美容室でセット面やシャンプー台を増やすことは「構造設備の変更」にあたり、保健所への変更届が必要です。工事の後に届け出ると、作業面積や洗い場の基準を満たさず手戻りになることがあるため、順番は「保健所に事前相談→図面→工事→変更届→確認検査」が原則です。あわせて電気容量・給湯能力・排水の確認を工事前に行います。
この記事では、届出が要る変更と要らない変更の線引き、美容師法施行規則と自治体条例による構造設備の基準、変更届の様式と添付書類、工事と届出の順番、電気・給湯・排水の確認、増設に伴う従業者数と管理美容師の要否、費用の考え方を整理します。

結論:面数・台数・レイアウトの変更は届出。事前相談→工事→届出の順で、電気・給湯・排水を先に確認する
美容所は美容師法に基づき保健所(都道府県知事等)に開設を届け出ており、届け出た事項(構造設備を含む)に変更があれば、変更届を出す義務があります。セット面の増設は届出事項の変更そのもので、「席を1つ足すだけ」でも届出が要ります。
実務上の要点は、届出そのものより「基準に適合しているか」です。作業面積、待合との分離、洗い場(流し)の数、換気・照明、消毒設備の基準は自治体の条例で定められており、増設で作業面積が基準を下回る、洗い場が足りない、といった状態になると、届出が受理されないか、是正を求められます。工事の前に保健所で図面を見てもらうことが、手戻りを防ぐ唯一の方法です。
開業時の届出は開業届の書き方と出す順番、内装費の考え方は内装の坪単価の見方で扱っています。この記事は「営業中の店の増設と変更届」に絞ります。
届出が要る変更・要らない変更
| 変更の内容 | 届出 | 理由・注意 |
|---|---|---|
| セット面(作業椅子)の増減 | 要 | 構造設備の変更。作業面積の基準に影響 |
| シャンプー台の増設・移設 | 要 | 洗い場・給排水の変更。位置の変更も含む |
| 間仕切りの変更、待合の位置変更 | 要 | 作業室と待合の分離の基準に影響 |
| 店舗の増床・隣室との接続 | 要(新規開設扱いになる場合も) | 面積の変更。自治体によっては新たな開設届 |
| 個室の新設 | 要 | 構造の変更。個室の基準(換気・面積) |
| 椅子・鏡・ワゴンの同数での交換 | 原則不要(自治体に確認) | 構造設備の変更ではない。位置が変わる場合は相談 |
| 壁紙・床材の張替え、照明器具の交換 | 原則不要(自治体に確認) | 照度の基準は維持 |
| 開設者・管理美容師・従業者の変更 | 要 | 構造ではないが届出事項。従業者の変更は保健所へのスタッフ登録参照 |
| 屋号・名称の変更 | 要 | 届出事項の変更 |
「原則不要」の項目も、自治体によって扱いが異なるため、迷ったら保健所に電話で確認します。届出の要否を店側で判断して工事を進め、後から「届出が必要だった」となるケースが最も多い失敗です。
構造設備の基準 — 美容師法施行規則と自治体の条例
| 項目 | 基準の考え方(自治体で数値が異なる) | 増設時の確認点 |
|---|---|---|
| 作業室の面積 | 作業椅子1台あたりの面積の下限(例:13㎡に椅子6台まで、1台増えるごとに○㎡加算)が条例で定められている | 増設後の面数で基準を満たすか。待合を作業室に含めない |
| 待合との分離 | 作業室と待合を区画する(パーテーション・カウンター等) | 増設で待合を削ると分離が崩れる |
| 洗い場(流し) | 器具の洗浄・消毒用の流しを設ける。作業椅子の数に応じた数を求める自治体もある | シャンプー台と別に、器具用の流しがあるか |
| 換気・採光・照明 | 換気設備、作業面の照度(例:100ルクス以上) | 増設した席の照度、換気の能力 |
| 消毒設備・器具の保管 | 消毒設備、消毒済みと未消毒の器具を分けて保管する戸棚 | 増設に伴い器具が増えれば保管場所も |
| 床・壁 | 不浸透性の材料、清掃しやすい構造 | 増設部分の床材 |
| 給排水 | シャンプー台の給排水設備 | 排水勾配、給湯能力 |
基準の数値は都道府県・政令市の条例で定められ、「作業椅子1台あたり何㎡」の数値は地域で異なります。保健所の窓口かウェブサイトで、自店の自治体の基準を確認してください。美容師法・施行規則の条文はe-Govで確認できます。

セット面・シャンプー台を増設する手順(5ステップ)
