美容室が予約サイトの請求書やネット仕入れの領収書などをメール・PDF・Web画面で受け取った場合、2024年1月からは紙に印刷するだけでは足りず、電子データのまま保存する義務があります(電子帳簿保存法第7条)。前々年の売上高が5,000万円以下の店は検索機能の要件が不要になるため、改ざん防止の事務処理規程を作り、決めたフォルダに決めたファイル名で保存して、税務署の求めに応じてデータを出せるようにしておけば対応できます。
この記事では、店の規模別にどの保存方法を選ぶかの判断表、美容室の電子取引の洗い出し台帳、スタッフ4人の店の作業時間と2027年分の青色申告特別控除への影響の試算、事務処理規程の条文例、現場でつまずく点を整理します(2026年10月時点の情報です)。
結論:美容室の電子帳簿保存法対応の早見表
義務になっているのは電子で受け取った・送った取引データの保存だけです。帳簿の電子化や紙の領収書のスキャンは任意です。
| 項目 | 目安・ルール | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 義務になること | 電子取引の取引データを電子のまま保存する | 電子帳簿保存法第7条。2024年1月1日以後の取引は印刷保存だけでは不可 |
| 任意のこと | 会計ソフトで作った帳簿の電子保存、紙の領収書のスキャナ保存 | 紙で受け取った物は紙のまま保存してよい |
| 改ざん防止(真実性) | 4つの方法のどれか。小規模店は事務処理規程が現実的 | 電子帳簿保存法施行規則第4条第1項 |
| 見られる状態(可視性) | パソコン・ディスプレイ・プリンタと操作説明書を備える | 税務調査ですぐに画面表示・印刷できること |
| 検索機能 | 前々年の売上高5,000万円以下なら不要(ダウンロードの求めに応じることが条件) | 電子帳簿保存法施行規則第4条第1項 |
| 保存期間 | 紙の書類と同じ(帳簿書類の保存期間) | 所得税法・法人税法の保存期間による |
| 2027年分からの青色申告 | 65万円の控除はe-Taxでの期限内提出、75万円は帳簿の一定の電子保存なども必要 | 令和8年度税制改正(個人事業主) |
電子帳簿保存法とは — 美容室に義務があるのは電子取引データの保存
電子帳簿保存法とは、税務上保存が必要な帳簿や書類を電子データで保存するときのルールを定めた法律のことです。3つの区分があり、美容室に義務があるのは電子取引だけです。
- 電子帳簿等保存(任意):会計ソフトで作った帳簿や決算書を、印刷せずにデータで保存する方法です。一定の要件を満たす「優良な電子帳簿」には、過少申告加算税の軽減などの優遇があります。
- スキャナ保存(任意):紙で受け取った領収書・レシートをスキャンして保存し、紙を捨てられるようにする方法です。使わないなら紙のまま保存します。
- 電子取引データの保存(義務):メール、Webサイト、クラウドサービス、アプリなどでやり取りした請求書・領収書などのデータを、決められた要件で保存します。個人事業主も法人も対象です。
電子取引とは、取引に関する情報を紙ではなく電子データでやり取りする取引のことです。2024年1月1日以後に行う電子取引は、データでの保存が必要です。紙の領収書の残し方と、もらい忘れたときの対処は美容室の領収書と経費の扱いで解説しています。
どの保存方法を選ぶか — 売上高・件数・青色申告の目標で決める判断表
前々年の売上高が5,000万円以下で、電子で届く書類が月30件程度までの店は、事務処理規程+年月フォルダ+ファイル名のルールで足ります。件数が多い店や75万円の青色申告特別控除を狙う個人事業主は、会計ソフトでの保存に寄せます。
| 店の状況 | 選ぶ方法 | 判断の理由 |
|---|---|---|
| 前々年の売上高5,000万円以下、電子の書類が月30件程度まで | 事務処理規程+年月フォルダ+ファイル名ルール | 検索機能が不要。費用がかからず、作業は月30分前後 |
| 5,000万円以下で、会計ソフトに証憑を取り込み、訂正・削除の履歴が残る機能がある | 会計ソフトに取り込んで保存(規程も作っておく) | 記帳と保存が1回の作業で済む |
