美容室のボーナス(賞与)に法律上の支給義務はなく、金額も店が決められますが、就業規則や雇用契約書で約束した分は払う義務があります。寸志も賞与と同じく源泉所得税の対象で、社会保険の適用事業所なら支給日から5日以内に賞与支払届が必要です。
美容業を含む業種の賞与の支給状況、利益から逆算する賞与原資の計算、業績連動の算定式、寸志と賞与の違い、社会保険料と源泉徴収の計算、就業規則への書き方、支給しない年の伝え方を順に整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:美容室の賞与・寸志で決めることの早見表
賞与は「出すか・いくら出すか」を店が決められる一方、規程や契約で約束すると義務になります。金額を決める前に、規程の書き方と税・社会保険の手続きを押さえるのが正しい順番です。
| 論点 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 支給義務 | 法律上の義務はない。就業規則や雇用契約で支給基準を定めれば、その基準どおりに払う義務が生じる | 労働基準法第89条第4号 |
| 寸志との違い | 法律上の区別はない。少額でも、労働の対価として3か月を超える間隔で払えば賞与として扱う | 健康保険法第3条第6項 |
| 社会保険料 | 適用事業所なら、1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率を掛ける。支給日から5日以内に賞与支払届 | 日本年金機構の手続き案内 |
| 源泉所得税 | 前月の給与(社会保険料等控除後)と扶養の数で「算出率の表」から税率を求める | 国税庁 No.2523 |
| 規程への記載 | 賞与を定めるなら就業規則に書き、労働条件通知書でも明示する | 労働基準法第89条、同法施行規則第5条第1項第5号 |
| パートへの支給 | 正社員との違いに合理的な理由がなければ問題になる | パートタイム・有期雇用労働法第8条 |
| 最低賃金との関係 | 賞与は最低賃金の計算に入らない。月給だけで最低賃金を満たす必要がある | 最低賃金法第4条第3項 |
最後の行は見落とされがちです。賞与を多めに出しても、月給が最低賃金を下回っていれば違反になります。2026年度の改定で月給を見直す場合は、最低賃金引き上げへの対応を先に確認してください。
美容室でボーナスを出す店はどのくらいあるか — 統計で見る相場
美容業だけを切り出した公的統計はありません。厚生労働省の毎月勤労統計調査では、美容業を含む「生活関連サービス業,娯楽業」の2025年年末賞与の支給事業所割合は56.5%で、全産業の76.5%を大きく下回ります(事業所規模5人以上)。
| 2025年年末賞与(事業所規模5人以上) | 生活関連サービス業,娯楽業 | 調査産業計 |
|---|---|---|
| 賞与を支給した事業所の割合 | 56.5%(前年61.3%) | 76.5%(前年77.8%) |
| 支給した事業所の労働者1人平均 | 194,018円 | 424,889円 |
| きまって支給する給与に対する割合 | 0.72か月分 | 1.08か月分 |
| 支給しない事業所を含む1人平均 | 140,469円 | 367,529円 |
この分類には美容業のほか洗濯業や旅行業、娯楽業なども含まれ、パートタイム労働者も平均に入っています。5人未満の店は集計の対象外です。数字は美容室の相場そのものではなく、サービス業の中で賞与がどの水準にあるかをつかむ参考値として使います。
そのうえで、相場の月数に合わせて金額を決めるより、自店の利益から原資を逆算するほうが、払えない約束をせずに済みます。売上に対する人件費の水準は人件費率の目安と適正化で確認できます。
寸志と賞与の違い — 少額でも税と社会保険の扱いは同じ
寸志とは、賞与を出すほどの業績や在籍期間がないときに、感謝の気持ちとして渡す少額の一時金を指す呼び方で、法律上の用語ではありません。名前が寸志でも、労働の対価として払えば税と社会保険の扱いは賞与と同じです。
- 賞与(ボーナス):夏と冬など年2回、規程に基づいて払う一時金です。給与として源泉徴収し、適用事業所なら標準賞与額で社会保険料を計算します。
- 寸志:入社1年目の人や、業績が届かなかった年に払う少額の一時金です。手続きは賞与と同じで、少額だから届出が要らないということはありません。
- 決算賞与:決算前に、利益の状況を見て臨時に払う一時金です。これも賞与として扱います。
