移動美容室(美容カー)の開業|費用・車両を美容所として届け出る条件・1日何人で黒字かの試算

移動美容室(美容カー)は、車両そのものを美容所として保健所に開設届を出し、検査確認を受ければ開業できます。厚生労働省は2016年12月の通知で届出事項と構造設備の考え方を示していますが、給水タンクの容量や営業予定地の届け方は自治体ごとに違い(例:松江市は200L以上の給水タンクと、翌月の営業予定地を毎月25日までに届出)、収支は移動と設営を引いた施術枠で決まるため、車両700万円・単価5,000円の試算では本人の生活費25万円を出すのに1日約5.2人が必要で、上限6枠に対する余裕は1枠に満たないことを前提に判断します。

訪問美容との違い、車両を美容所として届け出る条件と自治体の基準の違い、損益分岐と給水量から見た1日の上限、営業モデル別の判断表、改造費用と免許、営業場所の使用承諾書と保健所に聞く項目の記入例、つまずきやすい6つの点を整理します(2026年10月時点の情報です)。

目次

結論:移動美容室を開業するときの早見表

移動美容室の要点は、車両を美容所として届け出ること、給排水と換気を備えること、届け出た営業場所で営業すること、移動時間を引いた枠で採算を取ることです。

項目 目安・ルール 根拠・理由
法律上の扱い 車両を美容所として開設届を出し、検査確認を受けてから使う 美容師法第11条・第12条、厚生労働省通知(平成28年12月26日 生食衛発1226第1号)
届け出る事項 移動経路、営業場所、営業時間、車両の保管場所、自動車登録番号。変更はその都度報告 同通知
構造設備 作業と衛生に支障のない面積、運転席との隔壁、換気、給排水設備、車両の固定装置 同通知。具体的な数値は自治体が定める
給排水タンクの例 給水200L以上、排水は給水と同容量以上(高知市・松江市) 各市の基準・取扱要領
営業予定地の届出の例 松江市は翌月分を毎月25日まで。高知市は営業開始日までに営業予定届 同上。自治体ごとに異なる
損益分岐(1人営業) 固定費のみなら1日約2.2人、生活費25万円を含めると約5.2人 固定費月18.8万円・単価5,000円の試算
運転する免許 2017年3月12日以降の普通免許は車両総重量3.5トン未満まで 道路交通法(準中型免許の新設)
訪問美容との違い 訪問は施行令第4条の場合に限られる。移動美容室は美容所として営業する 美容師法第7条、美容師法施行令第4条

移動美容室とは — 車両が美容所になり、訪問美容とは根拠が違う

移動美容室とは、美容の設備を備えた自動車を美容所として届け出て、届け出た営業場所に移動して営業する形態のことです。美容師は美容所以外で業務ができないため(美容師法第7条)、車両を美容所にすることで、来店するお客様を限定せずに営業できます。

形態 施術する場所 対象になるお客様 手続き
店舗の美容室 届け出た店舗 限定なし 美容所の開設届・検査確認
移動美容室 届け出た営業場所に停めた車内 限定なし 車両を美容所として開設届・検査確認。営業場所の届出
訪問美容(出張美容) お客様の自宅、施設など 病気などで美容所に来られない人、婚礼などの儀式の直前、条例で定める場合 出張の届出の要否は自治体で異なる

車を施設の前に停めても、車から降りて居室やベッドの横で施術すれば、それは美容所以外での業務になり、訪問美容と同じ制限を受けます。訪問美容の対象と料金の組み方は訪問美容(出張美容)の始め方にまとめています。

