美容室の料金は、①固定費・返済・生活費(スタッフがいれば給与)と、材料費・決済手数料・歩合などの変動費率から必要な月の売上を出す、②スタイリストが施術できる時間×稼働率で割って目標の時間単価を決める、③メニューごとに「拘束時間×時間単価+材料原価」で積み上げる、④商圏の価格帯と照らす、の順で決めます。1人サロンの例では時間単価は約6,600円、スタイリスト3人の店で歩合を変動費に入れると約6,700円になり、歩合を入れ忘れると予約が計画どおり埋まっても月約13万円足りなくなります。
新規開業や新しいメニューの料金を決める手順を、1人サロンとスタッフのいる店の計算例、商圏の価格との判断表、消費税の割り戻し、料金表の文例で整理します。すでにある料金の値上げの進め方は扱いません(2026年10月時点の情報です)。
結論:美容室の料金設定の手順の早見表
料金は「いくらなら来てもらえるか」より先に「いくら必要か」から出します。相場は最後に照らす材料で、出発点ではありません。
| 手順 | 計算・ルール | 理由 |
|---|---|---|
| 1. 必要な月の売上 | (固定費+返済+オーナーの生活費)÷(1−変動費率) | 料金は利益を残すための逆算から決める |
| 2. 売れる時間 | スタイリストの営業時間×稼働率(予約で埋まる割合) | アシスタントの時間と空き時間は売上にならない |
| 3. 目標の時間単価 | 必要な月の売上÷売れる時間 | メニューの料金を同じ基準で決められる |
| 4. メニュー別の料金 | スタイリストの拘束時間×時間単価+材料原価 | 時間がかかるメニューほど料金が上がる |
| 5. 消費税の割り戻し | 課税事業者は、計算した料金÷(1−納税額の割合) | 税込の総額のうち納税分は店に残らない |
| 6. 商圏の価格帯 | 競合の同じメニューの中央値と比べて判断する | 大きく外れるなら料金ではなく前提を見直す |
| 7. 表示 | 税込の総額で表示し、追加料金の条件を書く | 総額表示の義務(消費税法第63条) |
必要な月の売上を出す — 1人サロンなら約85万円
最初に、店を続けながらオーナーが生活できる月の売上を出します。固定費と返済、オーナーの生活費(税金と社会保険料を含む)を足し、売上に比例してかかる費用の割合で割り戻します。
| 項目(月額) | 金額 | メモ |
|---|---|---|
| 家賃 | 15万円 | 共益費を含む |
| 水道光熱・通信・予約システム | 5万円 | — |
| 広告・集客 | 3万円 | — |
| リース・融資の返済 | 8万円 | 返済は元金を含めた支払額で見る |
| 消耗品・その他 | 4万円 | — |
| オーナーの生活費 | 40万円 | 所得税・住民税・国民健康保険・国民年金を含む |
| 合計 | 75万円 | 売上から変動費を引いた後に残したい額 |
| 必要な月の売上 | 約85万円 | 75万円÷(1−変動費率12%) |
試算の前提(仮定):1人で営業する美容室。変動費率12%は材料費10%とキャッシュレス決済の手数料など2%。数字はすべて計算の仕方を示すための仮定です。
料金を決める基準は、生活費を除いた損益分岐点ではなく、生活費まで含めた売上です。損益分岐点は、開業直後に赤字にならない最低ラインを確かめるときに使います。
目標の時間単価を出す — 稼働率65%なら約6,600円
時間単価とは、施術に使える1時間あたりの売上のことです。営業時間のうち、予約の空き、準備と片付け、カウンセリングの時間を除いた割合を稼働率とし、売れる時間を出します。
上の例で、月22日・1日9時間営業なら営業時間は198時間です。稼働率65%なら売れる時間は約129時間で、85万円÷129時間で目標の時間単価は約6,600円です。同じ計算で、稼働率55%なら約109時間で約7,800円、75%なら約149時間で約5,700円になります。稼働率を高く置くほど時間単価が低く出て、料金を安く決めすぎる原因になります。
開業直後は予約が埋まりにくいため、計画の稼働率より15ポイント低い場合でも資金が続くかを確かめます。この例で稼働率が50%(約99時間)にとどまると、売上は約65万円で、必要な85万円に月約20万円届きません。その差を何か月運転資金で埋められるかが、開業時に用意する資金の目安になります。今の店の時間単価の計算と上げ方は時間単価の出し方と上げ方で確認できます。
