美容室は健康増進法の「第二種施設」(多数の者が利用する施設のうち、学校・病院などの第一種施設と喫煙目的施設以外)に当たるため、2020年4月1日から屋内は原則禁煙で、屋内で吸えるのは技術的基準を満たした喫煙専用室(加熱式たばこは当分の間、加熱式たばこ専用喫煙室も可)だけです。スタッフの喫煙は場所・時間・吸った後のにおい対策を就業規則で決め、店の前など屋外で吸うときも周囲への配慮義務(同法第27条)があるため、喫煙場所と近隣・お客様への配慮をセットで決めます。
全面禁煙か喫煙専用室かの判断表、喫煙専用室に必要な排気量とスタッフの喫煙時間の試算、就業規則の条文例・店頭の掲示文・求人票の書き方・お客様への声かけ、現場でつまずく点を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:美容室の受動喫煙対策の早見表
美容室の受動喫煙対策は、屋内は禁煙、スタッフの喫煙は場所と時間をルール化、屋外も周囲に配慮の3点で整理できます。
| 項目 | ルール・目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 施設の区分 | 第二種施設 | 健康増進法第28条第6号 |
| 店内 | 原則禁煙。喫煙禁止場所で吸ってはいけない | 同法第29条第1項第2号(2020年4月1日全面施行) |
| 屋内で吸える場所 | 技術的基準を満たした喫煙専用室だけ(加熱式たばこは当分の間、専用喫煙室も可) | 同法第33条、同法施行規則第16条、平成30年改正法附則第3条 |
| 標識と年齢 | 喫煙室の出入口と店の主な出入口に標識。20歳未満は喫煙室に立ち入らせない | 同法第33条 |
| 灰皿 | 喫煙禁止場所に灰皿などを置かない | 同法第30条第1項 |
| 店の前・屋外 | 屋内禁煙の対象外だが、周囲に配慮する義務がある | 同法第27条、自治体の路上喫煙に関する条例 |
| スタッフの受動喫煙 | 事業者が防止の措置をとるよう努める。求人では受動喫煙対策を明示する | 労働安全衛生法第68条の2、職業安定法施行規則(2020年4月から) |
美容室が禁煙になる理由 — 健康増進法の第二種施設だから
受動喫煙とは、人が他人の喫煙によりたばこから発生した煙にさらされることをいいます(健康増進法第28条第3号)。2018年の改正で、多くの人が利用する施設は種類ごとに喫煙のルールが決まり、2020年4月1日に全面施行されました。
- 第二種施設に当たる:多数の者が利用する施設のうち、学校・病院などの第一種施設と喫煙目的施設以外の施設で、美容室、飲食店、事務所、商店などが当たります。屋内は原則禁煙です。
- 加熱式たばこも対象:法律の「喫煙」は、たばこを燃やすことだけでなく、加熱して煙(蒸気を含む)を出すことも含みます(第28条第2号)。
- 小さな店も対象:自治体の解説では、2人以上の人が利用する施設が対象とされています。スタッフが1人の店でも、お客様が利用する以上は第二種施設です。
- 違反すると過料の対象:都道府県知事など(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)の指導・勧告・命令に従わないと、喫煙禁止場所での喫煙の中止命令に違反した人は30万円以下(第77条)、灰皿の撤去などの命令に違反した管理権原者は50万円以下(第76条)の過料です。
開業時に確認する法律の全体像は美容室の開業に関わる法律一覧で整理しています。
全面禁煙か、喫煙専用室を作るか — 店の状況別の判断表
多くの美容室にとって現実的なのは屋内を全面禁煙にし、スタッフの喫煙は休憩時間に店から離れた場所でとルール化する形です。喫煙専用室は、工事の承諾と基準を満たす排気ができる場合に限って検討します。
| 店の状況 | 選ぶ形 | あわせてやること |
|---|---|---|
| テナントで、排気ダクトや外壁の穴あけに貸主・管理組合の承諾が得られない | 屋内全面禁煙 | 喫煙専用室の標識に似た表示を出さない(第37条) |
| 区画・屋外への排気・出入口の気流(毎秒0.2m以上)を満たす工事ができ、承諾もある | 喫煙専用室を設けてもよい | 標識を2か所に掲示し、20歳未満を立ち入らせない。基準を保つ点検をする |