車両を美容所として届け出る条件 — 国の通知と、自治体ごとに違う基準

国の通知は、届出の所在地と記載事項、構造設備、衛生管理、苦情への対応の4点で取扱いを示し、タンクの容量や届出の単位は自治体が要領などで定めています。

  1. 届出の所在地と記載事項(国の通知):所在地は、移動美容所が属する主たる固定施設の美容所、またはそれに代わる管理事務所の所在地です。移動経路、営業場所、営業時間、車両の保管場所、自動車登録番号も届け出て、変わるたびに報告し、届け出た都道府県等の範囲を超えて無届けで営業しないよう指導するとされています。
  2. 構造設備と衛生管理(国の通知):作業場は運転席と隔壁などで区分し、換気扇などで換気してエンジンの排気ガスが入らない構造にします。施術・消毒・手洗いに必要な給排水設備と固定装置を備え、給水は毎日取り替え、作業場を水平に固定して走行中は施術しません。
  3. 高知市の例:車両1台ごとに使用開始前の開設届と検査確認を求め、機械換気設備、飲用に適する水を供給する200L以上の給水タンク、同容量以上の排水タンク、床を水平に固定する支柱などを基準に挙げ、営業予定地は営業開始日までに届け出ます。
  4. 松江市の例:開設届の所在地欄に営業区域と車両の保管場所を書き、車検証の写しと前後左右4方向の写真を添えます。200L以上の給水タンクと給水タンク以上の容量の排水タンクを求め、翌月の営業予定地を毎月25日までに届け出ます。島根県内の松江市以外での営業は島根県への届出が別に必要です。

同じ「移動美容所」でも、届出の単位、営業予定地の届け方、添付書類は自治体で違います。営業予定地を管轄するすべての保健所に、車両を買う前に確認します。

損益分岐と1日の上限 — 生活費込みで1日約5.2人、施術枠は6枠

移動美容室の売上は、営業時間から移動・設営・片付けを引いた施術枠と、給水タンクで受けられるシャンプーの人数で上限が決まります。損益分岐の人数がこの上限にどれだけ近いかで、続けられるかを判断します。

項目 計算式 金額・人数
月の固定費 車両返済8.8万円+保管場所・保険・整備4.5万円+通信・予約1.5万円+燃料(1日2,000円×20日)4万円 18.8万円
1人あたりの利益 5,000円×(1−材料・消耗品12%−決済手数料3%) 4,250円
損益分岐(本人の取り分なし) 18.8万円÷4,250円 月約45人(1日約2.2人)
本人の生活費25万円を出す人数 (18.8万円+25万円)÷4,250円 月約104人(1日約5.2人)
出店料(売上の10%)を払う場所の場合 43.8万円÷(5,000円×0.75) 月約117人(1日約5.8人)
1日の施術枠の上限 (営業8時間−移動・設営・片付け1.5時間)÷1人60分 6枠
給水タンクで受けられるシャンプー (200L−手洗い・器具洗浄20L)÷1人20L 9人(100Lのタンクなら4人)

試算の前提(仮定):1人で営業、車両と改造700万円を7年で返す概算(利息を含め月8.8万円)、カット+シャンプー5,000円(税抜)・60分、月20日営業。1人あたりの水量は「シャワーの流量(L/分)×流す時間(分)」で、5L/分×4分=20Lと置いた。金額と水量は計算方法を示すための仮の数字で、相場や統計ではありません。

生活費込みの損益分岐(1日約5.2人)は上限の6枠に近く、移動が1時間延びて5枠になると、生活費を出せなくなります。返済額の組み方は美容室の融資の返済計画の立て方で、固定費と変動費の分け方は美容室の損益分岐点の出し方で確認できます。

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開くかどうか — 営業モデル別の判断表

営業場所ごとに曜日を固定し、1日5人以上の予約を先に見込めるなら開業を進め、見込めないなら固定費を下げるか、店舗や訪問美容と組み合わせます。

条件 判断 しきい値・理由
施設の利用者や地域の固定客で、1日5人以上の予約を曜日ごとに見込める 開業を進める 生活費込みの損益分岐は1日約5.2人
1日の見込みが2〜5人 中古・小型の車両で固定費を下げるか、店舗や訪問美容と組み合わせる 固定費だけなら1日約2.2人で賄える
出店料(売上の10%など)を払う商業施設が中心 出店料を入れて計算し直し、単価を上げられるか確かめる 1日約5.8人が必要で、上限6枠に余裕がない
営業場所までの移動が片道30分を超える日が多い 曜日ごとに近い営業場所をまとめる 移動が1時間増えると施術枠が6枠から5枠に減る
車内まで来られない利用者が多い(高齢者施設など) 居室での訪問美容として受け、車両は使わない日を作る 車外での施術は施行令第4条の場合に限られる
営業予定地が複数の自治体にまたがる 自治体ごとに届出の要否と基準を確認してから車両を設計する 保健所を設置する市と県で届出先が別

高齢のお客様が多い営業場所での声かけや料金の組み方はシニア客の集客も参考になります。同じ場所に4〜6週ごとに来る形にすると、来店周期に合わせたリピートが作りやすくなります。