メニュー別の料金を決める — 拘束時間×時間単価+材料原価
各メニューの料金は、「スタイリストがその施術でふさがる時間×目標の時間単価+材料原価」で計算します。アシスタントが塗布やシャンプーを担う店では、お客様の滞在時間ではなく、スタイリストの拘束時間で数えます。
| メニュー | 拘束時間 | 時間単価分 | 材料原価 | 計算した料金 |
|---|---|---|---|---|
| カット | 60分 | 6,600円 | 100円 | 6,700円 |
| リタッチカラー | 60分 | 6,600円 | 800円 | 7,400円 |
| カット+カラー | 120分 | 13,200円 | 1,000円 | 14,200円 |
| カット+パーマ | 150分 | 16,500円 | 900円 | 17,400円 |
| 縮毛矯正+カット | 210分 | 23,100円 | 1,800円 | 24,900円 |
| トリートメント(追加) | 20分 | 2,200円 | 500円 | 2,700円 |
時間単価6,600円の場合の計算例です。材料原価は仮定で、実際の薬剤と1回の使用量で計算し直してください。
材料原価は、薬剤1本の価格ではなく1回の施術で使う量の原価で出します。計算の方法は材料費と原価率の計算方法にまとめています。ヘッドスパのように専用の機器を使うメニューは、機器の購入費やリース料を1年に提供する見込みの回数で割った額も原価に加えます。計算した料金がほかのメニューと比べて極端に高い場合は、手順を見直して拘束時間を短くできないかを先に確かめます。
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スタッフがいる店の試算 — 歩合は変動費に入れる
スタッフを雇う店では、固定給は固定費、売上に連動する歩合は変動費に入れ、売れる時間はスタイリスト全員の施術時間の合計で数えます。アシスタントの時間は売れる時間に入れません。
| 項目(月額) | 金額 | 計算・前提 |
|---|---|---|
| 家賃・水道光熱・通信・広告 | 38万円 | 家賃25万円+その他13万円 |
| リース・返済・消耗品 | 18万円 | 返済12万円+消耗品など6万円 |
| スタッフの固定給 | 72万円 | スタイリスト2人×25万円+アシスタント22万円 |
| 法定福利費 | 約10.8万円 | 給与72万円×15% |
| オーナーの生活費 | 50万円 | 税・社会保険を含む |
| 固定費の合計 | 188.8万円 | — |
| 変動費率 | 18% | 材料10%+決済2%+歩合6%(スタッフ2人の売上が全体の60%で、その10%) |
| 必要な月の売上 | 約230万円 | 188.8万円÷(1−0.18) |
| 売れる時間 | 約343時間 | スタイリスト3人×22日×8時間×稼働率65% |
| 目標の時間単価 | 約6,700円 | 230万円÷343時間 |
試算の前提(仮定):セット面4、オーナーを含むスタイリスト3人とアシスタント1人。歩合はオーナー以外のスタイリストの技術売上の10%。数字はすべて計算の仕方を示すための仮定です。
歩合を入れ忘れて変動費率を12%で計算すると、必要な売上は約214.5万円、時間単価は約6,250円と出ます。その料金で予約が計画どおり埋まっても、売上214.5万円から実際の変動費18%を引くと約175.9万円で、固定費に月約12.9万円足りません。誰が担当しても同じ料金にするか、スタイリストの経験で料金を分けるかは、この店全体の時間単価を出してから決めます。
商圏の価格帯と照らす — 中央値との差で判断する
計算した料金は、商圏の競合10店ほどの同じメニューの税込価格を並べ、真ん中の値(中央値)と比べて判断します。予約サイトやホームページで、狙う客層が重なる店を選び、施術時間の表示も一緒に書き出します。
| 計算した料金と中央値の差 | 判断 | 次にやること |
|---|---|---|
