歩合給がある美容師の残業代は、固定給の部分を「固定給÷月平均所定労働時間×1.25×時間外の時間」、歩合給の部分を「歩合給÷その月の総労働時間×0.25×時間外の時間」で別々に計算して合計します(労働基準法第37条、同法施行規則第19条)。歩合給の部分が0.25倍でよいのは残業した時間の1.0倍分がすでに歩合給に含まれているためで、歩合給だけで働く雇用の美容師にもこの割増は必要です。
給与の形ごとに使う式の判断表、固定給20万円+歩合8万円の計算手順、スタイリスト3人の店での試算と最低賃金の確認、指名料・店販手当の区分、計算でつまずく点、そのまま使える計算表と規程の条文を整理します(2026年10月時点の情報です)。固定残業代と変形労働時間制の設計そのものは扱いません。
結論:歩合給がある美容師の残業代の早見表
歩合給がある美容師の残業代は、固定給と歩合給を分け、それぞれの単価と割増率で計算するのが基本です。計算のルールを先に一覧にします。
| 項目 | 計算・ルール | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 固定給の部分 | 固定給÷月平均所定労働時間×1.25×時間外の時間 | 労働基準法第37条、同法施行規則第19条第1項第4号 |
| 歩合給の部分 | 歩合給÷その月の総労働時間×0.25×時間外の時間 | 同法施行規則第19条第1項第6号。1.0倍分は歩合給に含まれている |
| 割増の基礎に入れる賃金 | 指名料・店販手当などの出来高、技術手当・役職手当・皆勤手当などの定額の手当 | 名前ではなく、払い方の実態で判断する |
| 除いてよい賃金 | 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時の賃金、1か月を超える期間ごとの賃金 | 労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条 |
| 深夜(22時〜翌5時)・法定休日 | 深夜は0.25を加算、法定休日は固定給1.35・歩合給0.35 | 労働基準法第37条、割増賃金令 |
| 月60時間を超える時間外 | 固定給1.5、歩合給0.5 | 中小企業にも2023年4月から適用 |
| 完全歩合 | 歩合給÷総労働時間×0.25×時間外の時間。保障給と最低賃金も確認する | 労働基準法第27条、最低賃金法 |
| 時間外になる時間 | 1日8時間・週40時間を超えた時間(常時10人未満の美容室は週44時間の特例) | 労働基準法第32条、同法施行規則第25条の2 |
どの時間が労働時間になるかは、残業代の計算より先に決める必要があります。営業前後の練習やミーティングの扱いは美容室の練習時間は労働時間かで整理しています。
時間外労働とは — 1日8時間・週40時間を超えた時間で、歩合給は0.25倍だけを足す
割増賃金が必要な時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた時間のことです。常時10人未満で営業する美容室は特例措置対象事業場として週44時間になりますが、1日8時間を超えた分は時間外です。所定7時間の店で1時間残業しても法定の8時間に収まれば割増は要らず、通常の賃金だけを払います。
固定給は所定労働時間に対する賃金なので、残業した時間には1.0倍と割増0.25倍を合わせた1.25倍を払います。歩合給は残業した時間も含めた総労働時間の成果に対する賃金なので、1.0倍分は払い済みと考え、0.25倍だけを追加します。固定給の単価に使う月平均所定労働時間は「(365日−年間休日)×1日の所定労働時間÷12」で、年間休日110日・1日8時間なら170時間です。歩合給の単価は時間外を含む総労働時間で割るため、残業が多い月ほど単価は下がります。
給与の形ごとに使う式 — 固定給のみ・固定+歩合・完全歩合の判断表
使う式は、給与が固定給だけか、歩合給を含むか、固定残業代があるかで決まります。店のスタッフを給与の形ごとに分け、次の表のどの行に当たるかを先に決めてください。
| 給与の形 | 使う式 | あわせて確認すること |
|---|---|---|
| 固定給のみ(アシスタントなど) | 固定給÷月平均所定労働時間×1.25×時間外 | 練習・片付けの時間が勤怠に入っているか |
| 固定給+歩合給(スタイリスト) | 固定給の部分(1.25倍)+歩合給の部分(0.25倍) | 歩合給の集計期間と勤怠の締め期間が同じか |
| 完全歩合(雇用) | 歩合給÷総労働時間×0.25×時間外 | 歩合給÷総労働時間が最低賃金以上か。足りなければ差額を払う |
