スタッフの給与から天引きした源泉所得税は原則として支払った月の翌月10日までに納めますが、給与を払う人数が常時10人未満の美容室は「納期の特例」の承認を受ければ、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日の年2回にまとめて納められます(所得税法第216条)。特例の対象は給与・退職金と税理士・社会保険労務士などの報酬の源泉所得税だけで、講習の講師料やデザイン料などから天引きした分は毎月翌月10日までに納めます。
この記事では、特例を使うかどうかの判断表、スタッフ4人の店の半年分の納付額の試算、申請した月ごとの適用開始の早見表、納付書(納期特例分)に写す集計シート、現場でつまずく点と遅れたときの加算税を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:源泉所得税の納期の特例の早見表
スタッフが数人の美容室なら、納期の特例で毎月の納付を年2回に減らせます。要件と期限を一覧にします。
| 項目 | 目安・ルール | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 原則の納期限 | 給与を支払った月の翌月10日 | 所得税法第183条 |
| 特例を使える店 | 給与の支払を受ける人が常時10人未満 | 所得税法第216条。役員・パート・家族の専従者も人数に含む |
| 特例の納期限 | 1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日(2027年7月は10日が土曜のため12日) | 土日祝日なら翌平日 |
| 申請 | 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ | 所得税法第217条 |
| 適用の開始 | 申請した月の翌月に支払う給与の分から | 翌月末までに却下の通知がなければ承認とみなされる |
| 対象の範囲 | 給与・退職金、税理士・社会保険労務士・司法書士などの報酬の源泉所得税 | 講師料・デザイン料・モデル料などは対象外(翌月10日) |
| 2027年からの変更 | 防衛特別所得税が加わるが、源泉徴収の合計の割合は変わらず、1枚の納付書で納める | 国税庁「No.2507」。令和9年分の源泉徴収税額表を使う |
| 遅れたとき | 不納付加算税(原則10%)と延滞税 | 国税通則法第67条 |
納期の特例とは — 常時10人未満なら年2回にまとめて納める制度
納期の特例とは、給与の支払を受ける人が常時10人未満の源泉徴収義務者が、税務署長の承認を受けて、半年分の源泉所得税をまとめて納められる制度のことです。毎月の納付書の作成と納付が、年12回から年2回に減ります。
人数は、正社員のスタイリスト・アシスタントだけでなく、パート・アルバイト、法人の役員、個人事業の青色事業専従者など給与を受け取る人すべてで数えます。「常時」は、繁忙期に一時的に増える人ではなく、普段の人数で判断します。法人化して代表者1人に役員報酬を払うだけの会社も、源泉徴収義務者として特例を使えます。業務委託の美容師は給与ではないため人数に入りません。
特例を使うべきか — 人数・7月と1月の残高・外注の有無で決める判断表
常時10人未満で、7月と1月に半年分の源泉所得税を払っても家賃と給与が払える店は、特例を使います。払えない見込みの店と、給与計算から納付まで外部に任せている店は、毎月納付のままで構いません。
| 店の状況 | 判断 | 条件・理由 |
|---|---|---|
| 給与を受ける人が常時10人以上(パート・役員・専従者を含む) | 使えない | 毎月翌月10日に納める |
| 10人未満で、7月・1月の残高が「半年分の源泉所得税+その月の家賃・給与」を上回る | 使う | 納付の作業が年12回から2回に減る |
| 10人未満だが、7月・1月の残高が上の合計を下回る見込み | 毎月納付のまま | 半年分が遅れると加算税も半年分にかかる |
| 10人未満で、外部講師やデザイナーに毎月のように報酬を払う | 使ってよいが、その報酬分は毎月納付が残る | 講師料・デザイン料は特例の対象外 |
| 給与計算と納付を給与計算サービスなどに任せている | どちらでもよい | 毎月の手間の差が小さい。委託先の対応を確認 |
| 1年以内に10人以上になる採用計画がある | 申請しないか、届出の準備をしておく | 要件を外れたら届出を出して毎月納付に戻る |