| 喫煙するのが加熱式たばこだけで、屋内に吸う場所を作りたい | 加熱式たばこ専用喫煙室(当分の間の措置) | 喫煙専用室と同じ技術的基準・標識・20歳未満の立入禁止を満たす。紙巻きたばこは吸えない |
| 入居ビルに管理者が設けた共用の喫煙所がある | 屋内全面禁煙+共用喫煙所の利用 | ビルのルールに従い、休憩時間に限って使う |
| 店の前が住宅・通学路、または路上喫煙の禁止区域 | 屋内全面禁煙+店の周辺では吸わない | 休憩時間に吸う場所を、公共の喫煙所など店から離れた場所に指定する |
| 自宅の一部を店にしている | 店舗部分は禁煙 | 住居部分は屋内禁煙の規定の対象外(第40条)だが、煙やにおいが施術スペースに流れ込まないようにする |
| 喫煙するスタッフを採用する・求人を出す | 求人票に受動喫煙対策を書く | 「屋内禁煙」など就業場所の措置を明示する |
商業ビルの共用部に喫煙所があっても、店の中に灰皿を置いたり、スタッフが店内で吸ったりすることはできません。工事に関わる契約の条項は店舗賃貸借契約で確認する条項で確かめてください。
喫煙専用室の基準と、必要な排気量の試算
喫煙専用室は、健康増進法施行規則第16条の3つの技術的基準を満たし、満たし続けることが条件です。換気扇の故障などで基準を外れると、知事などの勧告や命令の対象になります。
| 技術的基準 | 内容(健康増進法施行規則第16条) |
|---|---|
| 出入口の気流 | 室外から室内に流れ込む空気の気流が、毎秒0.2メートル以上であること |
| 区画 | たばこの煙が室外に流れ出ないよう、壁や天井などで区画されていること |
| 排気 | たばこの煙が屋外または外部に排気されていること |
-
貸主・管理組合の承諾をとる
排気ダクトの工事や外壁への穴あけは、契約や管理規約で承諾が必要なことが多いため、設計の前に書面で確かめます。
-
排気量を計算して設計する
区画・屋外への排気・出入口の気流の3つを満たす設計にします。必要な排気量は下の計算で目安を出します。
-
工事後に気流を測って記録する
出入口で毎秒0.2メートル以上あるかを測り、測った日と数値を残します。
-
標識を2か所に掲示する
喫煙専用室の出入口に、専ら喫煙できる場所であることと20歳未満の立入りが禁止されていることなどを、店の主な出入口に喫煙専用室があることを掲示します。
-
点検の日を決める
換気扇の汚れや故障で気流が落ちると基準を外れるため、月に1回など点検の日を決めて気流を測り直します。
出入口で毎秒0.2メートルの気流を作るには、出入口の面積×0.2メートル×3,600秒の量を1時間に排気する必要があります。前提(仮定)として出入口が幅0.8メートル×高さ1.9メートルなら、面積は1.52平方メートルで、1.52×0.2×3,600=約1,094立方メートル毎時以上の排気が計算上の目安です。幅0.7メートル×高さ1.8メートルに狭めても1.26×0.2×3,600=約907立方メートル毎時が必要です。換気設備はこの量を、ダクトの長さや曲がりを含めた条件で排気できるかを設計者に確かめてもらい、工事後に出入口で実際の気流を測って記録を残します。
厚生労働省の受動喫煙防止対策助成金は、対象となる事業場が既存特定飲食提供施設(健康増進法附則第2条第2項)である必要があるとされているため、美容室の喫煙専用室の工事に使える場面は限られます。使えるかどうかは、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局に確認してください。
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スタッフの喫煙ルール — 勤務中の喫煙時間の試算と就業規則の条文例
スタッフの喫煙は、吸ってよい場所と時間、吸った後のにおい対策を就業規則か店のルールで決めます。休憩時間は自由に利用させるのが原則ですが(労働基準法第34条第3項)、行政解釈では、職場の規律を保つために必要な制限は休憩の目的を損なわない限り差し支えないとされており、吸う場所の指定はこの範囲で決めます。