車両の改造費用と免許 — 車両本体と美容設備を分けて見積もる

改造費用は、車両本体と、作業場の造作・給排水・電源・換気などの美容設備に分けて見積もります。下の表は検討用の前提を置いた幅で、車両の大きさと新車か中古かで大きく変わります。

項目 費用の幅(前提) 内容
車両本体 150万〜500万円(中古のワンボックス・小型トラックを想定) 作業場の面積と給排水タンクを積める大きさで選ぶ
作業場の造作 150万〜400万円 床・壁の防水、運転席との隔壁、収納、照明
給排水・給湯 50万〜150万円 給水・排水タンク、ポンプ、給湯器、シャンプーボウル
電源・換気・空調 50万〜230万円 発電機または外部電源の受電設備、換気扇、エアコン
固定・乗降・美容器具 60万〜200万円 水平を保つ支柱、ステップ、セット椅子、消毒設備
合計 約460万〜1,480万円 新車の中型車をベースにする場合は上限を超えることがある

前提:1人の美容師が1席で施術する車両。金額は特定の業者の価格ではなく、見積もり前に資金の規模をつかむための幅です。

2017年3月12日から、車両総重量3.5トン以上7.5トン未満の車は準中型自動車とされ、それ以降に取得した普通免許で運転できるのは車両総重量3.5トン未満の車です(それ以前の普通免許は5トン未満などに限定した準中型免許とみなされます)。改造で重くなることも含め、運転するスタッフの免許で運転できるかを車両選びの段階で確認してください。

改造の内容によっては車検証の記載事項の変更が必要になることがあるため、改造業者に車検への影響を確認します。車両の費用を事業の経費にする考え方は美容室の車は経費になるかで整理しています。

営業場所の承諾と保健所への相談 — そのまま使える記入例

移動美容室が営業できるのは、土地の所有者・管理者の承諾を得て、保健所に届け出た営業場所です。公道での営業は道路交通法第77条の道路使用許可の問題になり、公園は管理者の許可が要るため、私有地や施設の敷地を書面の承諾で確保します。

営業場所の使用承諾書の記入例(金額は例)

  • 使用する場所:〇〇ショッピングセンター第2駐車場の北側(普通車2台分の区画)
  • 期間・曜日・時間:2027年1月〜12月の毎週火曜日、9時〜17時(設営と片付けを含む)
  • 使用料:月額2万円(税別)、毎月末締め・翌月10日払い
  • 電源・水道:施設の100V電源を使用できる。水道は使用しない
  • 排水:施設内に排水しない。排水は持ち帰り、車両の保管場所で処理する
  • 看板:車両の横に置き看板1枚まで。通路にははみ出さない
  • 事故・苦情の連絡先:営業者(氏名・電話)と施設の管理担当(氏名・電話)
  • 保険と解約:営業者は賠償責任保険に加入し写しを提出する。どちらからも1か月前の通知で解約できる

車両を買う前に保健所に聞く項目

  • 移動美容所を受け付けているか、届出は車両1台ごとか
  • 作業場の面積、照度、換気の基準と、図面の描き方
  • 給水・排水タンクの容量の基準(200L以上かなど)と、営業場所の水道を使う場合の扱い
  • 営業予定地の届け方と期限(毎月か、変更のたびか)
  • 開設届に添える書類(車検証の写し、車両の写真など)と、検査を受ける場所
  • 隣の市や県で営業する場合の届出先と、車両を買い替えたときの手続き

開業後は、燃料代、保管場所の駐車場代、業務使用を前提にした自動車保険、車検と整備がかかります。車内での施術中のけがと走行中の事故は別の保険で備え、保険の選び方は美容室の開業で入るべき保険で確認できます。