試算の前提(仮定):個人事業の美容室で、スタイリスト3人+アシスタント1人(全員正社員・甲欄)。源泉徴収簿の実績で、毎月の給与の源泉所得税が4人合計21,000円、6月の夏賞与が30,000円、12月の冬賞与が40,000円、12月の年末調整で18,000円を還付。顧問税理士に月30,000円(消費税を区分した請求書)を払う。5月に外部講師へ講習料50,000円を払う。
| 区分 | 1〜6月分 | 7〜12月分 |
|---|---|---|
| 給与(21,000円×6か月) | 126,000円 | 126,000円 |
| 賞与 | 30,000円 | 40,000円 |
| 税理士報酬(30,000円×10.21%=3,063円×6か月) | 18,378円 | 18,378円 |
| 年末調整による還付 | — | −18,000円 |
| 納める額 | 174,378円(2027年7月12日) | 166,378円(2028年1月20日) |
| 特例の対象外(講師料50,000円×10.21%) | 5,105円を2027年6月10日に別に納付 | — |
この店が特例を使うと、7月12日に約17万4千円をまとめて払います。毎月の給与日に約2万9千円(174,378円÷6)を納税用の口座へ移しておくと、7月と1月に資金が足りなくなりません。天引きした税金はスタッフから預かったお金で、店の運転資金ではありません。7月と1月の支出は美容室の資金繰り表に先に書き込んでおきます。
申請書の出し方と、いつから適用されるか
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を給与を支払う事務所(店)の所在地を所轄する税務署に出し、翌月末までに却下の通知がなければ承認されたものとみなされます。適用は、申請した月の翌月に支払う給与の分からです。
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人数を確認する
給与を払う人(役員・パート・専従者を含む)が常時10人未満かを確認します。
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申請書を書いて税務署に出す
国税庁のサイトから様式を入手し、店の名称・所在地、給与の支給人員、過去6か月の各月末の人員と支給額などを書きます。開業したばかりで実績がない場合は分かる範囲で記入します。e-Taxでも提出できます。
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開業時は給与支払事務所等の開設届出書と一緒に出す
開設届出書は給与の支払事務所を開設してから1か月以内です。同時に出すと、最初の給与から特例を使いやすくなります。
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翌月に支払う給与から特例を適用する
申請した月に支払った給与の分は原則どおり翌月10日に納め、翌月に支払う給与の分から半年ごとにまとめます。
| 申請した月 | 申請月に払った給与の納期限 | 特例でまとめる最初の納付 |
|---|---|---|
| 2026年11月 | 2026年12月10日(木) | 12月支払分(年末調整の精算を含む)を2027年1月20日(水) |
| 2026年12月 | 2027年1月12日(火)。10日が日曜、11日が成人の日のため | 2027年1〜6月支払分を2027年7月12日(月) |
| 2027年1月 | 2027年2月10日(水) | 2〜6月支払分を2027年7月12日(月) |
11月中に出すと、12月の給与と年末調整の精算分から特例に入り、1月10日前後の納付が1回減ります。開業時に税務署へ出す書類の全体は美容室の開業届の書き方と出す順番で確認できます。一度承認を受ければ、常時10人未満である間は毎年申請し直す必要はありません。
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特例の対象になる源泉所得税・ならない源泉所得税
年2回にまとめられるのは、給与・賞与・退職金と、税理士・社会保険労務士・司法書士・弁護士などの士業の報酬から源泉徴収した所得税だけです。それ以外の報酬・料金の源泉所得税は、特例の承認を受けていても翌月10日までに納めます。
| 美容室での支払い | 源泉徴収 | 納期の特例 |