増設後のレイアウト図を作る
面数・台数・各席の寸法・待合・洗い場・動線を記入した図面(内装業者に依頼するか、開設時の図面をもとに手描きでも可)を作ります。
保健所に事前相談する
図面を持参し、届出の要否、作業面積・洗い場・待合の基準への適合、必要な添付書類、届出の期限を確認します。相談の記録(日付・担当者・指摘事項)を残します。
電気・給湯・排水の容量を確認する
設備業者に、現状の電気容量(契約アンペア・分電盤)、給湯器の能力(号数)、排水の経路と勾配を見てもらい、増設後の必要量と比べます。不足があれば増設工事の見積もりに含めます。
工事を行い、完了後に変更届を提出する
自治体の様式(美容所変更届)に、変更後の図面、必要に応じて写真、従業者の変更があれば免許証の写しを添えて提出します。期限は自治体で異なるため、事前相談で確認します。
確認検査を受ける
自治体によっては、変更後に保健所の職員が現地を確認します。基準に適合していれば営業を続けられます。
工事の後に変更届を出し、確認検査で「作業面積が基準を下回る」「器具用の流しがない」と指摘されると、席を減らす、流しを追加する、といった手戻り工事が発生します。事前相談は無料で、図面を見てもらうだけで防げます。内装業者が「保健所は大丈夫」と言っても、店側で確認してください。
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電気・給湯・排水の確認 — 増設で足りなくなるもの
| 設備 | 増設で起きる問題 | 確認・対策 |
|---|---|---|
| 電気容量 | ドライヤー(1,200W)・アイロン・エアコンの同時使用でブレーカーが落ちる | 契約アンペアと分電盤の回路数を確認。席ごとに専用回路を設ける。契約変更は電力会社へ |
| 給湯能力 | シャンプー台を増やすと、連続使用でお湯が切れる・湯温が下がる | 給湯器の号数を確認。シャンプー台2台以上は大型の給湯器か2台設置。ガスか電気かで工事が変わる |
| 排水 | シャンプー台の移設で排水勾配が取れず、流れが悪い・臭う | 排水経路と勾配を設備業者に確認。床上げが必要な場合は工事費が増える |
| 換気 | 席が増えて薬剤の臭気がこもる | 換気扇の能力と位置。カラー・パーマの施術席近くに排気 |
| 照明 | 増設した席の照度が足りない | 作業面の照度を基準以上に。色温度は施術の色判断に合うものに |
給湯と電気は、増設後の営業で最も困る項目です。「お湯が途中で水になる」「ドライヤーを2台使うとブレーカーが落ちる」は、客の体験を直接損ないます。設備の詳細は電気・ガス・給湯設備の考え方で扱っています。
変更届の様式と添付書類
変更届の様式は自治体ごとに定められ、多くは保健所のウェブサイトからダウンロードできます。記入する内容は、美容所の名称・所在地・開設者、変更の内容(変更前と変更後)、変更の年月日で、添付書類は次のものが一般的です。
| 添付書類 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 変更後の構造設備の図面 | 作業室・待合・洗い場・便所の位置、作業椅子とシャンプー台の位置と数、寸法 | 開設時の図面に変更箇所を赤で記入する形でも可とする自治体が多い |
| 付近の見取図 | 店舗の増床・移転を伴う場合 | 通常の増設では不要なことが多い |
| 従業者名簿・免許証の写し | 従業者の変更を同時に届ける場合 | 管理美容師の変更があれば講習修了証 |
| 写真 | 変更後の状態 | 求める自治体と求めない自治体がある |
| 手数料 | 変更届は無料の自治体が多いが、確認検査に手数料がかかる場合がある | 事前相談で確認 |
提出の期限は「変更後速やかに」「変更の日から10日以内」など自治体で異なります。期限を過ぎても受理はされますが、届出義務違反の状態が続くため、工事完了の日に提出する予定で準備します。開設届の控えと図面は、変更届のたびに使うため、店で保管しておきます。内装業者に工事を依頼するときは、「保健所提出用の図面(変更後)」を成果物に含めてもらうと、届出の準備が早くなります。テナントの場合は、貸主への工事の承諾(造作の変更・給排水の変更)も別に必要で、契約書の条項を確認してから工事に入ります。承諾は書面で受け取り、退去時の原状回復の範囲に増設部分がどう扱われるかも同時に確認します。
