病院・介護施設の中に美容室を開設する|常設か訪問かの判断表・採算の計算・施設との覚書と確認シート

病院や介護施設の中に常設の美容室を設けるときは、施設内の一室でも美容所として開設届を出し、構造設備の検査で確認を受けてから営業します(美容師法第11条・第12条)。病室や居室に出向く施術は、病気などで美容所に来られない人への施術など美容師法施行令第4条と条例で認められる場合に限られるため、利用者数から常設・訪問・併用のどれにするかを決め、施設との覚書で集金・休止・事故の扱いを書面にします。

常設・訪問・併用の判断表、入居者80人の施設をモデルにした月の人数と1日の手残りの計算、施設と交わす覚書の条文例、施術前に職員に聞く確認シート、現場でつまずく点を、施設に美容室を出す側の立場でまとめます(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:病院・介護施設の中に美容室を開設するときの早見表

施設内に美容室を出すときに決めることは、常設か訪問か、施設との契約の形、料金の受け取り方、施術時の安全と同意の4つです。

項目 目安・ルール 根拠・理由
常設の施設内美容室 美容所として開設届を出し、検査で確認を受けてから使う 美容師法第11条・第12条
構造設備の基準 作業室の面積、消毒設備、照明・換気は通常の美容所と同じ考え方 同法第13条と条例(例:東京都は作業室13㎡以上)
管理美容師 美容師が常時2人以上いる美容所は、管理美容師を置く 同法第12条の3
病室・居室での施術 病気などで美容所に来られない人には、美容所以外で施術できる 同法第7条ただし書、同法施行令第4条第1号
社会福祉施設の入所者 条例で美容所以外での施術を認めている自治体がある 同法施行令第4条第3号(例:東京都)
料金 利用者の自己負担。現金、施設経由のまとめ請求、家族への請求など 理美容は医療・介護保険の給付の対象外
器具の衛生 皮膚に接する器具は客1人ごとに消毒、布片は1人ごとに取り替える 同法第8条

施設や自宅へ出向く訪問美容の始め方そのものは訪問美容(出張美容)の始め方で解説しています。この記事は、施設の中に固定の美容室を置く場合を中心に扱います。

常設・訪問・併用のどれにするか — 施設の状況別の判断表

施設内美容室とは、病院や介護施設の一室を美容所として届け出て、決まった場所で営業する美容室のことで、通常の美容所と同じ扱いです。訪問は美容所以外での施術を例外として行うもので、施術できる相手が限られます。施設から利用者数と候補の部屋の図面をもらい、次の表で形を決めます。

施設の状況 選ぶ形 理由・確かめること
月の見込み人数が「1日の受け入れ人数×4日」以上あり、部屋が面積・給排水の基準を満たす 常設(週1日以上の営業) 次の試算で1日の手残りを確かめる
見込みが月4日分に満たない、または部屋が基準を満たさない 訪問 施術できるのは病気などで美容所に来られない人や、条例で認められる場合に限られる
常設の利用者は多いが、寝たきりや感染対策で部屋から出られない人もいる 併用(常設+その人だけ居室で) 居室での施術は美容所に来られない人に限るため、理由を予約表に残す
職員や面会者にも使ってもらいたい 常設 訪問では例外に当たる人以外に施術できない
公立病院など自治体の施設 施設の募集要項に合わせる 行政財産の使用許可(地方自治法第238条の4第7項)や公募になることがある
美容師2人以上で常時営業する 常設+管理美容師 美容師免許の取得後3年以上の実務と講習の修了が要件

採算は合うか — 月の人数と1日の手残りを計算する

常設の採算は「月の人数×平均単価×(1−手数料率−材料費率)−設備の月割り−交通費」で出し、1営業日あたりの手残りを、自店で働いた場合の1日の手残りと比べて決めます。