|---|---|---|
| スタッフの給与・賞与・残業代・歩合給、役員報酬、青色事業専従者給与、退職金 | 必要 | 対象(7月10日・1月20日) |
| 顧問税理士・社会保険労務士・司法書士への報酬(個人の場合) | 必要(100万円以下の部分は10.21%) | 対象 |
| 外部講師の講師料、ロゴやチラシのデザイン料、作品撮りのモデル料など(個人の場合) | 必要 | 対象外(支払った月の翌月10日) |
| 業務委託の美容師への施術の報酬 | 原則として不要(内容による) | ― |
税理士の請求書で報酬と消費税が分けて書かれていれば、源泉徴収は報酬の額だけにかけられます。業務委託の美容師への報酬に源泉徴収が必要になる場面は業務委託美容師への報酬に源泉徴収は必要か、モデル謝礼の源泉徴収は美容師の作品撮りの費用は経費になるかで解説しています。
7月と1月の納付書はどう書くか — 半年分の集計シートと記入のしかた
特例の納付には「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納期特例分)」を使い、半年分を区分ごとにまとめて書きます。毎月納付で使う一般用とは様式が違い、e-Taxでは画面で納期特例分を選んで作成します。上の試算の店の7〜12月分なら、源泉徴収簿から次のように集計して写します。
| 区分 | 支払年月日 | 人員 | 支給額 | 税額 |
|---|---|---|---|---|
| 俸給・給料等 | 7月25日〜12月25日 | 24人(4人×6か月) | (6か月の支給額の合計) | 126,000円 |
| 賞与 | 12月10日 | 4人 | (賞与の支給額の合計) | 40,000円 |
| 税理士等の報酬 | 7月31日〜12月31日 | 6人(1人×6か月) | 180,000円 | 18,378円 |
| 年末調整による超過税額 | — | — | — | 18,000円(差し引く) |
| 本税(納める額) | — | — | — | 166,378円 |
支払日・支給額は試算の店の仮定です。人員は期間内の各月の実人員の合計を書きます。納付書の欄の並び、納期等の区分(自・至)や年度の書き方は、使う年の様式の記載要領で確認してください。
1月20日分では、年末調整で還付した額を「年末調整による超過税額」、追加で天引きした額を「年末調整による不足税額」の欄に書きます。還付が納める額を上回るときは、翌期以降の納付から差し引きます。本税が0円になった期間も、納付書をe-Taxで送信するか税務署に提出します。納付はe-Taxのダイレクト納付、金融機関や税務署の窓口、クレジットカードやスマホアプリなどから選べます。
毎月の給与計算で源泉所得税をどう出すかは美容室の給与計算のやり方、年末調整の段取りは美容室の年末調整の進め方にあります。
現場でつまずく5つの点 — 申請月・対象外の報酬・様式の取り違え
納期の特例のミスは、どの給与から特例に入るか、どの源泉所得税が特例の外か、どの納付書を使うかの3つに集中します。
- 申請した月の給与まで半年分にまとめてしまう:申請月に払った給与は特例の外で、翌月10日が期限です。防ぎ方:申請書の控えに「特例は○月支払分から」と書き、上の早見表で最初の納付日を確認します。
- 講師料・デザイン料を7月・1月にまとめて遅れる:特例の承認があっても対象外の報酬は毎月です。防ぎ方:外部への支払いで源泉徴収をした月は、「報酬・料金等」の納付書で翌月10日に納める予定をその場でカレンダーに入れます。
- 一般用の納付書で出してしまう:毎月納付から切り替えた最初の期に起きやすい間違いです。防ぎ方:手元の納付書の表題に「納期特例分」とあるかを確認し、なければ税務署で受け取るかe-Taxで作ります。
- 2027年1月からの税額表の切り替えを忘れる:2027年1月以後に支払う給与からは令和9年分の源泉徴収税額表を使います。月末締め翌月払いの店は、12月に働いた分の給与も1月に払うなら新しい表です。防ぎ方:12月中に給与ソフトの更新を確認します。
- 人数が10人を超えたのに届出をしない:繁忙期の一時的な増員ではなく、普段の人数が10人以上になったら「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を出し、毎月納付に戻ります。防ぎ方:採用のたびに給与を払う人数を数え直します。
納付が遅れたらどうなるか — 不納付加算税と延滞税