- 大入り袋・金一封:売上目標を達成した日などに現金で渡すものです。給与として源泉徴収の対象になります。社会保険で賞与・報酬のどちらに当たるかは支給の頻度や規程で変わるため、年金事務所に確認します。
- 結婚祝金・出産祝金:慶弔規程に基づく祝金は、社会通念上相当な金額なら給与として課税しなくてよいとされています(所得税基本通達28-5)。
社会保険では、年3回以下の支給が賞与、年4回以上になると賞与ではなく毎月の報酬の一部として扱います。「毎月の業績達成で金一封」を続けると、賞与の扱いから外れることがあるため、支給の回数は規程で決めておきます。
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利益から逆算する賞与原資の計算
賞与の原資は、「半期の利益」から「先に残すべきお金」を引き、残りの何割を配るかで決めます。店が負担する社会保険料は賞与にもかかるため、実際に配れる支給総額は、原資を店負担の保険料率で割り戻した額になります。
賞与原資の計算式
- 賞与原資 =(半期の営業利益(賞与を払う前)− 借入金の元金返済 − 納税と設備更新に残すお金)× 配分率
- 支給総額 = 賞与原資 ÷(1 + 店が負担する社会保険料等の率)
-
半期の営業利益を出す
会計ソフトの試算表で、算定対象期間(例:6月〜11月)の営業利益を出します。賞与をまだ計上していない状態の数字を使います。
-
先に残すお金を引く
借入金の元金返済は経費にならず利益から払うため、必ず先に引きます。納税の準備、シャンプー台や椅子の更新の積立も同じです。
-
配分率を決めて原資を出す
残ったお金のうち何割をスタッフに配るかを決めます。配分率を毎回変えると不信を生むので、規程か社内のルールで固定します。
-
店負担の保険料を割り戻す
法人など社会保険の適用事業所は、健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金・雇用保険の店負担分を割り戻します。個人の美容室で社会保険の適用事業所でなければ、割り戻すのは雇用保険と労災保険の分だけです。
-
基本部分と評価部分に分けて配る
全員に基本給の一定割合を配る「基本部分」と、評価で差をつける「評価部分」に分けると、計算の根拠を説明しやすくなります。
試算 — スタッフ4人の店の冬の賞与(仮の設定)
法人で協会けんぽ東京支部に加入し、スタッフは全員40歳未満とします。6〜11月の賞与前の営業利益が300万円、同じ期間の元金返済が90万円、納税と設備の積立に60万円を残すと、残りは150万円です。配分率を40%とすると原資は60万円になります。
店負担の率は、健康保険4.925%、子ども・子育て支援金0.115%、厚生年金9.15%、雇用保険0.85%の合計15.04%です(2026年度の料率)。60万円÷1.1504で、支給総額は約52万円になります。このほか労災保険料と子ども・子育て拠出金もかかるため、実際はもう少し余裕を見ます。
| スタッフ(基本給) | 基本部分(基本給×0.3か月) | 評価部分(1点22,900円) | 支給額 |
|---|---|---|---|
| スタイリストA(280,000円) | 84,000円 | 3点・68,700円 | 152,700円 |
| スタイリストB(260,000円) | 78,000円 | 2点・45,800円 | 123,800円 |
| アシスタントC(220,000円) | 66,000円 | 3点・68,700円 | 134,700円 |
| アシスタントD(210,000円) | 63,000円 | 2点・45,800円 | 108,800円 |
| 合計 | 291,000円 | 10点・229,000円 | 520,000円 |
評価部分は、支給総額から基本部分を引いた229,000円を評価点の合計10点で割って1点の単価を出しています。数字はすべて自分で置いた前提による試算で、実際の金額は利益と人数、配分率で変わります。
業績連動の算定式は3つの型から選ぶ
賞与の算定式は「固定月数型」「業績連動型」「評価上乗せ型」の3つが基本です。売上に波がある美容室では、店全体の業績で総額を決め、個人の評価で配分する組み合わせが、払えない年を作らずに差もつけられる形です。
- 固定月数型:「基本給×1か月」のように月数で決めます。分かりやすい反面、業績が落ちても払う前提になりやすいため、規程に「業績により変動する」と書いておきます。
- 業績連動型:前の章の計算式のように、半期の利益から総額を決めます。計算式と利益の数字を開示しないと、「なぜこの金額か」が伝わらず不信を生みます。
