スタッフの退職代行から連絡が来たら、相手が弁護士・労働組合・民間業者のどれかと本人の意思を確認し、当日中に店のシステムの権限を外して、退職日・有給休暇・最後の給与・貸与品の返却を書面で回答します。期間の定めのない雇用は申入れの翌日から数えて2週間で終わるため(民法第627条第1項・第140条)、退職を拒むことも、給与の不払いや損害賠償の請求で引き止めることもできません。
相手と雇用形態ごとの判断表、退職日と有給休暇・歩合給の精算を実際の日付と金額で出す試算、電話の受付メモと回答書の文例、現場でつまずく点を、店側の立場で整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:退職代行から連絡が来たときの対応の早見表
対応の基本は、相手を確認し、その場で条件を決めず、退職の事務を書面で淡々と進めることです。
| 項目 | 店の対応 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 代行の種類 | 弁護士・労働組合・民間業者のどれかを確認する | 条件を交渉できる範囲が違う(弁護士法第72条) |
| 本人の意思 | 委任状の写しや本人が署名した退職届などで確かめる | なりすましや本人の意思と違う連絡を防ぐ |
| 退職日 | 無期雇用は申入れの翌日から数えて14日目。有期雇用は契約内容で判断 | 民法第140条・第627条第1項・第628条 |
| 有給休暇 | 退職日までの出勤予定日に取得の申出があれば与える | 労働基準法第39条。退職日の後にずらす日がない |
| 最後の給与 | 通常の支払日に全額払う。本人の請求があれば7日以内 | 労働基準法第23条・第24条 |
| アカウント・貸与品 | 権限は当日に外し、返却物は一覧・方法・期限を書面で示す | 顧客情報の持ち出しを防ぎ、来店しない前提で記録を残す |
| 社会保険・雇用保険・保健所 | 通常の退職と同じ期限で手続きする | 代行を使ったかどうかで期限は変わらない |
資格喪失届や保健所への変更届の期限はスタッフ退職時の手続き一覧にまとめています。この記事は、退職代行を使われたときに特有の判断と書面に絞ります。
相手と雇用形態で何が変わるか — 状況別の判断表
退職代行とは、退職したい本人に代わって退職の意思を勤務先に伝えるサービスのことです。退職日や有給休暇の条件を交渉できるのは弁護士と労働組合だけで、民間業者は本人の意思を伝える「使者」にとどまります。自分の店の状況に当てはまる行で判断してください。
| 状況 | 判断 | 店がやること |
|---|---|---|
| 弁護士名の受任通知が届いた | 本人の代理人。条件の交渉相手になる | 以後の連絡と回答書は弁護士あてにする。本人には直接連絡しない |
| 労働組合(合同労組・ユニオン)が団体交渉を申し入れた | 正当な理由なく拒むと不当労働行為(労働組合法第7条第2号) | 組合の名称・所在地と本人が組合員であることを書面で確かめ、日時と場所を調整する |
| 民間業者(株式会社など)からの電話・メール | 退職の意思の伝達として受け取る。条件の交渉はしない | 回答は本人あての書面で出し、写しを業者に送る |
| 委任状も退職届もなく、本人と連絡がつかない | 本人の意思が確認できていない | 本人の住所あてに、退職の意思と退職日を確認する書面を送る |
| 期間の定めのない雇用(正社員・無期のパート) | 申入れの翌日から数えて2週間で終了。月給制でも同じ | 14日目を退職日として回答する |
| 1年を超える有期契約で、初日から1年が過ぎている | いつでも退職を申し出られる(労働基準法附則第137条) | 申出の日を記録し、退職日を合意する |
| その他の有期契約の期間中 | 解除にはやむを得ない事由が必要(民法第628条) | 働くことは強制できないため、退職日を話し合って合意退職の形で決める |
| 有給休暇の残日数が出勤予定日以上 | 出勤予定日をすべて有給休暇にあてられる | どの日を有給休暇にしたかを日付で回答書に書く |
| 有給休暇の残日数が出勤予定日より少ない | 残りの日は欠勤(無給)として扱える | 就業規則の欠勤控除の計算方法で差し引く額を出す |
月給制でも2週間で終わるのは、期間で報酬を定めた場合の申入れの時期の制限(民法第627条第2項)が、2020年4月施行の改正で使用者からの申入れに限られたためです。就業規則で「1か月前までに申し出る」と定めていても、その日数を理由に退職を拒むことはできません。
連絡が来た日にやること — 相手の確認・権限の停止・予約の振り替え