期限までに納めないと、原則として納めるべき税額の10%の不納付加算税がかかります(国税通則法第67条)。税務署から納税の告知を受ける前に自分で納めれば5%に下がり、条件を満たせば課されません。
| 場面 | 不納付加算税 | 試算の店の7月分(174,378円)が遅れた場合 |
|---|---|---|
| 税務署の告知を受けてから納めた | 10% | 17,000円(計算の基礎は1万円未満を切り捨てて170,000円) |
| 告知の前に、調査を予知せず自分で納めた | 5% | 8,500円 |
| 法定納期限から1か月以内に自分で納め、期限内に納める意思があったと認められる(過去1年以内に遅れがないなど) | 課されない | 0円 |
| 計算した加算税が5,000円未満 | 課されない | — |
加算税とは別に、納期限の翌日から納めた日までの延滞税(2026年は2か月以内が年2.8%、2か月を過ぎた部分は年9.1%)がかかります。延滞税は計算した額が1,000円未満なら納める必要はありませんが、納期の特例では半年分がまとめて遅れるため、7月と1月は資金繰りで最優先に確保してください。
納期の特例を使う前に、次の7項目を確認してください。
- 給与を払う人(役員・パート・専従者を含む)が常時10人未満である
- 7月・1月の残高が、半年分の源泉所得税とその月の家賃・給与を上回る見込みがある
- 申請書を出した月と、特例が始まる給与の支払月を確認した
- 講師料・デザイン料・モデル料など、特例の対象外の源泉所得税を毎月納める流れを作った
- 手元の納付書が「納期特例分」の様式か確認した
- 毎月の給与日に半年分の6分の1を納税用の口座に移すことにした
- 1月20日までに年末調整を終え、税額が0円の期間も納付書を出すことを確認した
よくある質問
スタッフ2人の美容室でも納期の特例は使えますか?
使えます。給与の支払を受ける人が常時10人未満なら対象です。人数には正社員のほか、パート・アルバイト、役員、青色事業専従者も含めて数えます。
申請書を出したら、すぐに年2回の納付になりますか?
申請した月の翌月に支払う給与の分から特例が適用されます。申請した月に支払った給与の源泉所得税は、原則どおり翌月10日までに納めます。
税理士への顧問料から天引きした源泉所得税も7月と1月にまとめられますか?
まとめられます。税理士、社会保険労務士、司法書士、弁護士などの報酬から天引きした源泉所得税は特例の対象です。講習の講師料やデザイン料などは対象外で、翌月10日までに納めます。
夏や冬の賞与から天引きした源泉所得税も特例でまとめられますか?
まとめられます。賞与は給与等に含まれるため、6月に払った賞与なら7月10日、12月に払った賞与なら翌年1月20日の納付に入ります。納付書では、給与と賞与の欄を分けて人員・支給額・税額を書きます。
源泉所得税がゼロの期間も手続きは必要ですか?
必要です。税額が0円でも、所得税徴収高計算書(納付書)に支給人員や支給額を書いて税務署に提出します。e-Taxで送信することもできます。
2027年から防衛特別所得税が始まると、天引きする額は増えますか?
源泉徴収の合計の割合は変わりません。所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額を令和9年分の源泉徴収税額表で計算し、1枚の納付書で納めます。給与ソフトの税額表が2027年分に更新されているかは確認してください。
出典:所得税法第183条・第204条・第216条・第217条(e-Gov法令検索「所得税法」)、国税通則法第67条(e-Gov法令検索「国税通則法」)、国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」(国税庁)、国税庁「No.2507 復興特別所得税の源泉徴収」(国税庁)、国税庁「No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金」(国税庁)、国税庁「No.9205 延滞税について」(国税庁)。
スタッフを雇っていて特例をまだ使っていないなら、判断表で使うと決めた店は11月中に申請書を税務署に出し、12月支払の給与から年2回の納付に切り替えることから始めてください。給与計算や納付を税理士に任せるかどうかは美容室に税理士は必要かで判断できます。
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