| 固定給+固定残業代+歩合給 | 実際の時間外で上の2つの式を計算し、固定残業代を超えた分を追加で払う | 固定残業代は割増の基礎から除く。時間数と金額が明示されているか |
| 時給制のパート+指名料 | 時給×1.25×時間外+指名料÷総労働時間×0.25×時間外 | 1日8時間を超えた日だけでなく、週40時間(特例44時間)の超過も数える |
| 1か月単位の変形労働時間制 | 単価と率は同じ。時間外は日・週・期間の3段階で判定する | シフトで決めた時間を超えた日を拾えているか |
固定残業代が有効になる条件と、超えた分の払い方は美容室の固定残業代の正しい設定で、日によって労働時間を変える店の時間外の数え方は美容室の変形労働時間制で説明しています。
計算例 — 固定給20万円+歩合8万円、残業20時間なら31,500円
次の前提で計算すると、その月の残業代は31,500円です。試算の前提(仮定):基本給180,000円と技術手当20,000円の固定給200,000円、指名料と店販手当を含む歩合給80,000円、通勤手当10,000円(距離に応じた支給)、月平均所定労働時間170時間、その月の総労働時間190時間(うち時間外20時間)、深夜・休日の労働なし。1円未満は四捨五入します。
-
固定給の1時間単価を出す
200,000円÷170時間=1,176.47円→1,176円。通勤手当は割増の基礎から除きます。
-
固定給部分の残業代を出す
1,176円×1.25=1,470円。1,470円×20時間=29,400円。
-
歩合給の1時間単価を出す
80,000円÷190時間=421.05円→421円。分母は所定労働時間ではなく、時間外を含む総労働時間です。
-
歩合給部分の残業代を出して合計する
421円×0.25=105.25円→105円。105円×20時間=2,100円。29,400円+2,100円=31,500円がその月の残業代です。
| 計算のしかた | 残業代 | 評価 |
|---|---|---|
| 固定給1.25倍+歩合給0.25倍(正しい計算) | 31,500円 | 法律どおり |
| 固定給だけで計算し、歩合給の部分を計算しない | 29,400円 | 月2,100円の不足で法律違反 |
| 歩合給も固定給と同じく所定労働時間で割って1.25倍にする | 41,180円 | 法律より多く払っている |
歩合給の部分を計算していない店は、この例では1人あたり月2,100円、1年で25,200円が不足します。賃金の請求権の時効は当分の間3年のため、同じ条件が3年続いていれば1人あたり75,600円をさかのぼって払うことになります(この前提での試算)。
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スタイリスト3人の店で試算 — 歩合の大きさと完全歩合で残業代はこう変わる
同じ店でも、固定給と歩合給の割合と残業時間で残業代は大きく変わり、完全歩合の人は売上が落ちた月に最低賃金を下回ることがあります。3人の1か月分を同じ式で計算します。
試算の前提(仮定):月平均所定労働時間170時間、深夜・休日の労働なし、東京都の店(最低賃金は2026年10月1日から時給1,280円)。Sさんは固定給220,000円+歩合給120,000円、総労働200時間・時間外30時間。Tさんは基本給180,000円+指名手当(毎月定額)10,000円+歩合給40,000円、総労働186時間・時間外16時間。Uさんは完全歩合で歩合給300,000円、総労働210時間・時間外40時間。
| スタッフ | 固定給の部分 | 歩合給の部分 | 残業代の合計 |
|---|---|---|---|
| Sさん(固定+歩合が大きい) | 220,000÷170=1,294円、×1.25=1,618円、×30時間=48,540円 | 120,000÷200=600円、×0.25=150円、×30時間=4,500円 | 53,040円 |
| Tさん(固定+定額の指名手当+歩合) | 190,000÷170=1,118円、×1.25=1,398円、×16時間=22,368円 | 40,000÷186=215円、×0.25=54円、×16時間=864円 | 23,232円 |
| Uさん(完全歩合) | なし | 300,000÷210=1,429円、×0.25=357円、×40時間=14,280円 | 14,280円 |