| 前々年の売上高が5,000万円を超えた(2店舗目を出した店など) | ファイル名ルール+表計算ソフトの索引簿、または検索できる会計ソフト | 日付・金額・取引先で検索でき、範囲指定と組み合わせができる状態が必要 |
| 個人事業主で、2027年分から75万円の青色申告特別控除を受けたい | 要件を満たす会計ソフトで帳簿を電子保存し、e-Taxで申告 | e-Taxだけでは65万円まで |
| 紙のレシートを捨てて保管場所を減らしたい | スキャナ保存の要件を満たすアプリを使う | 任意。捨てないなら紙のままでよい |
売上高は個人なら前々年(2027年分の保存なら2025年)、法人なら前々事業年度で判定します。5,000万円を超える店でも、データを印刷した書面を日付と取引先ごとに整理して提示でき、ダウンロードの求めにも応じられるなら、検索機能は不要です。会計ソフトの選び方は美容室の記帳と会計ソフトの選び方で確認できます。
美容室の電子取引はどれか — 洗い出し台帳と試算
美容室では、予約サイトの掲載料の請求書、ディーラーのWeb発注、ネット通販の領収書、クレジットカードのWeb明細、決済サービスの入金明細が代表的な電子取引です。紙で届かない書類はほぼすべて電子取引と考え、次の台帳に取引先ごとに書き出します。
| 取引先の種類 | 受け取り方 | 保存するデータ | 保存のタイミング |
|---|---|---|---|
| 予約・集客サイトの掲載料 | 管理画面、メール添付 | 請求書・領収書のPDF | 請求月の月末 |
| ディーラー・メーカーへの発注 | Web発注システム、メール | 請求書・納品書のデータ | 請求書が届いた週 |
| ネット通販のタオル・消耗品・備品 | 注文履歴の領収書画面 | 領収書のPDF | 商品が届いた日 |
| クレジットカード・キャッシュレス決済 | カード会社のWeb明細、加盟店管理画面 | 利用明細・入金明細・手数料明細のPDFやCSV | 締め日の翌週 |
| 電気・ガス・通信・ソフトの月額料金 | マイページのWeb明細 | 請求書・利用明細のPDF | 引き落とし月の月末 |
| 業務委託の美容師・制作会社からの請求 | メール、チャット、LINEの画像 | 請求書のPDF・画像 | 受け取った日 |
| 店がメールやLINEで送った領収書・請求書 | 予約システム、メール、LINE | 送ったデータの控え | 送った日 |
試算の前提(仮定):セット面4・スタッフ4人の個人事業の美容室。前々年の売上高3,600万円。電子で届く書類は月25件(予約サイト1、ディーラー4、ネット通販10、カード・決済3、光熱・通信・ソフト6、制作会社1)。1件の保存(ダウンロードとファイル名の変更)に1分30秒。所得税の税率20%、住民税10%。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 保存の作業時間 | 25件×1分30秒 | 月約38分、年約7.5時間 |
| 年間の保存件数 | 25件×12か月 | 300件 |
| 検索機能の要否 | 前々年の売上高3,600万円≦5,000万円 | 不要(規程+フォルダで足りる) |
| 2027年分の控除を65万円から75万円にした場合の税負担の差 | 10万円×(20%×102.1%+10%) | 約30,400円 |
この店は、毎月の記帳の日に40分ほど保存の時間を取れば義務は果たせます。75万円の控除を狙うかどうかは、会計ソフトの利用料と年約3万円の差を比べて決めます。控除の見直しの全体は美容室の節税対策一覧で整理しています。事業用のクレジットカードを使うと明細がまとまり、電子取引の整理が楽になります。
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保存要件 — 改ざん防止と見られる状態、検索機能は売上5,000万円以下なら不要
保存要件は、改ざんを防ぐ措置(真実性)と、すぐに見られる状態(可視性)の2つです。
| 要件 | 満たし方 | 小規模な美容室での現実的な選択 |
|---|---|---|
| 改ざん防止(次のどれか1つ) | ①タイムスタンプが付いたデータを受け取る、②受け取った後にタイムスタンプを付ける、③訂正・削除の記録が残るか訂正・削除できないシステムで受け取り保存する、④訂正・削除を防ぐ事務処理規程を作って守る | ④の事務処理規程。会計ソフトやクラウドストレージが③に対応していればそれを使う |