- 評価上乗せ型:基本部分に評価点×単価を上乗せします。評価制度があることが前提で、評価項目と点数の付け方を事前に共有します。
歩合給がある店は、個人売上がすでに月給に反映されています。賞与の評価まで個人売上で決めると二重に評価することになるため、賞与の評価は技術の習得・後輩指導・再来率など行動面に寄せると納得感が出ます。歩合の設計は給与・歩合制度の作り方、評価項目の決め方はスタッフ評価制度の作り方を参照してください。
賞与・寸志にかかる社会保険料と源泉徴収の計算
社会保険の適用事業所なら、賞与額の1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率を掛け、本人と店で折半します。源泉所得税は、前月の給与から社会保険料等を引いた額と扶養親族等の数で税率を求め、社会保険料等を引いた賞与額に掛けます(国税庁 No.2523)。
| 店の形 | 賞与から引くもの | 届出 |
|---|---|---|
| 個人の美容室(社会保険の適用事業所でない) | 雇用保険料(本人分5/1,000)、源泉所得税 | 賞与支払届は不要 |
| 法人などの適用事業所(協会けんぽ) | 健康保険料・子ども・子育て支援金・厚生年金保険料の本人分、雇用保険料、源泉所得税 | 支給日から5日以内に賞与支払届 |
| 法人で美容国保に加入(健康保険の適用除外) | 厚生年金保険料の本人分、雇用保険料、源泉所得税 | 支給日から5日以内に賞与支払届 |
美容国保は保険料が1人あたり定額のため、賞与から健康保険料は引きません。仕組みは美容国保の加入条件と保険料で整理しています。標準賞与額には上限があり、健康保険は年度の累計で573万円、厚生年金は1か月あたり150万円です。住民税は毎月の給与から引くもので、賞与からは引きません。
試算 — 賞与20万円の手取り(仮の設定)
法人で協会けんぽ東京支部、30歳、扶養親族なし、前月の給与から社会保険料等を引いた額が21万円のスタッフに、20万円の賞与を払うとします。料率は2026年度のものです。
| 項目 | 計算 | 本人負担 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 200,000円×9.85%÷2 | 9,850円 |
| 子ども・子育て支援金 | 200,000円×0.23%÷2 | 230円 |
| 厚生年金保険料 | 200,000円×18.3%÷2 | 18,300円 |
| 雇用保険料 | 200,000円×5/1,000 | 1,000円 |
| 源泉所得税 | (200,000円−29,380円)×4.084% | 6,968円 |
| 手取り | 200,000円−29,380円−6,968円 | 163,652円 |
税率4.084%は、令和8年分の算出率の表で「扶養親族等0人・前月の社会保険料等控除後の給与94千円以上260千円未満」の行の率です。前月の給与がない人や、賞与が前月の給与の10倍を超える人は、この表ではなく月額表を使って計算します。数字は自分で置いた前提による試算です。
賞与支払届は、寸志のような少額の支給でも、支給日から5日以内に出します。源泉所得税は原則として支給した月の翌月10日までに納めます(納期の特例を受けている店は7月10日と1月20日)。
就業規則・雇用契約書には何をどう書くか
賞与を出すなら、就業規則に支給の時期・算定方法・在籍要件を書き(労働基準法第89条第4号)、雇用契約書や労働条件通知書でも明示します。「業績により支給しないことがある」と書いておけば、支給しない年があっても規程違反になりません。
規程の例(厚生労働省のモデル就業規則の賞与の条文を参考に、美容室向けに整えたもの)
- 第○条(賞与)1 賞与は、原則として毎年7月と12月に、算定対象期間に在籍した従業員に対し、店の業績と各人の勤務成績を考慮して支給する。ただし、店の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、支給時期を延期し、または支給しないことがある。
- 2 算定対象期間は、7月支給分は前年12月1日から5月31日まで、12月支給分は6月1日から11月30日までとする。
- 3 賞与は、支給日に在籍している者に支給する。
- 4 賞与の額は、第○条に定める評価の結果を考慮して、各人ごとに決定する。