移動美容室でつまずく6つの点 — 起きる場面と防ぎ方

移動美容室で起きやすいのは、相談の順番、毎月の届出、自治体のまたぎ、車両の入れ替え、排水、免許の6つです。

  1. 車両を買って改造してから保健所に相談する:受け付けていない自治体や、タンク容量が基準に足りない場合は作り直しです。防ぎ方:上の項目を聞き、改造の図面を保健所に見せてから発注します。
  2. 営業予定地の届出を忘れる:松江市のように翌月分を毎月25日までに届け出る自治体があります。防ぎ方:月間の営業スケジュールを決めた日に届け出る段取りにし、締め日を予定表に入れます。
  3. 隣の市で無届けのまま営業する:保健所を設置する市と県で届出先が分かれます。防ぎ方:営業予定地ごとに管轄の保健所を調べ、届出を済ませた場所だけを予約に出します。
  4. 車両を買い替えて同じ届出のまま使う:松江市は車両の更新を原則として廃止・新規の手続きとし、設備をそのまま乗せ替える場合は変更届としています。防ぎ方:買い替えの前に保健所に手続きの種類を確認します。
  5. 排水を営業場所の側溝に流す:排水は保管場所などで適切に処理するよう求められています。防ぎ方:排水タンクを給水タンク以上の容量にし、1日の水量から処理の頻度を決めます。
  6. 改造で3.5トンを超え、スタッフが運転できない:2017年3月12日以降の普通免許では運転できません。防ぎ方:改造業者に完成後の車両総重量を確認し、運転するスタッフの免許の取得日と照らします。

移動美容室の車両を発注する前に、次の8項目を確認してください。

  • 営業予定地を管轄するすべての保健所に、移動美容所の受付の可否と基準を確認した
  • 届出の所在地にする固定施設の美容所または管理事務所を決めた
  • 作業場の面積、運転席との隔壁、換気、給排水タンクの容量を図面にして保健所に見せた
  • 固定費と単価から、損益分岐と生活費を出す1日の人数を計算し、施術枠の上限と比べた
  • 営業場所ごとに曜日を決め、1日5人以上の予約を見込めるか確かめた
  • 営業場所の所有者・管理者から書面で承諾を得る見込みがある
  • 運転するスタッフの免許で、改造後の車両総重量を運転できるか確認した
  • 営業予定地の届出の期限を予定表に入れた

よくある質問

移動美容室なら、どこでも営業できますか?

できません。営業できるのは、土地の所有者・管理者の承諾を得て、保健所に届け出た営業場所です。公道に停めて営業することは道路使用の許可などの問題があるため、私有地や施設の敷地で営業するのが基本です。

移動美容室は1日何人施術すれば成り立ちますか?

この記事の試算では、固定費月18.8万円・単価5,000円で、固定費だけなら1日約2.2人、本人の生活費25万円を含めると約5.2人が必要です。移動と設営を引いた施術枠が1日6枠なら余裕は小さいため、営業場所ごとの固定客を先に確保します。

移動美容室を開くには、固定の店舗も必要ですか?

国の通知では、届出の所在地は移動美容所が属する主たる固定施設の美容所、またはそれに代わる管理事務所の所在地とされています。店舗がなくても管理事務所を所在地にできるかどうかは、自治体の扱いを保健所に確認してください。

訪問美容と移動美容室を両方行えますか?

行えます。ただし、車内で施術する場合は美容所としての営業、車から降りてお客様の自宅や居室で施術する場合は訪問美容になり、美容師法施行令第4条などで認められる場合に限られます。訪問美容の届出が必要かどうかも自治体で異なります。

移動美容室でもシャンプーはできますか?

給排水設備と給湯器を備え、保健所の確認を受けた車両ならできます。1日にシャンプーできる人数は、給水タンクの容量から手洗いなどの量を引き、1人あたりの水量で割って決まります。営業場所で水道を使える場合の扱いも保健所に確認します。

出典:厚生労働省「自動車を使用した理容所・美容所の取扱いについて」(平成28年12月26日 生食衛発1226第1号)、美容師法第7条・第11条・第12条(e-Gov法令検索)、美容師法施行令第4条(e-Gov法令検索)、高知市「移動理容及び移動美容について」、松江市「松江市移動理・美容所取扱要領」(令和2年12月15日施行)、警視庁「準中型免許」、道路交通法第77条(e-Gov法令検索)。移動美容所の基準と届出の方法は自治体ごとに異なるため、営業予定地の保健所で確認してください。費用・人数・水量は前提を置いた試算です。

移動美容室を考え始めたら、まず営業したい場所ごとに曜日と見込み人数を書き出し、1日5人以上を見込めるかを確かめてから、車両の図面の案を持って保健所に基準を聞きに行くことから始めてください。店舗の開設届と検査の流れは美容室開業の保健所の検査と基準で確認できます。

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この記事を書いた人

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