| 見られる状態 | パソコン・ディスプレイ・プリンタと操作説明書を備え、画面表示・印刷がすぐできる | 店のパソコンに保存し、印刷できるようにしておく |
| 検索機能 | 取引年月日・金額・取引先で検索でき、日付と金額は範囲指定、2つ以上の項目の組み合わせもできること | 売上高5,000万円以下なら不要。ファイル名で探せるようにしておくと調査や決算で困らない |
小規模店の保存方法 — 事務処理規程の条文例とファイル名のルール
専用のシステムを入れなくても、事務処理規程を作り、決めたフォルダに決めたファイル名で保存する方法で対応できます。
-
台帳で取引先を洗い出す
上の洗い出し台帳に、店の取引先名、受け取り方、ログインに使うアカウントを書き込みます。オーナーしかログインできない管理画面は、月末に誰が保存するかもここで決めます。
-
事務処理規程を作って保管する
下の条文例に店名と施行日を入れて作ります。国税庁のサイトにも個人事業者用・法人用のサンプルがあります。
-
年と月のフォルダを作る
「電子取引/2026年/10月」のように分けます。クラウドストレージを使う場合は、退職したスタッフのアクセス権を外せるものにします。
-
ファイル名を「取引日_取引先_税込金額」で付ける
例:20261015_〇〇ディーラー_33000.pdf。日付は西暦8桁にそろえ、和暦と混ぜません。同じ日・同じ取引先が複数あるときは末尾に_01、_02を付けます。
-
月末の記帳の日に保存とバックアップをする
外付けの記憶装置やクラウドに複製します。パソコンの故障で消えると保存義務を果たせません。
事務処理規程の条文例(個人経営の美容室)
- 第1条(目的)この規程は、電子帳簿保存法第7条に定める電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を適正に履行するため、保存したデータの訂正及び削除の防止に関する事項を定める。
- 第2条(対象)予約サイト、仕入先、通販サイト、カード会社、決済サービス等と電子で授受した請求書、領収書、納品書、見積書、契約書、利用明細のデータを対象とし、パソコンの「電子取引」フォルダに年月別に保存する。
- 第3条(訂正削除の原則禁止)保存したデータの内容は、訂正又は削除しない。書き込みが必要なときは複製したファイルに行う。
- 第4条(訂正削除を行う場合)やむを得ず訂正又は削除するときは、申請日、取引件名、取引先名、訂正・削除日、訂正・削除の内容、理由、処理した者を記録表に書き、元のデータとあわせて保存する。
- 第5条(保存期間)データは所得税法に定める期間保存する。
- 附則 この規程は、令和8年11月1日から施行する。(美容室〇〇 代表〇〇〇〇)
保存したデータを何年残すかは紙の書類と同じです。帳簿・請求書の保存期間は美容室の書類の保存期間一覧で確認してください。
現場でつまずく5つの点 — 「後で見られる」「スタッフのスマホ」が漏れの原因
保存漏れの多くは、データがどこかに残っているから大丈夫だと思い込むことから起きます。
- 予約サイトやカード会社の画面で見られるから保存しない:掲載をやめたり契約を解約したりすると、過去の請求書が見られなくなることがあります。防ぎ方:画面で見られる物も、毎月PDFにして店のフォルダに移します。
- スタッフ個人のスマホやLINEで請求書を受け取る:ディーラーの担当者とスタッフが個人のLINEでやり取りすると、退職と同時にデータが消えます。防ぎ方:取引先に店のメールアドレスや業務用アカウントを伝え、個人で受けた物はその日のうちに店のフォルダへ移すルールにします。
- 店が送った領収書の控えを残していない:予約システムやメールでお客様に送った領収書も電子取引です。防ぎ方:送信済みのデータを月1回まとめて書き出すか、送信の控えが残るシステムを使います。
- PDFに書き込みをして上書き保存する:仕訳のメモを請求書に書き込んで上書きすると、元のデータを訂正したことになります。防ぎ方:書き込みは複製したファイルに行い、元のファイルはそのまま残します。