従業者数と管理美容師の要否
セット面を増やすと、スタッフを増やすことが多く、美容師が常時2人以上になると管理美容師を置く義務が生じます。管理美容師の資格は、美容師の実務経験3年以上と、都道府県が指定する講習の修了が要件です。増設と採用を同時に進めるなら、管理美容師の講習の日程も確認します。要件は開業に管理美容師は必要か、採用の時期は開業時のスタッフ採用はいつ始めるかで扱っています。
費用の考え方と資金
数字は仮の設定ですが、セット面1席の増設(椅子・鏡・照明・電気工事)で30〜60万円、シャンプー台1台の増設(台・給排水工事・給湯器の増強)で80〜150万円程度が目安で、床上げや給湯器の交換が必要な場合はさらに増えます。増設の投資は「増えた席で見込める売上」で回収期間を出し、稼働率が9割を超えている時間帯があることを確認してから判断します。空き枠が多い状態での増設は、固定費だけが増えます。設備投資の資金は設備資金と運転資金の分け方、融資の相談はVAULTAの融資・資金調達支援で受け付けています。客数の上限の考え方は1日の客数の目安で扱っています。
よくある質問
席を1つ足すだけでも届出が必要ですか?
必要です。作業椅子の数は届出事項で、作業面積の基準にも関わります。自治体によっては簡易な様式で済む場合もあるため、保健所に確認してください。
変更届を出さずに営業していたらどうなりますか?
美容師法上の届出義務違反で、是正指導の対象になります。立入検査で発覚することが多く、基準を満たしていない場合は改善を求められます。気づいた時点で保健所に相談し、届け出てください。
個室を作る場合の基準は?
個室も作業室の一部として、面積・換気・照明の基準が適用されます。閉鎖的な空間になるため、換気の能力を特に確認されます。事前相談で図面を見てもらってください。
シャンプー台を「ネイル用のスペース」に変える場合は?
美容所内で美容以外の業務(ネイル・まつ毛など)を行う場合、区画や届出の扱いが自治体で異なります。構造の変更として届け出るとともに、業務の内容についても保健所に確認してください。
工事は営業しながらできますか?
可能ですが、工事中の席は使えず、粉じんや騒音が施術に影響します。定休日や閉店後に工事を集中させる、工事期間中は予約枠を減らす、といった調整が必要です。工事の期間と営業への影響を、内装業者と事前に詰めてください。
増設に補助金は使えますか?
小規模事業者持続化補助金などで、設備投資が対象になる場合があります。公募回ごとに要件が変わるため、計画の段階で公式サイトと商工会議所に確認してください。補助金の使い方は持続化補助金の使い方で扱っています。
増設と変更届のチェックリスト
工事の前に、次の7項目を確認してください。
- 増設後のレイアウト図(面数・台数・寸法・動線)を作った
- 保健所に事前相談し、届出の要否と基準を確認した
- 作業面積・待合の分離・洗い場の基準を増設後も満たしている
- 電気容量・給湯能力・排水を設備業者に確認した
- 工事の前に、届出の様式と添付書類を確認した
- 工事完了後、期限内に変更届を提出した
- 増設に伴う従業者数の変化(管理美容師の要否)を確認した
セット面・シャンプー台の増設は、「構造設備の変更は届出」「事前相談→工事→届出の順」「電気・給湯・排水を先に確認」の3点で、手戻りなく進められます。工事の後に保健所に行くのではなく、図面の段階で相談してください。

出典・参考資料
- 美容師法(第11条 開設の届出・変更の届出、第12条 開設者の講ずべき措置、第12条の3 管理美容師)(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
- 美容師法施行令(e-Gov法令検索、2026年9月16日確認)
- 生活衛生対策(理容・美容の衛生管理)(厚生労働省、2026年9月16日確認)
- 電気料金の仕組み(契約容量の考え方)(資源エネルギー庁、2026年9月16日確認)
構造設備の基準の数値と届出の様式・期限は都道府県・政令市の条例で異なります。工事の前に必ず所轄の保健所にご確認ください。記事内の費用は目安のための仮の設定で、工事の内容・地域により大きく異なります。
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