連絡を受けたら、当日中に受付メモを作り、店のシステムの権限を外し、翌日以降の担当客の予約を洗い出します。退職条件の回答は、計算を終えてから数日以内に書面で出します。
-
受付メモを作り、その場で条件を決めない
電話を受けた人が下の受付メモを埋め、「確認して書面で回答します」とだけ伝えます。退職日や有給休暇をその場で約束しません。
-
本人の意思を確かめる書類を求める
委任状の写し、本人が署名した退職届、本人からのメールのいずれかを送ってもらいます。弁護士の場合は受任通知で確認できます。
-
店のシステムの権限を外す
予約システム、顧客管理、店のSNS・LINE公式アカウント、共有ドライブの権限を外し、共有していたパスワードを変えます。業務用のグループからも外します。
-
担当客の予約を洗い出して振り替える
翌日以降の担当客を一覧にし、ほかのスタイリストへの振り替えか日時変更の連絡を始めます。
退職代行の電話の受付メモ(そのまま印刷して電話の横に置く)
- 受付日時:〇年〇月〇日(〇)〇時〇分 受けた人:〇〇
- 代行の名称:〇〇 運営者の種類:弁護士/労働組合/民間業者(どれかに丸) 担当者名:〇〇 電話:〇〇 メール:〇〇
- スタッフの氏名:〇〇 伝えられた退職希望日:〇月〇日 有給休暇の希望:あり(〇日)/なし/不明
- 本人の意思を確かめる書類:委任状/退職届/本人のメール/未着(〇月〇日までに送付を依頼)
- 書類の送付先として伝えられた住所:〇〇(現住所と同じ/違う)
- 貸与品・私物について言われたこと:〇〇
- こちらから伝えたこと:「確認のうえ、〇月〇日までに書面で回答します」(条件は約束していない)
- 当日の対応:権限の停止(済・〇時)、パスワード変更(済)、翌日以降の予約〇件の振り替え開始(済)
本人に直接電話やLINEをすること自体は禁止されていませんが、本人に応じる義務はなく、退職の効力にも影響しません。権限を外すシステムの洗い出しとパスワードの変え方は顧客データを守る方法と退職時の権限整理で確認できます。
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退職日・有給休暇・最後の給与を数字で出す — 歩合給のスタイリストの試算
次のモデルでは、退職日は11月18日、出勤予定日10日のうち8日が有給休暇・2日が欠勤、有給休暇の賃金は1日13,091円になります。歩合給の店は、有給休暇の日の歩合分を落とさないことが要点です。
試算の前提(仮定):スタイリストのCさん、期間の定めのない雇用。火曜定休・水曜公休の週5日勤務、1日の所定労働時間8時間。月給の固定部分200,000円、11月の所定労働日数22日、賃金は毎月1日〜末日で計算し翌月25日に支払う。歩合給は技術売上に応じて支給し、11月に出勤した11月1日・2日の歩合は8,000円、労働時間は計16時間。有給休暇の残りは8日。就業規則で、有給休暇の賃金は「通常の賃金」、欠勤1日の控除は「月給の固定部分÷その月の所定労働日数」と定めている。2026年11月4日(水・公休日)に民間の退職代行から電話があった。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 退職日 | 申入れの11月4日は数えず、11月5日から14日目 | 11月18日(水) |
| 退職日までの出勤予定日 | 11月5日〜18日のうち火曜・水曜を除く(5〜9日、12〜16日) | 10日 |
| 有給休暇と欠勤 | 残り8日を11月5〜9日・12〜14日にあてる。15日・16日は欠勤 | 有給休暇8日・欠勤2日 |
| 有給休暇1日の固定部分 | 200,000円÷22日(労働基準法施行規則第25条第1項第4号) | 9,091円 |
| 有給休暇1日の歩合部分 | 8,000円÷16時間×8時間(同項第6号) | 4,000円 |
| 有給休暇1日の賃金 | 9,091円+4,000円(同項第7号) | 13,091円 |
| 有給休暇8日のうち歩合部分 | 4,000円×8日 | 32,000円(固定給だけで払うと不足する額) |
| 欠勤控除 | 9,091円×2日 | 18,182円 |
| 支払日 | 通常の支払日。11月18日に本人から請求があれば7日以内 | 請求があれば11月25日まで |
11月分の固定給をどの日までの日割りで払うかは、就業規則の月の途中で退職したときの定めに従います。退職日までの給与の計算の全体は美容室の給与計算のやり方、有給休暇の残日数の管理は有給休暇の運用で確認できます。残った有給休暇を店が買い取る義務はなく、買い取りを条件に取得を拒むこともできません。
貸与品・顧客情報の回収と担当客への案内 — 来店しない前提で進める