「施術の合間なら」と勤務中の喫煙を認めると、どれだけの時間が施術から離れるかを計算しておきます。前提(仮定)として、スタッフ4人のうち2人が喫煙し、1回に店から離れた場所への移動と喫煙で10分、手洗い・うがい・上着の着脱で5分の計15分、勤務中に1日2回とすると、2人×2回×15分=1日60分、月22日で22時間です。60分の予約枠に置き換えると月22枠分、時給1,300円で換算すると22時間×1,300円=28,600円分の勤務時間に当たります。喫煙は休憩時間に限るとルールに書く理由を、この数字でスタッフに説明できます。
就業規則(服務規律)の条文例
- 第( )条(喫煙) 従業員は、店舗の屋内(バックヤード、休憩室、トイレ、更衣室を含む)で喫煙してはならない。加熱式たばこも同様とする。
- 2 従業員は、休憩時間以外に喫煙してはならない。
- 3 従業員が屋外で喫煙するときは、会社が指定した場所で行い、店舗の出入口、窓、換気口及び近隣の建物の周辺では喫煙しないこと。制服やエプロンを着用したまま喫煙しないこと。
- 4 喫煙後は、手洗い及びうがいを行ってから業務に戻ること。
- 5 会社は、喫煙しない従業員の休憩場所に、たばこの煙が流れ込まないよう配慮する。
事業者には、室内やそれに準ずる環境での労働者の受動喫煙を防ぐ措置をとるよう努める義務があります(労働安全衛生法第68条の2)。就業規則の作り方と届出は就業規則は必要か、休憩時間の与え方は休憩時間のルールで確認してください。
店頭の掲示とお客様への対応 — そのまま使える文例
お客様には、予約の前と来店時に「全席禁煙」と「店舗周辺での喫煙のお願い」が目に入るようにし、店内で吸おうとした人には中止を求めます。管理権原者などは、喫煙禁止場所で吸おうとする人に中止や退出を求めるよう努めることとされています(健康増進法第30条第2項)。
掲示文・求人票・声かけの文例
- 【入口の掲示】当店は屋内全面禁煙です(加熱式たばこを含みます)。店舗の入口・窓の周辺での喫煙はご遠慮ください。
- 【予約サイト・ホームページ】店内は全席禁煙で、喫煙所はございません。ご理解をお願いいたします。
- 【求人票の受動喫煙対策の欄】屋内禁煙(屋外の指定場所で休憩時間のみ喫煙可)
- 【お客様が店内で吸おうとした】申し訳ありません、店内は法律で禁煙となっているため、おたばこはご遠慮いただいております。
- 【入口の前で吸っているお客様に】お待たせして申し訳ありません。煙が店内に入ってしまうため、入口の前でのおたばこはご遠慮いただけますでしょうか。
- 【においを指摘された】ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。すぐに手を洗って参ります。スタッフの喫煙のルールを見直します。
強い口調で反発された場合の対応はクレーム対応の手順で確認してください。喫煙後の手や服のにおいは、顔の近くで施術する美容室ではお客様が気づきやすいため、条文例の第3項と第4項を守ることが一番の対策になります。
現場でつまずく6つの点 — 防ぎ方まで決めておく
屋内禁煙を決めても、「ここなら屋内ではない」と思われやすい場所と、店の外での吸い方でルールが崩れます。
- 換気扇の下・トイレ・更衣室で吸う:換気扇の下でも屋内は屋内です。バックヤード、休憩室、トイレ、更衣室を就業規則の条文に名前で書きます。
- 裏口・非常階段・ビルの共用廊下で吸う:ビルの共用部は管理規約で喫煙が禁止されていることがあり、煙が店内や他のテナントに入ります。ビルの管理規約で吸える場所を確かめ、指定場所を1か所に決めます。
- 入口の外に灰皿を置いたままにする:灰皿があると、そこで吸ってよいと受け取られ、煙が店内に入ります。入口付近の灰皿は撤去し、開店前と閉店後に吸い殻が落ちていないか確かめます。
- 加熱式たばこは別扱いだと思う:法律の「喫煙」には加熱式たばこも含まれます。条文と掲示の両方に「加熱式たばこを含む」と書きます。
- 店の前で吸って近隣から苦情が来る:店の前が住宅や隣の店舗の入口だと、屋外でも配慮義務の問題になります。路上喫煙の禁止区域かどうかを市区町村のホームページで確かめ、開業時の挨拶で喫煙のルールも伝えます。伝え方は開業時の近隣挨拶にあります。
