつ短い言葉で伝え、鏡越しではなく顔の見える位置から話しかけ、シャンプー台への移動やケープを着ける前にも一声かけます。
施術・販売・連絡をどうするか — 状況別の判断表
判断は「起きたことの回数」「本人の安全に関わるか」「お金や契約が絡むか」の3つで分けます。回数の線は店のルールとして決め、担当者が替わっても同じ対応にします。
| 状況 | 判断 | 店の対応 |
|---|---|---|
| 予約の忘れや日違いの来店が1回 | いつもどおり施術する | 事実と日時をカルテに書く。次の予約は紙のカードでも渡す |
| 予約の忘れ・日違い・重複が3か月で2回以上(店のルールの例) | 条件付き:確かめ方を切り替える | 前日の電話、紙の予約カード、同じ曜日・時間の固定予約に変える |
| 会計の戸惑いや支払いの間違いが2回以上 | 条件付き:会計の手順を変える | 金額を紙に書いて見せ、トレーで一緒に数える。家族に伝えてよいか本人に聞く |
| 回数券・前払い・1回の会計がいつもの2倍を超える店販のまとめ買いを希望 | その場では販売しない | 家族と相談してからにすることを提案し、次回に改めて聞く |
| カラーのパッチテストの来店日や結果を本人が覚えていない | 条件付き:その日は薬剤を使わない | テストの日時と結果を店で記録し、家族と日程を確かめてからカラーを予約する |
| 施術中に不安そう・落ち着かない様子が続く | 中断して残りを別の日にする | 今何をしていて、あと何分かを伝える。本人の了解を得て付き添いの家族に声をかける |
| 帰り道が分からない、体調が急に悪くなった | 安全を優先して連絡する | 家族に連絡し、つながらなければ警察や救急に相談する(同意を得ることが難しい場合も可) |
| 店までの道に迷う・送迎がないと来られなくなった | 来店以外の方法を提案する | 家族やケアマネジャーと相談し、訪問美容への切り替えを案内する |
回数と金額の線(3か月で2回、いつもの2倍)は法令の基準ではなく、店のルールの例です。
予約の重複・忘れへの対応 — 本人に届く方法と、その手間の試算
予約の忘れや重複が続くときは、LINEやメールの通知だけに頼らず、前日の電話、紙の予約カード、毎回同じ曜日と時間の予約など、本人に届きやすい方法に切り替えます。
-
予約日を間違えて来店したら責めない
席が空いていればその場で施術します。空いていなければ、次に施術できる日時を紙に書いて渡します。
-
予約を紙に書いて渡す
日付、曜日、時間を大きな字で書いた予約カードを渡し、財布や手帳など本人が普段見る場所に入れてもらいます。
-
前日に電話で確かめる
通知を見落としている場合もあるため、前日の電話を加えます。本人が希望すれば、同居の家族にも伝えます。
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曜日と時間を固定する
「毎月第2火曜日の10時」のように決まった枠にすると、本人も覚えやすく、店も気づきやすくなります。
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予約の重複は店が整理する
同じ予約が何度も入ったら、1件を残して本人に確認し、残りは店で取り消します。取り消したことも紙で伝えます。
試算の前提(仮定):前日の電話に切り替えるお客様が5人で、それぞれ4週に1回来店。電話1件は3分。予約の枠は60分・税込6,600円。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 前日の電話の手間 | 5人×月約1回×3分 | 月15分 |
| 忘れで空いた枠1つの売上 | 60分枠×6,600円 | 6,600円 |
| 手間と空き枠の比較 | 月15分の電話で、忘れによる空き枠を1つ防げた場合 | 6,600円の枠が埋まる。当日に来られないと分かれば、空いた枠をほかのお客様に回せる |
| 固定予約にした場合の年間の来店 | 52週÷4週 | 年13回。予約日を毎回考える必要がなくなる |
どの方法で予約を確かめているかは、予約システムやカルテの備考欄に「前日に電話」「予約カードを渡す」のように書いておきます。担当者が休みの日でも、ほかのスタッフが同じ対応をとれます。LINEやメールの通知は続けたまま、電話と紙を「届いているかの確認」として重ねるのが基本です。
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支払いのトラブルへの対応 — その場で一緒に確かめ、記録を残す
支払い忘れ、二重払い、お釣りの受け取り間違いを防ぐには、会計の金額を一緒に声に出して確かめ、レシートを必ず渡し、後から分かった過不足は記録して連絡することです。
| 場面 | 対応の例 |
|---|---|
| 会計で戸惑っている | 金額を紙に書いて見せ、トレーにお金を出してもらって一緒に数える |