試算の前提(仮定):介護付きの施設で入居者80人。施設のアンケートで理美容を希望する人が40人、平均2か月に1回利用。メニューはカット3,000円が7割、カラー+カット5,000円が3割で、平均単価3,600円。在室時間は移乗と休憩を含めてカット45分、カラー+カット90分で、平均約60分。施設への手数料は売上の10%、材料費は8%、常設の設備(セット椅子・シャンプー台・消毒設備)の初期費用は60万〜120万円、交通費は1日1,000円。

計算する項目 計算式 モデルの結果
月の見込み人数 希望者数×年間の利用回数÷12か月 40人×6回÷12=20人
1日に受けられる人数 1日の施術時間÷平均在室時間 10〜16時の昼休み1時間を除く300分÷60分=5人
必要な営業日数 月の人数÷1日の人数 20÷5=4日(週1日)
月の売上 人数×平均単価 20人×3,600円=72,000円
手数料と材料費を引いた額 売上×(1−10%−8%) 59,040円
設備の月割り 初期費用÷60か月 1万〜2万円
1営業日あたりの手残り (59,040−設備の月割り−交通費4,000円)÷4日 約8,800〜11,300円

この約8,800〜11,300円を、自店で1日働いた場合の手残りと比べます。下回る場合は、職員や面会者も受け付けて人数を増やす、近くの複数の施設を同じ曜日に回す、設備を施設に負担してもらう、料金を見直す、のどれで差を埋めるかを施設と話し合います。高齢のお客様の集客の考え方はシニア客の集客にまとめています。

開設届と構造設備は何が必要か — 施設の一室でも基準は同じ

施設内の一室でも、管轄の保健所に開設届を出し、構造設備の検査で確認を受けるまで使えません(美容師法第12条)。施設の建物だからといって基準が緩くなるわけではありません。

  1. 作業室の面積:東京都では13㎡以上が必要で、13㎡なら美容いすは6台までです。小さな空き部屋は内法の寸法で足りるかを先に測ります。
  2. 消毒設備と器具の置き場:消毒済みと未消毒の器具を分けて保管できる設備を置きます。
  3. 洗髪と給湯:シャンプー台を置くなら給排水と給湯の工事が要ります。施設の配管を使えるかと、工事費をどちらが持つかを決めます。
  4. 照明と換気:作業面の照度100ルクス以上、室内の炭酸ガスを空気1リットルあたり5立方センチメートル以下に保ちます(美容師法施行規則第27条)。窓のない部屋は換気設備を確かめます。
  5. 車椅子での利用:入口の幅、段差、セット面の前に車椅子が入る空間を確保します。

開設届と検査の流れは保健所の検査と基準で確認できます。施設内の一室の扱いや福祉施設での特例の有無は自治体で差があるため、図面ができた段階で保健所に事前相談します。施設の運営会議や改修の日程に合わせるため、開設予定日から逆算して進めます。

開設予定日から逆算した時期 やること
3か月前 施設と形・営業日・手数料を合意し、候補の部屋の図面で保健所に事前相談する
2か月前 覚書を交わし、給排水・電気・照明の工事を発注する。工期は施設の利用者の動線と騒音に配慮して決める
1か月前 工事を終え、保健所が指定する時期に開設届を出す。賠償責任保険の補償範囲を確かめる
2週間前 構造設備の検査を受ける。施設のお便りと掲示でメニューと税込料金を案内し、予約を受け付ける

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施設とはどんな契約を結ぶか — 3つの形と覚書の条文例

契約は、場所を借りる賃貸借、施設から任される業務委託、場所の提供を受けて利用者と直接取引する業務提携の3つが基本で、誰が料金を受け取り、事故のときに誰が責任を持つかが形で変わります。

契約の形 お金の流れ 向く場面
賃貸借(場所を借りる) 美容室が利用者から受け取り、施設に賃料を払う 利用者が多く、職員や地域の人も受け付けたい
業務委託(施設から任される) 施設が利用者から集め、美容室に委託料を払う 施設がサービスとして理美容を用意したい
業務提携(場所の提供) 美容室が受け取り、施設には手数料を払うか無償 週1回など決まった日だけ営業する