回収は、返却するものの一覧、返却方法、期限を書面で示し、届いた日を記録する方法で進めます。担当客には退職の事情に触れず、次の担当者と日時の候補を伝えます。
- 鍵・セキュリティカード:簡易書留など記録が残る方法で返してもらいます。届くまでは、カードの無効化や鍵の交換で店を守ります。
- 制服・道具・店の端末:店が貸したハサミ・ドライヤー・タブレットを一覧にし、送料をどちらが負担するかを回答書に書きます。
- 顧客情報:カルテの写し、お客様の連絡先、施術写真を個人の端末に保存していないかを確かめ、あれば削除して、削除したことを書面で知らせてもらいます。
- 私物:ロッカーやセット面の私物は、本人の了解を得て送ります。勝手に処分しません。
- 担当客への連絡:「〇月〇日のご予約について、担当の〇〇が退職することになりました。当日は〇〇がこれまでのカルテを引き継いで担当いたします。日時の変更をご希望の場合はお知らせください」と伝えます。退職の理由や本人の連絡先は聞かれても答えません。
担当が変わるお客様への伝え方はスタッフ指名の偏りをなくす方法の担当変更の項も参考になります。
現場でつまずく点とやってはいけないこと — 7つの落とし穴
退職代行への対応で店が不利になるのは、日数の数え違い、歩合の精算漏れ、給与での相殺、感情的な引き止めの4つから起きることがほとんどです。
| 落とし穴 | 何が問題か | どう防ぐか |
|---|---|---|
| 申入れの日を含めて2週間を数える | 初日は数えないため(民法第140条)、退職日が1日早くなり、有給休暇の日数もずれる | 申入れの翌日を1日目として14日目を退職日にし、カレンダーで出勤予定日を数える |
| 「月給制だから月末まで」と回答する | 月給制の申入れ時期の制限は使用者からの申入れだけに適用される | 無期雇用は月給制でも14日目で回答する |
| 有給休暇を固定給だけで精算する | 歩合給は出来高払制の賃金として、有給休暇の日の分も計算に入る(労働基準法施行規則第25条) | 就業規則の有給休暇の賃金の定めを確認し、歩合部分を別に計算する |
| 貸与品が返らないので給与から差し引く | 賃金は全額払いが原則(労働基準法第24条)。違反は30万円以下の罰金(第120条) | 給与は全額払い、返還は給与とは別に書面で求める |
| 「辞めるなら違約金」「研修費を返せ」と言う | 違約金や損害賠償額の予定は禁止(労働基準法第16条) | 退職の条件と費用の話を結び付けない |
| 自宅に押しかける、家族に説得を頼む | 退職の妨害や圧力ととられ、交渉が弁護士や労働組合に移りやすい | 連絡は書面かメールで、必要な範囲にとどめる |
| 源泉徴収票・離職票の手続きを後回しにする | 源泉徴収票は退職の日から1か月以内に交付(所得税法第226条第1項)。雇用保険の手続きは事業主の義務 | 回答書で送付先の住所を確認し、手続きの期限をカレンダーに入れる |
急に辞められたことの損害を請求するには、実際の損害額と本人の行為との因果関係を店が証明する必要があり、法律に沿った退職で認められることはまれです。本人から請求があれば、使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由を書いた退職証明書を遅滞なく交付します(労働基準法第22条)。店から辞めてもらう場合との違いはスタッフに辞めてもらうときの手順で整理しています。
回答書の文例 — 試算の数字を入れた完成形
回答書には、退職日、有給休暇、最後の給与、返却してほしいもの、送る書類、顧客情報の扱いを1枚にまとめます。民間業者や労働組合からの連絡でも宛名は本人にし、写しを代行先に送ると行き違いが起きにくくなります(弁護士が代理人の場合は弁護士あて)。
例文 退職の申出に対する回答書(試算のモデルの場合)
- 〇〇〇〇様 退職の申出について(回答)
- 2026年11月4日に〇〇(代行の名称)を通じてご連絡いただいた退職の申出について、次のとおり回答します。
- 1 退職日:2026年11月18日とします。
- 2 年次有給休暇:残り8日を、11月5日〜9日・12日〜14日の出勤予定日8日に取得したものとして扱います。11月15日・16日は欠勤として扱います。取得する日の変更を希望される場合は、11月10日までにお知らせください。
- 3 最後の給与:11月分の給与は、通常の支払日である12月25日に登録の口座へ振り込みます。有給休暇の日の賃金は、就業規則に基づき固定給と歩合給の両方を含めて計算します。早期の支払いを希望される場合はお知らせください。請求の日から7日以内にお支払いします。