| 支払わずに帰った | 追いかけて人前で呼び止めることは避け、レジ締めで記録し、次回来店時か電話で穏やかに伝える |
| 二重に支払った | 気づいた時点で連絡して返金し、返金の日時と金額を記録する |
| 回数券の残り | 使うたびに残りの回数を紙に書いて渡す |
契約のときに意思能力がなかった場合、その契約は無効です(民法第3条の2)。成年後見を受けている方の契約は、日用品の購入など日常生活に関する行為を除いて取り消すことができます(第9条)。いつものカットのような日常的な施術より、回数券や高額のまとめ買いでトラブルになりやすいため、販売は慎重にします。回数券の返金ルールは回数券・前払いチケットの注意点、毎日の現金の過不足の記録はレジ締めと現金管理の手順で残せます。
受付・会計でそのまま使う文例と、カルテの書き方
文例は事実を穏やかに伝え、次にすることを紙で残す形にそろえます。「さっきも言いましたよ」「また間違えましたね」のような言い方はしません。
予約カードから記録までの文例
- 【予約カード(大きな字で)】次回のご予約 11月10日(火曜日)午前10時から カット 担当:(担当者名) お店の電話:(店の電話番号)
- 【前日の電話】(店名)の(担当者名)です。明日、11月10日火曜日の午前10時にご予約をいただいています。お待ちしていますね。
- 【予約日を間違えて来店】ご来店ありがとうございます。ご予約は10日の火曜日でお取りしていたのですが、ちょうど今空いているので、よろしければ今日させていただきますね。
- 【席が埋まっているとき】今日は席が埋まっていて申し訳ありません。10日の火曜日、午前10時でしたらお待ちしています。この紙にお日にちを書いておきますね。
- 【会計】本日はカットで4,400円です。金額をこちらに書きました。トレーに出していただいたお金を、一緒に数えますね。
- 【回数券を希望されたとき】ありがとうございます。まとめてのお支払いになるので、一度ご家族ともお話しいただいてから、次回にご用意してもよろしいですか。
- 【カルテの書き方の例】11月9日、予約日(10日)の前日に来店。空きがあり施術。次回予約を紙のカードで渡した。今後は前日に電話(本人了承)。
カルテには「認知症」「物忘れがひどい」などの推測は書かず、起きた事実と店の対応だけを書きます。病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報に当たり、推測で記録すると本人の不利益につながるためです。
家族への連絡と地域包括支援センター — 原則は本人の同意、店だけで抱えない
家族に連絡するときは、原則として本人に「ご家族にもお伝えしてよいですか」と同意を得てからにします。帰り道が分からなくなったなど、本人の生命・身体・財産を守るために必要で、本人の同意を得ることが難しい場合は、同意なしに家族などに伝えることも認められています(個人情報保護法第27条第1項第2号)。平常時に「施術中に体調を崩されたときのために」と目的を伝え、本人の同意を得て緊急連絡先を登録しておくと、いざというときに迷いません。
地域包括支援センターとは、地域住民の心身の健康の保持と生活の安定のために必要な援助を行い、保健医療の向上と福祉の増進を包括的に支援する施設で、市町村が設置するか、市町村の委託を受けた法人が設置します(介護保険法第115条の46)。担当は住んでいる地域ごとに決まっているため、店の所在地ではなく本人の住所地のセンターを市区町村のホームページで調べます。最初は名前を出さずに一般的な相談から始め、名前を伝えるのは本人の同意があるときか、命や安全に関わるときにします。自治体などが開く認知症サポーター養成講座をスタッフで受けておくと、接し方と声かけがそろいます。
本人・家族・相談窓口への伝え方の例
- 【本人へ】最近ご予約の日が違うことが何度かありましたね。お困りのことはありませんか。ご予約の前日にお電話してもよろしいですか。
- 【家族に伝えてよいか】ご家族にも、ご予約の日をお知らせしておいてもよろしいですか。
- 【家族へ】(店名)の(担当者名)です。いつもご来店いただいている(お客様の名前)様のことでご連絡しました。最近、ご予約の日と違う日にお越しになることが何度かあり、ご本人にもお伝えしたうえで、ご家族にもお知らせしておこうと思いました。今後はご予約の前日にお電話を差し上げます。
- 【地域包括支援センターへ(名前を出さない相談)】美容室を営んでいる者です。長く通っている高齢のお客様に、予約日の間違いや会計での戸惑いが続いています。店として気をつけることや、ご本人やご家族にご案内できる窓口があれば教えてください。
- 【緊急連絡先の同意】施術中に体調を崩されたときのために、ご家族の連絡先を伺ってもよろしいですか。その目的以外には使いません。