Tさんの指名手当は指名数に関係なく毎月定額なので、固定給の部分に入れて1.25倍で計算します。Uさんは歩合給を総労働時間で割った1,429円が最低賃金の1,280円を上回っていますが、売上が落ちて歩合給240,000円・総労働200時間の月なら1時間あたり1,200円となり、(1,280円−1,200円)×200時間=16,000円の不足を払う必要があります(割増賃金と通勤手当などは最低賃金の比較から除きます)。完全歩合の保障給の決め方は美容師の歩合給と最低賃金で、2026年度の改定への対応は美容室の最低賃金引き上げへの対応で扱っています。
指名料・店販手当・各種手当の扱い — 出来高なら0.25倍、定額なら1.25倍
指名料や店販手当のように件数や売上に応じて額が変わるものは歩合給の部分(0.25倍)、毎月決まった額を払う手当は固定給の部分(1.25倍)で計算します。家族手当・通勤手当・住宅手当は、人ごとの事情に応じて額が決まる払い方のときだけ割増の基礎から除けます。
| 賃金・手当 | 払い方の例 | 計算の区分 |
|---|---|---|
| 指名料 | 指名1件につき500円 | 歩合給(0.25倍) |
| 指名手当 | 指名数に関係なく毎月10,000円 | 固定給(1.25倍) |
| 店販手当 | 店販売上の10% | 歩合給(0.25倍) |
| 技術手当・役職手当・資格手当 | 毎月定額 | 固定給(1.25倍) |
| 皆勤手当 | 毎月定額(欠勤があれば不支給) | 固定給(除けない) |
| 通勤手当・住宅手当・家族手当 | 距離・家賃・扶養人数に応じて支給 | 除ける。全員一律の額で払う場合は除けない |
| 賞与・寸志・年1回の売上報奨金 | 1か月を超える期間ごとに支給 | 除ける |
売上の一定割合から残業手当の額を差し引いて歩合給を計算する仕組みについて、最高裁(令和2年3月30日第一小法廷判決)は、労働基準法第37条の割増賃金を払ったことにならないと判断しました。残業が増えるほど歩合給が減る設計は、残業代を払っていないのと同じ扱いになるおそれがあります。
指名料の金額と配分の決め方は美容室の指名料の設定で扱っています。
計算でつまずく点 — 締め日のずれ・ソフトの設定・端数処理
歩合給の残業代の誤りは、式を知らないことより、集計期間や給与計算ソフトの設定のずれから起きます。次の6つは、毎月の計算の前に防ぎ方を決めておきます。
- 歩合の集計期間と勤怠の締め日がずれている:売上は1日〜末日、勤怠は21日〜20日のように期間が違うと、歩合給を割る総労働時間が別の期間の数字になります。防ぎ方:歩合給を計算した期間と同じ期間の総労働時間で割るか、売上の締めを勤怠の締めにそろえます。
- ソフトで歩合給の項目の設定が違う:歩合給を「手当」として登録すると1.25倍で計算されて払い過ぎ、「割増の対象外」にすると不足します。防ぎ方:指名料・店販手当・歩合給の各項目が「出来高(0.25倍)」として計算されるかを、上の計算例の数字を入れて試します。
- 毎日の残業を15分単位で切り捨てている:認められるのは、1か月の時間外の合計で30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理です。防ぎ方:勤怠は1分単位で記録し、端数処理は月の合計にだけかけます。
- 月平均所定労働時間を毎年見直していない:年間休日が110日から105日に減ると(365−105)×8÷12=173.3時間になり、単価が変わります。防ぎ方:年間カレンダーを決めた月に単価を計算し直します。
- 週44時間の特例を10人以上の店で使っている:特例は常時10人未満の事業場だけで、人数にはパート・アルバイトも数えます。防ぎ方:採用で10人に届いた月から週40時間で判定します。
- 法定休日と所定休日を区別していない:週休2日の店で休みの日に1日出勤させても、その週に1日の休日があれば1.35倍ではなく、週40時間(特例44時間)を超えた分が時間外の1.25倍です。防ぎ方:就業規則で法定休日の曜日を決めておきます。
そのまま使える計算表と規程の条文 — 列の並びと式
表計算ソフトで次の列を作れば、固定給・歩合給・60時間超・深夜・休日の割増を1行で計算できます。規程には、歩合給の部分の計算方法と集計期間を書いておきます。
残業代の計算表(1人1行、1か月分)
- A列:固定給(基本給+技術手当・役職手当・定額の指名手当・皆勤手当など)
- B列:歩合給(指名料・店販手当・技術歩合など、その期間の出来高で決まる額)
- C列:月平均所定労働時間((365−年間休日)×1日の所定労働時間÷12)
- D列:その期間の総労働時間(Bを計算した期間と同じ期間)
- E列:時間外(60時間まで)、F列:60時間を超えた時間外、G列:深夜(22時〜翌5時)の時間すべて、H列:法定休日の労働時間