覚書の条文例(業務提携・施設がまとめて請求する場合)

  • 第1条(使用場所)施設は、入居者等への理美容サービスの提供のため、2階の多目的室(以下「本室」)を美容室に使用させる。
  • 第2条(営業日)毎週水曜日の10時から16時とする。施設の行事等で変更するときは、2週間前までに協議する。
  • 第3条(対象者)入居者、職員及び面会者とする。居室での施術は、疾病等により本室に来ることができない入居者に限る。
  • 第4条(料金と集金)料金は別紙の料金表による。施設は毎月末締めで入居者の利用料とあわせて請求し、翌月20日までに美容室に支払う。施設の事務手数料は売上の10%とする。
  • 第5条(施術前の確認)美容室は施術前に職員から当日の体調と注意事項を聞き、職員が見合わせを求めたときは従う。車椅子からの移乗は職員が行う。
  • 第6条(事故)施術による事故は美容室が加入する賠償責任保険で対応し、施設と美容室は速やかに情報を共有する。
  • 第7条(感染症等による休止)施設が外部事業者の出入りを制限したときは営業を休止し、休止期間中の手数料その他の費用は生じない。
  • 第8条(設備)シャンプー台等の設備は美容室が設置し、終了時に撤去する。給排水の工事費は施設が負担する。
  • 第9条(個人情報)美容室は施術に必要な範囲で入居者の情報を受け取り、施設の規程に従って管理する。
  • 第10条(期間)期間は1年とし、いずれかが3か月前までに申し出ない限り、同じ条件で1年更新する。

公立病院など自治体の施設では、使用料や期間、選定の条件を施設が定めるため、条文は募集要項に合わせます。

施術の前に何を確かめるか — 職員に聞く確認シート

病院や介護施設の利用者は体調が変わりやすく、意思を伝えにくい人もいるため、毎回同じシートで本人の意思と体調、職員からの注意事項を確かめてから始めます。病院では、看護師に施術してよいかを確かめます。

施術前の確認シート(1人ごと・当日記入)

  • 本人の希望と、家族の希望(料金を家族が払う場合は事前の了承の有無)
  • 当日の体温と体調、職員・看護師の施術の可否
  • 点滴・カテーテル・医療機器の有無と、触れてはいけない部位
  • 姿勢の制限:首を後ろに倒せるか、座っていられる時間、車椅子のまま施術するか
  • 皮膚の状態とアレルギー、カラー剤・パーマ剤を使ってよいか(パッチテストの結果)
  • 補聴器・眼鏡の扱いと、声のかけ方の注意
  • 食事・入浴・リハビリ・回診の時間との重なり
  • 施術後に職員へ伝えること(皮膚の異常、疲れの様子など)

施術中は短時間で終えることを優先し、顔色や呼吸の変化を見て、異変があれば中断して職員を呼びます。皮膚に接する器具は1人ごとに消毒し、タオルやケープも1人ごとに取り替えます。消毒の基本は衛生管理と器具消毒の運用で確認できます。