避けたいのは、「賞与は基本給の2か月分を支給する」と確定した形で書くことです。業績が悪い年も払う義務が生じます。雇用契約書も「賞与あり」だけでなく「年2回(業績により支給しない場合あり)」と書きます。常時10人未満の店に就業規則の作成義務はありませんが、賞与のルールを書面にする意味は大きく、作り方は就業規則は必要かで整理しています。
支給しない年・減らす年はどう伝えるか
支給しない年や減らす年は、決まった時点で早めに、理由を数字で説明し、次に戻る条件を示すのが基本です。支給日の直前に告げたり、理由をあいまいにしたりすると、金額以上に信頼を失います。
-
数字を先に整理する
半期の売上と利益、元金返済、残すべきお金を1枚にまとめます。原資の計算式に当てはめ、なぜ通常の額に届かないかを示せるようにします。
-
全員に同じ内容を伝える
朝礼やミーティングで全員に一度に伝え、そのあと個別面談で質問を受けます。人によって説明が違うと不信の原因になります。
-
戻る条件を約束しすぎない範囲で示す
「来期に利益が○万円に戻れば通常の計算に戻す」のように条件で示し、金額は約束しません。
伝え方の例は次のとおりです。「今年の冬の賞与についてお伝えします。6月から11月の売上は前年より○%下がり、借入の返済と来年の設備更新に必要なお金を残すと、規程どおりの原資を確保できませんでした。今回は全員一律で寸志○万円とします。半期の営業利益が○万円に戻れば、通常の計算に戻します。」
求人票に「賞与あり(昨年実績○か月分)」と書いている店は、実績が変わった時点で表示を直します。求人情報は正確で最新の内容に保つことが職業安定法で求められています。
賞与・寸志の準備を次の7項目で点検してください。
- 就業規則と雇用契約書に、支給時期・算定対象期間・在籍要件・「支給しないことがある」旨を書いている
- 半期の賞与前の営業利益を試算表で出している
- 元金返済・納税・設備更新に残すお金を先に引いている
- 店負担の社会保険料等を割り戻して支給総額を決めている
- 基本部分と評価部分の計算方法をスタッフに説明できる
- 適用事業所なら、支給日から5日以内に賞与支払届を出す段取りがある
- 月給だけで2026年度の最低賃金を満たしている
よくある質問
パート・アルバイトにも賞与を出す必要がありますか?
法律で一律に義務づけられてはいません。ただし、正社員と仕事内容や責任が同じなのにパートだけ支給しないなど、違いに合理的な理由がない場合は、パートタイム・有期雇用労働法第8条の不合理な待遇差に当たるおそれがあります。
入社したばかりのスタッフにも寸志を出すべきですか?
出すかどうかは店が決められます。迷わないように、就業規則で算定対象期間と在籍要件を定め、期間の途中で入社した人は在籍した月数に応じて計算するなどのルールを決めておきます。
賞与を現金で手渡ししてもよいですか?
手渡しでも問題ありません。賃金は通貨で直接払うのが原則で、口座振込には本人の同意が必要です。手渡しでも源泉徴収、支払明細書の交付、賞与支払届などの手続きは同じです。
支給日の前に退職したスタッフにも賞与を払う必要がありますか?
就業規則で支給日在籍要件を定めていれば、支給日の前に退職した人には支給しない扱いができます。定めがないまま不支給にすると争いになりやすいため、規程に明記しておきます。
オーナーや家族に払う賞与は経費になりますか?
個人事業のオーナー本人への賞与は経費になりません。青色事業専従者の家族への賞与は、届出書に記載した範囲内なら経費になります。法人の役員賞与は、事前確定届出給与などの要件を満たさないと損金になりません。
出典:労働基準法第24条・第89条、労働基準法施行規則第5条、パートタイム・有期雇用労働法第8条、最低賃金法第4条、健康保険法第3条、所得税法第57条・第231条、法人税法第34条、所得税基本通達28-5、日本年金機構「従業員に賞与を支払ったときの手続き」(日本年金機構)、国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和8年分)」(国税庁)、厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」「毎月勤労統計調査 2026年2月分結果速報(2025年年末賞与の特別集計)」(厚生労働省)、全国健康保険協会「令和8年度保険料率」。個別の判断は社会保険労務士か税理士に確認してください。
賞与は「規程で約束しすぎない」「利益から原資を逆算する」「計算の根拠を見せる」の3点で決めます。まず半期の試算表から賞与前の営業利益を出し、残すお金を引いた原資を計算するところから始めてください。
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