- 固定給の単価=A÷C、歩合給の単価=B÷D(それぞれ1円未満を四捨五入)
- 残業代=固定給の単価×(1.25×E+1.5×F+0.25×G+1.35×H)+歩合給の単価×(0.25×E+0.5×F+0.25×G+0.35×H)
- 最低賃金の確認:A(皆勤手当などを除く)÷C+B÷D が地域別最低賃金以上か
賃金規程の条文例(歩合給がある者の割増賃金)
- 第30条 時間外労働の割増賃金は、次の各号の合計額とする。
- 1 固定給部分:(基本給+技術手当+役職手当+指名手当)÷1か月平均所定労働時間×1.25×時間外労働時間数
- 2 歩合給部分:歩合給(指名料・店販手当を含む)÷当該賃金計算期間の総労働時間数×0.25×時間外労働時間数
- 3 1か月の時間外労働が60時間を超えた時間については、前2号の1.25を1.5に、0.25を0.5に読み替える。
- 4 歩合給の計算期間は、勤怠の締め期間(毎月21日から翌月20日まで)と同じとする。
- 5 歩合給には時間外・休日・深夜の割増賃金を含まない。
計算表のD〜H列は、勤怠アプリの月次集計から転記します。1日ごとの打刻を1分単位で残しておけば、深夜や法定休日の時間もそのまま拾えます。
歩合給がある美容師の残業代を計算する前に、次の8項目を確認してください。
- 始業・終業の時刻を毎日1分単位で記録している
- 営業前後の練習やミーティングのうち、労働時間に当たるものを含めている
- 固定給と歩合給を分けて集計している
- 指名料・店販手当を、1件ごと・売上比例なら歩合給、定額なら固定給に分けている
- 歩合給の集計期間と勤怠の締め期間が同じになっている
- 給与計算ソフトで歩合給の項目が0.25倍で計算されることを試算で確かめた
- 60時間超・深夜・法定休日の時間を分けて数えている
- 歩合給を総労働時間で割った額が最低賃金を下回っていない
よくある質問
歩合給だけで働く美容師にも残業代は必要ですか?
雇用している美容師なら必要です。歩合給をその月の総労働時間で割った単価に0.25をかけ、時間外の時間数をかけて計算します。あわせて、労働時間に応じた保障給と最低賃金も確認します。
指名料は残業代の計算に入れますか?
入れます。指名1件ごとに払う指名料は歩合給の部分として0.25倍で、指名数に関係なく毎月定額で払う指名手当は固定給の部分として1.25倍で計算します。
歩合給の部分はなぜ0.25倍でよいのですか?
歩合給は、残業した時間も含めて働いた時間全体の成果に対して払う賃金だからです。残業した時間の通常の賃金(1.0倍分)はすでに歩合給に含まれているため、割増の0.25倍分だけを追加します。
閉店後の練習時間も残業代の対象になりますか?
店が指示した練習や、参加しないと不利益がある練習は労働時間に当たり、1日8時間を超えれば時間外として割増が必要です。本人が自由に参加・不参加を決められる自主練習は、労働時間に当たらないことがあります。
業務委託の美容師にも残業代は必要ですか?
雇用契約でなければ労働基準法の残業代は必要ありません。ただし、出勤時間や施術の方法を店が指示しているなど働き方の実態が雇用と判断されると、残業代をさかのぼって請求されることがあります。
これまで歩合給の部分の割増を払っていなかった場合はどうすればよいですか?
勤怠記録と給与の記録が残っている期間について不足額を計算し、本人に計算の内容を説明したうえで支払います。賃金の請求権の時効は当分の間3年のため、少なくともその範囲は確認し、翌月の給与から正しい計算に切り替えます。
出典:労働基準法第27条・第32条・第37条(e-Gov法令検索「労働基準法」)、労働基準法施行規則第19条・第21条・第25条の2(e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)、厚生労働省「時間外・休日労働と割増賃金」「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」、東京労働局「東京都最低賃金は10月1日から時間額1,280円になります」、徳島労働局の特例措置対象事業場の案内(徳島労働局)、最高裁判所第一小法廷令和2年3月30日判決。個別の計算は社会保険労務士、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに確認してください。
まずは先月の給与で、スタッフごとに上の計算表の1行を埋め、実際に払った残業代と比べることから始めてください。給与明細を作る月次の手順は美容室の給与計算のやり方で確認できます。
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