| ±10%以内 | 計算どおりの料金で出す | 100円単位にそろえ、税込の総額で表示する |
| 10〜30%高い | 料金は下げない | 高い理由(時間・技術・カウンセリング・個室)をメニュー説明に1行ずつ書く。開業後3か月の新規予約が計画の7割に届かなければ、中身と見せ方を見直す |
| 30%以上高い | 料金ではなく前提を見直す | 家賃、生活費、稼働率、拘束時間を1つずつ変えて再計算し、どれが原因かを特定する |
| 10%以上低い | 上げる余地がある | 中央値に近づけた料金で開業前の告知を出し、予約の入り方で確かめる |
判断の幅(±10%・30%・7割)は編集部の目安で、公的な基準ではありません。
競合の価格は、通常の料金だけでなく、初回の特典の価格と施術時間の表示も見ると、その店の時間単価の見当がつきます。相場より高い料金で選ばれる店の作り方は、メニューの中身と見せ方の問題として別に考えます。相場に合わせるために必要な売上を下回る料金にすると、どれだけ予約が埋まっても生活費が残りません。
税込表示と消費税 — 課税事業者は納税分を割り戻す
お客様に示す料金は消費税を含めた総額です(消費税法第63条)。消費税を納める店では、その総額のうち納税する分は店に残らないため、計算した料金を納税額の割合で割り戻してから表示価格を決めます。
| 消費税の計算方法 | 税込売上に対する納税額の目安 | 6,700円を割り戻すと |
|---|---|---|
| 免税事業者 | 0% | 6,700円のまま |
| 3割特例(インボイス登録で課税事業者になった個人の2027年分・2028年分) | 約2.7%(税込売上×10/110×30%) | 約6,900円 |
| 簡易課税(美容の施術は第5種事業、みなし仕入率50%) | 約4.5%(税込売上×10/110×50%) | 約7,000円 |
| 本則課税 | 売上の税額−仕入れと経費の税額 | 前年の納税額÷税込売上で割合を出す |
個人事業者の2割特例は2026年分の申告まで、3割特例は基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが要件です。店販の化粧品の販売は簡易課税では第2種事業(みなし仕入率80%)で、施術と売上を分けて記録していないと低いほうの率が使われます。
どの計算方法になるかと届出の期限は消費税と簡易課税の記事で確認できます。決めた料金は、予約サイト、ホームページ、店頭のメニュー表ですべて同じにします。表示のルールの詳細は料金表示のルールにまとめています。
料金計算シート(1メニューずつ記入する)
- ①必要な月の売上:(固定費+返済+生活費)÷(1−変動費率)=__円
- ②売れる時間:スタイリストの営業時間の合計×稼働率=__時間
- ③目標の時間単価:①÷②=__円
- ④このメニューのスタイリストの拘束時間:__分(実測した平均)
- ⑤材料原価:1回の使用量×単価=__円
- ⑥計算した料金:③×④÷60+⑤=__円
- ⑦消費税の割り戻し:⑥÷(1−納税額の割合)=__円
- ⑧表示価格:⑦を100円単位に丸め、商圏の中央値との差を判断表で確かめる
料金表と開業告知にそのまま使える文例
- 料金表の注記:「表示価格はすべて税込です。肩より下の長さの方は、カラー・パーマ・縮毛矯正に1,100円を加算します。」
- 追加料金の事前の説明:「髪の長さや量により追加料金がかかる場合は、施術の前に金額をお伝えし、ご了承をいただいてから始めます。」
- スタイリスト別の料金:「カット スタイリスト6,600円/トップスタイリスト7,700円(担当者による料金の差はこの表のとおりで、別に指名料はいただきません)」
- 開業特典の告知:「オープン記念として、5月31日までにご来店の方には、初回に限りトリートメント(通常2,700円)を無料でお付けします。メニューの料金は変わりません。」
料金設定でつまずく6つの点と防ぎ方
料金の失敗の多くは、計算式ではなく、数字の拾い方と表示の運用で起きます。
- 歩合を変動費に入れ忘れる:上の例では月約12.9万円足りなくなります。給与の設計を決めてから料金を計算し、歩合率を変えたら時間単価も出し直します。