施設内美容室で実際につまずく6つの点 — 起きる場面と防ぎ方

つまずくのは、届出の名義、施術できる相手の範囲、施設の日課、お金の記録の4つに集中します。

  1. 開設者を決めないまま届出を準備する:業務委託では、施設と美容室のどちらが開設者になるかで届出の名義と責任が変わります。契約の形を決めた段階で、開設者と管理美容師の要否を保健所に相談します。
  2. 常設があるのに居室で施術する:美容所以外での施術は、病気などで美容所に来られない人などに限られます。居室で施術する人は理由を職員に確かめ、予約表に残します。
  3. 施設の日課と予約がぶつかる:入浴・食事・リハビリ・回診と重なると当日のキャンセルが続きます。施設の日課表をもらい、それを避けて予約枠を作ります。
  4. 預り金からの支払いの記録が合わない:施設が入居者の預り金から払う場合、施設の規程と記録の方法に合わせる必要があります。月末に利用者別の明細を施設に渡し、領収書の宛名を決めておきます。
  5. 休止中も費用だけかかる:感染症の流行で出入りが止まっても、賃料や設備のリース料は続きます。覚書に休止中の使用料・手数料の扱いを書きます。
  6. 家族の希望と違う髪型になる:本人の意思を確かめにくいと、後から家族に驚かれることがあります。予約時に家族の希望を連絡帳や書面で聞き、施術内容を記録して職員と共有します。

施設内での施術や移乗中の事故が補償されるかは、保険会社に確かめます。保険の選び方は開業で入るべき保険で確認できます。

施設内に美容室を開設する前に、次の8項目を確認してください。

  • 利用者数と希望者数から月の人数を出し、常設・訪問・併用を決めた
  • 1営業日あたりの手残りを、自店で働く場合と比べた
  • 候補の部屋の面積と設備が条例の基準を満たすか、保健所に事前相談した
  • 開設者と管理美容師の要否を決めた
  • 契約の形と、料金を誰が受け取るか、手数料と集金の日程を覚書にした
  • 感染症などで休止するときの費用の扱いを覚書に入れた
  • 施術前の確認シートと、居室で施術する理由の記録方法を決めた
  • 施設内での施術と移乗中の事故が賠償責任保険の対象か確認した

よくある質問

施設の一室で月に数回だけ営業する場合も開設届は必要ですか?

同じ部屋を美容室として定期的に使うなら、美容所としての開設届と検査が必要になるのが原則です。一方、病気などで美容所に来られない入所者に出向いて施術する形なら、訪問として扱われる場合があります。どちらに当たるかは自治体の判断になるため、管轄の保健所に確認してください。

病院の職員や面会者も施設内美容室で施術してよいですか?

美容所として届け出た施設内美容室であれば、施設が認める範囲で職員や面会者も受け付けられます。訪問として施術している場合は、例外に当たる人以外への施術はできません。受け付ける範囲は覚書で決めておきます。

理美容の料金に介護保険は使えますか?

使えません。理美容は介護保険の給付の対象外のサービスで、料金は利用者の自己負担です。施設が利用料とまとめて請求する場合も、理美容代を分けて明細に示します。

寝たきりの方の施術はどのように行いますか?

ベッドの上で施術する場合は、病気などで美容所に来られない人への美容所以外での施術に当たります。体位を変えてよいか、どの時間帯なら負担が少ないかを職員に確認し、洗髪は本人の負担が少ない方法を選びます。

施設内美容室の手数料や賃料はどのくらいが目安ですか?

決まった相場はなく、施設の方針で大きく異なります。利用者へのサービスとして無償や低額で場所を提供する施設もあります。月の人数と平均単価から1日の手残りを計算し、払える上限を出してから交渉します。

出典:美容師法第7条・第8条・第11条・第12条・第12条の3・第13条(e-Gov法令検索「美容師法」)、美容師法施行令第4条(e-Gov法令検索「美容師法施行令」)、美容師法施行規則第27条(e-Gov法令検索「美容師法施行規則」)、地方自治法第238条の4(e-Gov法令検索「地方自治法」)、東京都保健医療局「美容所に関するよくある質問」(東京都保健医療局)。試算の数字は記事内の仮定です。構造設備の基準と美容所以外で施術できる場合の範囲は自治体の条例で異なるため、管轄の保健所に確認してください。

次にやることは、施設から利用者数・希望者数・候補の部屋の図面をもらい、月の人数と1日の手残りを計算してから保健所に相談することです。高齢のお客様への配慮の仕方は合理的配慮の対応例も参考になります。

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この記事を書いた人

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