- 4 返却をお願いするもの:店の鍵1本、セキュリティカード1枚、制服2着、店のタブレット1台。11月25日までに、簡易書留など記録の残る方法で店あてにお送りください(送料は店が負担します。着払いで構いません)。
- 5 お送りする書類:源泉徴収票、離職票(希望される場合)を、退職後に〇〇(住所)あてに郵送します。住所が違う場合はお知らせください。
- 6 顧客情報:店のお客様の連絡先、カルテ、施術写真を個人の端末などに保存している場合は削除し、削除したことを11月25日までにお知らせください。
- 7 私物:ロッカー内の私物を11月20日に上記の住所あてにお送りします。
- 2026年11月〇日 ヘアサロン〇〇(株式会社〇〇) 代表取締役 〇〇 連絡先:電話〇〇・メール〇〇
回答書は写しを残し、送った日と方法を記録します。返却物が届いたら一覧と照らし合わせ、届いた日を書き込みます。
退職代行から連絡が来たら、次の8項目を確認してください。
- 受付メモに、代行の名称・運営者の種類・連絡先を記録した
- 委任状や本人が署名した退職届などで、本人の意思を確認した
- 予約システム・顧客管理・店のSNSの権限を当日に外し、パスワードを変えた
- 翌日以降の担当客の予約を洗い出し、振り替えの連絡を始めた
- 申入れの翌日から数えて14日目を退職日とした(有期雇用は契約を確認した)
- 出勤予定日をカレンダーで数え、有給休暇と欠勤の日を日付で決めた
- 歩合給を含めて有給休暇の賃金を計算し、最後の給与を全額払う準備をした
- 貸与品の一覧・返却方法・期限と、書類の送付先を回答書で伝えた
よくある質問
退職代行からの連絡を無視するとどうなりますか?
無視しても、期間の定めのない雇用なら申入れの翌日から数えて2週間で雇用は終わります。貸与品の返却や書類の受け渡しが進まず、手続きの期限にも遅れるため、連絡には応じて書面で回答するほうが店の負担は小さくなります。
本人と直接話してから退職を受け入れたいのですが、できますか?
本人に連絡すること自体は禁止されていませんが、本人に応じる義務はなく、話せなくても退職の効力は生じます。弁護士が代理人についている場合は弁護士を通し、それ以外でも書面で必要な連絡にとどめるのが確実です。
民間の退職代行業者が有給休暇や退職金の条件を交渉してきたら応じるべきですか?
弁護士でない者が報酬を得て法律事務を扱うことは弁護士法第72条で禁止されているため、業者と条件の交渉はしません。本人の希望として受け取り、店の回答は本人あての書面で送ります。有給休暇の取得の申出そのものには、法律に沿って対応します。
歩合給のスタイリストの有給休暇は、いくら払えばよいですか?
就業規則で定めた方法で計算します。「通常の賃金」と定めている場合、固定給は月額をその月の所定労働日数で割り、歩合給はその賃金計算期間の歩合の総額を総労働時間で割って1日の所定労働時間を掛け、両方を合計します。固定給だけで払うと歩合部分が不足します。
急に辞められて店に損害が出ました。損害賠償を請求できますか?
法律に沿った退職である限り、辞めたこと自体を理由に賠償を求めるのは難しいのが実情です。請求するには実際の損害額と本人の行為との因果関係を店が証明する必要があり、違約金をあらかじめ決めておくことも労働基準法第16条で禁止されています。
退職届をもらえないと手続きはできませんか?
退職届は法律上の必須書類ではありませんが、退職日と本人の意思を確かめる記録として郵送などで出してもらうと、後の行き違いを防げます。出てこない場合も、申入れを受けた日と内容を記録し、資格喪失などの手続きは期限どおりに進めます。
出典:民法第140条・第627条・第628条(e-Gov法令検索「民法」)、労働基準法第16条・第22条・第23条・第24条・第39条・第120条・附則第137条(e-Gov法令検索「労働基準法」)、労働基準法施行規則第25条(e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)、弁護士法第72条(e-Gov法令検索「弁護士法」)、労働組合法第7条(e-Gov法令検索「労働組合法」)、所得税法第226条(e-Gov法令検索「所得税法」)。個別の判断は弁護士、社会保険労務士、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに確認してください。
連絡は突然来るため、まず受付メモを印刷して電話の横に置き、権限を外すシステムの一覧を1枚にまとめておくことから始めてください。退職後の社会保険・雇用保険・保健所の手続きの順番はスタッフ退職時の手続き一覧で確認できます。
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