- 求人票に受動喫煙対策を書き忘れる:2020年4月から、募集の際に就業場所の受動喫煙防止の措置を明示することが求められています。求人サイトの定型文にも「屋内禁煙」を入れておきます。
受動喫煙対策として、次の8項目を確認してください。
- 店内・バックヤード・休憩室・トイレ・更衣室を含め、屋内を禁煙にしている
- 喫煙禁止場所と入口付近に灰皿や喫煙用の器具を置いていない
- 喫煙専用室を作る場合は、技術的基準・標識・20歳未満の立入禁止を満たし、気流を測って記録している
- スタッフの喫煙の場所・時間・服装・吸った後の対応を就業規則に書いている
- 加熱式たばこを紙巻きたばこと同じ扱いにしている
- 入口と予約サイトに、全面禁煙と店舗周辺での喫煙のお願いを掲示している
- 店のある地域の路上喫煙に関する条例を確かめている
- 求人票に就業場所の受動喫煙対策を書いている
よくある質問
スタッフ1人の小さな美容室でも禁煙にしなければいけませんか?
禁煙にする必要があります。自治体の解説では、2人以上の人が利用する施設が第二種施設とされ、お客様が利用する美容室は規模にかかわらず屋内が原則禁煙です。屋内で吸える場所を作るなら、技術的基準を満たした喫煙専用室が必要です。
自宅サロンの場合、住まいの部分なら吸ってもよいですか?
人の居住の用に供する場所は、健康増進法の屋内禁煙の規定が適用されません(第40条)。ただし店舗として使う部分は第二種施設として禁煙で、住まいで吸った煙やにおいが施術スペースに流れ込まないよう配慮が必要です。
加熱式たばこなら店内で吸ってもよいですか?
吸えません。健康増進法の「喫煙」には、たばこを加熱して煙や蒸気を出すことも含まれます。加熱式たばこを屋内で吸えるのは、当分の間認められている加熱式たばこ専用喫煙室を、基準どおりに設けた場合だけです。
スタッフに「休憩中は自由なのに、なぜ吸う場所を決められるのか」と聞かれたら?
休憩時間は自由に利用させるのが原則ですが、職場の規律を保つために必要な制限は、休憩の目的を損なわない限り差し支えないとされています。店内が法律で禁煙であることと、近隣やお客様への配慮が必要なことを理由として伝えます。
喫煙専用室を作ると、助成金は使えますか?
厚生労働省の受動喫煙防止対策助成金は、対象となる事業場が既存特定飲食提供施設である必要があるとされており、美容室で使える場面は限られます。工事の前に、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局に対象になるかを確認してください。
違反するとどうなりますか?
都道府県知事など(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)による指導・助言、勧告、公表、命令の順に進み、命令に違反するなどした場合は過料の対象です。喫煙禁止場所での喫煙の中止命令に違反した人は30万円以下、灰皿などの撤去命令に違反した管理権原者は50万円以下の過料とされています。
出典:健康増進法第27条〜第30条・第33条・第37条・第40条・第76条・第77条・附則第2条(e-Gov法令検索「健康増進法」)、健康増進法施行規則第16条(e-Gov法令検索)、健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号)附則第3条、労働安全衛生法第68条の2(e-Gov法令検索)、労働基準法第34条、厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙。」(厚生労働省)、厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金」(厚生労働省)、厚生労働省・都道府県労働局「労働条件明示の例(改正健康増進法上の規定)」(厚生労働省)。排気量と喫煙時間は前提を置いた試算です。条例による上乗せの規制は店のある自治体に確認してください。
まずは、スタッフの喫煙の場所と時間を話し合い、条文例をもとに就業規則に1条として書き加えるところから始めてください。自宅の一部を店にしている場合の区画の考え方は自宅サロンの開業方法で確認できます。
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