家族が送り迎えをしている場合は、迎えの時刻を予約時に決め、施術が早く終わったときや延びたときの連絡先を本人の了解を得て控えます。緊急連絡先を聞くときの同意の文面は個人情報の同意文例から選べます。配慮の申し出に店が無理なくできる範囲で応じる考え方は合理的配慮の考え方と対応例が参考になります。
現場でつまずく6つの点 — 防ぎ方まで決めておく
善意で対応していても、記録の書き方と連絡の順番で本人を傷つけたり、行き違いが起きたりします。
- カルテに推測を書く:「認知症かも」と書いたカルテは、ほかのスタッフの接し方を変えてしまいます。起きた事実と日時、店の対応だけを書くと決めます。
- 本人より先に家族に話す:本人を飛ばして家族と話すと、本人は自分のことを決められていないと感じます。安全に関わる場面を除き、本人に伝えて同意を得てから家族に連絡します。
- 重複した予約をすべて消す:店の判断で全部取り消すと、本人が来店して予約がない状態になります。1件を残して本人に確かめ、取り消したことを紙で渡します。
- 支払わずに帰ったお客様を追いかける:人前で呼び止めると、本人が強い恥ずかしさを感じます。レジ締めで記録し、次回か電話で穏やかに伝えます。
- 担当者だけが知っている:担当が休みの日に、ほかのスタッフがいつもどおりLINEだけで予約を受けてしまいます。確かめ方を予約システムの備考欄に書き、全員が見られるようにします。
- 店の近くの相談窓口に連絡する:地域包括支援センターの担当は本人の住所地で決まります。受付に、お客様の住所が多い市区町村のセンターの連絡先を控えておきます。来店が難しくなったときは訪問美容の始め方の内容で切り替えを案内できます。
認知症の疑いがあるお客様に備えて、次の8項目を確認してください。
- カルテには病名の推測ではなく、起きた事実を日時とともに書くことにしている
- 判断表の回数と金額の線を、店のルールとして決めている
- 前日の電話と大きな字の予約カードを使える
- 会計で金額を紙に書いて見せ、レシートを必ず渡している
- 判断が難しそうなお客様には、回数券や高額の商品をその場で販売しないことにしている
- 緊急連絡先を、本人の同意を得て登録している
- 本人の住所地の地域包括支援センターの調べ方を知っている
- 来店が難しくなったときの訪問美容の選択肢を案内できる
よくある質問
お客様が認知症ではないかと感じたら、本人に伝えるべきですか?
病名を伝えたり、受診をすすめたりするのは店の役割ではありません。起きた事実を穏やかに伝え、困っていることがないかを聞き、本人が望めば地域包括支援センターなどの相談先を紹介します。
家族の連絡先が分からない場合はどうすればよいですか?
平常時は本人に聞いておくのが基本です。帰り道が分からないなど本人の安全に関わる場面で家族と連絡がつかなければ、警察や救急に相談します。急がない心配ごとは、本人の住所地の地域包括支援センターに相談できます。
回数券を買いたいと言われたら、販売してもよいですか?
内容を理解して判断できているか不安がある場合は、その場で販売せず、家族と相談してからにすることを提案します。契約のときに意思能力がなかった場合、その契約は無効になり(民法第3条の2)、後から返金などのトラブルになりやすいためです。
同じ質問を何度もされたら、どう答えればよいですか?
そのたびに初めて聞いたように答えます。「さっきも言いましたよ」と返すと、本人が恥ずかしい思いをし、店に来づらくなります。大事なことは紙に書いて渡すと、本人も確かめやすくなります。
施術中にお客様が不安そうにしたり、混乱したりしたら?
いったん手を止め、落ち着いた声で、今何をしていて、あとどのくらいで終わるかを伝えます。落ち着かない様子が続く場合は、本人の了解を得て付き添いの家族に声をかけ、無理に続けず残りを別の日にします。
予約を忘れて来店しなかった場合、キャンセル料を請求してもよいですか?
店のルール上請求できる場合でも、忘れが続くお客様には、前日の電話や固定の予約枠に切り替えて、忘れにくい仕組みを先に整えるほうが関係を保てます。請求する場合も、本人を責める言い方は避けます。
出典:共生社会の実現を推進するための認知症基本法第2条・第7条(e-Gov法令検索)、介護保険法第115条の46(e-Gov法令検索)、個人情報の保護に関する法律第2条第3項・第27条(e-Gov法令検索)、民法第3条の2・第9条(e-Gov法令検索)、美容師法施行令第4条。回数・金額の線と試算は前提を置いた例です。地域包括支援センターの所在地は、お客様の住む市区町村に確認してください。
まずは、お客様の住所が多い市区町村の地域包括支援センターの連絡先を調べて受付に控え、大きな字の予約カードを用意するところから始めてください。予約の確かめ方を店全体で見直すときは予約リマインドの例文と設計も合わせて使えます。
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