- アシスタントや事務の時間を売れる時間に数える:売れる時間はスタイリストの施術時間だけです。オーナーが経理や採用に使う時間も差し引きます。
- 初回クーポンが平均単価を下げる:平均単価の下がり方は「新規の比率×割引率」で、新規が4割で初回20%引きなら平均で8%下がります。割引は期間と回数を限るか、料金を下げない特典にします。設計の仕方は新規クーポンの作り方で扱っています。
- 計算した料金をそのまま税込の価格にする:課税事業者は納税分が不足します。インボイス登録や売上の増加で課税事業者になる年を先に確かめ、その年の料金から割り戻します。
- 追加料金の条件があいまいで会計でもめる:「ロング」ではなく「肩より下」「鎖骨より下」のように見て分かる基準で書き、施術の前に金額を伝えます。
- 開業記念で料金表の価格を下げる:下げた価格が基準として残り、後の値上げで失客と告知の手間がかかります。特典は期間と回数を限り、料金表は最初から正規の額で出します。決めた料金を後から上げる手順は価格改定と値上げの進め方で確認できます。
料金を決める前に、次の8項目を確認してください。
- 固定費、返済、オーナーの生活費(税・社会保険を含む)を月額で出した
- 材料費、決済手数料、歩合を合わせた変動費率を出した
- スタイリストの施術時間だけで売れる時間を出し、稼働率を15ポイント下げた場合も試算した
- メニューごとにスタイリストの拘束時間を実測し、材料原価を1回の使用量で出した
- 消費税の計算方法を確かめ、課税事業者なら納税分を割り戻した
- 商圏の競合10店ほどの中央値と比べ、判断表で次の行動を決めた
- 税込の総額で表示し、追加料金の条件を見て分かる基準で書いた
- 予約サイト、ホームページ、店頭のメニュー表の料金をそろえた
よくある質問
料金は周りの美容室の相場に合わせればよいのではないですか?
相場は比べる材料にはなりますが、家賃や返済、人数は店ごとに違うため、相場どおりの料金で自店の生活費まで残るとは限りません。まず必要な売上から時間単価を出し、その料金が商圏の中央値からどれだけ離れているかで判断します。
勤めていた店と同じ料金にしてもよいですか?
前の店の料金は、その店の家賃、人件費、立地で決められたものです。独立後は固定費も施術できる時間も変わるため、自分の店の数字で計算し直してから決めます。
開業記念の割引はしないほうがよいですか?
割引そのものが悪いわけではありませんが、料金表の価格を下げると、その価格が基準として残ります。期間や回数を限った初回の特典にして、通常の料金は最初から正規の額で示す形にします。
アシスタントが入る施術の時間はどう数えますか?
スタイリストがそのお客様のためにふさがる時間で数えます。塗布やシャンプーをアシスタントが担い、その間にスタイリストが別のお客様を担当できるなら、その分は時間に含めず、アシスタントの人件費を固定費の側で見込みます。
スタイリストの経験によって料金を分けるべきですか?
同じメニューでも施術時間や指名の多さが違う場合は、経験に応じた料金の段階を設ける方法があります。分ける場合は、段階ごとの差額と昇格の基準を決め、指名料との二重取りにならないよう関係を整理しておきます。
料金はどのくらいの頻度で見直せばよいですか?
年に1回、実際の時間単価、変動費率、固定費が計画どおりかを確かめます。仕入れ値や家賃、歩合率が変わったときや、消費税の計算方法が変わる年も計算し直し、必要な売上に届いていなければ料金かメニューの構成を見直します。
出典:消費税法第63条(e-Gov法令検索「消費税法」)、国税庁 No.6902「総額表示」の義務付け、国税庁 No.6509 簡易課税制度の事業区分、国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」、不当景品類及び不当表示防止法(e-Gov法令検索「景品表示法」)。試算の数字はすべて計算の仕方を示すための仮定です。
料金を決めるときは、まず料金計算シートの①(固定費・返済・生活費と変動費率)を自分の店の数字で埋めることから始めてください。決めた料金をメニュー表にどう並べるかはメニュー表の作り方で確認できます。
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