- 売上が5,000万円を超えた年を見落とす:判定は前々年の売上高です。2025年に2店舗目で5,000万円を超えた個人事業主は、2027年の取引から検索できる保存が要ります。防ぎ方:毎年1月に前々年の売上高を確認し、超えていればファイル名ルールに索引簿を加えます。
要件を満たさないとどうなるか — 猶予措置と、改ざんがあった場合の重い加算税
要件どおりに保存できなかったことに相当の理由があると税務署長が認め、データのダウンロードの求めと印刷した書面の提示に応じられる場合は、要件を満たさない形での保存も認められます(電子帳簿保存法施行規則第4条第3項)。
データを保存していない、または消してしまった場合は、税務調査で経費の証拠として扱われにくくなり、青色申告の承認の取消しの対象になり得ます。また、電子取引データについて隠蔽・仮装があった場合は、重加算税が通常より10%重くなります。
データの消失への備えは美容室のデータ管理とバックアップで解説しています。
電子取引データの保存について、次の7項目を確認してください。
- 紙で届かない取引先を洗い出し台帳に書き出した
- 前々年の売上高が5,000万円以下かを確認し、判断表で保存方法を決めた
- 事務処理規程を作り、施行日を入れて保管した
- 年・月のフォルダと「取引日_取引先_税込金額」のファイル名ルールを決めた
- 店がメールやLINEで送った領収書・請求書の控えも保存している
- スタッフが個人で受け取った請求書を店のフォルダに移すルールを伝えた
- 月末の記帳の日に保存とバックアップをする予定を入れた
よくある質問
小さな美容室でも電子帳簿保存法の対応は必要ですか?
必要です。電子取引データの保存は、売上の規模に関係なく個人事業主も法人も対象です。ただし前々年の売上高が5,000万円以下なら検索機能の要件が不要になり、事務処理規程とフォルダでの保存で対応できます。
メールで届いたPDFの請求書を印刷して保存すればよいですか?
2024年1月1日以後の電子取引は、印刷しただけでは要件を満たしません。PDFのデータそのものを保存してください。印刷した紙を一緒に残すことは問題ありません。
紙で受け取ったレシートもスキャンしないといけませんか?
いいえ。紙で受け取った物は紙のまま保存すれば足ります。スキャナ保存は、紙を捨てたい場合に選べる任意の制度です。
Amazonなどのネット通販で買った物の領収書はどう保存しますか?
注文履歴から領収書を表示し、PDFとして保存します。ファイル名に購入日・購入先・金額を入れ、電子取引のフォルダに入れておくと、確定申告や調査のときに探しやすくなります。
スタッフが自分のスマホで受け取った請求書はどうすればよいですか?
店の取引の請求書なら、店のデータとして保存が必要です。個人のスマホに残したままにせず、店の保存フォルダに移すルールを決めます。取引先には、店のメールアドレスや業務用のアカウントに送ってもらうよう頼むと、保存漏れと退職時の情報の持ち出しを防げます。
売上が5,000万円を超えたら、何を変えればよいですか?
前々年の売上高が5,000万円を超えた年から、取引年月日・金額・取引先で検索できる保存が必要になります。ファイル名のルールを守ったうえで表計算ソフトの索引簿を作るか、検索機能のある会計ソフトに移します。国税庁のサイトに索引簿の作成例があります。
出典:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)第7条、同法施行規則第4条(e-Gov法令検索「電子帳簿保存法施行規則」)、国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」(国税庁)、国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」(国税庁)、財務省「令和8年度税制改正の大綱」(財務省)。
まず今月分から、洗い出し台帳に紙で届かない取引先を書き、電子取引のフォルダを作って1か月分の請求書・領収書を保存してみることから始めてください。会計ソフトに取り込む流れは美容室の記帳と会計ソフトの選び方とあわせて整えると、月末の作業が一度で済みます。
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